
夫婦共働きで年金を受給している場合、夫が死亡した際の遺族厚生年金の計算は複雑な仕組みとなっています。
遺族厚生年金の基本計算式
遺族厚生年金は、以下の2つの計算方法のうち高い方が適用されます。
例えば、夫の老齢厚生年金が月額16万円、妻の老齢厚生年金が月額8万円の場合。
この場合、どちらも同額となるため12万円が遺族厚生年金の候補額となります。
重要な注意点
遺族厚生年金の計算において、夫が繰り下げ受給を行い年金額が増額されていても、遺族厚生年金は繰り下げ前の本来の年金額を基に計算されます。これは多くの方が誤解しやすいポイントです。
また、遺族厚生年金の対象となるのは夫の老齢厚生年金部分のみで、老齢基礎年金部分は対象外です。
夫婦共働きで年金を受給している妻が65歳以降に遺族厚生年金を受け取る場合、併給調整という制度により、実際の受給額は大幅に減少する可能性があります。
併給調整の仕組み
65歳以降は以下の優先順位で年金が支給されます。
具体的な計算例
この場合の妻の受給額。
もし妻が専業主婦だった場合は、老齢基礎年金6.5万円+遺族厚生年金10万円=16.5万円となるため、結果的には同額となります。
最も厳しいケース
妻の老齢厚生年金が夫の遺族厚生年金を上回る場合、遺族厚生年金は一切受け取れません。この場合、世帯の年金収入は夫の死亡により単純に半分近くまで減少することになります。
実際のケースを想定して、夫婦共働き年金で夫が死亡した場合の年金額を詳しくシミュレーションしてみましょう。
ケース1:年金額に差があるパターン
夫死亡後の妻の年金。
年金減少額:31万円 - 14.375万円 = 16.625万円減少(約54%減)
ケース2:同程度の年金額のパターン
夫死亡後の妻の年金。
年金減少額:36万円 - 18万円 = 18万円減少(50%減)
手取り額での比較
老齢年金は課税対象(手取り率約77%)、遺族年金は非課税のため、実際の手取り額はさらに少なくなります。
夫婦共働きで年金の繰り下げ受給を検討している場合、夫の死亡時の影響について理解しておく必要があります。
繰り下げ受給と遺族年金の関係
夫が老齢厚生年金を繰り下げ受給(66歳以降に受給開始)し、増額された年金を受け取っている最中に死亡した場合。
具体例
夫の本来の老齢厚生年金:月額10万円
70歳まで繰り下げした場合:月額14.2万円(42%増額)
夫死亡時の妻の遺族厚生年金。
妻の繰り下げ受給への影響
さらに重要なのは、遺族厚生年金の受給権を得ると、妻自身の年金繰り下げができなくなることです。
この制度により、共働き夫婦の年金戦略は単身者や専業主婦世帯と比べて制約が多くなっています。
夫婦共働きで年金を受給している世帯では、夫の死亡により年金収入が大幅に減少するため、事前の対策が極めて重要です。
必要な老後資金の計算
現在の生活費を基に、不足額を計算しましょう。
不足額を100歳まで補うための資産。
具体的な対策方法
見落としがちなポイント
多くの共働き世帯が見落としているのは、税制面での影響です。
これらの要素も含めて総合的な資金計画を立てることが重要です。
また、遺族年金の受給には時効があります。死亡から5年を過ぎると受給権が消滅するため、手続きは速やかに行う必要があります。
厚生労働省の年金制度についての詳細情報
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/index.html
日本年金機構の遺族年金手続きガイド
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/izokunenkin/index.html
夫婦共働きで年金を受給している世帯では、夫の死亡による年金減少リスクを正しく理解し、早期から計画的な資産形成を行うことが、安心できる老後生活を送るために不可欠となっています。年金制度の複雑さを理解した上で、個々の状況に応じた最適な対策を講じることが重要です。