同族株主の判定を国税庁基準で正しく理解する方法

同族株主の判定を国税庁基準で正しく理解する方法

同族株主の判定と国税庁ルールで相続税が変わる仕組み

同族株主に該当すると思っていても、実は配当還元方式で評価できるケースがあります。知らないと数百万円単位で損をする可能性があります。


この記事の3つのポイント
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判定の基本ルール

国税庁の財産評価基本通達188に基づき、議決権割合30%または50%超が分岐点。同族株主かどうかで相続税の評価方式が原則的評価方式か配当還元方式かに分かれます。

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見落としがちな落とし穴

判定は「納税義務者を中心に」ではなく「全株主それぞれを起点」として行います。また同族株主でも議決権割合5%未満など一定条件を満たせば配当還元方式が適用できます。

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評価方式で変わる税負担

原則的評価方式と配当還元方式では評価額が10〜20倍以上異なるケースも。事前に正確な判定と株式設計を行うことで、合法的に相続税負担を大幅に抑えられる可能性があります。


同族株主の判定における国税庁ルールの基本構造

取引相場のない株式(非上場株式)を相続や贈与で取得した場合、その評価方法を決める最初のステップが「同族株主かどうかの判定」です。これは国税庁が定める財産評価基本通達188に根拠があります。


まず押さえておくべき点として、「同族株主」の定義があります。課税時期において、株主の1人およびその同族関係者が保有する議決権の合計割合が、その会社の議決権総数の30%以上である場合、その株主および同族関係者が「同族株主」とされます。ただし、いずれかのグループが50%超の議決権を持っている場合は、そのグループのみが同族株主となり、30〜50%のグループは対象外になります。


ここで多くの人がつまずくのが「2段階の閾値」の存在です。


筆頭株主グループの状況 同族株主と判定される条件
50%超のグループが存在する そのグループ(50%超)の株主のみが同族株主
30%以上50%以下のグループが最大 30%以上保有する全グループが同族株主
全グループが30%未満 同族株主のいない会社として扱う


つまり原則が条件です。50%超のグループがある会社では、30%のグループが同族株主とは判定されないことに注意しましょう。


同族関係者の範囲についても確認が必要です。個人株主の場合、配偶者・6親等内の血族・3親等内の姻族・事実上の婚姻関係にある者・生計を同じくする親族などがすべて含まれます。法人株主の場合は、個人株主が50%超の議決権を持つ法人も同族関係者となります。この範囲は非常に広く、一見関係なさそうな親族も含まれる場合があります。


参考:国税庁が定める財産評価基本通達188の全文と同族株主の定義についての公式解説はこちら
国税庁|財産評価基本通達 第1節 株式及び出資(通達188)


同族株主の判定で見落とされがちな「全株主起点」ルール

国税庁の公式見解(質疑応答事例)によれば、同族株主の判定は納税義務者を中心に行うのではないとされています。これは多くの方が誤解しているポイントです。


財産評価基本通達188の条文には「株主の1人及びその同族関係者の有する議決権…」とあり、この「株主の1人」とは「任意の1人」を意味します。つまり、会社のすべての株主をそれぞれ起点として判定し、いずれかの株主を起点にしたときにグループの議決権が要件を満たせば、その結果が適用されるという構造です。


具体的にはどういうことでしょうか?


たとえばAさんが相続で株式を取得したとします。判定はAさんだけを起点にするのではなく、他のすべての株主(BさんやCさん)を起点にしたときにも確認します。Bさんを起点にしたグループの議決権が50%超であれば、Bさんのグループが同族株主となり、そのグループに属するAさんも同族株主として扱われる可能性があります。


これが原則です。「自分は株を少ししか持っていないから同族株主ではない」という思い込みは危険で、グループ全体の持ち分で判断されます。


実際の判定ミスとして多いのが「親等の数え方の誤り」です。本家の筆頭株主から数えて7親等だから同族関係者ではないと判断しても、贈与者や他の株主を起点に数え直すと6親等以内の血族に収まってしまうケースがあります。このような判定ミスは税務調査での否認リスクを生みます。


参考:国税庁が公式に「判定は納税義務者中心ではない」と回答した質疑応答事例
国税庁|同族株主の判定(質疑応答事例)


同族株主でも配当還元方式が使える5%未満ルール

ここが最も実務的に重要なポイントです。同族株主に該当すると判定された場合でも、一定の条件を満たせば特例的評価方式(配当還元方式)が適用できます。


財産評価基本通達188(3)に定められたルートがあります。以下のすべての要件を満たす場合です。


  • ① 株式取得後の議決権割合が5%未満であること
  • ② その会社に中心的な同族株主が存在すること
  • ③ 評価対象者(取得者)が中心的な同族株主に該当しないこと
  • ④ 評価対象者が評価会社の役員でないこと


