年金ALM・LDIで積立比率を安定させる運用戦略の要点

年金ALM・LDIで積立比率を安定させる運用戦略の要点

年金ALM・LDIで積立比率を安定させる実践的運用戦略

LDIは「安全策」のはずなのに、2022年の英国では年金基金が270兆円規模の資産を持ちながら連鎖的な国債売りに追い込まれ、中央銀行が緊急介入するほどの金融危機を引き起こしました。


年金ALM・LDIの3つのポイント
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年金ALMとLDIの違い

年金ALMは「予定利率(固定)」で負債を評価し長期運用を重視。LDIは「市場金利(変動)」で負債を時価評価し、金利リスクを短期的にコントロールする手法。 目的は共通だが評価の基準が根本的に異なる。

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英国2022年LDI危機の教訓

レバレッジを掛けたLDI戦略が、金利急騰により追加証拠金を生み出し連鎖売却を招いた。英国職域年金の約6割がレポ調達による国債投資を実施しており、リスク管理の限界を超えた際の流動性リスクが顕在化した。

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日本での活用と今後の課題

日本では財政基準の予定利率が市場金利と連動しにくく、LDI導入が低調。しかし会計基準の国際統合が進む中、デュレーション管理と超長期債・金利スワップを組み合わせた年金ALMの重要性が増している。


年金ALMの基本:資産と負債を総合管理する仕組みとLDIとの関係

年金ALMとは「Asset Liability Management(資産負債管理)」の略で、確定給付型(DB)企業年金において、資産と負債のバランスを将来にわたって維持するためのシミュレーション・管理手法です。簡単に言えば、「将来どれだけ年金を払い出すのか(負債)」と「それを賄う運用資産がどう変動するか(資産)」を同時に管理します。


つまり資産だけを見て運用するのではなく、負債側の動きも考慮した上でポートフォリオを設計するのが基本です。


では、LDI(Liability Driven Investment、債務主導型投資)とはどう違うのでしょうか? 企業年金連合会の定義によれば、LDIは「年金負債の現在価値の変動に、運用する年金資産の変動をマッチングさせる運用戦略」です。年金ALMもLDIも年金負債を意識した運用という点では共通しています。


決定的な違いは、負債の評価方法にあります。


従来の年金ALMでは、負債(責任準備金)の割引率として「予定利率」を使います。予定利率は長期の期待運用収益率をベースに設定されており、原則として市場金利が変動しても固定されたままです。一方のLDIは、負債を市場金利(長期債の利回りなど)で割り引いた時価(PBO:予測給付債務)で評価します。金利が1%変動すると年金負債は15〜20%変動するとされており、その変動を資産側でヘッジしようというのがLDIの考え方です。


これは意外ですね。年金ALMは「長期目線のリスク管理」、LDIは「短期的な金利変動リスクのコントロール」という重点の違いがあるということです。









比較項目 年金ALM(従来型) LDI
負債の割引率 予定利率(固定) 市場金利(変動)
金利変動の影響 負債はほとんど変動しない 金利変動が負債に直結する
重点 長期的なリターン達成 短期的な積立比率の安定
主な手段 資産の期待収益率管理 長期債・スワップによるヘッジ


参考:企業年金連合会によるLDI定義と年金ALMの比較解説
LDI(Liability Driven Investment 債務重視の運用)- 企業年金連合会


年金ALMにおける予定利率とPBOの違い:LDI導入で何が変わるか

年金ALMとLDIを深く理解するには、負債の評価方法の違いをしっかりと押さえる必要があります。ここが、実務において非常に重要なポイントです。


まず、従来の年金ALMで使われる「予定利率」について整理します。予定利率は、「この基金は長期的に年率○%の運用収益を見込んで年金を支払う」という設計上の利率です。掛金を計算する財政基準の割引率にも使われます。日本の確定給付企業年金では継続基準の予定利率として最低1.1%が定められており(企業年金連合会データ)、市場金利がゼロ近辺になっても、この予定利率は直ちには変動しません。


一方、LDIで対象とする「PBO(予測給付債務)」は、将来の給付キャッシュフローをその時点の市場金利(長期債の利回り)で割り引いた現在価値です。金利が下がれば負債の時価は膨らみ、金利が上がれば縮小します。市場実勢を即時に反映する、まさに負債の"時価評価"です。


