
リスクプレミアムとリスクフリーレートは、金融業界において投資判断の基礎となる極めて重要な概念です。
参考)投資家なら知っておきたい投資判断の物差し「リスクフリーレート…
リスクプレミアムの基本定義
リスクプレミアムとは、リスクのある資産の期待収益率から無リスク資産の収益率を引いた差のことです。具体的には以下の計算式で表現されます:
参考)リスクプレミアム とは - 事業承継・Mhref="https://ma-navigator.com/glossaries/risk-premium" target="_blank">https://ma-navigator.com/glossaries/risk-premiumamp;A用語集 - 【M…
リスクプレミアム = 不確実な価格変動を伴うリスク資産の期待収益率 - 無リスク金利(国債など)
例えば、期待できる利回りが5%で、リスクフリーレートが2%の場合、リスクプレミアムは3%になります。このリスクプレミアムは通常正であり、金融商品が持つ不確実な価格変動を受け入れるために必要な平均的収益と見なすことができます。
リスクフリーレートの本質
リスクフリーレート(Risk Free Rate)は、リスクが皆無に近い金融商品から得られる利回りのことを指します。日本の場合、日本国債の利回りがこれに該当し、アメリカでは米国財務省証券(長期国債)の利回りをこれにあてています。
参考)リスクフリーレート|タナベコンサルティングのコーポレートファ…
厳密に言えば「リスクがゼロであること」を示すため、「無リスク資産の利子率」などと呼ばれることもありますが、実際にはリスクが全くない金融商品は存在しないため、「リスクがほぼゼロ」「リスクが最小」といったニュアンスで理解されています。
両者の関係性における重要な意味
リスクとリターンは比例関係にあるため、一般的に、リスクプレミアムが大きければ大きいほどハイリスク・ハイリターンの投資となり、小さければ小さいほどローリスク・ローリターンの投資となります。
もしある金融商品のリスクプレミアムが0または負であれば、多くの投資家はリスクを回避しようとするため、そのような金融商品は購入せず、国債などの安全な資産に投資するようになります。
現代ファイナンス理論において、リスクプレミアムの計算は主にCAPM(資本資産価格モデル)で行われます。CAPMの計算式は以下のように表現されます:
参考)CAPM(資本資産価格モデル)|グロービス経営大学院 創造と…
E(r) = rf + β(rM-rf)
この式において。
マーケット・リスクプレミアムは、マーケット・ポートフォリオの期待リターンから、リスクフリーレートを差し引いた数値です。マーケット・ポートフォリオとは、株式や債券などあらゆるリスク資産を、時価総額の比率に応じて購入したと仮定されるポートフォリオのことです。
参考)301 Moved Permanently
市場リスクプレミアムの特徴
一般的に、市場リスクプレミアムは5~6%程度とされており、グローバルや長期的に観測できる先進国で測定したヒストリカル平均はこの近辺の値となります。日本でいえば、株式市場を広範に網羅している「TOPIX」が該当します。
参考)市場リスクプレミアム
市場リスクプレミアムは理論的に求められる値ではなく、投資家がリスクに対してどれだけリターンを要求するかを実証分析から求める必要があります。
リスクプレミアムは、さまざまな要因で変動し、複数の種類に分類されます。主要なリスクの種類は以下の通りです:
価格変動リスク 📈
株式や債券の価格が経済環境の変化で変動するリスクです。これは市場全体の動向や個別企業の業績によって影響を受けます。
貸倒リスク 💸
金融商品を発行した企業が倒産して元利金を全て回収できないリスクです。企業の信用力や財務状況に直接関連します。
外国為替リスク 💱
外貨建て資産の価値が外国為替相場の変動によって上下するリスクです。グローバル投資において特に重要な要素となります。
政治的リスク 🏛️
テロや戦争、資源価格暴落などの影響で変動するリスクです。地政学的な不安定要因が投資収益に与える影響を表します。
これらのリスクは相互に関連し合い、投資家が要求するリスクプレミアムの水準を決定する重要な要素となっています。特に価格変動リスクは、株式などのリスク資産において最も基本的なリスク要因として認識されています。
リスクフリーレートは中央銀行の金融政策と密接な関係を持っています。特に日本では、日本銀行の政策金利の変更が国債利回りに直接的な影響を与えます。
参考)https://investment.mogecheck.jp/media/market_report_221222
金融政策の影響メカニズム
中央銀行が政策金利を変更すると、短期金利から長期金利まで幅広い金利水準に影響が波及します。例えば、2022年の日本銀行による「10年国債の利回り変動幅」の変更は、リスクフリーレートの水準を変化させました。
