

インパクト投資が「社会貢献のための寄付的な投資」だと思っているなら、それは大きな機会損失です。
インパクト投資とは、「財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的・環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資行動」です。これはGlobal Impact Investing Network(GIIN)が示す国際的な定義であり、金融庁をはじめとする公的機関でも採用されています。
従来の投資は、「リスク」と「リターン」の2軸で価値判断を行うのが一般的でした。つまり、どれだけ損をするリスクがあり、どれだけ利益が得られるかという計算のみで投資先を選んでいたわけです。インパクト投資はここに「インパクト(社会的・環境的な変化と効果)」という第3の軸を加えた点が最大の特徴です。
重要なのは、この「インパクト」はリターンとトレードオフの関係にあるわけではないという点です。つまり、「社会貢献をするために利益を犠牲にする投資」ではありません。財務リターンと社会的インパクト、どちらも両立させることを目的とする点で、寄付や慈善事業とは根本的に異なります。
ここで「インパクト」という用語自体の定義を確認しておきましょう。GIINおよびGSG国内諮問委員会の定義によれば、インパクトとは「事業や活動の結果として生じた、社会的・環境的な変化や効果(短期・長期問わない)」を指します。環境負荷の軽減、貧困削減、教育機会の拡大など、社会課題の解決に向けた具体的な成果がインパクトに該当します。
つまりインパクト投資とは、こういうことですね。「儲けながら、世界をより良くする投資行動」です。
インパクト投資の市場規模は、近年急速に拡大しています。GSG Impact JAPANの調査によると、2024年度の日本のインパクト投資残高は17兆3,016億円に達し、前年度の11兆5,414億円から約50%増加しました。世界全体では2024年時点で約1.57兆ドル(約236兆円)規模とされており、直近5年間で約3倍に成長しています。日本円に換算すると、日本の国家予算(約120兆円)を超える規模が世界で運用されているイメージです。
この急拡大の背景には、SDGs(持続可能な開発目標)の普及や気候変動問題への関心の高まり、さらにはミレニアル世代・Z世代が「自分の価値観に合ったお金の使い方」を強く志向するようになったことがあります。単に利益を得るだけでなく、社会にどんな影響を与えているかを重視する投資家層が世界規模で増えています。
参考情報:日本のインパクト投資市場規模の最新推移(GSG Impact JAPAN発行の2024年度調査報告書)
日本におけるインパクト投資の現状と課題 -2024年度調査 | GSG Impact JAPAN
インパクト投資を他の投資と明確に区別する上で、GIINが定める4つの構成要素(Key Elements)を理解することが欠かせません。これらの要素が揃って初めて「インパクト投資」と呼べるのが、グローバルスタンダードです。
① 意図の存在(Intentionality)
投資家が「社会的・環境的課題の解決に貢献する」という明確な意図を持って投資を行うことです。結果的に社会に良い影響が生じたとしても、その意図がなければインパクト投資には該当しません。この「意図」の有無が、インパクト投資と一般的なESG投資・責任投資を分ける最大のポイントです。
② 財務的リターンを目指すこと(Financial Returns)
インパクト投資は「一定の財務的リターンを目指すこと」を要件とします。市場平均と同等のリターンを狙う場合も、それを下回るリターンを許容する場合もありますが、リターンを全く求めない寄付・補助金・助成金はインパクト投資には含まれません。これが慈善事業との違いです。
③ 投資資産の多様性(Range of Asset Classes)
インパクト投資は、株式・債券・融資・リース等の多様なアセットクラスを対象にします。特定の投資商品に限定されるわけではなく、プライベートエクイティ、上場株式、グリーンボンド、ソーシャルインパクトボンド(SIB)など、幅広い手段でインパクト投資が実行可能です。
④ インパクトの測定・管理(Impact Measurement and Management)
社会的・環境的成果を定量的・定性的に測定し、継続的にモニタリングして報告を行うことが求められます。「良いことをしているつもり」では不十分で、実際に何が変わったかを数値で把握することがインパクト投資の条件です。この点が最も他の投資との大きな違いと言えます。
