相続税税務調査はどこまで調べる?実態と対策を徹底解説

相続税税務調査はどこまで調べる?実態と対策を徹底解説

相続税税務調査でどこまで調べる

相続税税務調査の調査範囲
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財産の調査範囲

被相続人と親族の通帳、金庫、有価証券を過去10年間遡って調査

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調査確率

申告件数の約2割、2億円超では80%の確率で調査実施

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AI活用調査

2025年夏からAIが申告データを分析し効率的に調査対象を選定

相続税税務調査で確認される財産の範囲と調査権限

相続税税務調査において、税務署は非常に強力な調査権限を持っています。国税通則法第74条の3により、税務署は金融機関に対して被相続人やその親族の取引データの開示を命じることができます。

 

調査対象となる財産の範囲

  • 被相続人の全ての通帳・預貯金口座
  • 親族(配偶者・子・孫・子の配偶者など)の通帳
  • 有価証券(株式・国債・投資信託など)
  • 金庫や印鑑の保管場所
  • 不動産の権利証や契約書
  • 生命保険の契約内容

調査員が特に注目するのは「お金そのものがある所」と「お金のありかがわかるもの」です。金庫や通帳、印鑑の場所は必ず確認され、そこにお金が使われたり、お金があったという証拠が残りやすいためです。

 

税務署は全国の金融機関からオンラインで預貯金の残高や入出金の取引履歴、証券情報を入手する権限を有しており、調査対象者を戸籍などから特定してから包括的な財産調査を実施します。

 

相続税税務調査の時期と過去何年まで遡るか

相続税の税務調査は、申告書を提出した1〜2年後の8〜11月頃に実施されることが多いです。この時期が選ばれる理由は、税務署が事前調査に十分な時間をかけ、かつ相続人の記憶が鮮明なうちに調査を行うためです。

 

調査期間の実態
相続税の税務調査では、一般的に過去5〜10年程度まで遡って通帳を調査するといわれていますが、実際にはさらに長期間の調査が行われるケースもあります。

 

実際の調査事例によると、税務署は最低でも10年前まで遡って金融機関のデータを見ており、ある事例では相続開始から約6年半前(税務調査日を起点にすると約8年前)の預金口座の出入りまで事前に調査していました。

 

金融機関の記録保存期間
ゆうちょ銀行やみずほ銀行などの主要金融機関は、一般預金者からの照会に対して「直近10年分の入出金の照会は可能」としており、税務署は被相続人と取引のあった金融機関について過去10年分の取引データをいつでも調査できる状況にあります。

 

調査の際には100万円以上の大口出金を網羅的にチェックしており、たとえ30万円程度の出金でも連続していれば税務署の注意を引くことになります。

 

相続税税務調査で重点的に調べられる項目と申告漏れパターン

相続税の税務調査では、特に現金・預貯金の申告漏れが多く発見されるため、この部分に重点的な調査が行われます。令和3年事務年度の調査では、6,317件中5,532件で申告漏れなどの非違が見つかっており、その多くが預貯金関係でした。

 

重点調査項目

  • 預貯金の流れ: 被相続人の通帳の出し入れは確実に確認され、大きな金額の出し入れがある場合はその理由を詳しく聞かれます
  • 親族間の資金移動: 家族間の預金移動は最も詳しく調べられる点で、被相続人からの入金があれば贈与として扱われる可能性があります
  • 名義預金: 被相続人が実質的に管理していた親族名義の預金は相続財産として課税されます
  • 暦年贈与: 相続開始前3年以内(2024年以降は7年以内)の贈与は相続財産に加算されます

税務署の着眼点
税務署は「預金の名義人」と「実質的な管理者」を明確に区分して調査します。形式的には親族名義の口座でも、実際の管理が被相続人によって行われていた場合は、被相続人の財産として認定されます。

 

調査されやすい12のケース

  • 申告書に不備がある場合
  • 相続額が大きい場合(2億円以上)
  • 相続財産に預貯金や現金が多い場合
  • 多額の借入金があるのに見合う相続財産がない場合
  • 名義預金や暦年贈与が多い場合
  • 相続人名義の証券口座に残額が多い場合
  • 海外資産が多い場合
  • 被相続人が上場企業の社長や重役、医師や弁護士だった場合
  • 税理士に依頼せず自分で申告した場合
  • 無申告の場合

相続税税務調査にAI活用で変わる実態と効率化

2025年夏から、国税当局は相続税の税務調査でもAIを本格活用することを決定しており、これまでの調査手法が大きく変わろうとしています。

 

AIによる調査の変化
AIが過去の調査結果と被相続人の資産状況などを比較し、申告漏れのリスクが高い家庭を効率的に抽出します。これにより調査官はより精度の高い調査対象の選定を行うことができ、調査の成功率向上が期待されています。

 

所得税や法人税でAIを導入した結果、税務調査による追徴税額が増加しており、相続税申告においてもこれまで以上に慎重な申告が求められることになります。

 

従来の調査との違い

  • データ分析の精度向上: 膨大な申告漏れパターンを学習したAIが全ての相続税申告書を分析
  • 効率的な対象選定: 人的リソースを重点的に配分すべき案件の特定が可能
  • 事前調査の充実: AIによる事前分析により、現地調査時にはより具体的な質問が可能

調査対象の選定基準の変化
AIの導入により、従来は見逃されていた微細な不整合や、複雑な財産隠しのパターンも検出される可能性が高まります。特に複数の金融機関にまたがる資金移動や、長期間にわたる少額の資金移動なども、AIによってパターン認識される可能性があります。

 

相続税税務調査への事前対策と適切な申告書作成のポイント

相続税の税務調査を受ける確率を下げ、万が一調査があった場合にも適切に対応するための事前対策は非常に重要です。特に財産総額が2億円を超える場合は調査率が80%に達するため、事前の準備が不可欠です。

 

申告書作成時の重要ポイント

  • 正確な財産評価: 不動産や株式の評価額は適正な方法で算定し、根拠資料を保存
  • 預貯金の詳細記録: 過去10年間の大きな入出金については理由と根拠資料を整理
  • 贈与の適切な処理: 相続開始前の贈与について、贈与契約書や贈与税申告書を確認
  • 名義預金の判定: 親族名義でも実質的に被相続人が管理していた口座がないか再確認

税理士選択の重要性
税理士に依頼せず自分で申告した場合は調査対象となりやすいため、相続税に精通した税理士への依頼を検討することが重要です。経験豊富な税理士であれば、調査されやすいポイントを事前にチェックし、適切な申告書を作成できます。

 

調査対応の準備
万が一調査の連絡があった場合に備えて、以下の資料を整理しておくことが重要です。

  • 被相続人の過去10年分の通帳
  • 親族の通帳(特に被相続人からの入金がある口座)
  • 大きな支出の領収書や契約書
  • 贈与契約書や贈与税申告書
  • 不動産の売買契約書や評価資料

適切な記録保存
AIを活用した調査では、従来よりもデータの整合性が重視されるため、財産の増減と理由を十分な裏付けのある資料で示せるよう、日頃から適切な記録保存を心がけることが重要です。

 

相続税の税務調査は年々厳格化しており、特にAI活用による効率化により、従来は見逃されていた申告漏れも発見される可能性が高まっています。適切な事前対策と正確な申告により、不要なトラブルを避けることができます。