単独相続とは?相続人全員合意で財産集中する方法と手続き

単独相続とは?相続人全員合意で財産集中する方法と手続き

単独相続とは

単独相続の基本知識
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単独相続の定義

被相続人の全財産を1人の相続人が取得する相続方法

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共同相続との違い

複数の相続人で財産を分割する一般的な相続との対比

📄
必要な手続き

遺産分割協議書の作成と相続人全員の合意が必要

単独相続の基本概念と定義

単独相続とは、被相続人がのこしたすべての財産を1人の相続人が相続することです。法定相続人が1人である場合は自動的に単独相続となりますが、複数の法定相続人がいたとしても1人だけが相続するのであれば単独相続と呼ばれます。
単独相続の特徴は以下の通りです。

  • 財産の一括承継:被相続人の全財産が1人に集中
  • 権利関係の単純化:複雑な共有関係が発生しない
  • 相続人全員の合意:法定相続人が複数いる場合は全員の同意が必要

現在の民法では「法定相続人全員が被相続人の遺産を引き継ぐ権利を持っている」ことが大原則となっています。被相続人が亡くなった時点で、遺産は法定相続人全員の共有財産となるため、単独相続を行うには相続人全員の合意による遺産分割協議が不可欠です。

 

歴史的な背景を見ると、単独相続は旧制の家督相続の考え方に基づいています。家督相続とは明治31年から昭和22年まで施行されていた制度で、家長が亡くなったときに長男がすべての財産や権利を引き継ぐ相続方法でした。配偶者や兄弟姉妹がいても、長男のみに遺産を引き継ぐ権利がありました。

 

単独相続と共同相続の違い

現在のスタンダードな遺産分割方法は共同相続です。共同相続では複数の相続人が共同で遺産を相続するのに対し、単独相続では1人の相続人が遺産を単独で相続します。

 

共同相続と単独相続の主な違いを表で比較すると。

項目 共同相続 単独相続
相続人数 複数人 1人
財産の帰属 相続人全員の共有 1人の単独所有
遺産分割協議 分割割合を協議 単独取得の合意
権利関係 複雑(共有関係) 単純(単独所有)
将来の相続 さらに複雑化する可能性 権利関係が明確

実際に単独相続を選択する家庭は多くありません。現在の相続制度では被相続人の遺産を相続する権利は法定相続人全員にあるという原則が存在するため、共同相続が一般的です。

 

しかし、法定相続人全員が納得すれば、長男など誰か1人に遺産を単独相続させることは法律上なんの問題もありません。「家を継いだ人が全ての遺産を相続する」という考え方は、現代においても家業承継や配偶者の生活保障などの理由で選択されることがあります。

 

単独相続が選ばれる理由とメリット

単独相続が選択される理由には、実用的なメリットが多く存在します。特に以下のような状況では、単独相続が有効な選択肢となります。

 

💰 財産が細分化されない
単独相続の最大のメリットは、財産が細分化されずに1人に財産を集中させられることです。以下のようなケースでは、特定の人に財産を集中させたほうが良いでしょう。

  • 収入源のない配偶者の生活に経済的心配がある
  • 家業を継いだ息子が農地や店舗などを自分の名義にしたい
  • 遺産のほとんどが自宅の不動産で、同居していた家族がそのまま住み続けたい

1人に財産を集中させなければ安心した生活や安定した事業を続けられない場合に、単独相続は有効です。

 

🏠 次の相続で権利関係が複雑にならない
不動産を複数人で相続すると次の代での相続が発生したときに共有者が増えてしまい、権利関係が複雑になってしまいます。例えば、不動産を3人で3分の1ずつ共有していたときに共有者の1人が亡くなると、不動産の3分の1だけが相続財産の対象となります。さらに複数の法定相続人が共有相続すると、不動産を共有している人の数がどんどん増えてしまうでしょう。

 

単独相続であれば物理的に分割できない財産が複数人で共有されないため、権利関係も単純明快です。

 

📋 特定のパターンで単独相続が選ばれやすい
相続税申告の実践現場では、以下の2つのパターンで単独相続が選択されることがよくあります。

  • 若くして配偶者が亡くなり、子供がまだ学生であるパターン→配偶者が単独相続
  • 娘たちは全員嫁いで、同居していた息子が被相続人の面倒をみていたパターン→息子が単独相続

