

給与が増えても、年金が丸ごと消えるわけではありません。
在職老齢年金の計算を理解するうえで、まず押さえておきたいのが「基本月額」と「総報酬月額相当額」という2つの用語です。この2つを正しく把握することが、計算の出発点になります。
基本月額とは、加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の年額を12で割った金額のことです。ねんきん定期便や「ねんきんネット」で確認できます。加給年金は計算に含めない点が注意ポイントです。
総報酬月額相当額は、2つの数字を足し合わせた金額です。
よく誤解されがちですが、「年収 ÷ 12」ではありません。昇給・降給があればそのつど変わる仕組みです。たとえば標準報酬月額が35万円で、直近1年間のボーナス合計が84万円なら、84万円 ÷ 12 = 7万円を加えて、総報酬月額相当額は42万円となります。
つまり総報酬月額相当額が条件です。これが実際の計算額の根拠になります。日本年金機構の公式サイトでもこの定義が明記されています。
参考リンク(日本年金機構:在職老齢年金の基本用語と計算式の公式解説)
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/roureinenkin/zaishoku/20150401-01.html
計算式の仕組みはわかったとして、実際にどう使うのかが気になるところです。ここでは、典型的なケースをいくつか取り上げて試算します。
【基本の計算式(2025年度まで:基準額51万円)】
基本月額と総報酬月額相当額の合計が51万円以下 → 全額支給
合計が51万円を超える場合 → 基本月額 −(基本月額 + 総報酬月額相当額 − 51万円)÷ 2
計算例①:年金月額16万円、給与月額48万円
給与と年金を合算すると、月57.5万円の収入となります。これは使えそうです。
計算例②:年金月額8万円、給与月額45万円
この場合は超過分が2万円だったため、停止額は1万円とごくわずかで済みます。合計に注意すれば大丈夫です。
計算例③:年金月額20万円、給与月額55万円(全額停止ケース)
支給停止月額が基本月額を超えると全額停止になります。厳しいところですね。この場合は加給年金も連動して全額停止になるため、特に注意が必要です。
参考リンク(くらしの相談室:在職老齢年金の年金月額支給額一覧表と試算例)
https://www.kurassist.jp/nenkin_atoz/seido/zairou/zairou01.html
2026年4月から、在職老齢年金制度の支給停止基準額が月51万円から月65万円に大幅引き上げられました。令和7年年金制度改正法(令和7年法律第74号)に基づく見直しで、働きながら年金を受け取るシニアにとって待望の改正です。
改正後の計算式(2026年4月〜:基準額65万円)
基本月額と総報酬月額相当額の合計が65万円以下 → 全額支給
合計が65万円を超える場合 → 基本月額 −(基本月額 + 総報酬月額相当額 − 65万円)÷ 2
改正前後の比較例(年金月額10万円、給与月額46万円)
| 項目 | 改正前(51万円基準) | 改正後(65万円基準) |
|---|---|---|
| 合計 | 56万円 | 56万円 |
| 支給停止額 | 2.5万円 | 0円(全額支給) |
| 年金支給月額 | 7.5万円 | 10万円 |
| 年間差額 | — | +30万円 |
年間30万円の差は大きいですね。さらに年金月額15万円・給与55万円のケースでは、改正により年間84万円の差が生まれるシミュレーション結果も出ています。
なお、よく混同される「62万円」と「65万円」の違いは次の通りです。2025年6月の法律成立時点での額面が62万円で、その後の賃金変動スライドを加味した令和8年度の実際の基準額が65万円となっています。今現在(2026年4月〜)に適用されているのは65万円です。
参考リンク(政府広報オンライン:2026年4月改正の概要・図解付き解説)
https://www.gov-online.go.jp/tokusyu/roureinenkin/
在職老齢年金の計算を正しく理解するうえで、意外と見落とされやすいのが「何が減額の対象になり、何は対象外なのか」という点です。
老齢基礎年金(国民年金)は支給停止の対象外です。 給与がいくら高くても、国民年金部分は満額受け取れます。2025年度の国民年金満額は年間831,696円(月額約69,308円)で、この部分は在職老齢年金の影響を受けません。つまり老齢基礎年金は全額受け取れる点を忘れないことが重要です。
