寄与分の計算と介護で損しない相続の全知識

寄与分の計算と介護で損しない相続の全知識

寄与分の計算と介護で知っておくべき相続の全知識

7年間献身的に介護しても、相続で認められた寄与分はわずか37万円だった。


この記事の3つのポイント
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介護の寄与分の計算式を完全解説

「介護報酬日当額 × 介護日数 × 裁量的割合(50〜80%)」が基本。要介護度ごとの日当額・実例シミュレーションも紹介します。

⚠️
認められないケースと要件の厳格さ

「要介護2未満」「証拠なし」では寄与分はほぼ認められません。扶養義務の範囲とみなされると、長年の介護も法的評価ゼロになります。

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今すぐ始めるべき証拠収集と期限

特別寄与料は相続開始から1年で権利消滅。介護日誌・領収書・診断書を今日から記録しておくことが、将来の相続交渉で大きな差を生みます。


寄与分とは何か|介護と相続の基本的な関係を整理する


親の介護を何年も続けてきたにもかかわらず、遺産分割のときに他のきょうだいと「均等」に分けることになる――そんな不公平感を解消するための法的な制度が「寄与分」です。


民法904条の2に規定されている制度で、被相続人(亡くなった方)の財産の維持または増加に「特別の貢献」をした相続人は、貢献した分だけ多く遺産を受け取れる、というものです。つまり、介護という行為が財産の節約(介護施設・ヘルパー費用の不要化)につながれば、その金額が寄与分として上乗せされる仕組みです。


ただし、大事な前提があります。寄与分は「相続人」にしか認められません。


たとえば長男の妻(嫁)が義親を10年介護していても、その嫁自身は相続人ではないため、原則として寄与分の主張はできないのです。驚かれた方も多いのではないでしょうか。


2019年の民法改正により、相続人以外の親族(嫁や孫など)には「特別寄与料」という別の制度が創設されました。これが使えるかどうかも後述します。


寄与分は遺産分割協議(相続人全員の話し合い)の場で主張します。全員が同意すれば成立、まとまらない場合は家庭裁判所調停審判に移行します。遺産分割協議は全員の合意がないと成立しないため、一人でも反対すれば認められません。だからこそ、計算根拠の明確さと証拠の整備が不可欠になるのです。


| 項目 | 寄与分 | 特別寄与料 |
|------|--------|------------|
| 請求できる人 | 相続人のみ | 相続人以外の親族(嫁・孫など) |
| 請求先 | 遺産分割協議 | 相続人に対して直接請求 |
| 期限 | 相続開始から10年以内 | 相続開始・相続人を知ってから6か月以内(最長1年) |


寄与分が基本です。


介護の寄与分が認められる6つの要件|「介護した」だけでは不十分な理由

「何年も介護したのだから当然もらえるはず」と思っている方に、まず知っておいてほしい事実があります。介護をしたからといって、自動的に寄与分が認められるわけではありません。


法律上、寄与分として認められるには以下の要件をすべて満たす必要があります。


- ① 療養看護が必要不可欠であったこと:要介護認定では目安として「要介護2以上」が求められます。自力でトイレに行けない、常時介助が必要な状態が該当します。


- ② 特別の貢献であること:民法上、親子間には扶養義務があります(民法877条)。食事の用意・送迎・洗濯程度は扶養義務の範囲内とみなされ、「特別の貢献」にはなりません。


- ③ 継続性があること:数日や数ヶ月の介護は認められにくく、少なくとも数年単位の継続が求められます。


- ④ 介護負担が相当大きいこと:正社員を辞めた、無職になったなど、経済的な犠牲を伴うレベルの負担が必要です。


- ⑤ 財産の維持・増加に貢献していること:介護によって専門業者へのアウトソース費用が不要になった事実が必要です。


- ⑥ 無償または低廉であること:有償で介護サービスを提供していた場合は認められません。


これは厳しいですね。


特に問題になるのが②の「特別の貢献」という要件です。専門家への依頼で不要になった費用、つまり「お金の節約」と結びつかない介護は、いくら献身的であっても法的評価が低くなります。


2023年の最高裁判例(東京高裁令和5年11月28日決定)では、看護師の資格を持つ長女が仕事を辞めてまで7年以上在宅介護した事案で、法的に認められたのはわずか「最後の81日間のみ」、金額は37万円という結論でした。母親がトイレにポータブルを使わざるを得なくなった時点(要介護2相当)からの期間しか「特別の寄与」と評価されなかったのです。


介護7年で寄与分37万円とした東京高裁令和5年決定の詳細解説(陣法律事務所)


この判例が示すのは、要件を満たすハードルの高さです。「感情的な介護の苦労」と「法律的に評価される介護の貢献」には、大きなギャップがあることを理解しておくことが重要です。


介護の寄与分の計算方法|具体的な数字でシミュレーションする

寄与分の額は遺産分割協議での相続人同士の合意で決まりますが、裁判・調停の実務でよく使われる計算式があります。介護タイプ(療養看護型)の場合は以下の式が基本です。


寄与分 = 介護報酬相当額(日当)× 療養看護日数 × 裁量的割合


それぞれの要素を確認しましょう。


📌 介護報酬相当額(日当)


国が定める介護報酬基準額を参考にします。以下が現在の目安です。


| 要介護度 | 日当の目安 |
|----------|-----------|
| 要介護1 | 約4,020円 |
| 要介護2 | 約5,840円 |
| 要介護3 | 約5,840円 |
| 要介護4 | 約6,670円 |
| 要介護5 | 約7,500円 |


地域によって介護報酬には地域加算があるため、被相続人が住んでいた地域の単価を確認することが大切です。


📌 裁量的割合(0.5〜0.8が一般的)


