
カウンターパーティリスク規制における測定手法の中核となるのが、2014年3月にバーゼル銀行監督委員会が公表した「カウンターパーティ信用リスクエクスポージャーの計測に係る標準的手法(SA-CCR)」です。この新手法は、従来のカレント・エクスポージャー手法(CEM)に代わるものとして開発されました。
SA-CCRの主な特徴:
SA-CCRでは、有担保取引の場合に所要資本額が大幅に削減されるよう設計されています。従来のCEMでは有担保・無担保取引に同一パラメータが適用されていましたが、SA-CCRは担保の効果を適切に評価します。
またストレス期間として直近5年間のリスクファクターのボラティリティを考慮することで、より保守的な与信相当額の算出が可能になっています。
リーマンショック後に注目されるようになったCVA(Credit Valuation Adjustment:信用評価調整)リスクは、カウンターパーティの信用力変動に伴う公正価値の変動リスクを指します。
CVAリスクの規制対応:
CVAリスクは「カウンターパーティ・リスクの市場価値」に相当するものとして、従来の信用リスクとは異なる視点でリスクを捉えます。具体的には、取引相手の信用スプレッドの変動が取引の時価評価に与える影響を測定します。
測定手法としては、標準的方式(SA-CVA)、基礎的方式(BA-CVA)、または銀行のカウンターパーティ・リスクに係る資本賦課の100%といった選択肢が用意されています。
期待エクスポージャー方式(Expected Positive Exposure:EPE方式)は、将来のエクスポージャーの変動を統計的に測定する高度な手法です。この方式では、モンテカルロ・シミュレーションを用いて将来の市場環境を予測し、各時点でのエクスポージャーの期待値を算出します。
EPE方式の計測要件(改正告示):
この手法では、10日間の保有期間を基準とした統計的なリスク計測が行われます。標準的手法採用行は、ポートフォリオごとに上記二つの計測値を比較し、より保守的な値を採用することが求められています。
ストレステスト及びバックテスティングの強化も図られており、金融機関はモデルの精度と妥当性を継続的に検証する必要があります。
実務への導入効果として、みずほ銀行では「期待エクスポージャー方式・先進的CVA導入効果の試算、計測手法・計算エンジンの作成」といった具体的なサポートを提供しています。これは金融機関が新しい測定手法を導入する際の複雑性を物語っています。
システム対応の必要性:
テクマトリックス社が提供するSA-CCR計測システムでは、債券先物から通貨オプション、CDSまで幅広い金融商品に対応しており、アウトプットとして「ネッティングセット結果」や「カウンターパーティ結果」として与信相当額(EAD)、リスク・アセット額、所要資本額を算出します。
バーゼル銀行監督委員会は2024年12月に「カウンターパーティ信用リスク管理」に関する新たなガイダンスを公表しており、測定手法の更なる高度化が求められています。
今後の重点領域:
特に注目すべきは、手動調整プロセスの最小化とKPI・KRI(Key Risk Indicator)の枠組み設計です。技術の成果とデータ管理統制の両面から監視体制を構築し、重要な問題については専門の委員会への報告体制を整備することが求められています。
また、MIS(Management Information System)の重要性が改めて指摘されており、カウンターパーティリスクの報告体制についても継続的な見直しが必要とされています。
証券化商品においても、ムーディーズが独自のカウンターパーティ・リスク評価手法を開発するなど、格付機関レベルでの測定手法の高度化が進んでいます。これらの動向は、金融機関のリスク管理実務により精緻で包括的なアプローチを要求する流れを示しています。