

個人が含み益のある資産を現物出資しても、課税は1円も繰り延べられません。
現物出資とは、金銭以外の財産を会社への出資として提供する方法です。具体的には不動産(土地・建物)、有価証券(株式・社債)、知的財産権(特許権・商標権・著作権)、機械設備などの動産、のれんや金銭債権といったものが対象になります。貸借対照表に資産として計上でき、かつ第三者へ譲渡できるものであれば、原則として現物出資の対象となります。
日本の税務上、現物出資は「資産の譲渡があったもの」として扱われます。つまり、現物出資した時点で出資者側に時価による譲渡損益が生じるのが原則です。
これは重大なポイントです。
例えば帳簿価額1億円の建物を、時価3億円で現物出資したとします。非適格現物出資であれば、A社の仕訳上は「B社株式3億円 / 建物1億円+譲渡益2億円」となり、この2億円の譲渡益に対して法人税(実効税率約33%として概算6,600万円以上)が即時課税されます。一方、適格現物出資に該当すれば、「B社株式1億円 / 建物1億円」と帳簿価額で引き継ぐため、この段階での課税は発生しません。課税繰延が条件です。
適格か非適格かで税負担が億単位で変わる可能性があるため、要件の正確な理解が不可欠です。
なお、ここで注意すべき重要な前提があります。適格現物出資の課税繰延の恩恵は「法人が出資者」の場合にのみ適用されます。個人が出資者の場合、必ず非適格現物出資として扱われ、譲渡所得として課税されます。現行の税法上、個人が含み益のある資産を所得税無税で法人に移す方法は存在しません。
完全支配関係とは、一方の法人が他方の法人の発行済株式を100%保有しているグループ内の関係を指します。例えば親会社と100%子会社の間、または共通の親会社に100%支配された兄弟会社同士が典型例です。
このケースでは求められる要件が比較的シンプルで、以下の2つを満たすことが条件です。
| 要件名 | 内容 |
|---|---|
| 📌 金銭等不交付要件 | 現物出資の対価として、被現物出資法人の株式のみが交付されること。現金や株式以外の資産が一切交付されないことが必要。 |
| 📌 継続保有要件 | 現物出資の前後を通じて完全支配関係が維持されることが見込まれること。 |
| 📌 目的物要件 | 国境をまたいだ一定の移転(国内資産を外国法人へ、国外資産を内国法人へなど)に該当しないこと。 |
「金銭等不交付」の部分はよく誤解されますが、株式以外の資産がわずかでも交付されると要件を満たせなくなります。これが基本です。
また、「継続保有要件」については、新設現物出資(現物出資によって新たに法人を設立するケース)の場合は、設立前に完全支配関係がないのは当然なので、現物出資前の要件は充足済みとみなされます。出資後に完全支配関係が継続することが見込まれていれば足ります。
「目的物要件」は、国境をまたいだ資産の無税移転を防ぐための規定です。例えば、内国法人が外国法人に対して国内にある資産・負債を移転する場合は、原則として適格現物出資の対象外となります(日本の課税権が失われるため)。ただし、移転する国内資産の全部を外国法人の恒久的施設(PE)に直接帰属させる場合は例外として認められます。
完全支配関係内は2要件だけ覚えておけばOKです。
支配関係とは、一方の法人が他方の発行済株式を50%超・100%未満の割合で保有している状態のことです。例えば親会社が子会社の株式を60%や80%保有しているケースがこれに該当します。完全支配関係より結びつきが薄いため、要件数も増えます。
求められる要件は以下の4つです。
| 要件名 | 内容 |
|---|---|
| 📌 金銭等不交付要件 | 株式のみを対価として交付すること(完全支配関係と同様)。 |
| 📌 目的物要件 | 国境をまたいだ一定の資産移転に該当しないこと(完全支配関係と同様)。 |
| 📌 継続保有要件 | 現物出資前に支配関係が存在し、現物出資後も支配関係が継続することが見込まれること。 |
| 📌 事業移転要件 | 現物出資事業に係る主要な資産・負債が移転し、かつ現物出資事業の従業者のおおむね80%以上が被現物出資法人の業務に従事することが見込まれること。 |
| 📌 事業継続要件 | 現物出資前に営む主要な事業が、現物出資後も被現物出資法人において引き続き営まれることが見込まれること。 |
特に注意が必要なのは「事業移転要件」の「おおむね80%以上」という従業者引継の数字です。これは合併や会社分割における従業者引継要件と同じ水準です。
具体的にイメージすると、現物出資する事業部門に50名の従業員がいた場合、少なくとも40名以上が被現物出資法人の業務に引き続き従事することが見込まれなければなりません。なお「おおむね」という表現がある通り、厳密な頭数カウントではなく実態判断の余地があります。しかし79%では要件を満たさないリスクがあるため、80%ラインに余裕を持って対応することが重要です。
また「事業継続要件」は、単に従業員を移すだけでなく、事業そのものが継続して営まれることを求めています。例えば、現物出資後にその事業を即座に廃止することが計画されている場合は要件を満たしません。80%が条件です。
支配関係がない法人間(持株比率50%以下)で現物出資を行う場合を「共同事業再編」と呼びます。この類型は最も要件が多く、7つの要件を全て充足する必要があります。厳しいところですね。
| 要件名 | 内容 |