この2つが並存する状況が、日本のLDI普及を難しくしてきた背景です。


三菱UFJ信託銀行の分析によれば、日本では財政基準の予定利率が市場金利の過去5年平均などを参照して決定されており、市場金利との連動性が限られています。つまり、PBOを意識してLDIを導入し長期債を大量に買い込んでも、財政基準上の積立比率は別途管理しなければならず、「金利上昇時に債券価格が下落すると、財政基準の積立比率が大きく悪化する」という逆説が生まれます。


これは掛金の増加というリスクを意味します。安易なLDI導入は掛金追加拠出という思わぬ結果を招くこともあるということです。


実際に確定給付型年金の積立状況を見ると、2024年度時点で日本の上場企業の企業年金の積立比率(年金資産÷年金債務)は97%程度まで改善しており(日経新聞2025年11月報道)、財政状況の改善が続いています。しかし、これは過去の掛金拠出の積み重ねと株式市場の回復によるものが大きく、金利リスクの体系的なヘッジが進んでいるわけではありません。


参考:日本の確定給付型年金における割引率(予定利率)の推移と市場金利との乖離
企業年金の運用戦略からみた金融安定への含意 - 日本銀行レビュー2023年


LDIの核心:デュレーション・マッチングとキャッシュフロー・マッチングの具体的手法

LDIの実際の手法を理解するには、「デュレーション」という概念が欠かせません。デュレーションとは、金利が1%変動したときに、債券(または負債)の価格がどれだけ変動するかを示す感応度の指標です。デュレーションが20年の債券は、金利が1%上昇すると価格が約20%下落します。


年金負債のデュレーションは長い。英国の職域年金では平均して約20年、日本の企業年金でも長いもので15年超に達します。これは、今から数十年先まで給付を支払い続ける終身年金・有期年金の性質上、避けられない特性です。


この長いデュレーションをヘッジするためにLDIでは主に2つの手法を用います。


① キャッシュフロー・マッチング(負債連動ポートフォリオの構築):将来の年金支払い(給付キャッシュフロー)に対応する超長期債を組み入れ、資産と負債のキャッシュフローを一致させます。ニッセイ基礎研究所の臼杵政治氏の研究では、500億円規模のモデル年金を想定したとき、債務と同じキャッシュフローのマッチング資産を活用することでサープラスリスクを大幅に低減できることが示されています。


② デュレーション・マッチング(金利スワップの活用):超長期の現物債券は市場流通量が限られるため、金利スワップを使って資産全体のデュレーションを負債のデュレーションに近づけます。「固定金利受け・変動金利払い」のスワップを活用することで、金利上昇時に受け取る固定金利の現在価値が増加し、負債の時価減少と相殺できます。


これは使えそうです。ただし、デュレーションを完全に一致させても、イールドカーブがパラレルに動かない局面(短期と長期で金利変動幅が異なる場合)は、ヘッジが不完全になる点に留意が必要です。



  • キャッシュフロー・マッチング:給付支払いと同じ時期・金額の資産を保有。完全マッチングが理想だが、超長期債の品不足や基礎率変動(死亡率・退職率など)により現実的には困難。

  • デュレーション・マッチング(金利スワップ):資産全体のデュレーションを負債に合わせる。超長期現物債の代替手段として有効で、スワップなら流動性の制約を受けにくい。

  • グライドパス(段階的移行):積立比率が改善するにつれてLDIの比率を引き上げる方針。「積立比率90%→LDIを30%」「積立比率100%→LDIを60%」のようにトリガー水準を設定して段階的に移行する方法が欧米で広まっている。


参考:金利スワップを活用したLDI手法の具体的な解説
年金運用における金利スワップの利用 - 野村ホールディングス


LDIの落とし穴:英国2022年危機から学ぶレバレッジと流動性リスク

2022年9月、英国でまさかの事態が起きました。LDIは「リスクを抑える」戦略のはずが、逆に金融市場を混乱させる引き金になってしまったのです。これが「LDIショック」と呼ばれる事件です。


経緯を整理します。英国のトラス政権が9月23日に発表した大規模減税策が財政悪化懸念を呼び起こし、英国の30年国債利回りが8月末の2.80%から9月28日には一時4.59%まで上昇しました。約1カ月で約1.8%という過去最大級の上昇幅です。


問題はここからです。英国の職域年金(確定給付型)の総資産は2022年3月末時点で約1.7兆ポンド(約270兆円)に達します。これだけの巨大な年金基金の多くが、レバレッジを掛けたLDI戦略を実施していました。具体的には、英国年金監督庁のデータによると、レポ調達(債券を担保にした短期借入)を使った国債投資を約63%の年金基金が実施し、金利スワップの活用も約62%に達していました。


