フィデューシャリー・デューティーの意味と投資家が知るべき義務

フィデューシャリー・デューティーの意味と投資家が知るべき義務

フィデューシャリー・デューティーの意味と投資家が知るべき義務

銀行や証券会社に資産を預けているのに、あなたの損失が金融機関の収益になっている構造が実在します。


📌 この記事でわかること3つ
📖
フィデューシャリー・デューティーの正確な意味

「受託者責任」と訳される英米法由来の概念で、金融機関が顧客の利益を最優先に行動する義務のこと。金融庁が2014年から日本でも積極的に推進している。

⚖️
3つの基本義務(善管注意・忠実・分別管理)

金融機関が守るべき義務の具体的な内容と、それが守られない場合に何が起きるのかを解説。回転売買や高手数料などの問題がなぜ生まれたかも明らかに。

💡
投資家として活用できる知識

金融庁の「顧客本位の業務運営に関する原則」7つの中身、スチュワードシップ・コードとの関係、そして自分の資産を守るために投資家ができる具体的な行動。


フィデューシャリー・デューティーの意味と語源をわかりやすく解説


「フィデューシャリー・デューティー(Fiduciary Duty)」とは、英語で「Fiduciary(受託者)」と「Duty(義務・責任)」を組み合わせた言葉です。日本語では「受託者責任」または「信認義務」と訳されます。一言でまとめると、「誰かの財産や権限を信頼されて預かった者が、その人の利益を最優先に行動しなければならない義務」のことです。


金融業界に限った話ではありません。医師が患者の利益を最優先に診察するべき義務、弁護士が依頼人のために誠実に行動すべき義務、会計士が顧客のために正確な情報を提供する義務も、すべてフィデューシャリー・デューティーの範疇に含まれます。つまり「専門家として他者の信頼を受けた者すべて」に関係する概念です。


金融の世界では、銀行・証券会社・保険会社・資産運用会社などが「受託者」にあたります。そして投資家(顧客)は「受益者」にあたります。受益者が原則です。フィデューシャリー・デューティーとは、金融機関が顧客の利益のために行動する義務のことを指しています。


語源のfidは「信じる」というラテン語に由来し、英単語のconfidence(自信・信頼)やfidelity(忠実)とも共通する語根を持ちます。意外ですね。つまりこの言葉は、最初から「信頼と誠実さ」を前提にした概念として生まれているのです。


金融庁は2014事務年度の「金融モニタリング基本方針」において、日本の公式文書に初めてこの言葉を盛り込みました。それ以降、フィデューシャリー・デューティーは日本の金融業界においても無視できないキーワードになっています。



フィデューシャリー・デューティーについては、アライアンス・バーンスタインが日本語で詳しく解説しています。起源から現在の金融業界への影響まで確認できます。


アライアンス・バーンスタイン|フィデューシャリー・デューティーとは(起源・金融庁の動向)


フィデューシャリー・デューティーの起源:中世イギリスのエクイティ法

フィデューシャリー・デューティーの起源は、14〜15世紀のイギリスにさかのぼります。十字軍の時代、出征した騎士や領主は自分の土地の管理を友人に託し、「戻ったときに土地を返してほしい」と頼みました。しかし当時の法律(コモンロー)では、実際に土地を管理している「友人(受託者)」が所有権を主張しやすい構造でした。結果として、戦地で亡くなった領主の遺族が土地を取り戻せないという不公平な事態が300年近く続きました。


厳しいところですね。この問題を解決するために登場したのが「エクイティ(衡平法)」という仕組みです。国王に直訴した不満を、大法官と呼ばれる高位の裁判官が「公平性(エクイティ)」の観点から判断するようになりました。先例や形式ではなく、「何を約束したのか」「誰が何を期待していたのか」という実質を重視した裁きです。弱い立場にある委託者・受益者を守るこの考え方が、フィデューシャリー・デューティーの原点となりました。


その後この考え方は、株式会社の取締役に対する義務や、機関投資家の運用責任へと拡張されていきます。株式会社においては株主が「委託者・受益者」、取締役が「受託者」という構図が成立します。つまり取締役もフィデューシャリーとみなされ、注意義務・忠実義務を負うのが英米法の考え方です。


日本では判例法(英米法)ではなく制定法(大陸法)体系のため、完全に同じ運用は難しい面があります。ただし、民法・会社法の善管注意義務や忠実義務は、フィデューシャリー・デューティーに近い概念として機能しています。つまり形は違えど、根っこにある「他者の利益を守る義務」という思想は共通しているということです。