加給年金の扱いは、もう少し複雑です。加給年金は老齢厚生年金の計算対象には含まれません。ただし支給の可否については以下の条件が適用されます。
つまり、加給年金を受け取り続けるためには、老齢厚生年金が少しでも支給されている状態を保つことが条件です。高収入で老齢厚生年金が全額停止になると加給年金まで消えてしまうため、給与水準を意識しながら働く必要があります。
また繰り下げ受給を検討している方も注意が必要です。受給開始を遅らせている繰り下げ待機中は加給年金が支給されません。かつ、在職老齢年金で支給停止された部分は繰り下げ増額(月0.7%)の対象外になります。基準額が65万円に上がった今、繰り下げせずに受給を開始するメリットが高まっている方も増えています。
参考リンク(公益財団法人生命保険文化センター:老齢基礎年金対象外・加給年金の支給停止条件)
https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1129.html
在職老齢年金の計算を知ったうえで、多くの人が気になるのが「じゃあどう働けば損しないのか」という点です。単純に「51万円(または65万円)を超えないようにする」だけが正解ではありません。
実は、収入が支給停止基準を超えても「働き損」にはならないケースが多いという現実があります。在職老齢年金の仕組みでは、基準額超過分の半額のみが停止されます。たとえば合計が65万円を10万円超えても、停止されるのは5万円だけです。給与が10万円増えて年金が5万円減るなら、差し引き5万円のプラスになります。
また、65歳以上で厚生年金に加入しながら働き続けると、毎年10月に年金額が自動再計算される「在職定時改定」が適用されます。これにより、その年の9月1日時点で厚生年金に加入していれば、前年10月〜当年8月の加入期間が翌月(10月)から年金額に反映されます。働けば働くほど将来の年金が増える仕組みです。
70歳以上の方のケースも見落としがちです。70歳を超えると厚生年金の被保険者ではなくなるため、保険料負担はゼロになります。しかし、厚生年金適用事業所に勤務している場合は在職老齢年金による支給停止が引き続き適用されます。「70歳になったら保険料もなくなり年金も全額もらえる」は誤解です。意外ですね。
| ケース | 保険料負担 | 在職老齢年金の適用 |
|---|---|---|
| 65〜69歳・厚生年金加入 | あり | あり |
| 70歳以上・厚生年金適用事業所勤務 | なし | あり(注意!) |
| 自営業・フリーランス(年齢問わず) | なし | 対象外 |
自分の働き方と年金の関係を整理するには、「ねんきんネット」で試算するのが最も手軽です。スマートフォンからでも利用でき、標準報酬月額や賞与を入力すれば支給額の目安を確認できます。
参考リンク(日本年金機構 ねんきんネット:自分の年金額をオンラインで試算できる公式サービス)
https://www.nenkin.go.jp/n_net/
2026年4月の改正に伴い、「何か手続きが必要では?」と心配している方も多いでしょう。結論は不要です。届出や申請は一切必要ありません。
日本年金機構が自動的に新しい基準額(65万円)で計算を行い、支給額を変更します。改正後の年金額が反映されるのは2026年6月の支給分からです。年金は偶数月に前2か月分がまとめて支給されるため、2026年4月分・5月分は6月15日(予定)の支給に含まれます。
ただし自分の年金額を正確に把握しておくことは重要です。基本月額と総報酬月額相当額を事前に計算しておくことが原則です。確認手段として活用できるのは次の3つです。
「自分の場合は具体的にいくらになるの?」という疑問は、年金事務所か全国の「街角の年金相談センター」で対応してもらえます。給与明細とねんきん定期便を持参するとスムーズです。予約不要で利用できるセンターもあります。
また、65〜69歳の3割以上が「年金額が減らないように勤務時間を調整している」という調査結果(内閣府「生活設計と年金に関する世論調査」令和5年度)があります。改正後は、これまで調整していた方が調整不要になるケースが大幅に増えています。自分が支給停止の対象かどうかを一度計算で確認することが大切です。
参考リンク(厚生労働省:在職老齢年金制度見直しの最新情報・届出不要の旨の公式確認)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00022.html