

補助金をもらっても、圧縮記帳なしだと税金で3割近く消えます。
国や地方自治体から補助金を受け取ったとき、多くの人は「タダでもらえたお金だから、全額使える」と思いがちです。しかし実際には、補助金は受け取った事業年度の「収益」として計上され、法人税の課税対象になります。これが意外と知られていない落とし穴の第一歩です。
たとえば、ものづくり補助金で500万円を受け取って機械設備を購入したとします。この500万円はそのまま課税所得に算入されるため、法人税率約30%で計算すると約150万円の税負担が発生します。設備に充てたはずのお金から150万円が税金として出ていく、という状況です。これでは補助金の恩恵が大幅に薄れてしまいます。
この問題を解消するために設けられているのが圧縮記帳です。圧縮記帳とは、補助金を使って取得した固定資産の帳簿価額を、補助金の額だけ減額する会計処理のことです。仕組み上は「圧縮損」という損失を計上して補助金収益と相殺させることで、受け取った年の課税所得を抑えます。
つまり、課税そのものが消えるわけではなく、翌年以降に分散して課税されることになります。これが原則です。
国税庁|間接交付された補助金と圧縮記帳の適用範囲(質疑応答事例)
すべての補助金に圧縮記帳が使えるわけではありません。これは重要な点です。
圧縮記帳が適用されるには、大きく2つの条件を満たす必要があります。1つ目は「固定資産の取得または改良に充てられること」、2つ目は「国庫補助金等に該当すること」です。
1つ目の条件について説明します。建物・機械・設備・車両など、長期的に使用する固定資産の購入費に充てた部分だけが対象です。人件費、広告費、外注費、専門家経費など、資産に計上されない経費部分は対象外になります。たとえばものづくり補助金でも、機械装置の購入費は対象ですが、設計費や専門家謝金は対象外です。
2つ目の条件について補足します。国・地方公共団体から直接交付される補助金、あるいは国の資金を原資とする補助金が対象です。ものづくり補助金、小規模事業者持続化補助金、事業再構築補助金、IT導入補助金、既存建築物省エネ化推進事業などが代表例として挙げられます。
注意が必要なのは東京都独自の助成金です。東京都が独自予算で実施している「TOKYO戦略的イノベーション促進事業」などは、国の資金が原資ではないため、原則として圧縮記帳の適用対象外となります。補助金ごとに個別確認が必要です。
また、もう一つ重要な条件があります。交付年度末までに「返還不要が確定している」ことです。補助金の条件を満たせず返還を求められる可能性が残っている段階では、圧縮記帳を適用できません。成果報告が完了して返還義務が消えるまで処理を待つことが原則です。
| 補助金名 | 固定資産取得部分 | 経費補填部分 |
|---|---|---|
| ものづくり補助金 | ✅ 適用可 | ❌ 適用不可 |
| 小規模事業者持続化補助金 | ✅ 適用可 | ❌ 適用不可 |
| 事業再構築補助金 | ✅ 適用可 | ❌ 適用不可 |
| IT導入補助金(資産計上分) | ✅ 適用可 | ❌ 適用不可 |
| 東京都独自助成金(国費原資なし) | ❌ 原則不可 | ❌ 適用不可 |
補助金と圧縮記帳|補助金ごとの適用可否まとめ(麹町キャピタル)
圧縮記帳には「直接減額方式」と「積立金方式」の2つの会計処理方法があります。どちらを選ぶかは企業の任意ですが、それぞれに特徴があります。
直接減額方式は、補助金相当額を「固定資産圧縮損」として損失計上し、同時に固定資産の帳簿価額(取得価額)を直接減らす方法です。処理がシンプルでわかりやすい点が特徴で、中小企業で多く採用されています。
具体例で確認しましょう。500万円の機械を購入し、300万円の補助金を受け取ったケースです。
この処理により、機械装置の帳簿価額は500万円から200万円に下がります。以後の減価償却は200万円を基準に行うため、毎年の減価償却費が少なくなります。
積立金方式は、補助金相当額を「圧縮積立金」として純資産の部に積み立て、資産の耐用年数にわたって少しずつ取り崩していく方法です。会計上の資産価額は変えないまま処理できるため、財務諸表を見やすく保てるメリットがあります。ただし税効果会計の適用が必要になるケースがあり、処理が複雑になりやすいです。
結論から言えば、シンプルさを重視するなら直接減額方式が基本です。ただし、直接減額方式には「損金経理要件」があり、圧縮損を会計帳簿で明示的に費用として計上しないと圧縮記帳が認められない点に注意が必要です。この要件を満たさないと追徴課税を求められるリスクがあります。
「圧縮記帳をすれば税金がなくなる」という誤解は非常に多く見られます。これは正確ではありません。
圧縮記帳はあくまで「課税の繰り延べ」です。初年度に圧縮損を計上して税負担を回避できる一方で、固定資産の帳簿価額が下がるため、翌年以降の減価償却費が少なくなります。減価償却費が少なくなるということは、その分だけ毎年の利益が増え、税金がかかり続けるということです。
数字で整理します。500万円の機械(耐用年数5年・定額法)を購入し、300万円を圧縮記帳した場合、圧縮後の取得価額は200万円です。毎年の減価償却費は40万円(200万円÷5年)になります。圧縮記帳をしなかった場合の毎年の減価償却費は100万円(500万円÷5年)なので、差額の60万円×5年=300万円分が、翌年以降に上乗せで課税されることになります。合計すると税負担の総額は変わりません。
圧縮記帳の圧縮限度額にも上限があります。補助金の額と固定資産の取得価額のうち、低い方が上限です。たとえば1,000万円の固定資産に対して600万円の補助金を受け取った場合、圧縮できる最大額は600万円です。それを超えた圧縮は認められません。
それでも圧縮記帳に価値があるのは、「今の税金を後回しにできる」点です。特に設備投資直後の資金が逼迫しやすい時期に、税負担を分散できることは資金繰りの観点から大きなメリットになります。
マネーフォワード|圧縮記帳の仕組みと限度額(繰り延べ効果の図解あり)
圧縮記帳と税額控除を組み合わせるとき、多くの経営者が気づかずに損をしているパターンがあります。これが最も見落とされやすい落とし穴です。
中小企業が機械装置を取得した場合、「中小企業投資促進税制」を活用して取得価額の7%を税額控除することができます。圧縮記帳との併用は可能です。しかし注意点があります。税額控除の計算基礎になるのは「圧縮記帳後の取得価額」であって、圧縮前の金額ではありません。
具体的な数字で確認します。1,500万円の機械を購入して500万円の圧縮記帳を適用した場合、税額控除の対象となる取得価額は1,000万円(1,500万円−500万円)になります。税額控除額は1,000万円×7%=70万円です。もし圧縮記帳をしていなければ1,500万円×7%=105万円となり、控除額に35万円の差が出ます。
逆に、圧縮前の1,500万円で税額控除を計算してしまうと、圧縮記帳の適用が否認されるリスクがあります。どちらか一方を先に選択し、もう一方はその後の残額で計算する、という順序が重要です。
加えて、「法人税増税が検討されている局面では、圧縮記帳で税金を先送りすることが必ずしも有利ではない」という視点も持っておく価値があります。将来の法人税率が現在より高くなれば、今年に課税されたほうがトータルの納税額が少なくなるケースもあります。税率動向を踏まえて税理士と相談の上、適用するかどうかを判断することが賢明です。
筒井税理士事務所|圧縮記帳と税額控除の落とし穴(実務的注意点の解説)