仮差押えの手続きと債権回収の効果・費用を徹底解説

仮差押えの手続きと債権回収の効果・費用を徹底解説

仮差押えの手続きと効果・費用・リスクを徹底解説

仮差押えの申立てに成功しても、預金残高がゼロなら1円も回収できず供託金だけ失います。


この記事のポイント
📌
仮差押えとは何か

裁判で勝訴する前に、債務者の財産(不動産・預金など)を一時的に凍結して保全する手続き。民事保全法に基づき、判決前でも申し立てが可能。

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費用の相場と注意点

申立費用(印紙代2,000円)は安いが、供託金は請求額の10〜30%が必要。弁護士費用を合わせると総額30〜50万円超になるケースも。

⚠️
申立人にも損害賠償リスクあり

本訴で敗訴した場合、仮差押えの申立人は相手方から損害賠償を請求される可能性がある。供託金だけでなく賠償金のリスクも把握しておくことが重要。


仮差押えと差押えの違い|金融実務で必ず押さえるべき基本


「仮差押え」と「差押え」は、似た名前でも法的な根拠も目的もまったく異なります。この違いを混同したまま手続きを進めると、取り返しのつかないロスにつながるため、まず確実に整理しておきましょう。


差押えとは、裁判で確定判決などの「債務名義」を取得した後に、その判決を実現するために債務者の財産を強制的に処分する手続きです。根拠法令は民事執行法で、すでに権利が確定しているため担保金(供託金)は不要です。


一方、仮差押えは「まだ裁判中」あるいは「これから裁判を起こす前」の段階で、財産が散逸・隠匿されるリスクを防ぐため、暫定的に財産の処分を禁止する手続きです。根拠法令は民事保全法(第20条)で、債務名義がなくても申立てができます。これが大きな特徴です。


つまり、債権回収の流れで言えば「仮差押え → 本訴(裁判)→ 勝訴判決(債務名義)→ 差押え(強制執行)」という順番になります。仮差押えはあくまで「保全」であり、仮差押えだけでは債権回収は完結しません。


仮差押えで財産の処分を止めるのが原則です。
































仮差押え 差押え(強制執行)
根拠法令 民事保全法 民事執行法
実施タイミング 裁判前・裁判中 確定判決後
債務名義の要否 不要 必要
供託金 必要(請求額の10〜30%) 不要
目的 財産の保全(処分禁止) 財産の換価・債権回収


金融取引や企業間の債権回収においては、仮差押えが「先手の一手」として機能します。意外ですね。


仮差押えの手続きの流れ|申立てから命令発令まで5ステップ

仮差押えの手続きは、訴訟と比べて迅速に進むのが大きな特徴です。裁判で判決を得るには半年〜1年かかるのに対し、仮差押えの命令は早ければ申立てから数日〜2週間程度で発令されます。ただし、申立てには緻密な準備が必要です。


ステップ1:申立書の作成と裁判所への提出


仮差押命令申立書を作成し、相手方(債務者)の所在地を管轄する裁判所、またはその対象財産が所在する地域の裁判所に提出します。申立書には「被保全権利(自分の債権の存在)」と「保全の必要性(財産が散逸するリスク)」の2つを明記し、それぞれの疎明資料を添付します。


疎明資料とは、証明より緩やかな一応の証拠のことです。


疎明資料の具体例としては、契約書・請求書・督促状のコピー、内容証明郵便の控え、メールや FAXのやり取り記録、相手方の信用状態に関する調査書や陳述書などが該当します。収入印紙代は原則として1件2,000円と安価ですが、郵便切手は債権仮差押えで約3,000円、不動産仮差押えで約2,000円が必要です。


ステップ2:裁判官との面接


申立後、数日〜1週間程度で裁判官との面接が設定されることが多いです。仮差押えは相手方(債務者)に知らせずに行う手続きであるため、通常の法廷とは異なり、申立人(債権者)と裁判官が非公開の場で疎明内容を確認します。この面接は審尋とも呼ばれ、口頭で主張を補足する重要な機会です。


ステップ3:担保金の決定と供託


裁判官が要件を満たすと判断した場合、担保金(供託金)の額が決定されます。金額の相場は以下の通りです。



  • 不動産仮差押えの場合:請求額または不動産価格の15〜20%程度

  • 債権・預金仮差押えの場合:請求額の20〜30%程度


たとえば、1,000万円の売掛金を保全したい場合、20〜30%なら200〜300万円の供託金が必要です。週給30万円の給与取得者が約7〜10ヶ月間まるごと働いた分に相当する額です。担保金は法務局に供託し、供託正本の写しを裁判所に提出します。