介護者が専門の有資格者ではないこと、親子間の扶養義務があること、専門業者の報酬には経費・利益が含まれることなどを考慮して調整する割合です。実務では50〜80%程度が一般的とされています。裁判所が個別の事情で決定するため、根拠のある数字を提示できることが重要です。


📌 計算シミュレーション


たとえば、要介護3の親を3年間(約1,095日)在宅介護していた場合を考えてみましょう。


> 5,840円(日当)× 1,095日(3年)× 0.7(裁量的割合)= 約447万円


3年間の介護で約447万円が目安額として計算できます。もっと具体的に、2年間・要介護4・裁量0.6であれば。


> 6,670円 × 730日(2年)× 0.6 = 約292万円


このように、同じ「2〜3年の介護」でも要介護度と裁量的割合の組み合わせ次第で大きく変わります。


遺産分割協議で寄与分を主張するとき、「○年頑張ったから500万円」という曖昧な主張では他の相続人を説得できません。上記の計算式に当てはめ、根拠のある金額として提示することが最初のステップです。


なお、計算した金額が認められた場合の各相続人の取り分は次の式で算出します。


寄与者の相続分 =(遺産総額 − 寄与分)× 法定相続分 + 寄与分


例:遺産1,000万円、相続人3人(長男・次男・長女)、長女の寄与分100万円の場合


- 長女:(1,000万円 − 100万円)× 1/3 + 100万円 = 400万円
- 長男・次男:(1,000万円 − 100万円)× 1/3 = 300万円ずつ


これが計算の基本です。


5つのタイプ別寄与分の計算方法・具体的シミュレーション解説(リーガルプロ)


寄与分を認めてもらうための証拠収集|今すぐ始めるべき記録の残し方

どれほど計算式が正確でも、証拠がなければ寄与分の主張は崩れます。実際、先述の東京高裁判例でも、第一審(家庭裁判所)ではYの寄与分が「証明する資料が足りない」としてゼロとされていました。


証拠収集は早ければ早いほど有利です。以下の書類・記録を日頃から積み重ねておきましょう。


🗂 証拠として有効なもの(療養看護型)


- 要介護認定の通知書:要介護2以上を示す最も強力な証拠。申請すれば市区町村から取得できます。


- 医師の診断書・カルテのコピー:「常時介護が必要な状態であった」ことを裏付けます。


- 介護日誌:日付・介護内容・時間数を記録。「いつ・何を・どのくらい」が一目でわかる形にしておくことが重要です。


- 介護サービスの契約書・領収書:介護者が費用を負担していた場合、宛名は「介護した本人」にすること(親の名前にすると証明力が下がります)。


- ポータブルトイレ・介護用品の購入レシート:状態の悪化時期を客観的に示す証拠になります(前掲判例で決定打になった証拠の一つ)。


- ケアマネージャー・医療スタッフの陳述書:第三者の目線からの証言は非常に有効です。


- 写真・動画:介護状況の記録として活用できます。


介護日誌は必須です。


また、要介護認定を受けていなかった場合でも、上記の間接証拠を組み合わせることで「要介護2相当」を推認してもらえる可能性があります。前述の東京高裁判例がまさにそのケースで、要介護認定なしでも高裁が覆した事例として重要な参考になります。


記録は「介護が始まったと思われる日から」つけるのが理想ですが、今日から始めるだけでも十分価値があります。一日5分の日誌が、将来の相続協議で何百万円もの差を生むことがあるのです。


相続人以外(嫁・孫など)が使える「特別寄与料」と期限の落とし穴

前述の通り、介護を頑張っても「相続人ではない」場合は寄与分を主張できません。しかし、2019年(令和元年)7月1日施行の民法改正で「特別寄与料」制度が創設されました。これは金融に関わる制度として、相続対策を考える方には必ず知っておいてほしい知識です。


特別寄与料の基本的な仕組みはこうです。


被相続人の親族(相続人以外)が、無償で被相続人の療養介護をしていた場合、相続人全員に対して「特別寄与料」を請求できます。


たとえば、長男の妻(嫁)が義母を5年間介護し、施設費用を節約させていた場合、相続人(夫の兄弟姉妹を含む)に対して特別寄与料として金銭を請求できます。ただし、内縁の配偶者や同性パートナーなど、法律上の親族関係がない方は対象外です。


特別寄与料の計算式は寄与分と同じで、「介護報酬相当額(日当)× 介護日数 × 裁量的割合」で算出するのが一般的です。


ここで特に注意しなければならないのが「期限」です。


| 時効・除斥期間の種類 | 内容 |
|---------------------|------|
| 寄与分の時効 | 相続開始から10年以内(2023年4月民法改正) |
| 特別寄与料の消滅時効 | 相続開始と相続人を知ってから6か月 |
| 特別寄与料の除斥期間 | 相続開始から1年(超えると権利が完全消滅) |


期限には要注意です。


特別寄与料は「6か月または1年」という非常に短い期限があります。葬儀や各種手続きに追われている間にうっかり過ぎてしまうと、長年の介護の貢献が法的に一切評価されなくなります。親族が亡くなった段階で、まず「自分は特別寄与料を請求できる立場か?」を弁護士や司法書士に確認することを強くおすすめします。


実際には、特別寄与料の請求を受けた相続人側が支払いを拒否するケースも多く、その場合は家庭裁判所への調停申し立てが必要です。調停でも合意しなければ審判へと移行します。この手続きを見据えた準備のためにも、介護の証拠収集は在宅介護の開始当初から行うべきです。




特別受益・寄与分の理論と運用-裁判例の分析を中心として-