

配当を受け取っていなくても、海外子会社の利益に日本の税金がかかる場合があります。
外国子会社合算税制(CFC税制)は、日本の法人や個人が、税率の低い国・地域に実体のない子会社を設立して利益を移転させ、日本での課税を回避する行為を防ぐための制度です。正式名称は「タックスヘイブン対策税制」とも呼ばれています。
この制度が適用されると、低税率国の子会社が稼いだ所得は、たとえ日本の親会社に配当として送金されていなくても、親会社の所得に「みなして」合算され、日本で法人税が課されます。これが多くの企業にとって想定外のリスクとなっています。実際に利益を受け取っていないのに課税が発生するのです。
制度の対象となる会社は「外国関係会社」と呼ばれます。この定義を理解することが最初のステップです。日本の居住者または内国法人が、直接・間接に合計で50%超の株式を保有している外国法人、あるいは実質的に支配関係にある外国法人が「外国関係会社」に該当します。
外国関係会社に該当したからといって、すぐに合算課税が適用されるわけではありません。そこからさらに「租税負担割合」によって3つのゾーンに分類され、それぞれ異なるルールが適用されます。大まかにいえば、税負担が高い会社は適用免除、低い会社は適用対象という構造です。
具体的な判定基準が条件です。租税負担割合の水準によって会社は異なる扱いを受け、合算課税の有無や範囲が変わってきます。次のセクションでは、その分類をより詳しく見ていきます。
参考:外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)の詳細な解説(日本貿易振興機構)
https://www.jetro.go.jp/world/qa/04A-010814.html
外国関係会社の判定において、まず最初に着目すべき数値が「租税負担割合27%」というラインです。令和5年度税制改正(2024年4月1日以後開始事業年度から適用)によって、かつての30%から引き下げられました。この改正は見落としがちですが、実は影響範囲が大きいポイントです。
租税負担割合が27%以上であれば、後述する「特定外国関係会社」の判定は不要となり、合算課税の対象外となります。逆に27%未満の場合、その会社が「特定外国関係会社」に該当するかを判定しなければなりません。
「特定外国関係会社」とは、以下の3類型のいずれかに該当する外国関係会社を指します。
| 類型 | 概要 | 判定の目安 |
|---|---|---|
| 🏚️ ペーパーカンパニー | 現地に事業所や従業員がなく、実体的な事業を行っていない会社 | 実体基準・管理支配基準のいずれも満たさない |
| 💰 キャッシュボックス | 受動的所得(配当・利子・使用料等)の割合が総資産比で高い会社 | 受動的所得÷総資産 > 30%、かつ有価証券等÷総資産 > 50% |
| 🚫 ブラックリスト国法人 | 租税情報の国際的交換に非協力的な国・地域に本店がある会社 | 財務大臣が指定した国に所在(2023年5月時点で指定国なし) |
特定外国関係会社に該当し、かつ租税負担割合が27%未満の場合は、その会社の全所得が日本の親会社に合算されます。部分的ではなく、会社全体の利益が課税対象になる点が非常に重要です。これは痛いですね。
たとえば、シンガポール(法人税率17%)や香港(利益税率16.5%)に設立した子会社がペーパーカンパニーと判定されれば、27%のラインを下回るため、会社単位での全所得合算課税が発生するリスクがあります。「シンガポールで節税しているつもり」が、実は日本での追加課税につながる可能性があるわけです。
参考:令和5年度税制改正における外国子会社合算税制の改正内容(財務省)
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2023/explanation/PDF/p0470-0495.pdf
特定外国関係会社に該当しない外国関係会社であっても、次の関門が「経済活動基準」です。租税負担割合が20%未満の会社は、この4つの基準をすべて満たすかどうかで課税の有無が変わります。4つの条件が基本です。
4つの基準をすべて満たせば、原則として全所得の合算課税は免除されます。ただし「原則として」という言葉が重要です。4基準を全クリアしても、受動的所得と呼ばれる一定の所得については「部分合算課税」の対象となります。これが見落とされやすい落とし穴です。
実体基準と管理支配基準は特に判定が難しく、海外の現地オフィスの賃貸契約書・従業員との雇用契約書・意思決定の議事録などを整備しておかなければ、税務当局から「基準を満たさない」と推定されてしまうリスクがあります。書類の保存が重要です。
実際、経済活動基準に関する書類の提出を税務当局から求められた場合、期限内に提出できなければ「基準を満たさないものと推定される」とされています(租税特別措置法66条の6)。つまり、立証責任は企業側にあるということです。
参考:外国子会社合算税制に関するQ&A(国税庁)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/180111/pdf/01.pdf
経済活動基準を4つすべてクリアした会社でも、「受動的所得(特定所得)」については部分的に合算課税の対象となります。部分合算課税は租税負担割合が20%未満の場合に適用されます。
受動的所得とは、実質的な事業活動を伴わずに生じやすい所得のことです。主な種類は以下のとおりです。
