

社外取締役比率が3分の1を超えた企業でも、株価がむしろ低迷したケースが複数確認されています。
東京証券取引所(東証)が定めるコーポレートガバナンス・コード(CGコード)は、2021年の改訂で社外取締役の選任基準を大幅に引き上げました。プライム市場上場会社には独立社外取締役を取締役総数の「3分の1以上」選任することが求められ、さらに業種・事業特性によっては「過半数」の選任が必要とされます。スタンダード市場・グロース市場では2名以上が基準です。
これが基本です。
では実際の選任状況はどうなっているのでしょうか。大和総研が2024年12月末時点のデータをまとめたレポートによると、全上場会社(3,921社)の平均取締役数は約8.1人、そのうち社外取締役は約3.3人で、取締役会全体の約41%を占めています。プライム市場の上場会社に絞ると取締役平均9.3人に対し社外取締役4.3人、比率は46%に達しています。
プライム市場で3分の1以上を満たす企業は1,614社(約99%)と、ほぼ全社がクリア済みです。一方で「過半数」という次の水準に達している企業は2025年デロイトトーマツのデータでも約26%にとどまります。つまり、プライム上場企業の4社に3社は、まだ過半数未達というのが現状です。
| 市場区分 | 平均取締役数 | 平均社外取締役数 | 社外取締役比率 |
|---|---|---|---|
| プライム市場 | 9.3人 | 4.3人 | 約46% |
| スタンダード市場 | 7.6人 | 2.7人 | 約37% |
| グロース市場 | 6.1人 | 2.5人 | 約41% |
| 全体平均 | 8.1人 | 3.3人 | 約41% |
(出所:大和総研「社外取締役の選任状況から見る課題と対応」2025年4月)
なお、CGコードは「コンプライ・オア・エクスプレイン」方式を採用しているため、基準を満たさない場合でも合理的な理由を説明(エクスプレイン)することで、必ずしも違反にはなりません。絶対的な義務ではないという点には注意が必要です。
参考:東証の最新調査データはこちらで閲覧可能です。
10年前の数字と比較すると、変化のスケールがよくわかります。2015年時点で東証上場企業のうち社外取締役を3分の1以上選任していた企業は、わずか19%でした。それが2025年には83%を超えるまでに拡大しています。約10年で4倍超という急激な増加です。
これは速すぎる変化です。
背景には、2015年のCGコード策定、2021年の改訂による基準強化、さらに2021年の会社法改正による社外取締役設置の義務化(上場会社には1名以上の社外取締役が法的に必須)が相次いで施行されたことがあります。また、米国の議決権行使助言会社ISSやグラスルイスが議決権行使基準を厳格化し、社外取締役の比率が基準に満たない企業の取締役選任議案に反対推奨を出すようになったことも、企業側の動きを加速させました。
日本取締役協会の2025年8月調査によると、東証プライム市場の独立社外取締役の割合は44.1%(人数ベース)まで上昇しています。こうした数値の背景にあるのは、機関投資家の強い要求と国際的なガバナンス基準への収斂です。注目すべきは、2026年にCGコードが5年ぶりの改訂を予定しており、さらなる高水準が求められる可能性があるという点です。
参考:CGコードの改訂経緯と最新動向についての詳細はこちら。
金融庁|コーポレートガバナンス改訂に関する資料(2025年10月)
ここが意外なポイントです。
社外取締役比率が高い企業ほど株価パフォーマンスが高いと思いがちですが、複数の実証研究では「比率の高さだけでは企業価値との相関が明確に出ない」という結果も報告されています。社外取締役比率という「数」だけを見ても、実際の監督機能が働いているかどうかは別問題なのです。
問題の核心は「形骸化」にあります。長期間にわたり同一の社外取締役が在任し続けたり、取締役会の出席率が低い状態が常態化していたりすると、第三者による監督機能は実質的に機能しなくなります。2025年には日経ビジネスや朝日新聞も「お飾り社外取締役の排除へ動き」という報道を行っており、投資家の目線が「比率」から「質」へとシフトしていることがわかります。
また「兼任問題」も深刻です。全上場会社の中で、1社以上で兼任している取締役・監査役は複数いますが、中には5社以上を掛け持ちしているケースも存在します。議決権行使助言会社グラスルイスは、業務執行者が3社以上の上場会社で取締役を兼任する場合に反対助言を行う方針を明示しており、同様の方針が多くの機関投資家にも広がっています。つまり過度な兼任は、ガバナンスの実効性を損なう行為と見なされるということです。
つまり、比率は入口の条件に過ぎません。投資家として企業を評価する際には、比率だけでなく次の指標を必ず確認する必要があります。