金利が急上昇すると、レポ取引の担保(長期債)の価格が下落し、追加担保(現金または長期債)の差し入れが必要になります。これは「マージンコール(追加証拠金の要求)」です。


痛いところを突かれました。キャッシュをほとんど持たない年金基金は、保有する国債を売却して現金を捻出せざるを得ません。そうすると国債が市場に大量に放出され、さらに金利が上昇し、さらなるマージンコールが発生する——という悪循環(ファイアセール)が起きました。


事態を収拾したのはイングランド銀行です。9月28日から10月14日まで、残存期間20年超の長期国債を金額無制限で買い入れる緊急措置を実施しました。インフレ抑制のために金融引き締め(国債売却・政策金利引き上げ)を進めていた中央銀行が、一時的に正反対の行動をとるほどの危機でした。


しかし、皮肉なことに積立状況は改善していました。金利が上昇したことで年金負債の時価が縮小し、全体として年金の積立比率はむしろ良くなっていたのです。流動性危機と財務健全性は別の問題であることがよくわかります。



  • 危機の原因:レバレッジの過剰な利用——レポ調達でレバレッジを掛け、平時のリスク想定を超えた金利上昇が発生。許容基準を超えるとロスカット・証拠金追加が必要になり、連鎖的な国債売却を招いた。

  • 日本との違い——日本の確定給付型企業年金では、財政基準に負債の時価評価が採用されておらず、レバレッジ取引の活用は限定的。現預金比率も相対的に高く、流動性リスクは英国より低い。

  • 教訓:流動性バッファーの重要性——LDI戦略を導入する際は、金利急変時でも追加証拠金要求に応じられる流動性準備を必ず確保しておく必要がある。


参考:英国LDI危機の詳細分析(大和総研レポート)
英国債市場を動揺させたLDI問題の本質 - 大和総研(2022年11月)


参考:日本銀行が英国事例を踏まえて分析した日本の企業年金の状況
企業年金の運用戦略からみた金融安定への含意 - 日本銀行レビュー2023年1月


年金ALMのフレームワーク:サープラスとは何か、積立比率を安定させる考え方

年金ALMの実践において中心的な概念となるのが「サープラス(Surplus)」です。サープラスとは、年金資産の時価から年金負債の時価を差し引いた差額のことを指します。このサープラスがプラスであれば積立超過(健全な状態)、マイナスになれば積立不足です。


サープラスフレームワークのALMでは、このサープラスの変動リスクを管理します。具体的には、「サープラスの期待リターン」と「サープラスのリスク(標準偏差)」のトレードオフを最適化するポートフォリオを選ぶという発想です。資産だけを見た「平均分散最適化」ではなく、資産と負債のネット(差額)を最適化する点が特徴的です。


積立比率が原則です。積立比率(年金資産÷年金負債)を安定させることが年金ALMの最終目標であり、サープラスはその状態を金額で表したものです。


ニッセイ基礎研究所の研究では、加入者数5,000人、資産・負債共に500億円(1人あたり1,000万円)のモデル企業年金を用いて検討が行われています。このモデルでは、従来の資産だけで見たポートフォリオのリスク(標準偏差)が7.78%であったのに対し、LDIの手法(マッチング資産+スワップの活用)を取り入れることでサープラスのリスクを大幅に低減できることが示されています。


サープラスフレームワークで有効なのは、次の2種類のリスクを統合的に管理できる点です。



  • パッシブリスク:資産の基準インデックス(例:野村BPI)と年金負債が乖離することで生じるリスク。負債を無視した運用をしている限り、このリスクは常に残ります。

  • アクティブリスク(トラッキングエラー:実際に運用するポートフォリオとベンチマーク(マッチング資産など)が乖離するリスク。超過リターンを狙う株式などへの投資により生じます。


年金ALMの実践的なアプローチでは、まず「負債のデュレーションの把握」から始めます。次に、債券ポートフォリオのデュレーションを段階的に負債に近づけ、積立比率が改善するに従って株式などのリスク資産への配分を絞りながらLDI比率を引き上げていく「グライドパス」を設計します。


これが基本です。


参考:年金ALMの考え方と実践手法(りそな銀行)
年金ALMについて - りそな銀行(2019年11月)