「中心的な同族株主」とは何でしょうか?ある同族株主の1人と、その株主の配偶者・直系血族・兄弟姉妹・1親等内の姻族の議決権の合計が25%以上の場合に該当します。この範囲は6親等・3親等という同族関係者の広い範囲とは異なり、ずっと狭い設定です。


つまり会社に別の「中心人物(中心的な同族株主)」がいて、取得者本人はその中心人物ではなく、役員でもなく、取得後の議決権が5%未満に収まるなら、配当還元方式を使えるということですね。


この結果として生じる評価額の差は非常に大きくなります。原則的評価方式では純資産価額方式類似業種比準方式が使われますが、配当還元方式は「1株当たりの年間配当金÷10%」という単純な計算です。たとえば配当を年1株あたり10円出している会社の株式は、配当還元方式で1株あたり100円と評価されます。一方で純資産価額方式では1株1,000円〜2,000円になるケースも珍しくありません。


これが実例では評価額が10倍から20倍以上の差になり、相続税額に直接影響します。


同族株主の判定で決まる評価方式の全体像と株主区分

同族株主の判定が終わったら、次は株主区分と評価方式の確認です。これも「同族株主のいる会社」か「同族株主のいない会社」かによって判定の基準が変わります。


同族株主のいる会社の場合、株主区分は以下のとおりです。


株主の状況 評価方式
同族株主で議決権5%以上 原則的評価方式(類似業種比準・純資産価額等)
同族株主で議決権5%未満かつ中心的な同族株主に該当する 原則的評価方式
同族株主で議決権5%未満かつ中心的な同族株主に非該当・役員でない 配当還元方式(特例的評価方式)
同族株主以外の株主 配当還元方式(特例的評価方式)


同族株主のいない会社の場合はどうなりますか? この場合は筆頭株主グループの議決権が30%未満という前提であり、株主区分の基準が15%に変わります。


  • 議決権15%以上の株主グループに属する → 中心的な株主の有無・役員かどうかで判定
  • 議決権15%未満の株主グループに属する → 配当還元方式


ここで登場する「中心的な株主」は「中心的な同族株主」とは別の概念です。同族株主のいない会社における概念で、議決権15%以上のグループの中で、さらにある株主1人とその同族関係者が25%以上の議決権を有する場合に該当します。


評価方式が決まると、次に会社規模(大会社・中会社・小会社)の判定が加わります。原則的評価方式の中でも、大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式が原則となり、中会社はその折衷です。これが原則的評価方式です。


参考:国税庁による取引相場のない株式の評価方法(評価方式の全体像)
国税庁|No.4638 取引相場のない株式の評価


同族株主の判定を活かした事業承継対策と専門家活用の視点

同族株主の判定ルールを正確に理解すると、事前の対策によって相続税の負担を合法的に抑える設計が可能になります。この視点は、検索上位の記事にはあまり書かれていない独自の実務視点です。


最も重要な対策のひとつが「贈与する株数の設計」です。同族株主グループに属していても、取得後の議決権割合を5%未満に収めるよう株数を計算してから贈与すれば、配当還元方式の適用が見えてきます。たとえば、発行済株式が1,000株の会社であれば49株以下の贈与が5%未満の条件を満たします。贈与するのは49株が条件です。


もうひとつの方法が「無議決権株式の活用」です。議決権のない種類株式を発行すれば、株式を取得させても議決権割合はゼロのまま。これにより配当還元方式の要件(5%未満)をクリアしやすくなります。ただし、この方法は定款変更や株主総会の特別決議が必要なため、専門家との連携が必須です。


また、同族関係者の範囲が非常に広いことから、「内縁関係や生計を同じくする使用人が知らないうちにグループに含まれていた」というケースも実務では発生します。株主名簿を最新の状態に保ちつつ、同族関係者の範囲を定期的に確認することが大切です。


税理士に相談するタイミングとしては、以下の場面が特に重要です。


  • 📌 非上場株式を相続や贈与で取得する前(評価方式の事前確認)
  • 📌 事業承継の計画を立てる段階(株式を分散させるかどうかの判断)
  • 📌 株主構成が変わったとき(議決権割合が閾値をまたぐ可能性の確認)
  • 📌 種類株式(無議決権株式など)の発行を検討するとき


相続専門の税理士に事前相談することで、判定の誤りによる過大申告や、見落としによる税務調査リスクを大幅に下げられます。「同族株主かどうか」の一点で数百万円単位の税負担が変わることを踏まえれば、専門家費用は十分に元が取れる可能性があります。これは使えそうです。


なお、株主判定の結果に疑問がある場合は、国税庁の「税務相談チャットボット」や最寄りの税務署・国税局電話相談センターへの照会も有効です。公式見解を文書で取得できる「事前照会制度」を活用すると、申告後の否認リスクを防げます。


参考:事前照会制度(文書回答手続)についての国税庁の解説ページ
国税庁|文書回答手続(事前照会への回答)