フィデューシャリー・デューティーの歴史的な成り立ちから英米と日本の違いまで詳述した専門記事が参考になります。


日本コーポレート・ガバナンス研究所|「フィデューシャリー・デューティー」(受託者責任)の起源と日本への示唆


フィデューシャリー・デューティーに含まれる3つの義務(善管注意義務・忠実義務・分別管理義務)

フィデューシャリー・デューティーは、大きく3つの義務から構成されています。それぞれの中身を具体的に見ていきましょう。


① 善管注意義務(ぜんかんちゅういぎむ)


「善良な管理者の注意義務」の略称で、金融商品取引法第43条・信託法第29条に定められています。簡単に言えば「金融のプロとして当然求められるレベルの注意を払って業務を行う義務」です。例えば顧客の年齢や資産状況に全くそぐわないハイリスク商品を漫然と勧めれば、この義務違反になる可能性があります。善管注意義務が原則です。


② 忠実義務(利益相反防止義務)


信託法第30条・第31条に定められており、「金融機関は自社の利益より顧客の利益を優先しなければならない」という義務です。過去に問題となった「回転売買」はこの義務に反する典型例です。回転売買とは、証券会社が手数料を稼ぐために顧客の投資信託を頻繁に売買させる行為で、顧客の利益ではなく金融機関の収益を目的としています。これは問題ありません、とはとても言えない行為ですね。


③ 分別管理義務


信託法第34条に基づく義務で、「顧客から預かった資産を、金融機関自身の財産と明確に分離して管理する」というものです。これにより、仮に金融機関が破綻した場合でも、顧客の資産は保護される仕組みになっています。日本証券業協会が詳細なQ&Aを公開しており、実際の運用ルールを確認することができます。


この3つが、フィデューシャリー・デューティーの核心です。だけ覚えておけばOKです。


なお、これらの義務は信託法・金融商品取引法に根拠を持つ一方、金融庁が定める「顧客本位の業務運営に関する原則」はソフトロー(法的拘束力のないガイドライン)という位置付けです。つまり、日本では現時点で「顧客本位の原則」そのものには直接の罰則はなく、違反した場合の救済手段は法令上の義務違反を通じたルートになる点に注意が必要です。


金融庁が定める「顧客本位の業務運営に関する原則」7つの中身

金融庁は2017年3月に「顧客本位の業務運営に関する原則」を公表しました。フィデューシャリー・デューティーを実践するための具体的な指針として、金融事業者に対して7つの原則への対応を求めています。これは使えそうです。


| 原則番号 | テーマ | ポイント |
|---|---|---|
| 原則1 | 方針の策定・公表 | 顧客本位の方針を作り、定期的に見直す |
| 原則2 | 顧客の最善の利益の追求 | 誠実・公正に業務を行い、企業文化として定着させる |
| 原則3 | 利益相反の適切な管理 | 利益相反の可能性がある場合の対応方針をあらかじめ定める |
| 原則4 | 手数料等の明確化 | 手数料がどのサービスへの対価かを顧客が理解できるよう開示する |
| 原則5 | 重要情報のわかりやすい提供 | 情報の非対称性を踏まえ、リスクなど重要情報を明確に提供する |
| 原則6 | 顧客にふさわしいサービス提供 | 顧客の資産状況・経験・目的に合った商品を勧める |
| 原則7 | 従業員への適切な動機づけ | 顧客利益を追求する行動を促す報酬・評価体系を整備する |


この原則で特に注目したいのが「原則4:手数料等の明確化」と「原則5:重要情報の提供」です。従来の金融業界では、手数料がどこに消えているのか不透明なケースが珍しくありませんでした。例えば、保険商品を銀行窓口で購入した場合、実際には複数の中間業者が手数料を取っていても、顧客にはその内訳が示されないことがあったのです。


この原則の採択は義務ではありませんが、採択しない場合には「なぜ実施しないのか、その理由や代替策」を金融庁に対して説明することが求められます。実質的にほとんどの大手金融機関が採択しており、みずほフィナンシャルグループや三菱UFJ信託銀行などはKPI(重要業績評価指標)を設定して進捗を公開しています。


投資家として活用するなら、金融商品を購入する前に「この金融機関はフィデューシャリー・デューティーに関する方針を公表しているか」を確認することが一つの判断基準になります。金融庁のウェブサイトでは、原則を採択した金融機関の一覧と各社の取り組み方針を確認できます。



