

給与支払報告書の総括表を書き間違えると、担当者個人に50万円以下の罰金が科される可能性があります。
給与支払報告書の総括表を初めて作成するとき、最も混乱しやすい欄のひとつが「所得税の源泉徴収をしている事務所又は事業の名称」です。名称だけを読むと「会社名と同じでは?」と感じる方が多いのですが、実はこの欄が問うているのは「どこで給与事務を実際に行っているか」という場所の情報です。
給与支払報告書(総括表)の構造を整理すると、以下のような項目が並んでいます。
③と④の記入欄が別々に設けられていることがポイントです。つまり、「会社の名称」と「源泉徴収の実務をしている事務所の名称」は、必ずしも同じではない、という前提でこの欄が設計されています。
多くの場合は同一です。本社が給与計算・源泉徴収の一切を担っていれば、「同上」と記入するだけで問題ありません。これが基本です。
ただし、会社が複数の事業所を持っていたり、給与計算だけ専用の事務所が処理していたりするケースでは、③と④が異なる内容になります。この欄の役割を正確に把握しておくことが、記入ミスを防ぐ第一歩になります。
参考記事(書き方の概要と記入例が確認できます):
この欄の詳細な記入例は以下のページで確認できます。
給与支払報告書の書き方をわかりやすく解説!作成・提出のポイント|HCM jinjer
「会社名と一致しているなら同上と書けばいい」というのは基本の理解として正しいです。では、どういうときに別の名称を書くのでしょうか?
代表的なのは、本社以外の支店や営業所が給与事務を行っているケースです。たとえば、東京本社の会社が大阪支店の従業員の給与計算を大阪支店で処理している場合、大阪支店がこの欄に書く「源泉徴収をしている事務所」にあたります。
具体的には以下のような状況が該当します。
このうち、「特別徴収の通知書を別の事務所に送りたい」という理由でこの欄を使うケースも実務上は少なくありません。意外ですね。住民税の特別徴収に関する通知書は毎年5月頃に届きますが、それを本社ではなく経理担当の支店宛てに送付してもらうために、この欄にその支店名と住所を記入します。
国税庁の見解でも、「給与等の支払事務を支店で取り扱う場合には、その支店の所在地が納税地となる」とされています(国税庁No.2532)。この原則に基づくと、支店ごとに源泉所得税の納付先税務署が変わることになります。
以下の国税庁ページで、給与等に係る源泉所得税の納税地について詳しく確認できます。
実務で迷いやすい4つのパターン別に、記入方法を整理します。
パターン①:中小企業(本社のみ、支店なし)
最もシンプルなケースです。給与計算から源泉徴収の納付まで、すべての事務を本社で行っているなら、③と④は同じ内容になります。この場合、④の欄には「同上」と記入してください。住所欄も同様に「同上」で問題ありません。
パターン②:本社と支店がある場合(支店で給与事務を行う)
本社が東京・支店が名古屋にあり、名古屋支店の給与を名古屋支店が処理している場合です。名古屋支店が提出する総括表の④欄には「○○株式会社 名古屋支店」と記入し、その下の住所欄には名古屋支店の住所を記入します。本社と支店で別々に源泉所得税を納付・管理しているイメージです。
パターン③:本社で一括管理している場合
支店が複数あっても、給与の支払事務はすべて本社が一括で担っているケースも多いです。この場合、各支店が提出する総括表の④欄は「同上」(本社と同じ)でよいことになります。源泉所得税の納付も本社の所轄税務署に一本化できます。
パターン④:個人事業主の場合
個人事業主がアルバイトや従業員を雇用している場合も提出義務は同じです。給与支払者の氏名(個人名)と、実際に給与事務を行っている事業所(たとえば店舗名)が異なる場合、④欄にその事業所名を記入します。個人事業主でも法人と同様に扱います。
これが基本です。迷ったときは「給与の源泉徴収を実際に誰が・どこでしているか」を起点に考えると判断がしやすくなります。
「この欄を空欄のままにした」「会社名ではなく担当者名を書いてしまった」といったミスは実務でも起こりがちです。結論は「早めの訂正一択」です。
