
相続税の申告は、一般的な税務とは大きく異なる専門性が求められる分野です。体調が優れない時に適切な診療科を選ぶように、税金においても専門分野に精通した税理士を選ぶ必要があります。
多くの税理士事務所は企業向けの法人税を主な業務としており、相続税申告を日常的に扱っている税理士は限られています。中には、これまで一度も相続税申告を担当したことのない税理士も存在するのが実情です。
国税庁の統計によると、令和4年分の相続税申告実績は全国で150,858人である一方、税理士登録者数は81,003人となっています。単純計算すると、1人の税理士が年間に担当する相続税申告は1~2件程度という計算になり、いかに相続税専門の税理士が少ないかが分かります。
相続税申告での失敗は、単なる計算ミスでは済まされません。適切な土地評価ができない税理士に依頼した場合、本来であれば4000万円も安くなったはずの相続税を多額に支払ってしまうケースも実際に発生しています。
そのため、相続税税理士の選び方では、「人間として信頼できるか」という基本的な信頼関係に加えて、相続税の専門性と実績を重視することが不可欠です。
相続税専門の税理士を見分けるためには、以下の具体的な確認方法があります。
年間申告実績の確認
最も重要な判断基準は、年間の相続税「申告」実績です。注意すべきは、「相談」実績ではなく「申告」件数を確認することです。相談件数では実際に何件申告しているかが分からないためです。
1年間で100件以上の申告実績がある事務所であれば、経験が豊富で信頼できる可能性が高いといえます。さらに、一人当たりの担当件数も重要な指標となります。
相続専門性の真偽確認
事務所名で検索して、他のホームページで相続税専門とは異なる業務を専門としていないか確認しましょう。相続税用のホームページでは相続専門と謳いながら、別のホームページでは企業税務に強いと公表している場合があります。
書籍出版の実績
相続税を専門としている税理士事務所であれば、相続税に関する書籍を出版しているのが一般的です。実は相続税を専門としていないのに、ホームページでのみ専門性をアピールしている事務所も多く存在するため、書籍出版の有無は本当に専門性があるかどうかの判断基準となります。
所属税理士の数と質
単にスタッフ数で判断するのではなく、スタッフのうち何人が税理士資格を持っているかも重要な指標です。所属税理士の数が少ない場合、初回面談の対応が税理士ではない可能性もあります。
土地評価の専門性
相続財産の中でも特に土地評価は高度な専門知識が必要です。不動産評価に精通した税理士がいるかどうかも重要な選択基準となります。
相続税税理士の費用については、単純な報酬の安さだけで判断してはいけません。重要なのは「税理士報酬」+「相続税納税額」のトータルコストで検討することです。
報酬の透明性と比較
申告報酬は無料で見積もってもらえることが多いため、複数の税理士事務所から見積もりを取ることをおすすめします。その際、最終的に別途費用が発生しないか、総額が結果的に抑えられるかを確認することが大切です。
一般的に相続税の税理士報酬をホームページ上で開示していない税理士事務所は報酬が高い傾向にあります。費用の透明性は信頼性の指標でもあります。
節税効果による実質的なメリット
相続税に特化した税理士に依頼すると申告報酬は高額になる場合がありますが、専門的なノウハウを活用することで相続税の納め過ぎを防ぎ、結果的に相続人が受け取る財産が多くなるケースがよくあります。
例えば、報酬が50万円高くても、節税効果で200万円の相続税が削減できれば、実質的には150万円のメリットがあることになります。
二次相続を考慮した提案
優秀な税理士は、今回の申告(一次相続)だけでなく、次の相続(二次相続)も踏まえて総合的に相続税が安くなるような遺産分割を提案してくれます。単発の申告だけでなく、長期的な視点での提案ができるかも重要な判断基準です。
実際に税理士と面談する際には、以下の項目を必ず確認しましょう。
実際の担当者の確認
一部の事務所では、実務のことが分からない営業担当者が面談を行ったり、実際に担当になる者とは別の税理士が面談を行い、契約後は新人や経験の浅い担当がつくケースがあります。
契約前に実際の担当者が誰なのか、その人の経験や実績はどの程度なのかを確認することが重要です。
税務調査への対応力
相続税申告に精通した税理士であれば、過去の税務調査対応の実績や、申告前から調査リスクのあるポイントを把握して対応できます。税務調査率が低い事務所かどうかも確認ポイントです。
他の専門家との連携体制
相続手続きには、司法書士、弁護士、不動産鑑定士など様々な専門家の協力が必要になる場合があります。税理士事務所が他の専門家と連携できる体制を持っているかも重要な確認事項です。
アフターサービスの充実度
相続税申告後に税務調査が入った場合の対応や、その後の相続税対策についてのフォローアップサービスがあるかも確認しましょう。
事務所の立地とアクセス
相続税申告は複数回の面談が必要になることが多いため、事務所が面談しやすい場所にあるかも実用的な判断基準です。
相続税税理士選びでよくある失敗パターンを知っておくことで、適切な選択ができます。
安さだけを重視する失敗
報酬の安さだけで税理士を選ぶと、相続税申告の経験が少ない税理士に当たる可能性があります。その結果、相続税を多額に納め過ぎてしまったり、税務調査で指摘を受けて本来不要なペナルティを支払う羽目になることがあります。
一般的な税理士への依頼
相続税は特殊な税目であり、法人税や所得税とは全く異なる専門知識が必要です。一般的な税理士に依頼すると、財産評価に必要以上の時間がかかったり、節税機会を逃してしまう可能性があります。
実績の水増し表示に騙される
ホームページに「相続税に強い」と書いてあっても、実際の申告実績が少ない事務所は多く存在します。相談件数と申告件数を混同させて実績を大きく見せている場合もあるため、具体的な申告件数を確認することが重要です。
営業担当者の対応を税理士の能力と誤解する
初回面談で営業担当者が丁寧に対応してくれても、実際の申告業務を行うのは別の担当者である場合があります。契約前に実際の担当者と面談することが大切です。
信頼できる人からの紹介を最優先する
最も確実で安全な方法は、自分が心から信頼している人に相続税に強い税理士の知り合いを紹介してもらうことです。信頼する人が実際にその税理士に依頼して良い結果を得た経験があれば、それ以上に確実な判断基準はありません。
相続税の申告は、被相続人の思いと家族の未来に関わる重要な手続きです。適切な税理士選びにより、相続税の負担を適正に抑え、円滑な相続手続きを実現することができます。