
損金不算入とは、会計上は費用として処理できるものの、税務上では損金(費用)として認められないものを指します。企業会計と税務会計の間には目的の違いがあり、この違いから「損金不算入」という概念が生まれています。
会計上の「費用」と税務上の「損金」は似ているようで異なるものです。会計上の費用は、企業の経営成績を正確に表示するために計上されます。一方、税務上の損金は、公平な課税を実現するために法人税法によって定められたものです。
法人税の計算式は以下のとおりです。
法人税額 = (益金 - 損金) × 税率
この式からわかるように、損金が多ければ多いほど課税所得が少なくなり、結果として支払う税金も少なくなります。そのため、無制限に損金を認めると、企業が意図的に損金を増やして税負担を減らす可能性があります。これを防ぐために、税法では一定の費用を「損金不算入」と定めているのです。
損金不算入の項目は、法人税法や租税特別措置法などで明確に規定されており、これらを正しく理解することが適切な税務処理の基本となります。
損金不算入と損金算入の違いを理解することは、法人税の正確な計算において非常に重要です。損金算入とは、税務上の損金として認められ、課税所得の計算時に益金から差し引くことができるものを指します。一方、損金不算入は、会計上は費用として計上されていても、税務上では損金として認められないものです。
この違いを理解していないと、法人税の計算に誤りが生じ、追徴課税や加算税などのペナルティを受ける可能性があります。特に、決算時の税務調整において、損金不算入項目を正確に把握していないと、申告漏れや過少申告につながりかねません。
損金算入と損金不算入の判断基準は以下のとおりです。
実務上は、会計ソフトで記録した費用を基に、決算時に「別表四」と呼ばれる書類で税務調整を行います。この際、損金不算入項目を「加算」し、会計上は費用ではないが税務上は損金となるものを「減算」します。
租税公課とは、国税や地方税などの「租税」と、国や地方公共団体、その他公共団体に納める罰金や会費に当たる「公課」を合わせた名称です。租税公課の中には、損金算入できるものと損金不算入となるものがあります。
損金不算入となる代表的な租税公課には以下のものがあります。
これらが損金不算入となる理由は、主に以下の2点です。
一方、損金算入が認められる租税公課には、固定資産税、事業税、事業所税、不動産取得税、自動車税、印紙税などがあります。これらは事業活動に直接関連する税金として、損金に算入することができます。
役員給与は、会社が支払う重要な費用の一つですが、税務上はすべてが損金算入されるわけではありません。役員給与が損金算入されるためには、以下の3つのいずれかに該当する必要があります。
これらの要件を満たさない役員給与は、全額が損金不算入となります。また、要件を満たしていても、不相当に高額な部分は損金不算入となります。
定期同額給与については、原則として事業年度開始から3ヶ月以内に金額を決定する必要があります。期中での変更は、特別な事情(役員の職制上の地位の変更、業務内容の重大な変更、破産手続開始など)がある場合に限り認められます。
事前確定届出給与は、所定の期限までに税務署に届け出をし、届出書の記載どおりに支給することが条件です。届出内容と異なる支給を行った場合、全額が損金不算入となるため注意が必要です。
業績連動給与は、主に上場企業の役員に対して適用される制度で、客観的な指標(売上高、営業利益など)に基づいて算定される必要があります。また、有価証券報告書などで開示することも要件となっています。
役員給与の損金算入・不算入の判断は複雑なため、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
交際費等は、原則として全額が損金不算入となりますが、中小企業を中心に一定の特例が設けられています。この特例を正しく理解し活用することで、税負担を適切に管理することができます。
交際費等の損金不算入制度は、企業の冗費を抑制し、内部留保を促進する目的で設けられています。しかし、中小企業の事業活動を支援するため、以下のような特例が設けられています。
資本金1億円以下の法人の特例
のいずれかを選択できます。
資本金1億円超100億円以下の法人の特例
資本金100億円超の法人
ここで重要なのは、「接待飲食費」と「交際費等」の区別です。接待飲食費とは、飲食店などで取引先を接待するために支出する費用で、以下の要件を満たすものを指します。
実務上の対応策としては、以下のポイントに注意することが重要です。
これらの対応策を実践することで、交際費等の損金不算入による税負担を適切に管理することができます。
減価償却費は、固定資産の取得価額を使用可能期間にわたって費用配分するための会計処理です。会計上の減価償却費と税務上の減価償却費には差異が生じることがあり、この差異が「減価償却超過額」として損金不算入となります。
会計上の減価償却は、企業が自社の実態に合わせて耐用年数や償却方法を選択できますが、税務上の減価償却は法定耐用年数や法定償却方法に従う必要があります。そのため、会計上の減価償却費が税務上の償却限度額を超える場合、その超過額は損金不算入となります。
例えば、1,000万円の機械を購入し、会計上は5年で定額償却(年間200万円)するとします。しかし、税務上の耐用年数が10年であれば、税務上の償却限度額は年間100万円となります。この場合、100万円(200万円-100万円)が減価償却超過額として損金不算入となります。
減価償却超過額の税務調整は、以下のステップで行います。
この処理は「一時差異」と呼ばれ、将来的には解消される差異です。つまり、減価償却超過額として損金不算入となった金額は、将来の事業年度で損金算入されることになります。
実務上のポイントとしては、固定資産台帳を適切に管理し、会計上の減価償却費と税務上の償却限度額を正確に把握することが重要です。また、税制改正により償却方法や耐用年数が変更されることもあるため、最新の税制に常に注意を払う必要があります。
損金不算入項目を正確に把握し、適切な税務申告を行うことは、企業経営において非常に重要です。損金不算入項目の見落としや誤った処理は、追徴課税や加算税などのペナルティにつながる可能性があります。
適切な税務申告のためには、以下のポイントに注意することが重要です。
税法は毎年のように改正されるため、常に最新の情報を入手し、損金不算入項目の変更に対応する必要があります。
会計上の処理と税務上の処理の違いを理解し、適切な税務調整を行うことが重要です。
領収書や契約書などの証憑書類を適切に保管し、税務調査に備えることが必要です。
税理士などの専門家のサポートを受けることで、複雑な税務処理を適切に行うことができます。
損金不算入項目の代表的なものとしては、以下が挙げられます。
これらの項目を正確に把握し、適切な税務調整を行うことで、法人税の過不足のない申告が可能となります。また、税務調査においても、損金不算入項目の処理が適切であれば、指摘事項を減らすことができます。
税務申告は単なる法的義務ではなく、企業の財務状況を正確に把握し、適切な経営判断を行うための重要なプロセスです。損金不算入項目の正確な把握と適切な処理は、そのための基盤となります。