

ISSジャパンの反対推奨が出た翌日、あなたの保有株の賛成率が20%以上消える。
「ISSジャパン」という名称を耳にしたことがある人は多くても、正確な役割を説明できる人は意外と少ないかもしれません。ISSとは、Institutional Shareholder Services Inc.の略称で、1985年に米国で設立された世界最大の議決権行使助言会社です。日本・米国を含む約10カ国に拠点を持ち、世界中の約1,700社にのぼる機関投資家を顧客として抱えています。
では、どんな仕事をしているのでしょうか。上場企業が毎年開催する株主総会では、「社長の再任」「役員報酬の改定」「新規事業のための増資」など、様々な議案が株主の票決にかかります。ところが、数百〜数千社もの株式を保有する年金基金や投資信託といった機関投資家は、全ての企業の議案を個別に精査する時間がありません。そこで活用されるのがISSの「議決権行使助言レポート」です。
つまりISSは、機関投資家に代わって各企業の議案を分析し、「賛成すべきか、反対すべきか」の推奨を出す会社です。ISSの推奨は、機関投資家の議決権行使行動に直接影響を与えるため、事実上、日本の上場企業の株主総会の結果を左右するほどの影響力を持っています。これが条件です。
特に重要なのが、ISS日本法人の通称「ISSジャパン」です。日本市場向けの助言基準(ポリシー)は毎年改定され、2月以降に開催される株主総会から適用されます。その基準の変化は、国内の上場企業のコーポレートガバナンス改革の方向性を大きく規定しています。
なお、ISSと並ぶ議決権行使助言会社として「グラス・ルイス(Glass, Lewis & Co., LLC)」も存在します。両社で市場のほぼ大部分をカバーしており、ISSがより機関投資家の数の面での存在感が大きいとされています。
ISSの日本向け最新議決権行使助言基準(日本語版)公式PDF|ISS
ISSジャパンの基準の中で最も有名なのが「ROE5%ルール」です。ROE(Return on Equity)とは自己資本利益率のことで、会社が株主から預かったお金をどれだけ効率的に利益に変えているかを示す指標です。たとえばROEが5%であれば、100万円の自己資本で5万円の利益を生んでいることになります。
ISSの基準では、過去5期平均のROEが5%を下回り、かつ直近年度のROEも5%未満の場合、経営トップ(社長・CEO等)の取締役再任議案に対して「反対を推奨」します。これは2024年2月以降に開催される株主総会から適用が再開された、実効性の高い基準です。
気になるのは、どのくらいの企業が該当するかです。ある試算によれば、ROE5%基準をそのまま適用した場合、日本の上場企業の約16%が反対推奨の対象になり得るとされています。東証プライム市場の上場企業が約1,800社存在することを考えると、単純計算で約290社のトップが影響を受ける計算になります。
重要なのは、ROEが低い企業に投資している個人投資家への影響です。ISSが反対推奨を出すと、大手機関投資家が一斉に反対票を投じやすくなり、取締役選任議案の賛成率が大幅に低下します。これは経営陣への強いプレッシャーとなり、企業の資本政策や収益改善策の変更を迫るきっかけになります。結論はROEの水準が株主総会の結果を変える、です。
この基準はROE5%という数字がグローバル基準から見るとかなり低い水準であることも事実で、将来的な引き上げが継続的に議論されています。三菱UFJアセットマネジメントなど国内の機関投資家の一部はすでに独自にROE8%を基準として採用しており、2027年以降の総会ではより厳しい目線が主流になりそうです。
ISSジャパンが近年力を入れているもう一つの基準が、「政策保有株式」に関するものです。政策保有株式とは、取引関係の維持や安定株主工作などを目的に持ち合っている株式のことです。
ISSの基準では、政策保有株式の保有総額が純資産の20%以上に達する企業の経営トップの取締役選任議案に対して、反対を推奨します。2023年6月に定時株主総会を開催した日本企業1,946社のうち、この基準に該当した企業は約11%に相当します。つまり約214社が反対推奨の対象になり得る計算です。
これが個人投資家にとってなぜ重要かというと、政策保有株式の多い企業は一般的にROEが低くなりやすく、資本効率が悪いとみなされるからです。投資判断の材料として、保有企業の政策保有株式の水準を確認しておくことで、ISS反対推奨リスクを事前に把握できます。
