破産管財人の報酬と源泉徴収の正しい知識

破産管財人の報酬と源泉徴収の正しい知識

破産管財人の報酬と源泉徴収を正しく理解する

自分で源泉徴収した税金を、自分で納付するのが管財人報酬の仕組みです。


📋 この記事の3ポイント要約
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法人破産のみ源泉徴収義務が発生

破産管財人への報酬に対する源泉徴収義務は、破産者が法人の場合に限られます。個人の破産事件では原則として源泉徴収は不要です。

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最高裁が2011年に初判断を下した

平成23年1月14日の最高裁判決により、管財人報酬への源泉徴収義務が明確化されました。退職金債権の配当については義務なしという、実務を変えた重要な判断です。

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納付書は破産者名義で作成する

源泉所得税の納付書は管財人名義ではなく、破産した会社(破産者)名義で作成・納付するのが正しい手続きです。税務署に依頼すれば3日程度で用意されます。


破産管財人とは何か:報酬の仕組みと役割


破産管財人とは、裁判所によって選任され、破産財団(破産者が所有する財産の集合体)の管理・処分を担う弁護士のことです。実務上、破産管財人に就任するのは弁護士に限られており、破産法74条1項に基づき裁判所が選任します。


破産手続には「同時廃止」と「管財事件」の2種類があります。財産がほとんどない場合には、破産手続開始と同時に廃止決定が出る「同時廃止」となります。一方、一定以上の財産がある場合や調査が必要な場合には「管財事件」となり、破産管財人が選任されます。割合でいうと、全体の約68%が管財事件です。


管財人が選任される代表的な条件を整理すると、以下のようなものがあります。


  • 生命保険の解約返戻金や定期預金など、20万円を超える財産項目がある場合
  • 現金・普通預金・各種財産の合計(清算価値)が99万円を超える場合
  • 個人事業を営んでいた場合や、破産する予定の法人の代表者であった場合
  • 財産の内容や破産に至る経緯に疑問があり、調査が必要と判断された場合


破産管財人に支払われる報酬は、裁判所が引継予納金を含む破産財団の範囲内で決定します。つまり報酬は財団債権が原則です。少額管財の場合、予納金として裁判所に納める金額は通常20万円からスタートし、財団規模が大きいほど報酬額も増加します。法人破産では予納金が50万円から200万円程度になることも珍しくありません。


報酬はあくまで裁判所が決定する、というのが重要な前提です。管財人が自分で自分の報酬額を決めることはできません。


参考として、国税庁が公表している「破産管財人報酬の源泉徴収について」の公式見解も押さえておくと確実です。



国税庁による「破産管財人報酬と源泉徴収の適用関係」についての公式Q&A。
国税庁|源泉徴収に関する質疑応答「破産管財人報酬」


破産管財人の報酬に対する源泉徴収義務:法人破産と個人破産の違い

金融に関心のある方がまず驚くのが、「法人破産か個人破産かで、源泉徴収義務の有無が全く変わる」という事実です。


結論から言えば、破産者が法人の場合、管財人報酬に対して源泉徴収義務があります。一方、破産者が個人の場合は原則として義務がありません。これが基本です。


なぜそうなるかというと、弁護士報酬に対する源泉徴収義務は、報酬の「支払をする者」が一定の条件を満たす場合に限り発生するからです。所得税法204条1項2号では、弁護士の業務に関する報酬を支払う者が源泉徴収義務を負うと定めています。そして、法人が支払者の立場にある場合には源泉徴収が必要ですが、個人事業主や一般個人が支払者の場合は不要というルールが根本にあります。


破産管財人の報酬でいうと、「支払をする者」は破産者(破産会社)です。その事務を破産管財人が代わりに行う形になっており、結果として「法人である破産会社が源泉徴収義務を負い、その義務を管財人が職務として履行する」という構造になっています。


個人の破産事件では一般的に源泉徴収義務は生じませんが、もし破産した個人が個人事業主(例:個人経営の法律事務所など)で、もともと源泉徴収義務者であった場合は話が変わります。その場合は、通常の個人破産とは別の判断が必要になります。


