

生活保護を受けていても、月額2万8,000円の後見人報酬が自治体から助成される場合があります。
成年後見制度を利用するときに発生する費用は、大きく「①申立て費用(初期費用)」と「②後見人への毎月の報酬(ランニングコスト)」の2種類に分かれます。まずこの構造を頭に入れておくと、後から出てくる助成制度の話も理解しやすくなります。
申立て費用(初期費用)の内訳
申立てにかかる実費は約2万円程度です。内訳は以下のとおりです。
| 費用の種類 | 目安金額 |
|---|---|
| 申立手数料(収入印紙) | 800円 |
| 後見登記手数料(収入印紙) | 2,600円 |
| 郵便切手代 | 3,000〜6,000円程度 |
| 戸籍謄本・住民票など各種書類 | 合計3,000〜5,000円程度 |
| 診断書取得費 | 5,000〜10,000円程度 |
なお、裁判所が鑑定を必要と判断した場合は、別途1〜10万円程度の鑑定費用がかかりますが、これが実施されるケースは全体の約3.8%(令和6年統計)にとどまります。裁判所から指示があった場合のみ用意すればよいので、最初から過度に心配しなくて大丈夫です。
専門家(弁護士・司法書士など)に申立て手続きの代行を依頼する場合は、上記の実費に加えて10〜30万円程度の報酬がかかります。これはあくまで代行を頼んだときの話です。自分または親族が申立てをすれば、実費の2万円程度で済む点は覚えておきましょう。
毎月の報酬(ランニングコスト)
専門家が後見人に選任された場合、月額2〜6万円の報酬が継続的に発生します。厚生労働省の資料によると、後見人報酬の全国平均は月額約2万8,600円とされています。財産の管理額が大きいほど報酬は高くなります。具体的には次の表のとおりです。
| 管理財産額 | 基本報酬の目安(月額) |
|---|---|
| 5,000万円以下 | 月額2万円 |
| 1,000万〜5,000万円 | 月額3〜4万円 |
| 5,000万円超 | 月額5〜6万円 |
(参考:東京家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」)
仮に10年間制度を利用すると、専門家後見人への報酬の総額は240〜720万円になる計算です。月2万円でも、コーヒー1杯80円のコンビニコーヒーを月250杯分に相当する額が、終わりのない形で出ていくイメージです。長期的な費用負担は決して小さくありません。
一方で、家族や親族が後見人になった場合は、報酬付与の申立てをしない限り報酬は発生しません。「仕事として」後見事務を行う専門家と、「家族として」行う親族とでは、金銭的な負担に大きな差があります。これが条件です。
参考リンク:成年後見人等の報酬額の目安(東京家庭裁判所)
成年後見人等の報酬額のめやす|東京家庭裁判所(PDF)
生活保護を受けていると、「後見人への報酬なんて払えない」と制度利用を諦めてしまう人が一定数います。しかし、成年後見制度を利用するための所得制限は一切ありません。これが大前提です。
払えない場合に頼るべき選択肢は、主に2つあります。
① 法テラスの民事法律扶助制度(申立て費用の立替)
法テラス(日本司法支援センター)では、収入や資産が一定基準以下の人を対象に、申立て実費と専門家への着手金を立て替えてもらえる「民事法律扶助制度」を提供しています。生活保護受給者はこの収入基準を満たすことがほとんどです。
ただし、あくまで「立替」です。後から月々に分割で返済が必要になります。返済が必要という点は事前に理解しておきましょう。
💡 生活保護受給中の方が法テラスを利用する場合は、「審査が通りやすい」というメリットもあります。近くの法テラス窓口に電話一本で相談できます(電話番号:0570-078374)。
② 市区町村長による申立て(親族不在の場合)
申立てができる配偶者や4親等内の親族がおらず、本人も手続きが困難な場合は、市区町村長(首長)が代わりに申立てを行う「市町村長申立て」という制度があります。2024年の首長申立ては全国で9,980件と過去最多を記録しており、身寄りのない高齢者の増加を背景に急増しています。この申立件数は、2000年の23件と比べると実に430倍超の規模です。
市長申立てが行われた場合、申立て費用は原則として自治体が負担するか、本人の財産から支払われます。申立人たる家族がいないケースでは、費用を自分で用意する必要がない点が大きなメリットです。
親族がいても音信不通や高齢で対応困難な状況なら、市区町村の福祉窓口に一度相談してみることをおすすめします。
参考リンク:市町村長申立てに関する厚生労働省資料
成年後見制度における市町村長申立の適切な実施について|厚生労働省(PDF)
成年後見制度利用支援事業は、市区町村が実施する公的な費用助成制度です。生活保護受給者はこの制度の対象者に含まれていることがほとんどで、後見人への報酬を自治体が肩代わりしてくれます。つまり「もらえる」お金です。
