療養補償給付と休業補償給付の違いを徹底解説

療養補償給付と休業補償給付の違いを徹底解説

療養補償給付と休業補償給付の違いと正しい受給の知識

休業4日目からしか給付されないと思っていたら、実は最初の3日間も平均賃金の60%を会社が補償する義務があります。


この記事のポイント
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療養補償給付とは

業務上のケガ・病気の治療費を全額補償する給付。労災指定病院なら自己負担ゼロで受診できる。

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休業補償給付とは

労災で働けない期間の収入を補填する給付。給付基礎日額の60%+特別支給金20%=合計80%が支給される。

⚠️
知らないと損する違い

2つの給付は目的・条件・申請書類がすべて異なるが、要件を満たせば両方を同時に受給できる。


療養補償給付の基本と「療養の給付」「費用支給」の2種類の違い


療養補償給付とは、業務中や通勤中の事故・疾病を原因とするケガや病気の治療費を、労災保険が補償する制度です。一般的な健康保険では医療費の3割を自己負担しますが、療養補償給付ではその自己負担が原則ゼロになります。これは使い方次第で数十万円規模の差になる話です。


療養補償給付には、大きく分けて2つの種類があります。


1つ目は「療養の給付」です。労災病院や労災保険指定医療機関・指定薬局で受診した場合に適用されます。費用は労災保険(国)から医療機関に直接支払われるため、受診者は治療費を窓口で支払う必要がありません。現物給付ということですね。


2つ目は「療養の費用の支給」です。自宅や職場の近くに労災指定病院がなく、指定外の医療機関を受診した場合に適用されます。この場合は、まず受診者が治療費を全額(10割)自己負担し、後日申請することで費用が戻ってくる仕組みです。一時的に大きな出費が発生することがあるため、注意が必要です。


ここで見落としがちな点があります。労災による治療には「健康保険は使えない」というルールです。誤って健康保険で受診してしまった場合は、後から切り替え手続きが必要になるため、受診前に「労災扱いであること」を医療機関の窓口に必ず伝えましょう。切り替えが面倒なので事前確認が基本です。


また、給付対象となる費用は治療費・薬代・入院費・手術費用・通院交通費など多岐にわたります。ただし通院交通費については、居住地または勤務地から片道2キロ以上の通院が条件など細かな要件があるため、領収書や通院経路の記録を残しておくことが重要です。


厚生労働省:療養(補償)等給付の請求手続き(公式PDF)


休業補償給付の支給額・待期期間・会社負担の3つの仕組み

休業補償給付とは、労災によるケガや病気で仕事を休まざるを得なくなった期間の収入を補填する給付です。支給額の計算方法は少し複雑ですが、仕組みさえ理解すれば自分でも試算できます。


支給額は「給付基礎日額×80%」が基本です。内訳は次のとおりです。


給付の種類 割合 根拠法
休業補償給付 給付基礎日額の60% 労働者災害補償保険法
休業特別支給金 給付基礎日額の20% 労働者災害補償保険法
合計 給付基礎日額の80%


給付基礎日額とは、事故前3か月間の平均賃金を日割りにした金額です。たとえば月給30万円の人(日給換算1万円)が30日休業した場合、受取額は「1万円 × 27日 × 80%」= 21万6,000円(待期3日は除く)になります。これは使えそうです。


次に、見落とされがちな「待期期間」の話です。休業補償給付は、休業した日から数えて4日目以降から支給が開始されます。最初の3日間(待期期間)は、労災保険からは1円も支払われません。


ただし、「最初の3日間は完全に無補償」というのは誤解です。業務災害の場合は、労働基準法第76条により、事業主(会社)が1日あたり平均賃金の60%以上の休業補償を支払う義務があります。会社への請求が条件です。


なお通勤災害の場合は、この会社負担義務はありません。その点で業務災害と通勤災害では待期期間の補償内容に大きな差があります。金額に直すと、月給30万円の人(日給1万円)なら3日間で約1万8,000円の差になります。知っているかどうかで損する額が変わる、典型的なポイントです。


厚生労働省:休業(補償)等給付の計算方法(公式Q&A)


療養補償給付と休業補償給付の目的・要件・名称の違い一覧

療養補償給付と休業補償給付は、どちらも労災保険から支給される給付です。しかし補償の目的・支給要件・申請書類がすべて異なります。まとめて整理しておきましょう。


項目 療養補償給付 休業補償給付
補償の目的 治療費の補填 休業中の収入の補填
支給内容 治療費・薬代・交通費など現物または現金 給付基礎日額の60%(特別支給金含め80%)
支給開始日 受診日(指定病院なら即日現物給付) 休業4日目から
支給終了日 症状固定(治癒)まで 就業可能になるまたは症状固定まで
就労中でも受給可能か ✅ 可能(通院しながら就労もOK) ⚠️ 休業した日のみ対象
申請の時効 費用支出日の翌日から2年 賃金を受けない日の翌日から2年