つまり、「破産したから何もしなくていい」ではないということです。


源泉徴収の仕組みとその義務についての解説。
破産管財実践マニュアル|管財人報酬の源泉徴収


平成23年最高裁判決が変えた破産管財人の源泉徴収実務

破産管財人と源泉徴収の問題は、長年にわたって実務上の混乱を生んでいました。平成23年(2011年)1月14日の最高裁第二小法廷判決(民集65巻1号1頁)が、初めてこの問題に明確な答えを出しました。


この事件の概要はこうです。破産会社Aの破産管財人である弁護士Xは、自らへの報酬と、破産会社の元従業員への退職金債権に対する配当を行いました。しかし、Xはどちらの支払についても源泉徴収を行いませんでした。これに対し所轄税務署は、源泉所得税の納税告知処分と不納付加算税の賦課決定をXに行いました。


最高裁の判断は、2点に分かれました。


  • 管財人報酬の支払:源泉徴収義務あり
    弁護士である破産管財人は、自ら管財業務の対価として報酬を受け取るにあたり、所得税法204条1項の「支払をする者」に当たる。したがって源泉徴収義務を負う。
  • 退職金債権に対する配当:源泉徴収義務なし
    破産管財人は、破産者が雇用していた労働者との間で直接の債権債務関係を持たない。使用者と労働者の関係に準ずるような「特に密接な関係」がないため、所得税法199条の「支払をする者」には含まれない。


これが意外ですね。同じ破産手続きの中での「支払」でありながら、報酬と退職金では正反対の結論が出ています。


この判決によって、破産管財人が退職金債権に対して源泉徴収をしていた場合、その過納付分の還付を請求できるようになりました。国税庁は判決後すぐに「破産前の雇用関係に基づく給与又は退職手当等の債権に対する配当に係る源泉所得税の還付についてのお知らせ」を公表しています。


重要な最高裁判決の要旨と法的分析については以下が参考になります。
西村あさひ法律事務所|破産管財人の源泉徴収義務に関する最高裁判決(2011年3月)


破産管財人が実際に行う源泉徴収の手順と納付書の作り方

実務の現場では、理論だけでなく「実際の手順」を把握していないと、思わぬミスが生じます。法人破産における管財人報酬の源泉徴収は、次の流れで進めます。


まず、源泉徴収の税率を確認します。管財人報酬は弁護士業務に関する報酬として扱われるため、通常の報酬・料金と同じ税率が適用されます。具体的には、100万円以下の部分には10.21%、100万円を超える部分には20.42%の税率です。


次に、納付書の準備です。ここに実務上の大きな注意点があります。納付書は管財人名義ではなく、破産会社(破産者)の名義で作成します。破産会社が源泉徴収義務の主体だからです。


手順 内容
①管轄税務署を確認 破産管財人の事務所ではなく、破産会社がもともと給与支払いを行っていた事務所を管轄する税務署
②整理番号を取得 管轄税務署に問い合わせると整理番号を教えてくれる。この番号が重要
③最寄りの税務署で納付書作成依頼 申請書を記入し、法人名・住所・整理番号を提出。3日程度で印字済の納付書が用意される
④納付期限の確認 原則として徴収した月の翌月10日まで。ただし小規模法人で納期の特例を使っていた場合は6か月以内に納付可能
支払調書・合計表の提出 源泉所得税の納付後、支払調書と合計書も管轄税務署に提出する


「納付書さえあればOK」ではなく、支払調書の提出まで含めて一連の義務です。この流れだけ覚えておけばOKです。


なお、関係する法人が複数ある場合(例:法人と法人代表者個人が同時に破産した場合)でも、法人の管財人報酬についてのみ源泉徴収が必要であり、それぞれの法人ごとに別の納付書を作成します。


もし源泉徴収を怠った場合はどうなるか。不納付加算税(源泉税額の10%または5%)が課されます。そしてその源泉所得税の債権と不納付加算税の債権は、いずれも「財団債権」に該当すると最高裁は明示しています。財団債権とは、破産債権よりも優先して弁済される強い効力を持つ債権です。これはペナルティが財団から真っ先に支払われるという意味でもあり、他の債権者の配当にも影響します。厳しいところですね。