|---|---|
| 📌 金銭等不交付要件 | 株式のみを対価として交付すること。 |
| 📌 目的物要件 | 国境をまたいだ一定の資産移転に該当しないこと。 |
| 📌 継続保有要件 | 現物出資法人が対価として受け取った被現物出資法人の株式の全部を継続して保有することが見込まれること。 |
| 📌 事業移転要件 | 主要資産・負債の移転と従業者のおおむね80%以上の引き継ぎが見込まれること。 |
| 📌 事業継続要件 | 主要な事業が現物出資後も引き続き営まれることが見込まれること。 |
| 📌 事業関連性要件 | 現物出資する事業と被現物出資法人のいずれかの事業とが、相互に関連するものであること。 |
| 📌 選択要件(どちらか1つ) | ①同等規模要件:両事業の売上高または従業者数の差が概ね5倍を超えないこと ②双方経営参画要件:双方の特定役員がそれぞれ1名以上、現物出資後の被現物出資法人の特定役員になることが見込まれること |
「事業関連性要件」は、全く無関係な業種間での現物出資による課税逃れを防ぐための規定です。例えばIT企業が飲食業の資産を現物出資するようなケースでは、事業の関連性がないとして適格要件を満たせない可能性があります。
選択要件の「同等規模要件」は、両社の事業規模が5倍超に開いている場合に引っかかります。売上や従業者数でどちらかが5倍を超えれば不適格となるため、スタートアップが大企業グループへ事業を現物出資する際などは特に注意が必要です。
「双方経営参画要件」における「特定役員」とは、社長・副社長・代表取締役・代表執行役・専務取締役・常務取締役またはこれらに準ずる経営参加者を指します。双方から1名ずつが被現物出資法人の役員に就任することが見込まれていれば、同等規模要件を満たさなくても適格とみなされます。つまり共同事業再編が条件です。
2024(令和6)年10月1日以降に行われる現物出資から、適格現物出資の範囲に重要な見直しが加わりました。意外ですね。これを知らないまま取引を進めてしまうと、想定外の課税が発生するリスクがあります。
改正点①|内国法人の国外支店が行う無形資産の現物出資が対象外に
改正前は、内国法人が国外に支店等を有しており、その国外支店が保有する国外資産等を外国法人に現物出資することは、「国外から国外への移転」として日本の課税権に影響がないため、原則として適格現物出資の対象とされていました。
しかし改正後は、その移転する資産が「無形資産等」の場合、適格現物出資の対象外となりました。無形資産等に該当するのは以下のものです。
改正の背景には、無形資産が容易に移転できる一方、国外の帳簿に記録されていても価値の創出が国内で行われることがあるという実態があります。含み益を国外へ持ち出す形での租税回避を防ぐ趣旨です。
改正点②|国内・国外資産の内外判定基準の見直し
改正前は、資産が国内と国外どちらの「帳簿に記載されているか」で内外を判定していました。国外の支店の帳簿に記載されていれば「国外資産」とされていたのです。
改正後は、その資産が「どちらの事業所を通じて行う事業に係るものか」で判定することになりました。例えば国外支店の帳簿に記載されていても、実態として国内本店を通じて行う事業に係る資産であれば「国内資産等」と判定されます。この変更により、従来は適格現物出資として扱われていたものが対象外になるケースが生じています。
この2点の改正は令和6年(2024年)10月1日以降に行われる現物出資から適用済みです。海外に支店を持つ内国法人が現物出資を検討する場合、2024年10月以降の取引では特に注意が必要です。
国税庁の解説資料として以下のPDFが参考になります。
国税庁:令和6年度法人税改正の概要「適格現物出資の見直し」(PDF)
適格現物出資の要件を満たさなかった場合(非適格現物出資)、具体的にどのようなことが起きるのかを確認しておきましょう。
非適格現物出資の税務処理
非適格の場合、現物出資法人は資産を時価で譲渡したものとして処理します。
- 出資者側:移転資産の時価と帳簿価額の差額が「譲渡損益」として法人税の課税対象になる
- 被現物出資法人側:資産を時価で取得したものとして計上し、のれんや資産調整勘定が発生する場合がある
先ほどの例(帳簿価額1億円・時価3億円の建物)で言えば、2億円の譲渡益に対して法人税が課されます。実効税率を約33%とすると、約6,600万円以上の税負担が即座に発生する計算です。これは痛いですね。
実務上の落とし穴
要件確認で見落とされやすいのが「継続見込み」という表現です。事業継続要件や継続保有要件は、現物出資の「時点」において継続が「見込まれている」ことが求められます。事後的に方針変更があった場合でも、現物出資時点の合理的な見込みが重要になります。
ただし、合理的な理由のない直後の事業廃止や株式売却は、当初から意図していたとみなされるリスクがあるため、事前に税務上のリスク検討を行うことが重要です。
適格現物出資の検討フロー
組織再編税制は規定が複雑で、一つの判断ミスが数千万円規模の税負担の差をもたらすことがあります。特に50%超の支配関係がある法人間や共同事業再編では、従業者引継(80%以上)や事業継続の実態が問われるため、事前の専門家チェックが欠かせません。
海外不動産を適格現物出資した場合の税制上の取扱いと仕訳例(TOMA税理士法人)
不動産の現物出資(法人編)における適格要件と税務の整理(全日本不動産協会)