提出前に気づいた場合は比較的シンプルに対応できます。誤った箇所に二重線を引き、正しい情報を上書きして訂正印を押せばOKです。法的効力がある書類なので、修正テープや修正液の使用は避けてください。
提出後に気づいた場合は少し手間がかかります。訂正手順は次の通りです。
提出後の訂正はこれだけで対応できます。
痛いのは、記入ミスだけでなく「提出そのものの漏れ」です。給与支払報告書の未提出は、地方税法第317条の7に基づき、担当者個人と法人の両方に「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」が科される可能性があります。「うっかり忘れただけ」では済まされないということです。
さらに、従業員が個人で確定申告を行うと、税務署と市区町村の間で情報の照合が行われるため、会社側が提出していないことはほぼ確実に発覚します。提出漏れは隠しようがない構造になっています。
未提出のリスクを詳しく確認できる参考リンクです。
給与支払報告書の提出不要は可能?唯一の例外と罰則|INVOY
給与支払報告書(総括表)は市区町村への提出書類であり、源泉徴収票は税務署と従業員本人への提出・交付書類です。記載内容はほぼ同じでも、提出先が異なることは押さえておきたい基本知識です。
| 書類名 | 提出先 | 目的 |
|---|---|---|
| 給与支払報告書(総括表+個人別明細書) | 従業員が居住する市区町村 | 住民税の算定 |
| 給与所得の源泉徴収票 | 税務署・従業員本人 | 所得税の申告・確認 |
源泉徴収票の税務署への提出は、給与等が500万円超など一定の要件に該当する場合に限られます。一方、給与支払報告書は雇用形態を問わず全従業員分が原則として対象です。パートやアルバイトでも1円でも支払っていれば対象になる、と理解しておくのが安全です。
eLTAX(地方税ポータルシステム)を使えば、給与支払報告書と源泉徴収票を同一操作で提出・申告できる「一元化」が可能です。具体的には、eLTAXに送信することで給与支払報告書は各市区町村に、源泉徴収票はe-Tax経由で所轄税務署に自動的に送られます。
前々年に税務署への源泉徴収票の提出枚数が100枚以上だった場合は、eLTAXまたは光ディスクでの提出が義務化されています。これは知らずにいると義務違反になりかねないので注意が必要です。100枚という数字は、従業員100人規模の会社にとってはすぐ該当しうる水準です。
eLTAX公式サイトで提出方法を確認できます。
給与支払報告書、給与所得者異動届出書を提出するには|eLTAX公式
この欄を毎年正確に記入するには、「どの事業所が給与事務を担っているか」という情報を組織として把握・管理しておくことが前提になります。組織の変化に合わせて記録を更新しておくことが、ミスゼロの近道です。
実務上でよく起きる問題として次のようなケースがあります。
これらはどれも「書類の内容を毎年確認しないまま提出してしまう」ことから起きます。対策として有効なのは、年末調整・給与支払報告書の作成前に「今年の給与事務担当事務所はどこか」を担当者間で確認するチェックリストを設けることです。
さらに、支店で新たに給与の支払い事務を始めた場合や、逆に廃止した場合には、1ヶ月以内に「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」を所轄税務署に提出する義務があります。この届出を忘れると、源泉所得税の納付先が変わっているにもかかわらず旧来の税務署に納付し続けることになり、手続きの混乱につながります。
給与計算ソフトを活用することも有効な手段です。弥生給与 Nextや奉行シリーズなど、クラウド型給与計算ソフトは給与支払報告書・源泉徴収票の作成から電子申告(eLTAX/e-Tax)までをシームレスに処理できるため、記入漏れや転記ミスを大幅に減らせます。事務所名の管理も一元化されるため、年次更新の際にも見直しがしやすくなります。
参考として、給与支払報告書の提出義務と根拠法令を確認できます。
給与支払報告書の書き方は?総括表と個人別明細書の記入例や手順を解説|弥生