特に注意したいのが、療養補償給付は就労しながら通院している場合でも受給できる点です。給付が打ち切られるのは「症状が治癒した場合」「症状固定した場合」「死亡した場合」のいずれかです。仕事に復帰したことで自動的に打ち切られるわけではありません。意外ですね。


一方で、休業補償給付は「実際に仕事を休んだ日」が給付の対象です。週3日出勤して残り2日を休んだ場合でも、休んだ2日分については休業補償給付の対象になります(通院等の理由で所定労働時間の一部のみ就労できなかった場合も含む)。連続して休業する必要はありません。


また、業務災害か通勤災害かによって給付の名称も変わります。業務災害(仕事中のケガ等)では「療養補償給付」「休業補償給付」と呼ばれますが、通勤災害(通勤中のケガ等)ではそれぞれ「療養給付」「休業給付」と呼ばれます。「補償」の2文字が入るかどうかが名称の違いです。内容はほぼ同じですが、書類の様式番号が異なるため提出する際には注意が必要です。


業務災害と通勤災害における給付名称の違いについての解説


療養補償給付と休業補償給付の申請手続きと時効のポイント

両給付の申請は、それぞれ別の請求書を使って手続きします。同じ労災事故で両方請求する場合でも、書類を別々に作成・提出する必要があります。申請書類が異なるのが原則です。


療養補償給付の申請は、受診した医療機関が労災指定病院か否かで手続きが分かれます。


- 労災指定病院の場合:様式第5号(業務災害)または様式第16号の3(通勤災害)を病院窓口に提出。費用は病院が直接労働局に請求するため、患者の窓口負担はゼロです。


- 労災指定外病院の場合:様式第7号(業務災害)または様式第16号の5(通勤災害)と治療費の領収書を、所轄の労働基準監督署に提出します。一旦全額を自己負担し、後日請求する流れになります。


休業補償給付の申請は、様式第8号(業務災害)または様式第16号の6(通勤災害)を使い、事業主の証明と医師の証明を添えて所轄の労働基準監督署に提出します。原則として被災した労働者本人が申請します。


次に、時効についてです。療養補償給付・休業補償給付ともに、申請できる時効は「給付を受ける権利が生じた日の翌日から2年」と定められています(労働者災害補償保険法第42条)。


具体的には次のとおりです。


- 療養費用:費用を支出した日(通院した日)ごとに起算。各通院日から2年以内。


- 休業補償:賃金を受けない日(休業した日)ごとに起算。各休業日から2年以内。


「まとめて2年分を後から申請すれば大丈夫」と考えていると、古い分から順に時効が消滅していきます。特に長期療養ケースでは通院日数が多くなるため、定期的にこまめに申請することが大切です。2年以内なら問題ありません。


なお、障害補償給付遺族補償給付については時効が5年とやや長めに設定されています。給付の種類によって時効期間が異なるため、混同しないよう整理しておきましょう。


厚生労働省:各種給付の請求期限(時効)についての公式Q&A


療養補償給付・休業補償給付から傷病補償年金への切り替えと長期療養の注意点

労災による療養が長引いた場合、給付の仕組みが大きく変わるポイントがあります。それが「療養開始後1年6か月」という節目です。


療養開始から1年6か月を経過しても傷病が治癒(症状固定)しない場合で、かつ傷病等級第1級〜第3級に該当するときは、休業補償給付から「傷病補償年金」へ自動的に切り替わります。傷病等級第1〜3級が条件です。


傷病等級の区分は次のとおりです。


- 第1級:神経系統・精神または胸腹部臓器の機能に著しい障害があり常時介護を要する状態など
- 第2級:神経系統・精神または胸腹部臓器の機能に著しい障害があり随時介護を要する状態など
- 第3級:労働能力の喪失に近い、著しい障害を有する状態


傷病補償年金に移行した場合でも、療養補償給付は継続して受給できます。つまり治療費の補償は維持されます。これは覚えておけばOKです。


一方、傷病等級に該当しない場合(第4級以下または等級未満)は、1年6か月を超えても休業補償給付を継続して受給できます。ただしその場合は「傷病の状態等に関する届」を所轄の労働基準監督署に提出する必要があります。この届出を忘れると給付が止まるリスクがあるため要注意です。


また、1年6か月の節目では、給付基礎日額が年齢階層別の最低・最高限度額に基づいてスライド改定される場合があります。長期療養中の方は支給額が変動するケースもあるため、定期的に確認しておくことが賢明です。


なお、長期休業によって収入が大幅に落ちる場合、就業不能保険(働けないときに月次給付金が受け取れる民間保険)との組み合わせを検討する方もいます。労災保険の給付はあくまで給付基礎日額の80%にとどまるため、生活水準の維持を考えるなら、民間の就業不能保険で上乗せする選択肢も一つです。加入している保険の内容を確認しておきましょう。


療養開始後1年6ヶ月後に傷病補償年金が支給される条件の詳細解説




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