ステップ4:仮差押命令の発令


供託手続きが完了すると、裁判所から仮差押命令が発令されます。仮差押命令は第三債務者(金融機関や取引先)に送達された時点で効力が生じます。これにより、対象財産の処分が法的に禁止されます。


ステップ5:本訴の提起


仮差押えは保全手続きにすぎないため、一定期間内に本訴(本案訴訟)を提起しなければ、相手方から「起訴命令」を求められ、仮差押えが取り消される場合があります。本訴が条件です。


参考リンク(仮差押え手続きの流れについての詳細な解説・東京地方裁判所)。
保全事件の申立て|東京地方裁判所


仮差押えの供託金と弁護士費用|意外に高額な総コストの実態

仮差押えを「低コストで使える手段」だと考えているなら、それは大きな誤解です。裁判所への申立費用(印紙代2,000円)は確かに安い。しかし、実際にかかる総コストは別の話です。


最大のコストは供託金です。供託金は「担保金」とも呼ばれ、仮差押えが誤った判断だった場合に相手方の損害を補填するための保証金として法務局に預けます。前述の通り、請求額の10〜30%が相場であり、1億円の不動産を仮差押えしようとすると1,500万〜2,000万円もの供託金が必要になる計算です。


これは痛いですね。


供託金は手続き終了後に取り戻せる(還付される)のが原則ですが、取戻しには「担保権利者(相手方)の同意」または「勝訴判決による権利確定」が必要であり、簡単には戻りません。特に、相手方が損害賠償を主張している場合は、担保金から損害賠償に充当される可能性があります。


弁護士費用については、仮差押えの保全申立て自体で30〜50万円(着手金+報酬金)が一般的な相場です。その後の本訴(裁判)が続く場合は、さらに同程度あるいはそれ以上の費用がかかります。


費用の内訳をまとめると以下の通りです。



  • 📄 申立費用(収入印紙+郵便切手):約5,000円前後

  • 🏦 供託金:請求額の10〜30%(数十万〜数千万円)

  • 👨‍⚖️ 弁護士費用(保全申立て):30〜50万円程度

  • ⚖️ 弁護士費用(本訴):着手金+報酬金で別途発生


供託金は、手続き成功後も含めてキャッシュフローに影響します。特に中小企業や個人事業主にとっては、請求債権の回収を目的に手続きを起こしながら、それ以上の現金を一時的に拘束されるリスクがある点を十分に認識しておく必要があります。


参考リンク(供託金の相場や還付手続きについての解説)。
仮差押えの供託金は取り戻せる!担保金の基礎知識や還付の大まかな流れ|ベンナビ債権回収


仮差押えが債務者の信用・銀行取引を一瞬で壊す連鎖反応

仮差押えは「財産を凍結する」だけの手続きではありません。実際には、それ以上のダメージが債務者側に波及することがあります。金融実務に携わる人間であれば、この連鎖を正確に理解しておく必要があります。


まず、銀行預金に仮差押えが執行されると、その口座は凍結されます。債務者はその預金を引き出せなくなるため、日常の資金繰りが即座に滞ります。さらに深刻なのが「期限の利益の喪失」です。


銀行取引約定書の多くには「仮差押えを受けたとき、当然に期限の利益を失う」旨の条項が盛り込まれています。これが発動すると、銀行は債務者に対して「残りのローンを全額今すぐ返せ」と一括請求できる状態になります。つまり、仮差押えを受けた債務者は、仮差押えの相手方(債権者)への返済だけでなく、金融機関からも同時に全額請求を受けるリスクが生じるのです。


期限の利益喪失が条件です。


さらに、取引先や取引金融機関に仮差押えの事実が知れ渡ることで、信用不安が広がります。百貨店や量販店などとの継続的な取引も打ち切られることがあり、中小企業の場合、これが倒産の引き金になるケースも現実に存在します。


債権者側からすれば、「任意の支払いに応じさせるための心理的プレッシャー」として仮差押えを活用するという戦略的側面もあります。仮差押えを受けた相手が「これ以上引き延ばすと経営危機になる」と判断し、裁判を待たずに任意弁済してくるケースも少なくありません。これは使えそうです。


参考リンク(仮差押えと期限の利益喪失の関係についての専門的解説)。
なぜ預金は仮差押えられたのか〜仮差押えと期限の利益喪失事由〜|長島・大野・常松法律事務所


仮差押えの落とし穴|「空振り」と申立人側の損害賠償リスク

仮差押えには、申立てた側(債権者)にも見落とされがちなリスクが2つ存在します。一般的には「仮差押えは債務者にとってのリスク」と思われがちですが、実は申立人にとっても大きなリスクを伴う手続きです。