金融庁が公表している顧客本位の業務運営に関する原則の原文はこちらで確認できます。投資家として実際の文面を読んでおくことをおすすめします。


金融庁|顧客本位の業務運営に関する原則(PDF)


フィデューシャリー・デューティーとスチュワードシップ・コード:機関投資家の役割とは

フィデューシャリー・デューティーは個人投資家と金融機関の関係だけに留まりません。年金基金や投資信託会社などの機関投資家にも同様の義務が求められており、その具体的な行動指針として「スチュワードシップ・コード」があります。


スチュワードシップとは「管財人としての責任」という意味で、機関投資家が投資先企業と建設的な対話(エンゲージメント)を行い、企業の持続的成長を後押しすることで、最終的な受益者である個人投資家のリターンを高めるという考え方です。つまり「運用機関→投資先企業→受益者(個人投資家)」という連鎖の中で、機関投資家もフィデューシャリーとしての義務を負うということです。


日本版スチュワードシップ・コードは2014年に初版が策定され、2025年6月に第三次改訂が行われています。議決権行使の透明化やESG(環境・社会・ガバナンス)情報の積極的活用などが盛り込まれており、国内の機関投資家約300社以上が受け入れを表明しています。これは大きな変化ですね。


ここで一つの視点として、ESG投資との関係も重要です。機関投資家がフィデューシャリー・デューティーを果たす文脈でESG要素を投資判断に組み込むことは、単なる社会貢献ではなく「受益者の長期的な利益を守るための合理的な判断」として位置付けられています。長期的な気候変動リスクや社会的リスクを無視した投資は、将来的に受益者に損失をもたらす可能性があるからです。


個人投資家にとっても、自分が投資する投資信託や年金がどのようにスチュワードシップ活動を行っているかは、資産形成の観点から無視できないポイントです。運用会社の議決権行使報告書はウェブで公開されているケースが多く、10分程度で確認できる情報です。


投資家が「フィデューシャリー・デューティー」を活かして資産を守る独自視点

フィデューシャリー・デューティーを「金融機関の話」として他人事にしている投資家は少なくありません。しかし実際には、この概念を理解しているかどうかで、あなたが支払うコストの差が数十万円から数百万円に及ぶ可能性があります。


具体的な活用ポイントを見ていきましょう。


💰 手数料の透明性を確認する


原則4(手数料等の明確化)に基づき、金融機関は手数料の詳細を開示する義務があります。ファンドラップや変額保険などの複合商品は、購入時手数料・運用報酬・解約時手数料が複雑に絡み合っています。金融庁調査では、一部のファンドラップ商品において、同等のポートフォリオをインデックス投資信託で組み合わせた場合と比べて年間1〜2%以上のコスト差が生じることが指摘されています。仮に1,000万円を20年間運用した場合、1%のコスト差は数百万円規模の差として蓄積されます。


📋 推奨理由を書面で求める


原則6(顧客にふさわしいサービス提供)に基づき、金融機関は「なぜこの商品があなたに適切なのか」を説明する責任があります。曖昧な説明で高コスト商品を勧められたと感じた場合、書面での説明を求めることは正当な権利です。


🔍 金融庁の公表データを使う


金融庁は毎年「リスク性金融商品の販売・組成会社による顧客本位の業務運営に関するモニタリング結果」を公表しています。そこには販売会社ごとの運用パフォーマンスや顧客のコスト状況が示されており、金融機関選びの重要な参考資料になります。


⚠️ 回転売買のサインを見逃さない


担当者から「新しい商品に乗り換えを」と提案された際は、乗り換えに伴うコスト(解約手数料・購入手数料)と期待リターンを必ず確認してください。頻繁な乗り換え提案は、忠実義務に反する回転売買の可能性があります。


📌 金融庁の相談窓口を知っておく


フィデューシャリー・デューティーに反すると感じた場合、金融庁の「金融サービス利用者相談室」(電話:0570-016-811)や証券監視委員会への相談窓口が利用できます。こうした機関の存在を知っているだけで、不当な損失を回避できるケースがあります。


フィデューシャリー・デューティーは金融機関への制約である同時に、投資家にとっての「盾」です。知っていると守れる、知らないと守れません。



金融庁が毎年発表する顧客本位の業務運営モニタリング結果は、金融機関を選ぶ際の客観的指標として活用できます。


金融庁|リスク性金融商品の販売・組成会社による顧客本位の業務運営に関するモニタリング結果(2024事務年度)




フィデューシャリー・デューティー -顧客本位の業務運営とは何か