「配当や利子は受動的所得に含まれる」という点は重要です。海外子会社が他社の株式を持ち、そこから配当を受け取っている場合、その配当が部分合算課税の対象になる可能性があります。多くの企業が見落としている部分です。
ただし、部分合算課税にも「免除基準」があります。部分適用対象金額が「税引前当期利益の5%以下」または「2,000万円以下」のいずれかを満たせば、合算課税は適用されません。2,000万円というと大きな金額に聞こえますが、国際的な規模の取引では想定外に超えやすい水準でもあります。
5%と2,000万円のどちらかが条件です。たとえば税引前利益が3億円の海外子会社で、受動的所得が1,500万円の場合、金額基準では2,000万円以下をクリアしますが、割合は5%ちょうど(3億円×5%=1,500万円)となるため、ギリギリで免除対象となります。逆に利益が1億円でも受動的所得が600万円あれば、割合が6%となり免除対象から外れます。
参考:タックスヘイブン対策税制の受動的所得の範囲(EY税理士法人)
https://www.ey.com/ja_jp/technical/library/info-sensor/2017/info-sensor-2017-07-06
令和7年度税制改正(2025年度)では、外国子会社合算税制に関して実務面で重要な変更が加えられました。改正の中心は「合算時期の後ろ倒し」です。
これまで外国子会社の決算日から2か月後に属する親会社の事業年度に合算していたルールが、4か月後に延長されました。たとえば、3月決算の日本法人が12月決算の海外子会社を持つ場合、従来は翌年3月期(2か月後)に合算していたのが、改正後は翌々年3月期(4か月後)まで余裕ができます。これは使えそうです。
この改正の背景には、海外子会社の監査完了・税額確定までに時間がかかるという実務上の問題がありました。期限が短すぎることで、確定していない数字をもとに申告せざるを得ないケースが頻発していたのです。
| 項目 | 改正前 | 改正後(令和7年度~) |
|---|---|---|
| 合算時期 | 外国子会社決算日から2か月後 | 外国子会社決算日から4か月後 |
| 申告書添付書類 | 一部対象法人は全書類添付必須 | 一定の部分対象外国関係会社は保存のみでOK |
| 経過措置 | ─ | 令和6年12月1日〜令和7年1月31日終了分は先行適用可(届出不要) |
この改正がグローバル・ミニマム課税の導入強化と同時並行で行われた点も押さえておく必要があります。グローバル・ミニマム課税は、年間総収入が7.5億ユーロ(約1,200億円)以上の多国籍企業を対象に、最低税率15%の課税を確保する国際的なルールです。令和7年度改正では「軽課税所得ルール(UTPR)」と「国内ミニマム課税(QDMTT)」が新たに追加されました。
外国子会社合算税制の手続き簡素化と、グローバル・ミニマム課税の強化が同時に行われた背景には、グローバル対応の事務負担が増えるため、CFC税制側の負担を軽減しようという政策的な意図があります。大企業にとっては両制度の整合性確認が必須の課題です。
参考:令和7年度税制改正における外国子会社合算税制の見直し(国税庁)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/kaisei_gaiyo2025/pdf/J.pdf
ここでは、租税回避の意図がないにもかかわらず、外国子会社合算税制が適用されてしまう典型的なパターンを紹介します。金融や国際投資に関心がある方に特に知っておいてほしい視点です。
パターン①:M&Aで取得した海外子会社が対象になっていた
外国企業を買収した際、被買収会社がすでにタックスヘイブン対策税制の対象要件を満たしていたケースは少なくありません。買収後にはじめて税務調査で指摘を受け、追加課税が発生した事例も実際にあります。M&A時のデューデリジェンスで国際税務のチェックが欠かせない理由がここにあります。買収前の確認が必須です。
パターン②:シンガポールや香港の子会社が「受動的所得メイン」になってしまった
アジア拠点として設立したシンガポールや香港の子会社が、グループ内の資金管理会社的な役割を担うようになった結果、キャッシュボックス要件(受動的所得割合30%超・特定資産割合50%超)を満たしてしまうケースがあります。シンガポールの法人税率は17%で、27%未満の水準です。特定外国関係会社と判定されれば、全所得が合算対象になります。
パターン③:経済活動基準の立証書類が不十分だった
「現地でちゃんと事業をやっている」と認識していても、経済活動基準を証明する書類が整備されていなければ、税務当局から基準未充足と推定されてしまいます。実体基準・管理支配基準を満たすための証拠(賃貸契約・雇用契約・取締役会議事録など)は、日ごろから整備・保存しておく必要があります。書類管理が実は最重要です。
これらのリスクに対応するために、海外子会社を持つ企業や多国籍企業への投資を行っている方は、国際税務に精通した税理士への相談を検討することを勧めます。特にM&Aを伴う海外進出の場合、事前の国際税務デューデリジェンスが追徴課税リスクの回避に直結します。
参考:外国子会社合算税制のリスクと対策(東京税理士法人)
https://kuno-cpa.co.jp/tokyotax/controlled-foreign-company-rules/