京セラは一時期、KDDI株などを政策保有したことで純資産対比の保有割合が高水準になり、2023年の株主総会でISSから反対推奨を受けた代表的な例として注目を集めました。大企業であっても例外にはなりません。痛いですね。
なお、ISSの基準には一定の抜け道もあります。5年以内に20%以下に引き下げるための明確な縮減目標値と期日を含む縮減計画が開示されていれば、例外的に反対推奨が見送られる場合があります。こうした企業の開示内容にも注目すると、より深い投資判断が可能になります。
ISSジャパンは2025年以降、コーポレートガバナンスに関する基準を急速に厳格化しています。特に注目すべきが「取締役会の多様性」と「社外取締役の独立性」に関する2つの改定です。
まず取締役会の多様性基準について見ていきます。従来は「取締役会に女性取締役が1人もいない場合」に反対推奨を出していましたが、2027年2月1日以降の総会からは「女性取締役の比率が10%未満の場合」に対象が広がります。現時点(2025年6月時点)で取締役の10%以上を女性とする企業の割合は77.7%に達しており、残りの約22%に当たる企業は2027年の総会シーズンまでに対応が必要です。いいことですね。
次に社外取締役の独立性基準についてです。2026年2月1日以降の総会から、親会社や支配株主を持つ会社において「株主総会後の取締役会の過半数がISSの独立性基準を満たさない場合」、経営トップの選任議案に反対を推奨します。従来の基準は「3分の1以上」でしたが、一気に「過半数」に引き上げられました。
さらに、2026年2月1日以降から「在任期間が連続12年以上の監査関連社外取締役・社外監査役」の選任議案にも反対推奨が出るようになります。長く在籍している社外役員が「形骸化している」と判断されるリスクが明確に基準化されました。これは必須の知識です。
個人投資家の視点から考えると、2026〜2027年は国内上場企業のガバナンス改革が一気に加速する時期です。対応が遅れた企業は機関投資家からの反対票が集中し、株主総会での可決率が下がり、中長期的な株価にも影響が出る可能性があります。保有銘柄のIR資料やコーポレートガバナンス報告書を一度確認しておくことが重要になってきます。
ここまでISSジャパンの基準を解説してきましたが、「機関投資家向けの話であって、自分には関係ない」と感じた人もいるかもしれません。しかし実は、個人投資家こそISSの基準を積極的に活用すべき理由があります。
ポイントの1つ目は、「ISSが反対推奨を出す企業=ガバナンスリスクの高い企業」として株価のボラティリティが高まりやすいという点です。毎年6月の株主総会シーズンになると、ISSの反対推奨が出た企業の取締役選任議案に機関投資家の反対票が集まり、社長の賛成率が60〜70%台に落ちるケースが増えています。こうした「ガバナンス上の警告サイン」は、投資先の選定や保有継続の判断に直接役立ちます。
ポイントの2つ目は、ISSが反対推奨を出すような企業は、その後に積極的なガバナンス改革・資本政策の見直しを迫られ、株価が上昇に転じる「改善期待銘柄」になる場合がある点です。これは逆張りの発想ですが、改革が実行できる経営体力のある企業にとっては、ISSの圧力がむしろ企業価値向上のきっかけになることもあります。
3つ目のポイントは、ISSの判断基準を事前に把握することで、機関投資家がどう動くかを先読みできる点です。これが使えそうです。
では、ISSの基準を実際にどう活用すればよいでしょうか。ISSの最新議決権行使助言基準(日本語版PDF)はISSの公式サイトで無料公開されています。毎年11〜12月頃に翌年度の改定案が公表され、1月に正式確定するサイクルです。このPDFを1度読むだけで、機関投資家が何を重視しているかが手に取るように分かります。
保有銘柄のROEや政策保有株式の状況は、各企業の有価証券報告書や決算短信で確認できます。ROEが5%を長期的に下回る企業、政策保有株式が純資産の20%に迫る企業は、ISSの反対推奨リスクが高い銘柄として警戒リストに入れておくとよいでしょう。これだけ覚えておけばOKです。
なお、株主総会の議決権行使の状況は「議決権電子行使プラットフォーム(ICJ)」などを通じて可視化されつつあります。自分が保有する銘柄に関して、ISSがどのような判断を下したかを総会後の開示情報で確認する習慣をつけると、投資の精度がぐっと高まります。
2026年版ISS議決権行使助言方針の改定案コメント募集資料(日本語版)|ISS公式

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