見落とされがちな視点:弁護士法人が管財人の場合の扱いと独自の注意点

ここまでは「弁護士個人」が破産管財人である場合の話を中心にしてきました。しかし実務では、弁護士法人や弁護士・外国法事務弁護士共同法人が管財人に就任するケースも存在します。この場合の扱いは少し異なります。


国税庁の見解によれば、所得税法204条1項の源泉徴収の対象となるのは「個人の弁護士」の業務に関する報酬です。弁護士法人は「法人」であるため、弁護士法人に対して支払われる報酬には源泉徴収が不要となります。これは破産管財人の報酬に限らず、一般の弁護士業務の報酬にも共通するルールです。


これは使えそうです。弁護士法人への依頼や報酬支払いを行う立場にある場合は、このルールを正確に把握しておかないと、誤って源泉徴収をしてしまうミスが起きます。


また、もう一点、実務でよく見落とされるのが「納期の特例の引き継ぎ」の問題です。破産会社がもともと「納期の特例」(源泉税を毎月ではなく半年分まとめて納付できる制度)を使っていた場合、管財人もこの特例を利用できます。ただし、6か月の起算点は「報酬決定時」ではなく「実際に報酬を受領した時点」です。


  • 特例の引き継ぎが可能かどうかを破産開始時点で確認する
  • 起算日を「受領日」で計算する(決定日や認可日ではない)
  • 万が一特例が使えないと判断した場合は、翌月10日が期限になるため注意


さらに、管財人は報酬の源泉徴収事務とあわせて、事務費(郵便代など)を財団費用として差し引いておくと実務がスムーズです。支払調書の郵送やその他の事務処理に要するコストも、財団債権として処理できます。


このような細かい実務の落とし穴は、税理士や会計士と連携することで未然に防ぐことができます。破産管財事件を扱う弁護士や専門家の方は、実務に精通した税務の専門家を早めに確保しておくことが得策です。


弁護士報酬における源泉徴収の要否と法人・個人の違いについて詳しく解説。
弁護士山中理司の債務整理相談HP|破産管財人の源泉徴収義務(大阪)


破産管財人の報酬と源泉徴収を理解することで得られる知識のまとめ

ここまで読んでいただいた方は、「破産管財人の報酬は当然に弁護士が丸ごと受け取るもの」「破産したら税務の話は関係ない」という思い込みが、いかに実態と異なるかが理解できたと思います。


改めて核心を整理します。


破産管財人の報酬に対する源泉徴収は、「法人破産のみ義務あり」という点が大原則です。個人破産では原則不要ですが、もとから源泉徴収義務を持つ個人事業主の場合は例外的に検討が必要になります。


平成23年の最高裁判決は「管財人報酬の支払=義務あり」「退職金債権への配当=義務なし」という二分論を示しており、現在の実務の基礎になっています。この判断の根拠は、支払者と受取人との間に「特に密接な関係」があるかどうかという基準です。


支払の種類 源泉徴収義務 根拠条文
法人破産の管財人報酬 ✅ あり(税率10.21%または20.42%) 所得税法204条1項2号
個人破産の管財人報酬 ❌ 原則なし 個人は源泉徴収義務者に非該当
退職金債権への配当 ❌ なし(最高裁平成23年判決) 所得税法199条の「支払をする者」非該当
弁護士法人への報酬 ❌ なし 法人への報酬は対象外


金融や法律に関心を持つ人にとって、破産管財と税務の交差点はいかにも地味なテーマに見えるかもしれません。しかし、会社経営に関わる方、経理や税務を担当する方、あるいは投資家として企業の倒産リスクを分析する方には、こうした実務知識が「判断のズレ」を防ぐ武器になります。


税務の問題は、間違えると不納付加算税という形の金銭的損失に直結します。正しく知っておくだけで、そのリスクをゼロに近づけることができます。


国税不服審判所の裁決事例(管財人報酬と源泉徴収に関する事案)。
国税不服審判所|裁決事例集No.63(平14.2.25裁決)破産管財人報酬の源泉徴収




対話でわかる破産管財実務 64のポイント