日本の年金ALM・LDIの普及状況と独自の課題:財政基準と会計基準のギャップ

日本における年金ALMとLDIの普及は、欧米と比べて大きく遅れています。その根本的な原因は、財政基準と会計基準の間にある「評価のズレ」です。


日本の確定給付型企業年金には2種類の負債評価があります。一つは「財政基準」(掛金計算用)、もう一つは「企業会計基準」(退職給付会計)です。この2つの評価額が大きく乖離しているため、どちらを基準にLDIを設計すればよいかが曖昧になります。


欧米の場合、英国では2004年年金法と2005年FRS17(財務報告基準17号)により、財政基準と企業会計基準の双方が市場金利による時価評価に移行しました。オランダも2007年のnFTK(年金財政運営規則)で同様に時価評価が導入されています。これが両国でLDIが急速に普及した最大の理由です。


日本では財政基準の予定利率が「過去5年の30年国債利回りを参考に、一定の乗率を乗じた率」で決められており、現在の市場金利とは大きく異なっています。企業会計基準(退職給付会計)については2013年度から即時認識が義務付けられ、時価に近づいてきましたが、財政基準は依然として乖離したままです。


厳しいところですね。LDI(時価評価ベース)での積立比率を安定させても、財政基準での積立比率が悪化して追加掛金が発生するリスクが残ります。この二重管理の負担が日本のLDI普及を阻んできました。


日本の確定給付型企業年金の現状データを見ると、確定給付型が8割超を占め(日本銀行レビュー2023年)、有期年金が主流です。英国の終身年金と比べて負債デュレーションが短い(12〜15年程度)こともLDI需要を低下させています。また、日本では制度の解決策として確定拠出年金(DC)やキャッシュバランスプラン(CB)への移行が進んでおり、DB制度のリスク管理強化よりも制度自体の変換で対応する企業が多い実態があります。



  • ⭕ 企業会計基準(退職給付会計):2013年度から即時認識が義務化され時価評価に近い状態に。

    LDI導入の意義が高まっている。


  • ❌ 財政基準(掛金計算):依然として予定利率による評価で時価と乖離。LDI導入で財政基準の積立比率が悪化するリスクがある。

  • 🔶 今後の動向:国際会計基準(IFRS)との統合が進む中、財政基準の時価評価への移行が検討されており、将来的にはLDI需要が高まる可能性がある。


年金ALM・LDIの資産配分:超長期債・物価連動債・スワップの具体的な組み合わせ方

実際の年金ALM・LDI戦略では、どのような資産を組み合わせるのでしょうか。


ここが具体的でわかりにくい部分です。


三菱UFJ信託銀行や日本銀行の分析資料をもとに整理します。


まず、LDIの「マッチング資産(リスクフリー資産)」として使われる主な資産クラスは次の通りです。



  • 固定利付超長期国債(20年・30年・40年):負債のデュレーションに近い長期債。最もシンプルなマッチング手段だが、市場流通量が限られており、大規模な需要には対応しにくい。

  • 金利スワップ(固定金利受け・変動金利払い):超長期現物債の代替として活用。名目元本は動かさずにデュレーションを調整できるため、現物債が不足する市場環境でも有効。

    カウンターパーティリスクの管理が必要。


  • 物価連動国債:給付がインフレに連動している制度(英国のように給付額が物価スライドする場合)で有効。日本の企業年金は給付が物価に連動しない設計が大半のため、ほとんど利用されない。英国では年金資産全体の35%を物価連動国債が占めるのと対照的です。


LDIポートフォリオの組み方は一般的に「2ポートフォリオ」方式で考えられます。一方は「マッチングポートフォリオ(負債対応)」として長期債・スワップで構成し金利リスクをヘッジします。もう一方は「リターン追求ポートフォリオ」として株式・外国債・オルタナティブ(プライベートエクイティ、インフラなど)に投資し、高いリターンを狙います。この2つの組み合わせ比率を積立状況に応じて調整するのがグライドパス戦略の基本です。


日本の現状では、まだ完全なLDI移行よりも「二分法的ポートフォリオ」が多く見られます。受給者への給付に対応する10年程度の給付対応ポートフォリオを組み、その他はリターン追求ポートフォリオとして内外債券・株式・オルタナティブで運用するものです。この場合、債券ポートフォリオ全体のデュレーションは野村BPI総合(約7年)よりも短くなりやすく、負債デュレーションとのギャップが残ります。