落とし穴①:「空振り」による無駄コスト


仮差押え命令は、「命令が第三債務者に送達された時点での残高」に対してのみ効力が生じます。つまり、仮差押命令が銀行に届いたときに口座残高がゼロだった場合、仮差押えは完全に空振りになります。


供託金を用意して弁護士費用を払い、手間をかけて申立てしたにもかかわらず、1円も保全できないというケースは実務上珍しくありません。このリスクを避けるために、給与振込や売掛金の入金タイミングを事前に調査し、残高が最大になる日時を狙って申立てをするのがプロの戦略です。これが原則です。


落とし穴②:申立人への損害賠償請求リスク


仮差押えは「裁判前の暫定的な措置」であるため、後の本訴で申立人が敗訴した場合、その仮差押えは不当な手続きだったと見なされます。この場合、申立人(債権者)は相手方(債務者)から損害賠償を請求される可能性があります。


判例では、原則として申立人の過失が推定されるため、敗訴した側が「故意・過失がなかった」と証明する必要があります。実務的には、仮差押えを受けた企業が取引先から取引を停止されたとして、損害賠償請求訴訟を起こす事例も起きています(最判平成31年3月7日参照)。



  • ⚠️ 敗訴すると、供託した担保金が相手の損害賠償に充当される可能性がある

  • ⚠️ 担保金以上の損害賠償を請求されるケースもある

  • ⚠️ 仮差押えの取り下げをした場合も、一定期間内に相手方が損害賠償請求権を行使できる


こうした高いリスクを持つ手続きだからこそ、仮差押えの申立てを検討する際は「勝訴の見通しが十分にあるか」を弁護士と事前に綿密に確認しておくことが不可欠です。弁護士費用は確かにかかりますが、見通しの甘い仮差押えで損害賠償まで抱えることに比べれば、遥かに安全な投資といえます。


参考リンク(仮差押えの申立人が負うリスクと損害賠償についての解説)。
仮差押えを検討すべき場合について|岡本・上遠野法律事務所


仮差押えを実際に使う場面と債権回収を成功させる独自視点

仮差押えの手続きや費用・リスクを理解した上で、「では実際にどんなシーンで使うべきか」という実践的な判断基準を整理します。ここでは、検索上位記事ではあまり触れられていない「使うべき局面の見極め方」という独自視点でまとめます。


仮差押えが有効な3つの局面



  • 💼 取引先が支払いを約束しながら引き延ばしており、資産隠匿の動きが見える場合

  • 📉 取引先の財務悪化・信用不安の兆候(手形不渡り情報、登記の動向など)が確認できた場合

  • 🏠 取引先が不動産を近く売却・譲渡しようとしている情報が入った場合


「まだ訴訟になっていないから」という理由で仮差押えを先送りにすることが最大のリスクです。仮差押えは「訴訟前でもできる」ことがポイントであり、財産が失われてから動いても手遅れになります。


財産調査を先に行うことが成否を分ける


仮差押えを「空振り」させないためには、相手の財産状況を事前に把握することが重要です。不動産については登記事項証明書(登記簿謄本)で確認でき、法務局またはオンラインで取得できます(手数料は1件480〜600円程度)。預金口座については、確定判決取得後であれば2020年4月施行の改正民事執行法による「第三者からの情報取得手続」を使い、裁判所を通じて金融機関に残高照会ができます。仮差押えの段階では弁護士による調査・情報収集が現実的な手段です。


財産調査が条件です。


仮差押えと本訴のセット戦略


債権回収を最終的に実現するには、仮差押えはあくまで「スタートの一手」です。財産を保全した上で速やかに本訴を提起し、確定判決(債務名義)を取得して初めて差押え(強制執行)へと進めます。この全体の流れを最初から見通した上で仮差押えに踏み込むことが、無駄な費用と損失を防ぐ最大のポイントです。


特に企業間の債権回収において、仮差押えから本訴・強制執行まで一貫して対応できる弁護士に依頼することが、実質的な回収率に直結します。初回無料相談を活用し、まず「勝訴の見通し」「相手の財産の状況」「かかる費用の総額」を確認するのが現実的な第一歩です。


参考リンク(企業間債権回収における仮差押えの実務的な手続きと戦略の解説)。
不動産、銀行口座(預金)、債権など仮差押の手続きの進め方|企業法務弁護士ナビ




ケースブック保全・執行のための不動産の調査: 仮差押え・差押えに活かす探索・調査・評価の実務