減損損失の測定とは何か?回収可能価額と計算手順

減損損失の測定とは何か?回収可能価額と計算手順

減損損失の測定とは:回収可能価額の算定から計算手順まで

減損損失を計上すると翌年の純利益が跳ね上がる場合があります。


この記事の3つのポイント
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減損損失の測定=帳簿価額 − 回収可能価額

回収可能価額は「使用価値」と「正味売却価額」のうち高い方。この差額が損益計算書の特別損失に計上されます。

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認識と測定は別の計算ステップ

認識では割引前キャッシュフロー、測定では割引後(現在価値)を使います。混同すると誤った判断につながります。

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減損後は翌期の減価償却費が減少する

帳簿価額が引き下げられる結果、翌年度以降の減価償却費が圧縮され、収益構造が改善するケースもあります。


減損損失の測定とはどのステップにあたるのか

減損損失の測定とは、固定資産の減損会計プロセスにおける最終段階、つまり「損失額をいくらにするか」を数値で確定させる作業のことです。減損会計は大きく4つのステップで構成されており、①資産のグルーピング、②減損の兆候の把握、③減損損失の認識の判定、④減損損失の測定という順番で進みます。


最初の3ステップで「この資産グループには減損が存在する」と判定されて初めて、測定の段階に入ります。つまり測定は確定後の計算作業です。


ここで重要なのが「認識」と「測定」を別のプロセスとして明確に区別することです。認識の判定では、将来キャッシュフローを割引前の総額で帳簿価額と比較します。一方、測定の段階では割引後の現在価値(使用価値)を用います。この違いを混同すると、実務でもミスの原因になるので注意が必要です。


なぜ認識に割引前を使うのかというと、より厳しい条件で減損の存在を確認するためです。割引前キャッシュフローは割引後よりも金額が大きくなります。それでも帳簿価額を下回るなら、減損の存在はほぼ確実と判断できます。


ステップ 内容 使用するCF
③ 認識の判定 減損を計上するかどうかを判断 割引前将来CF
④ 測定 損失額をいくらにするかを計算 割引後(現在価値)


測定の基本式は以下の1つだけ覚えておけばOKです。


$$\text{減損損失額} = \text{固定資産の帳簿価額} - \text{回収可能価額}$$


この「回収可能価額」の中身を正しく理解することが、測定プロセス全体の鍵になります。


参考:減損損失の測定に関する詳細な解説(EY Japan)
わかりやすい解説シリーズ「減損会計」第5回:減損損失の測定(EY Japan)


減損損失の測定に使う「回収可能価額」の算定方法

回収可能価額とは、ある資産グループから最終的に回収できる最大金額のことです。具体的には「①正味売却価額」と「②使用価値」を比べ、高い方を採用します。


$$\text{回収可能価額} = \max(\text{正味売却価額},\ \text{使用価値})$$


この考え方の背景はシンプルです。経営者は資産を「売る」か「使い続ける」かを選べます。どちらかを選んだとして、より多くの金額を回収できる方を回収可能価額とみなすという発想です。


正味売却価額とは、その資産を今売却した場合に手元に残る金額のことです。計算式は以下のとおりです。


$$\text{正味売却価額} = \text{資産の時価} - \text{処分費用見込額}$$


時価については、まず市場で観察できる取引価格を使います。不動産であれば不動産鑑定評価基準に基づいた鑑定評価額が必要になるケースが多く、重要性のある物件では不動産鑑定士の評価を取得することが実務上の基本です。


使用価値とは、その資産グループを使い続けることで将来得られるキャッシュフローの現在価値です。将来にわたるキャッシュインフローとキャッシュアウトフローの差額を見積もり、適切な割引率で割り引いて算出します。


$$\text{使用価値} = \sum_{t=1}^{n} \frac{CF_t}{(1+r)^t}$$


ここで $CF_t$ は各年度の将来キャッシュフロー、$r$ は割引率、$n$ は残存使用年数です。割引率には一般的に加重平均資本コスト(WACC)が使われ、実務上は5%前後で開示されている例が多く見られます。


