
賃貸マンションの相続税評価額は、自用のマンションと比較して大幅に低くなります。これは借家権の存在により、物件の自由な利用に制限がかかっているためです。
貸家の評価額計算式
貸家の相続税評価額 = 自用建物の評価額 × (1 - 借家権割合)
借家権割合は原則として30%に設定されています。例えば、自用とした場合の評価額が2,000万円の建物を賃貸している場合。
この計算により、賃貸マンションは自用マンションより600万円も低い評価となります。
土地部分の評価
賃貸マンションの敷地部分についても、貸家建付地として評価減が適用されます。一般的に自用地の評価額から20~30%程度の減額が可能です。
兄弟間での相続税評価額をベースにした分割では、この評価減により、残りの遺産の取り分を増やせたり、代償金の支払いを抑えられたりするメリットがあります。
賃貸マンションを兄弟で相続する際の分割方法は、以下の4つから選択できます。
1. 現物分割
2. 代償分割
3. 換価分割
4. 共有分割
法定相続分による分割割合
兄弟のみで相続する場合の法定相続分は以下の通りです。
ただし、相続人全員が合意すれば、法定相続分とは異なる割合での分割も可能です。
共有分割は一見公平に見えますが、多くのリスクを伴います。相続の専門家の間では「共有は争続の始まり」と言われるほど、トラブルの原因となりやすい方法です。
共有名義の主なリスク
トラブル回避の対策
実際の統計によると、相続トラブルの約65%が兄弟姉妹間で発生し、その40%以上が「負の遺産」が原因となっています。賃貸マンションの場合、ローンの残債務がトラブルの火種となることも多いため、事前の対策が重要です。
賃貸マンションの貸主が亡くなった場合、賃貸借契約は自動的に終了せず、相続人が貸主の地位を継承します。この手続きには注意すべきポイントがあります。
賃貸人地位の継承
兄弟で相続する場合の対応
法定相続分で相続した場合、兄弟2人なら各1/2ずつの持分で貸主の地位を取得します。しかし、遺産分割協議により1人が単独で相続することも可能です。
入居者への対応手順
必要書類
賃貸契約の継承は相続開始と同時に発生するため、空白期間なく家賃収入を受け取ることができます。ただし、相続税の申告義務は別途発生するため、税理士への相談も必要です。
賃貸マンション相続では、一般的な相続税対策に加えて、特有の節税テクニックを活用できます。
小規模宅地等の特例活用
賃貸用不動産には「貸付事業用宅地等」として、200㎡まで50%の評価減が適用可能です。この特例により、土地の相続税評価額を大幅に圧縮できます。
借入金の有効活用
修繕積立金の計上
将来の大規模修繕に備えた積立金は、相続財産の評価額から控除できる場合があります。適切な積立計画により、実質的な相続税負担を軽減できます。
法人化による節税効果
年間家賃収入が一定額を超える場合、不動産管理会社の設立により所得分散効果を得られます。
配偶者の税額軽減との組み合わせ
配偶者が存命の場合、配偶者の税額軽減(1億6,000万円または法定相続分の大きい方まで非課税)と組み合わせることで、2次相続も含めた総合的な節税効果を得られます。
これらのテクニックを組み合わせることで、賃貸マンション相続時の税負担を大幅に軽減できる可能性があります。ただし、適用要件が複雑なため、税理士や相続専門家への相談は必須です。
相続発生前の対策
生前対策として、以下の方法も有効です。
兄弟間での相続トラブルを防ぐためには、生前からの準備と専門家のアドバイスが不可欠です。特に賃貸マンションのような収益不動産は、適切な対策により大きな節税効果を得られる一方、対策を怠ると重大なトラブルの原因となります。
相続は避けて通れない人生の重要な局面です。家族関係を維持しながら適切な相続を実現するために、早めの準備と専門家への相談をお勧めします。