しかし、不動産のような長期資産の評価においては、10年国債ではなく、より長期の40年国債を使うべきだと考えられています。これは不動産には満期がなく、賃料というキャッシュフローが永続するため、日本の金利市場で観測できる中で最も長期である40年国債の利回りを使うのが妥当だからです。
ターム物リスクフリーレートの重要性
日本円金利指標に関する検討委員会では、ターム物リスク・フリー・レート(RFR)の公表が開始されており、これは金融機関の資金調達コストや貸出金利の基準として重要な役割を果たしています。
参考)(金利指標改革)ターム物リスク・フリー・レート(確定値)の公…
リスクフリーレートの変動は、金融商品の割引率(ディスカウントレート)や投資信託(ファンド)の超過リターンなどを計算する際に使用され、投資判断に大きな影響を与えます。
参考)リスクフリーレート|証券用語解説集|野村證券
期待インフレ率とリスクプレミアムの関係は、従来の理論を超えた複雑な相互作用を示しています。これは金融業界においてあまり注目されていない重要な観点です。
参考)onwut
期待インフレ率の基本構造
期待インフレ率は、名目金利と実質金利の差として計算され、投資家が将来のインフレに対してどの程度の保護を求めているかを反映しています。具体的には、10年間の期待インフレ率は、今後10年間にわたって予想されるインフレ率の平均を示します。
実質リスクプレミアムの独特な特徴
実質リスクプレミアムは、インフレを考慮した後のリスク資産に対する追加のリターンを意味し、無リスク資産の実質利回りと、リスク資産(例えば株式や不動産)の実質利回りの差として計算されます。
この実質リスクプレミアムは、投資家が予想外の実質金利の変動に対してどの程度リスクを評価しているかを反映しており、実質金利が予想よりも大きく変動する可能性がある場合、実質リスクプレミアムは高くなります。
インフレリスクプレミアムの意外な動向
インフレリスクプレミアムは、将来のインフレの不確実性に対するプレミアムを意味し、投資家が予想外のインフレ変動リスクに対して求める追加のリターンです。
興味深いことに、期待インフレ率が上昇している一方でインフレリスクプレミアムが低下している場合、市場はインフレ自体は高く予測しているものの、その変動のリスクは低いと評価している可能性があります。一方、全てのプレミアムが同時に上昇している場合、市場は全体的な経済の不確実性が高まっていると考えられます。
日本銀行の研究では、マイナスのインフレ・リスク・プレミアムについても言及されており、インフレ・リスク・プレミアムがプラスであれば物価の上振れ懸念が強く、マイナスであれば下振れ懸念が強いことを意味します。
参考)(リサーチラボ)マイナスのインフレ・リスク・プレミアム :…
実務においてリスクプレミアムを活用した投資判断は、複数のアプローチが存在し、それぞれに独自の特徴があります。
参考)株式相場の変動がインプライド・リスクプレミアムに及ぼす影響に…
インプライド・リスクプレミアムの革新的活用
インプライド・リスクプレミアムは、投資家のリスクに対する態度が株式市況に応じて適宜修正されるという前提に基づき、現在成立している市場株価と企業の予想利益との関係から投資家の期待収益率及びマーケット・リスクプレミアムを逆算する方法です。
この手法の最大の利点は、過去のデータに依存しないことから、取得するデータの期間に主観が介入する余地がないことです。また、株式市況の変動を適時に反映しやすいという特徴を有することから、現実的な投資判断に極めて有効です。
ヒストリカル法との比較優位性
従来のヒストリカル法では、過去の株式市場のデータより平均リターンからリスクフリー・レートを控除することで算出していましたが、個別企業の市場株価と予想利益の関係においても当期、算出された当該企業の期待利回りからリスクフリー・レートを控除し算出する方法が注目されています。
参考)リスクプレミアムとは?期待収益率とあわせて解説!
WACC計算における実践的応用
CAPMにより算出した株式投資期待収益率E(r)は、企業側から見れば株主コストと言い換えることができます。従って、この株主コストと負債コストを加重平均することで、企業が調達している資本のコスト(WACC、加重平均資本コスト)が計算できます。
このWACCで個別案件が生み出す将来のフリー・キャッシュフローを割り引くと、個別案件の投資採算性の検証に、その企業に資本投下している投資家の期待値を織り込むことができ、資金使途と資金源を一気通貫で関連づけることで、企業は投資家の代わりに投資を行なうという企業経営の基本理念とも整合させることができます。
市場リスクプレミアムの推定手法の多様化
市場リスクプレミアムの代表的な推定手法には、ヒストリカル法(過去の株式市場リターンから推定)、インプライド法(市場価格から逆算)、サーベイ法(投資家や研究者からアンケート)があり、それぞれの手法を組み合わせることで、より精度の高い投資判断が可能になります。
これらの手法を適切に活用することで、投資家は市場の変動に対してより柔軟で合理的な投資戦略を構築することができ、金融業務における競争優位性を確保することが可能となります。