これに注意すれば大丈夫です。グライドパスを設定し、積立比率が一定水準(例えば100%)を超えた段階でリスク資産を絞りマッチング資産を増やす計画を事前に策定しておくことで、機動的な対応が可能になります。


【独自視点】年金ALM・LDIと日本の生命保険会社:ESR(経済価値ベースのソルベンシー比率)が加速させる変化

ここからは、検索上位には少ないニッチな視点をお伝えします。実は年金ALM・LDIの問題は、企業年金だけでなく日本の生命保険会社にも波及しつつあります。


日本銀行の2023年1月レビューによれば、生命保険会社は企業年金と同じく「長期負債を抱える機関投資家」です。今まで生命保険の負債(保険負債)は時価評価されてきませんでしたが、国際保険監督者機構(IAIS)が主導する国際資本基準(ICS)の本格適用が2025年に予定されており、ESR(経済価値ベースのソルベンシー・マージン比率)の導入検討も進んでいます。


これが大きな変化を生みつつあります。経済価値ベースの評価が導入されると、生命保険会社も保険負債のデュレーション(20〜30年以上)に資産をマッチさせるインセンティブが生じます。実際に、日本の大手生命保険会社はすでに超長期債(30年・40年国債)の積み増しを進めており、金利スワップやレポ取引も限定的ながら増加傾向にあります。


英国の職域年金がLDI危機を経験したのと同じ構造が、日本の生命保険会社でも起きる可能性があります。特に、日本の国債市場では超長期国債(30年・40年超)の流通量が限られており、大量のLDIニーズが発生した場合、需給の偏りが生じる恐れがあります。日本銀行も2025年10月の金融システムレポートでこの点を継続的にモニタリングしています。


金融に関心のある方にとっては、生命保険会社がどのようなデュレーション管理を進めているかを把握しておくことで、超長期国債市場の需給変化や金利動向を早めに読み取れる可能性があります。


参考:日本銀行による生命保険会社のALMと金融安定への含意
企業年金の運用戦略からみた金融安定への含意(生保ALMの記述含む)- 日本銀行レビュー2023年1月


年金ALM・LDIの実践ステップ:日本企業の担当者が今すぐ確認すべき5つのポイント

理論を理解したところで、実際にどう動けばよいかをまとめます。年金ALM・LDIは一度設計すれば終わりではなく、定期的なPDCAが必要です。


ステップ1:負債のキャッシュフロー・デュレーションを把握する
まず数理人と連携して、将来の年金給付キャッシュフロー(支払い予測)とその時価(PBO)を算出します。


デュレーション(金利感応度)も計測します。


これが全ての出発点です。


ステップ2:財政基準とPBOの乖離を確認する
予定利率ベースの責任準備金と、市場金利ベースのPBOがどれだけ乖離しているかを確認します。乖離が大きいほどLDI導入時のリスクが複雑になるため、年金コンサルタントと「どちらの負債を主軸に管理するか」を事前に議論しておくことが必要です。


ステップ3:資産のデュレーションと負債のデュレーションを比較する
現状の資産ポートフォリオのデュレーション(例:野村BPI総合で約7年)と、負債のデュレーション(例:15年)のギャップを確認します。ギャップの大きさが、金利変動時の積立比率悪化リスクの大きさを示します。


ステップ4:グライドパスを設計する
積立比率の水準に応じてリスク資産配分とマッチング資産配分を変えるトリガー表を作成します。積立比率が100%を超えたらLDI比率を高め、95%を下回ったらリスク資産比率を戻すなど、事前にルール化しておくことが重要です。


ステップ5:流動性バッファーを確保する
英国の危機から最大の教訓です。LDIにスワップやレポを活用する場合、マージンコールに対応できるだけの流動性準備(短期国債・現金等価物)を確保します。具体的な水準は運用機関・信託銀行と相談するのが確実です。


日本で年金ALM・LDI関連の情報を体系的に収集するには、企業年金連合会の「年金運用実態調査」や厚生労働省の「企業年金の事業運営と資産運用について」(2023年11月)が信頼性の高い一次情報です。


参考:厚生労働省による企業年金の運用戦略とLDI解説
企業年金の事業運営と資産運用について - 厚生労働省(2023年11月)


参考:LDIの学術的検討(証券アナリスト協会・受賞論文)
LDIは確定給付年金を救えるか - 証券アナリストジャーナル(ニッセイ基礎研究所・臼杵政治氏)