

費用計上時に1年超の長期前払費用は消費税控除できません。
消費税法では、課税仕入れの時期は原則として「資産の引渡しやサービスの提供があった時」と定められています。
つまり、3年分の保険料を一括で支払ったとしても、支払時点で全額の仕入税額控除はできません。実際にサービスを受けた期間に応じて、費用を計上すると同時に、消費税も按分して控除する必要があります。
参考)長期前払費用とは?仕訳例や勘定科目、前払費用との違いまで解説…
支払時の仕訳では、税込金額を長期前払費用として資産計上し、消費税区分は「対象外」とします。サービス提供を受けるたびに費用化する際、初めて消費税の仕入税額控除を行います。
これが原則です。
前払費用と長期前払費用は、費用化されるまでの期間で区別されます。
参考)【仕訳解説】前払費用とは?長期前払費用との違いをわかりやすく…
決算日の翌日から1年以内に費用化されるものは「前払費用」として流動資産に計上し、1年を超えて費用化されるものは「長期前払費用」として固定資産に計上します。
たとえば、3月決算の会社が2026年4月1日に3年分の保険料120万円を支払った場合を考えましょう。どう処理すればいいのでしょうか?
2027年3月末の決算では、翌4月から1年分(40万円)を前払費用に、残り2年分(80万円)を長期前払費用に区分します。毎期決算時に、長期前払費用のうち決算日翌日から1年以内に費用化される部分を前払費用に振り替える処理が必要です。
消費税も同様に、費用化する期間に応じて按分して控除していきます。
長期前払費用を費用化する際、「長期前払費用償却」という勘定科目を使うケースがあります。
この償却処理を行う際、消費税の課税取引として処理することを忘れないよう注意が必要です。会計ソフトで仕訳を入力する際、税区分を「課税仕入」に設定し忘れると、仕入税額控除を受けられなくなります。
具体的な仕訳例を見てみましょう。2年分の保険料144万円(税込)を支払い、決算で1年分を費用化する場合の処理は以下のとおりです。
支払時の仕訳:
決算時の費用化仕訳(1年分):
費用化のタイミングで初めて消費税を認識します。
厳しいところですね。
一定の要件を満たす前払費用については、支払時に全額を費用計上し、消費税も一括で控除できる特例があります。
これが「短期前払費用の特例」です。
適用要件は以下の4つです:
たとえば、3月決算の会社が2026年3月20日に翌1年分の家賃132万円(税込)を支払った場合、特例を適用すれば支払時に全額費用計上し、消費税も一括控除できます。
特例適用時の仕訳:
ただし、支払いが決算月をまたいで4月1日以降になると、特例は適用されません。
また、社宅の家賃は対象外です。
継続適用が条件です。
長期前払費用と混同しやすいのが繰延資産です。どう違うのでしょうか?
両者の決定的な違いは、役務の提供が完了しているか否かという点にあります。
参考)繰延資産と前払費用の分類について|髙野総合会計事務所
繰延資産: 既に役務の提供を終えているが、その効果が1年以上に及ぶもの。開業費、創立費、株式交付費などが該当します。
長期前払費用: 支出をしたものの、まだ役務の提供を受け終わっていないもの。保険料の前払いや賃借料の前払いなどが該当します。
消費税の処理も異なります。繰延資産は、支出時に既に役務提供が完了しているため、支出の日の課税期間において消費税の全額を一括して控除できます。
参考)繰延資産と前払費用の消費税の仕入税額控除を認識するタイミング…
一方、長期前払費用は、サービスを受けた期間に応じて按分して控除する必要があります。
つまり、繰延資産は支払時に一括控除できますね。
税務上の繰延資産(権利金、ノウハウの頭金など)は、会計上は繰延資産として計上できず、長期前払費用として処理します。
2023年10月のインボイス制度導入により、長期前払費用の消費税処理に新たな注意点が加わりました。
参考)長期前払費用はインボイス制度でどう変わる?プロが教える実務対…
仕入税額控除を行うには、原則として課税仕入れが発生した課税期間に対応するインボイスを保存している必要があります。前払いのタイミングで支払いが完了していても、実際にサービスが提供される期間が翌期以降にまたがる場合、控除できるタイミングに注意が必要です。
複数年度分のサービス料を契約時に支払った場合、消費税法上は全額を支払時に課税仕入として仕入税額控除できますが、法人税法上の損金算入は契約期間に応じて期間配分が必要です。
つまり、消費税と法人税で処理のタイミングが異なるということですね。
インボイスの保存は必須です。
期をまたぐ費用については、適切に費用配分を行い、それに併せて消費税控除を行うことが求められます。サービス提供の完了日や商品の引渡し完了日に基づいた期間で仕入税額の計上を行う必要があります。
参考)前払費用はインボイス制度でここが変わる!税理士も勧める正しい…
消費税率が変更されるタイミングで長期前払費用がある場合、特殊な処理が必要になります。
参考)https://www.kyodo-cpa.com/qa/2013/1127_265.html
たとえば、2013年の5%から8%への税率変更時、決算期をまたいで前払いした費用について、短期前払費用の特例が適用できないケースがありました。
期末時点で施行されている消費税率と異なる税率で支払った場合、特例を適用できず、原則に従って実際にサービスを受けた課税期間で仕入税額控除を行う必要があります。
具体例:2014年3月決算の法人が2013年9月に翌1年分の費用を前払い
前払消費税を貸借対照表に残して繰り延べる処理が必要です。
痛いですね。
実務における長期前払費用の処理を、具体例で確認しましょう。
事例:2026年6月1日に2年分(24ヶ月)の保険料120万円を支払った場合(3月決算)
支払時(2026年6月1日):
第1期決算時(2027年3月31日):
当期分(6月~3月の10ヶ月分)を費用化します。
貸借対照表での計上:
残高700,000円のうち、翌期1年分(12ヶ月分)は前払費用に振替え、残り2ヶ月分は長期前払費用として計上します。
参考)長期前払費用の仕訳や勘定科目を徹底解説!前払費用との違いって…
このように段階的に処理していきます。
実務では、会計ソフトの税区分設定を正確に行うことが重要です。長期前払費用償却時に課税仕入として処理し忘れると、仕入税額控除を受けられず、納税額が増えてしまいます。
税理士や経理担当者は、決算時に長期前払費用の残高を確認し、1年基準に基づいて前払費用への振替を忘れないようチェック体制を整えることが大切です。
参考リンク(短期前払費用の特例の詳細な要件と実務上の注意点)。
短期前払費用の特例とは?活用する際の注意点や否認事例 - 飯野税理士事務所
参考リンク(消費税の仕入税額控除の計上時期についての詳細解説)。
前払費用の消費税の税区分は?計上時期は?具体的な仕訳例 - さとう公認会計士事務所
参考リンク(長期前払費用とインボイス制度の関係について)。
長期前払費用はインボイス制度でどう変わる?プロが教える実務のポイント