参考:社外取締役の形骸化問題と投資家の対応についての詳細はこちら。
社外取締役の比率は、取締役会全体だけでなく「委員会の構成」にも着目する必要があります。これが案外知られていないポイントです。
CGコードは、指名委員会・報酬委員会(任意設置の場合を含む)について、その過半数を社外取締役が占めることを「基本」と定めています。これはいわば「取締役会内の小委員会でも、経営陣から独立した構成が必要」という意味です。東証JPXの2025年7月のデータによると、プライム市場上場会社の任意の指名委員会で過半数が社外取締役である企業の比率は93.7%と非常に高い水準に達しています。
委員会の独立性が条件です。
一方で、監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社を選択する企業も増えています。2024年12月末時点で監査等委員会設置会社は1,655社と最多を占めており、指名委員会等設置会社は96社です。会社形態によって社外取締役に求められる役割と法律上の権限が異なるため、投資家はどの形態を採用しているかも確認することが重要です。
| 機関設計 | 企業数 | 平均取締役数 | 社外取締役比率 |
|---|---|---|---|
| 監査役会設置会社 | 2,170社 | 7.4人 | 37% |
| 監査等委員会設置会社 | 1,655社 | 9.0人 | 45% |
| 指名委員会等設置会社 | 96社 | 9.8人 | 62% |
指名委員会等設置会社は社外取締役比率62%と突出して高く、法律上の委員会で過半数が社外取締役でなければならないというルールが直接反映されています。取締役の経営監督と業務執行を明確に分離したい企業が選ぶ形態であり、機関投資家からの評価も高い傾向があります。
報酬委員会の独立性にも注目です。社外取締役が過半数を占める報酬委員会は、経営陣が自分たちの報酬を恣意的に決められる構造を防ぎます。プライム市場での任意の報酬委員会における社外取締役過半数の比率も高い水準に達しており、この点の確認は株主として企業評価の際に欠かせないチェック項目です。
参考:指名委員会・報酬委員会の設置状況に関する最新データはこちら。
東証JPX|独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況(2025年7月)
2026年は大きな転換点になる可能性があります。
CGコードは2026年に5年ぶりの改訂が予定されており、金融庁・東証が設置した「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」が2025年秋から審議を進めています。議論の中心には「社外取締役比率のさらなる引き上げ」「過半数の独立社外取締役を標準的な姿とすべきか」という論点が含まれています。
現状、東証プライムで社外取締役が過半数を超える企業は約26%です。仮に「過半数」が実質的な新基準として強く推奨されるようになると、残り約74%の企業は対応を迫られます。大和総研の試算では、プライム・スタンダード市場全体で過半数・3分の1以上という水準を達成するには、新たに計4,225人の社外取締役を追加選任するか、社内取締役を4,727人削減する「取締役会のスリム化」が必要とされています。東京ドーム約5個分を埋められる人数というわけではありませんが、それほど大規模な組織変革を意味するスケール感です。
こういった変化は注目すべきです。
2025年のデータでは、主要企業の社外取締役の報酬が過去最高の平均1,790万円(主要企業ベース)に達しており、5年前比で25%増加しています。社外取締役の需要拡大と報酬上昇が続く中、兼任数の増加という副作用も懸念されています。ISSは2025年時点で取締役兼務数に上限を設けるための新しい助言基準の策定を検討中であり、兼任が過多な取締役の選任議案への反対推奨が増える方向性を打ち出しています。
今後、投資家として確認すべき視点をまとめると次のようになります。
金融に興味があり、個別株やESG投資を行っている方にとって、コーポレートガバナンス報告書を定期的に読む習慣は非常に有益です。取締役会の構成変化を把握することで、株主総会の季節(6月)に議決権を適切に行使できるだけでなく、経営の質の変化をいち早くキャッチする情報優位につながります。
参考:コーポレートガバナンス報告書の確認や企業検索には東証の公式ツールが便利です。
東証JPX|コーポレート・ガバナンス情報サービス(企業別検索可能)
参考:2026年のCGコード改訂に向けた議論の詳細はこちら。
金融庁|コーポレートガバナンス・コード改訂に関する有識者会議(2025年10月)議事録