具体的な助成の上限額は自治体によって異なりますが、東京都板橋区の例では以下のように定められています。
| 対象費用 | 助成の上限(月額) |
|---|---|
| 後見人・保佐人・補助人への報酬 | 月額2万8,000円 × 対象月数 |
| 後見監督人への報酬 | 月額1万4,000円 × 対象月数 |
(引用:板橋区「成年後見人等の報酬助成」)
助成の対象となる主な条件は次の4点です。
- 生活保護法による保護を受けている
- 中国残留邦人等支援法による支援給付を受けている
- 世帯全員が住民税非課税で、預貯金が130万円以下かつ換金できる資産がない
- その他、区長が特に認める場合
注意点が一つあります。申請期限が設けられている点です。報酬付与審判が下りた翌日から原則180日以内に申請しなければなりません。この期限を過ぎると受け付けてもらえない自治体もあります。申請書の提出は必須です。
また、この事業は全国すべての市区町村で同じ内容ではありません。居住している市区町村の福祉窓口や地域包括支援センターに事前に確認することが大切です。都市部では比較的手厚い助成が整備されていますが、地方では対象範囲が狭い自治体もあります。
参考リンク:厚生労働省による成年後見制度利用支援事業の解説
成年後見制度関係資料集|厚生労働省(PDF)
成年後見制度を利用することで、生活保護の受給状況に影響が出る可能性があります。これは意外と知られていない重要なポイントです。
後見人による財産管理で収支が改善されると生活保護が外れることがある
後見人が財産管理を始めることで、不必要な出費が減り、収支が改善されるケースがあります。実際に、成年後見人(保佐人)が適切な財産管理を行った結果、数年で年間収支が黒字に転じ、生活保護から脱却した事例も報告されています。これは一見良いことに思えます。
ただし、生活保護が外れたことで「成年後見制度利用支援事業」の助成対象からも外れる可能性があります。助成が受けられなくなれば、後見人への報酬は本人の財産から支払う必要が生じます。状況の変化は担当の福祉窓口に都度報告しておくことが必要です。
生活保護受給者が相続などで財産を得た場合
後見人が被後見人の財産を管理している最中に、相続などで新たな財産を取得した場合、その財産額によっては生活保護が打ち切りになることがあります。生活保護制度では、利用できる財産を使い切った上で保護を受けるという原則があるためです。
とはいえ、後見人が財産を適切に管理・申告している状態であれば、突然打ち切りになるわけではありません。後見人と福祉事務所のケースワーカーが連携して対応することが基本です。
成年後見制度の終了タイミングと費用への影響
成年後見制度は原則として被後見人が死亡するまで続きます。途中でやめることは基本的にできません。これは厳しいところですね。一度申立てると、後見人の報酬が長期にわたって発生し続ける点は、制度開始前に十分に把握しておく必要があります。
もし本人にまだ判断能力があるなら、成年後見制度よりも柔軟に設計できる「家族信託」を検討することも選択肢の一つです。家族信託の初期費用は専門家に依頼した場合で30〜60万円程度かかりますが、毎月の報酬が発生しないケースが多く、長期的には費用を大幅に抑えられます。判断能力があるうちにしか組成できない点は注意が必要です。
市区町村の利用支援事業に加えて、民間の助成制度として「成年後見助成基金」も存在します。これはあまり知られていません。
成年後見助成基金は、公益社団法人「成年後見センター・リーガルサポート」が設置した基金です。経済的な理由で後見人への報酬が払えない方を対象に、外部から資金を補助する仕組みです。
主な利用条件は次のとおりです。
- 後見人等がすでに1年以上後見事務を行っていること(親族が後見人の場合は除く)
- 後見事務の内容に対して適正な報酬の支払いができない状態にあること
- 被後見人の預貯金額が260万円以下で、他に換金できる適当な資産がないこと
- 報酬付与審判の申立てをしていない期間を対象とすること
260万円というのは、例えば毎月2万円の生活費を10年間賄える金額とほぼ同じです。それ以下の財産しかない人が対象になります。
市区町村の助成制度と異なり、全国共通の基準で申請できる点がメリットです。ただし、毎年募集があるタイプの基金のため、応募時期や受付件数に制限がある場合があります。応募は所定の申込書に必要事項を記載し、成年後見助成基金の事務局に郵送で提出します。
リーガルサポートは全国に支部を持つ司法書士の組織です。制度の詳細や申請書類については、最寄りのリーガルサポート支部または公式ウェブサイトで確認できます。
参考リンク:成年後見センター・リーガルサポートの公式サイト
公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート 公式サイト