原則として、正味売却価額よりも使用価値の方が高くなると考えられています。そのため、特に処分がすぐに予定されていない限り、必ずしも正味売却価額を厳密に算定しなくてもよい場合があります。これは意外と知られていないポイントです。


参考:回収可能価額・使用価値・正味売却価額の詳細(Deloitte)
固定資産の減損会計(減損損失の認識・測定)|デロイト トーマツ グループ


減損損失の測定における具体的な計算例と仕訳の確認

概念だけ追っていても実感が湧きにくい部分があります。ここでは具体的な数値で測定プロセスを追います。


前提条件


| 項目 | 金額 |
|------|------|
| 固定資産の帳簿価額 | 1,000万円 |
| 正味売却価額 | 400万円 |
| 使用価値(割引後CF) | 600万円 |


まず回収可能価額を求めます。正味売却価額400万円と使用価値600万円を比較すると、使用価値の方が高いです。


$$\text{回収可能価額} = \max(400, 600) = 600\text{万円}$$


次に減損損失額を計算します。


$$\text{減損損失} = 1,000\text{万円} - 600\text{万円} = 400\text{万円}$$


この400万円が損益計算書の特別損失として計上されます。帳簿上1,000万円だった資産の価値は600万円に切り下げられます。


仕訳は2種類あります。原則は直接控除方式です。


直接控除方式(原則)


| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|------|------|------|------|
| 減損損失 | 400万円 | 固定資産(土地・建物など) | 400万円 |


間接控除方式(容認)


| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|------|------|------|------|
| 減損損失 | 400万円 | 減損損失累計額 | 400万円 |


間接控除方式の場合、減損損失累計額は減価償却累計額に含めて「減損損失累計額及び減価償却累計額」としてまとめて表示することもできます。直接控除方式が原則です。


また、減損損失を計上した年度は特別損失が膨らむため、その期の当期純利益は大きく減少します。しかし、帳簿価額が600万円に下がった結果、翌期以降の減価償却費の計算基礎も小さくなります。これが「減損計上翌年度の利益が跳ね上がることがある」メカニズムです。株式投資において減損後の翌期業績を「好転の先行シグナル」として読む視点は、財務分析の現場で重要です。


参考:減損損失の計算方法と仕訳(マネーフォワード クラウド会計)
減損損失とは?計算方法や会計処理の方法、認識と測定や財務諸表への影響を解説(マネーフォワード)


減損損失の測定が財務諸表と株価に与えるインパクト

減損損失の測定結果は、財務三表すべてに影響を与えます。それぞれのポイントを整理します。


損益計算書(P/L)への影響は最も直接的です。減損損失は原則として特別損失として計上されるため、計上年度の税引前当期純利益と当期純利益が減少します。たとえば、当期純利益が500万円の企業が400万円の減損損失を計上すれば、当期純利益は100万円まで落ちます。EPS(1株あたり利益)が下落し、株価への下押し圧力が生じる可能性があります。


貸借対照表(B/S)への影響については、固定資産の帳簿価額が減るため、総資産額が減少します。同時に当期純利益の減少に伴い利益剰余金も減少し、純資産(自己資本)が目減りします。自己資本比率の低下につながるため、外部から見ると財務健全性が悪化したように映ります。


ただし、これは帳簿を実態に合わせた結果です。つまり、貸借対照表が「より正直」になったということ。


キャッシュフロー計算書(C/F)への影響は少し特殊です。減損損失は実際の現金支出を伴いません。間接法では当期純利益が減少した分、調整項目として「減損損失」が足し戻されます。「利益は減ったが現金は減っていない」という事実が明示されるため、キャッシュフロー計算書を読めば実態がつかめます。


投資家・アナリスト視点でいうと、減損損失が大きいほど株価への影響が大きくなるのは確かです。しかし、証券アナリスト協会の研究では「減損損失が大きい企業の株価が高い傾向がある」という分析結果も存在します。これは「腐った資産を帳簿から一掃した=将来の収益改善が期待できる」と投資家が前向きに評価するケースがあるためです。


意外ですね。減損損失計上が必ずしも株価下落と直結しない点は、財務分析を行う上で大切な視点です。


参考:減損損失と財務三表への影響(freee)
減損損失とは?減損会計のメリット・デメリット、財務諸表への影響をわかりやすく解説(freee)


