
相続で揉める問題の中でも最も頻繁に発生するのが不動産に関するトラブルです。不動産は評価方法が複雑で、現物での分割が困難という特性があるため、相続人間で対立が起こりやすい財産といえます。
典型的な事例として、被相続人名義の戸建住宅に同居していた相続人がその土地と建物を引き継ぐ場合があります。この際、他の相続人には不動産価額から算出した現金を渡すことになりますが、問題となるのは不動産の価額評価です。
不動産の価額には以下のような複数の指標が存在します。
これらの評価額には大きな差が生じることが多く、どの評価額を採用するかで相続人間に不公平感が生まれ、深刻な対立に発展するケースが後を絶ちません。
特に問題となるのは、同居していた相続人が「住み続けたい」と主張する一方で、他の相続人が「高く売却して現金で分割したい」と希望する場合です。感情的な対立も加わり、法的解決が必要になることも珍しくありません。
さらに、相続した不動産に抵当権が設定されていたり、境界が不明確だったりする場合は、問題がより複雑化します。このような状況を避けるためには、生前から不動産の評価や分割方法について家族で話し合いを重ねることが重要です。
相続で揉める問題として、兄弟姉妹間での遺産分割の配分をめぐる争いも深刻です。法定相続分が明確に定められているにも関わらず、様々な要因で公平性への疑問が生じ、感情的な対立に発展することが多いのが実情です。
兄弟姉妹間で争いが生じる主な要因。
実際の事例では、母親の介護を10年間にわたって行った長女が、遺産分割で法定相続分通りの配分を求められた際に、他の兄弟との間で激しい対立が生じたケースがあります。長女は寄与分を主張しましたが、具体的な金額の算定で合意に至らず、家庭裁判所での調停が必要になりました。
興味深いことに、相続トラブルの大半は5,000万円以下の資産規模で発生しているという統計があります。これは、莫大な財産を持つ資産家だけでなく、一般的な家庭でも相続問題が起こりやすいことを示しています。
また、相続人の人数が多い場合は、意見をまとめることがより困難になります。全員が参加する遺産分割協議の開催自体が難しく、一部の相続人が協議に参加しない場合は、法的手続きが長期化する傾向があります。
このような問題を防ぐためには、親が存命中から家族会議を開き、各自の希望や事情を共有しておくことが効果的です。
遺言書が存在する場合でも、その内容に明らかな不公平があると相続で揉める原因となります。特に、特定の相続人に偏った内容の遺言書は、他の相続人から強い反発を受けることが多く、遺留分侵害額請求という法的手続きに発展するケースも珍しくありません。
遺言書に関連するトラブルの典型例。
寄与分をめぐるトラブルも深刻な問題です。寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に特別な貢献をした相続人が、法定相続分を超えて遺産を取得できる制度ですが、その認定基準が曖昧なため争いの原因となります。
寄与分が認められる可能性がある行為。
ただし、寄与分の認定には高いハードルがあります。単に同居していただけでは寄与分は認められず、「特別な寄与」である必要があります。また、寄与分の金額算定も複雑で、介護にかかった費用や労力を客観的に評価することは困難です。
遺言書作成時には、各相続人の事情を十分に考慮し、遺留分を侵害しない範囲で公平性を保つことが重要です。また、寄与分が予想される場合は、生前から記録を残しておくことで、後のトラブルを防ぐことができます。
近年では、遺言書に加えて「付言事項」として、なぜその内容にしたのかという理由を記載することで、相続人の理解を得やすくする工夫も推奨されています。
相続で揉める問題の中でも特に深刻なのが、被相続人に借金があることが相続後に判明するケースです。さらに、同居していた家族による財産の使い込みが疑われる場合は、相続人間の信頼関係が完全に破綻し、法的紛争に発展することが多くなります。
借金に関するトラブルでは、以下のような問題が発生します。
特に問題となるのは、相続放棄の熟慮期間(3ヶ月)です。この期間内に借金の存在が判明しなかった場合、相続人は借金も含めて相続することになってしまいます。ただし、相続人が相当な注意をしても借金の存在を知ることができなかった場合は、借金の存在を知った時から3ヶ月以内であれば相続放棄が認められる可能性があります。
使い込み問題については、以下のようなケースが典型的です。
使い込みの立証は非常に困難で、銀行の取引履歴や領収書などの客観的な証拠が必要です。また、使い込みと認定されても、既に使用された財産を回収することは現実的に困難な場合が多いのが実情です。
これらの問題を防ぐためには、家族信託制度の活用や、定期的な財産状況の共有、複数の相続人による財産管理の監視体制の構築などが有効です。また、認知症のリスクが高まった段階で、早めに財産管理について家族で話し合うことが重要です。
相続で揉める問題を未然に防ぐためには、生前からの準備と対策が不可欠です。以下に、実践的で効果的な対策法を段階別に紹介します。
immediate対策(すぐに実行可能)
中期的対策(1-2年で準備)
長期的対策(数年かけて準備)
意外と知られていない対策法
最近注目されているのが「エンディングノート」の活用です。法的効力はありませんが、相続に対する被相続人の想いや各相続人への感謝の言葉を記録することで、争いを未然に防ぐ効果があります。
また、「負動産」と呼ばれる価値の低い不動産の処分も重要な対策です。山林や農地、古い建物などは相続後に管理費用や固定資産税の負担となるため、生前に処分するか、相続放棄の対象とするかを事前に検討しておくべきです。
さらに、デジタル資産の整理も現代ならではの新しい課題です。ネット銀行の口座、暗号資産、各種サブスクリプションサービスなど、家族が把握していないデジタル資産について、パスワード管理と併せて整理しておくことが必要です。
これらの対策を実行する際は、専門家の助言を求めることも重要です。税理士、司法書士、弁護士などの専門家による総合的なアドバイスを受けることで、より効果的な相続対策を立てることができます。
重要なのは、「うちの家族は大丈夫」という根拠のない安心感を持たないことです。相続トラブルの統計を見ると、資産額に関係なく問題は発生しており、早めの準備が家族の絆を守る最良の方法といえるでしょう。