これらのケースでは、経済的安定や介護負担への配慮から単独相続が合理的な選択となります。

 

単独相続のデメリットと注意点

単独相続にはメリットがある一方で、重要なデメリットと注意点も存在します。

 

⚖️ 債務の取扱いに関する注意
単独相続で特に注意が必要なのは債務(借金)の取扱いです。金銭債務などの可分債務については、遺産分割の対象とならず、法定相続分に従って相続人間で法律上当然に分割されると解するのが最高裁判例の立場です(最高裁昭和34年6月19日判決)。

 

つまり、相続人全員の合意により1人の相続人に全ての遺産を相続させると決めても、他の相続人が相続債権者から可分債務の弁済を請求された場合は、自身の法定相続分に応じた金額を弁済しなければなりません

 

  • プラスの財産は単独相続できる
  • マイナスの財産(債務)は法定相続分で分割される
  • 債権者は各相続人に法定相続分の債務履行を請求可能

👥 他の相続人の遺留分侵害に注意
単独相続を行う場合、他の相続人の遺留分を侵害する可能性があります。遺留分とは、一定の相続人に法律上保障されている最低限の相続分のことです。

 

遺留分権利者は以下の通りです。

  • 配偶者
  • 子(直系卑属)
  • 父母(直系尊属)

兄弟姉妹には遺留分はありませんが、配偶者や子がいる場合は遺留分への配慮が必要です。遺留分を侵害された相続人は遺留分侵害額請求権を行使できるため、後々のトラブルを避けるためにも事前の話し合いが重要です。

 

📝 必要書類の準備
単独相続を実現するためには、適切な書類の準備が必要です。

  • 遺産分割協議書:相続人全員が単独相続に合意した旨を記載
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本

遺産分割協議書には、被相続人の基本情報、相続人全員の合意内容、1人で全ての遺産を相続する旨を明記する必要があります。

 

単独相続における税務上の特殊な取扱い

単独相続では、税務上も特殊な取扱いが発生する場合があります。この点は一般的にはあまり知られていない重要なポイントです。

 

🏛️ 相続税における配偶者控除の活用
単独相続で配偶者が全財産を取得する場合、**配偶者の税額軽減(配偶者控除)**を最大限活用できます。配偶者が相続する財産については、以下のいずれか多い金額まで相続税がかかりません。

  • 1億6,000万円
  • 配偶者の法定相続分相当額

この制度により、配偶者による単独相続では相続税の負担を大幅に軽減できる可能性があります。ただし、配偶者が亡くなった際の二次相続で税負担が重くなる可能性もあるため、長期的な視点での検討が必要です。

 

🏘️ 小規模宅地等の特例における選択
被相続人の居住用や事業用の宅地を相続する場合、小規模宅地等の特例により土地の評価額を大幅に減額できます。

  • 居住用宅地:330㎡まで80%減額
  • 事業用宅地:400㎡まで80%減額
  • 賃貸事業用宅地:200㎡まで50%減額

単独相続により宅地を一人が取得する場合、この特例を効率的に活用できる可能性があります。複数の相続人で宅地を共有相続する場合と比較して、特例の適用要件を満たしやすくなることがあります。

 

💼 事業承継における特例措置
家族経営の会社や個人事業を承継する場合、単独相続により以下の特例措置を活用しやすくなります。

  • 事業承継税制:非上場株式等の贈与税・相続税の納税猶予
  • 個人事業者の事業用資産の特例:事業用資産の相続税課税価格の軽減

これらの特例は、事業の継続性と一体性を重視するため、単独相続により事業資産を集中させることで適用要件を満たしやすくなります。

 

📊 申告実務における注意点
単独相続の場合、相続税申告において以下の点に注意が必要です。

  • 遺産分割協議書の添付:税務署への提出が必要
  • 各種特例の適用手続き:適用要件の確認と必要書類の準備
  • 将来の税務調査への備え:単独相続の合理性を説明できる資料の保存

特に、他の相続人が相続を放棄したのではなく、遺産分割協議により単独相続となった経緯を明確にしておくことが重要です。税務調査では、単独相続に至った理由や過程について詳細な説明を求められる場合があります。

 

単独相続は相続人全員の合意があれば法的に有効な相続方法ですが、その実現には適切な手続きと税務上の配慮が必要です。専門家のアドバイスを受けながら、家族全員が納得できる相続を実現することが大切です。