減損損失の測定で使う割引率と将来キャッシュフロー見積りの落とし穴

減損損失の測定で最も難しい作業は、使用価値の算定です。将来キャッシュフローの見積もりと割引率の設定という2つの不確実な要素が絡み合います。


将来キャッシュフローの見積り方法については、会計基準上、企業は「合理的で説明可能な仮定」に基づいて見積ることが求められています。企業が中長期計画を持っている場合は、その計画数値をそのまま使えるわけではありません。外部環境や過去実績と整合的に修正した数値を使う必要があります。


たとえば、中長期計画の売上高が過去実績より過度に楽観的な目標値になっている場合、将来キャッシュフローの見積りにあたっては市場成長率や実績ベースに修正することが必要です。これは落とし穴です。


また、見積期間は「主要な資産の経済的残存使用年数と20年のいずれか短い方」が上限とされています。残存耐用年数が25年の設備でも、将来CFの見積期間は20年までです。覚えておくべき条件です。


割引率の設定については、以下の4つのアプローチが認められています。


- 企業の資産グループ固有のリスクを反映した収益率(ハードルレート)
- 企業に要求される資本コスト(WACCなど)
- 類似資産の市場平均収益率
- ノンリコース融資を想定した場合の推定利率


実務でよく使われるのはWACC(加重平均資本コスト)です。有価証券報告書の注記に「割引率5%」と記載されている企業が多く見られますが、これはWACCを割引率として使っているケースが大半です。


将来キャッシュフローの見積りからの乖離リスクをどこに反映させるかも論点になります。乖離リスクをキャッシュフロー自体に反映する(例:見積CF×0.8で使う)か、割引率に上乗せする(リスクプレミアムを加算する)かの2つの方法があり、いずれかを選択します。ただし、どちらかに反映させたら、もう一方に二重計上しないよう注意が必要です。


会計担当者の主観が入り込むリスクは十分あります。楽観的な将来計画をそのまま採用すると減損損失が過小計上となるため、監査法人や公認会計士のレビューが欠かせない領域です。


参考:固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(企業会計基準委員会)
固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(ASBJ・2024年7月版)


減損損失の測定で見落とされがちな「のれん」と「共用資産」の扱い

多くの解説記事では一般の固定資産を中心に説明されますが、実務でよく問題になるのは「のれん」と「共用資産」の取り扱いです。これが独自視点の重要ポイントです。


のれんの減損測定は、M&A(企業買収)が絡む場面で頻繁に登場します。のれんとは、買収価格が被買収企業の純資産の時価を上回った差額のことで、無形固定資産として計上されます。事業の収益性が当初見込みを下回ると、のれんの減損が必要になります。


日本基準では、のれんは一定期間(最長20年)で規則的に償却されます。一方でIFRS(国際財務報告基準)では、のれんは償却せずに毎年減損テストを実施します。この差異は大きく、IFRS採用企業では減損損失がより頻繁に、かつより大きな金額で計上されやすい傾向があります。


のれんの減損が発生すると株価への影響が特に大きくなります。市場は「この買収は失敗だった」というシグナルとして受け取ることが多く、発表直後に株価が急落するケースも珍しくありません。投資判断を行う際には、企業が多額ののれんを保有していないか、有価証券報告書の固定資産の注記で確認しておくことが重要です。


共用資産とは、複数の資産グループで共通して使われている本社建物や情報システムなどのことです。共用資産は、それ単独ではキャッシュフローを生み出さないため、単独では減損判定できません。実務上は、まず共用資産を除いた各資産グループで減損の判定・測定を行い、その後により大きなグルーピング単位(共用資産を含む)で再度判定・測定するという2段階の手続きが必要になります。


この2段階プロセスを見落とすと、共用資産の減損損失を見逃したり、あるいは過大に計上したりするリスクがあります。結論として、のれん・共用資産は別枠での対応が必要です。


参考:のれんの減損と株価への影響(M&A総合研究所)
M&Aの「のれん」とは?減損の意味や償却との違い(M&A総合研究所)