
相続税の税務調査において、税務署は非常に強力な調査権限を持っています。国税通則法第74条の3により、税務署は金融機関に対して被相続人やその親族の取引データの開示を命じることができます。
調査対象となる財産の範囲
調査員が特に注目するのは「お金そのものがある所」と「お金のありかがわかるもの」です。金庫や通帳、印鑑の場所は必ず確認され、そこにお金が使われたり、お金があったという証拠が残りやすいためです。
税務署は全国の金融機関からオンラインで預貯金の残高や入出金の取引履歴、証券情報を入手する権限を有しており、調査対象者を戸籍などから特定してから包括的な財産調査を実施します。
相続税の税務調査は、申告書を提出した1〜2年後の8〜11月頃に実施されることが多いです。この時期が選ばれる理由は、税務署が事前調査に十分な時間をかけ、かつ相続人の記憶が鮮明なうちに調査を行うためです。
調査期間の実態
相続税の税務調査では、一般的に過去5〜10年程度まで遡って通帳を調査するといわれていますが、実際にはさらに長期間の調査が行われるケースもあります。
実際の調査事例によると、税務署は最低でも10年前まで遡って金融機関のデータを見ており、ある事例では相続開始から約6年半前(税務調査日を起点にすると約8年前)の預金口座の出入りまで事前に調査していました。
金融機関の記録保存期間
ゆうちょ銀行やみずほ銀行などの主要金融機関は、一般預金者からの照会に対して「直近10年分の入出金の照会は可能」としており、税務署は被相続人と取引のあった金融機関について過去10年分の取引データをいつでも調査できる状況にあります。
調査の際には100万円以上の大口出金を網羅的にチェックしており、たとえ30万円程度の出金でも連続していれば税務署の注意を引くことになります。
相続税の税務調査では、特に現金・預貯金の申告漏れが多く発見されるため、この部分に重点的な調査が行われます。令和3年事務年度の調査では、6,317件中5,532件で申告漏れなどの非違が見つかっており、その多くが預貯金関係でした。
重点調査項目
税務署の着眼点
税務署は「預金の名義人」と「実質的な管理者」を明確に区分して調査します。形式的には親族名義の口座でも、実際の管理が被相続人によって行われていた場合は、被相続人の財産として認定されます。
調査されやすい12のケース
2025年夏から、国税当局は相続税の税務調査でもAIを本格活用することを決定しており、これまでの調査手法が大きく変わろうとしています。
AIによる調査の変化
AIが過去の調査結果と被相続人の資産状況などを比較し、申告漏れのリスクが高い家庭を効率的に抽出します。これにより調査官はより精度の高い調査対象の選定を行うことができ、調査の成功率向上が期待されています。
所得税や法人税でAIを導入した結果、税務調査による追徴税額が増加しており、相続税申告においてもこれまで以上に慎重な申告が求められることになります。
従来の調査との違い
調査対象の選定基準の変化
AIの導入により、従来は見逃されていた微細な不整合や、複雑な財産隠しのパターンも検出される可能性が高まります。特に複数の金融機関にまたがる資金移動や、長期間にわたる少額の資金移動なども、AIによってパターン認識される可能性があります。
相続税の税務調査を受ける確率を下げ、万が一調査があった場合にも適切に対応するための事前対策は非常に重要です。特に財産総額が2億円を超える場合は調査率が80%に達するため、事前の準備が不可欠です。
申告書作成時の重要ポイント
税理士選択の重要性
税理士に依頼せず自分で申告した場合は調査対象となりやすいため、相続税に精通した税理士への依頼を検討することが重要です。経験豊富な税理士であれば、調査されやすいポイントを事前にチェックし、適切な申告書を作成できます。
調査対応の準備
万が一調査の連絡があった場合に備えて、以下の資料を整理しておくことが重要です。
適切な記録保存
AIを活用した調査では、従来よりもデータの整合性が重視されるため、財産の増減と理由を十分な裏付けのある資料で示せるよう、日頃から適切な記録保存を心がけることが重要です。
相続税の税務調査は年々厳格化しており、特にAI活用による効率化により、従来は見逃されていた申告漏れも発見される可能性が高まっています。適切な事前対策と正確な申告により、不要なトラブルを避けることができます。