インパクトの管理が条件です。4つすべてが揃わないと、正式なインパクト投資と認められません。
この測定プロセスを「社会的インパクト評価」と呼び、例えば「CO₂排出量を年間〇〇トン削減した」「途上国で〇〇人が安全な飲料水を得られるようになった」といった具体的なアウトカムを定量化します。投資家にとっては、お金がどのように社会を変えているかが「見える化」されることで、投資判断の根拠が明確になるわけです。
参考情報:金融庁が公表したインパクト投資の概要資料(4つの構成要素の詳細)
金融庁「インパクト投資」概要資料(PDF)
インパクト投資を調べると、必ずESG投資との比較が出てきます。両者は「社会や環境を考慮した投資」という点では共通していますが、本質的に異なる概念です。
まずESG投資とは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の観点から企業を評価し、その評価が高い企業や銘柄に投資する手法です。主な目的は、ESGリスクを適切に評価することで投資リスクを軽減し、長期的な財務リターンを高めることにあります。つまり、「ESGへの配慮が高い企業は長期的に成長する」という仮説に基づく投資戦略です。
一方でインパクト投資は、投資を通じて特定の社会課題を解決するという「意図」を持ち、かつその成果を「測定」することを必須とします。ESG投資の場合、企業のESGスコアを評価基準にするだけで、実際に社会に与えた変化を測定する必要はありません。インパクト投資はそこが違います。
以下の表で整理すると、より違いが鮮明になります。
| 比較項目 | ESG投資 | インパクト投資 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 投資リスクの軽減と長期リターン向上 | 社会・環境課題の解決+財務リターン |
| 課題解決への意図 | 必須ではない | 必須(Intentionality) |
| インパクト測定 | 必須ではない | 必須 |
| 主な投資対象 | 上場企業が中心 | 上場・未上場企業の両方 |
| 投資家の種類 | 機関投資家が中心 | 機関投資家+個人投資家 |
注意したいのが、「ESG投資はリターンが高くてインパクト投資は低い」とは言い切れない点です。インパクト投資においても市場水準と同等のリターンを狙うケースは多く、GIINの調査では一定数のインパクト投資ファンドが市場競争力のあるリターンを実現しています。
どちらが優れているということではありません。投資家の目的や価値観によって、使い分けるものです。社会課題の解決に直接貢献したい場合はインパクト投資、企業の長期的な持続可能性を重視しながらリスク管理もしたい場合はESG投資が適していると言えます。
参考情報:ESG投資とインパクト投資の詳細な比較(GLIN Impact Capital)
「インパクト投資」と「ESG投資」を比較する | GLIN Impact Capital
インパクト投資は抽象的な概念ではなく、すでに多くの具体的な形で実践されています。代表的な事例を分野ごとに見ていきましょう。
🌱 再生可能エネルギー投資
太陽光・風力・地熱発電など、脱炭素に貢献するエネルギー事業への投資は、インパクト投資の王道とも言えます。途上国の太陽光発電プロジェクトへの投資は、電力インフラが整っていない地域に電力を供給しながら、CO₂排出の削減という二重のインパクトを生み出します。
💳 マイクロファイナンス
開発途上国の貧困層に小口融資を提供するマイクロファイナンスは、インパクト投資の先駆的な形態です。代表例として、バングラデシュのグラミン銀行が世界的に知られています。同行は設立以来、数百万人もの貧困層に融資を提供し、ノーベル平和賞(2006年)を受賞しました。これは財務的リターンと社会課題解決の両立を体現した事例です。
📄 ソーシャルインパクトボンド(SIB)
SIBは、官民連携で社会課題に取り組む仕組みです。投資家が民間事業者に資金を提供し、事業の成果目標が達成された場合に自治体・政府が投資家に元利金を支払う「成果連動型」の債券です。日本でも医療・介護・就労支援などの分野で活用が始まっています。「成果が出なければ政府が払わない」という構造のため、効果測定が自然と組み込まれています。
🏢 日本の金融機関の取り組み事例
国内でも金融機関によるインパクト投資の実践が広がっています。日本政策投資銀行(DBJ)は2019年に英国のSIB専門ファンド運営会社「Bridges Fund Management」との戦略的パートナーシップを締結し、グローバルなインパクト投資に参画しています。また、三井住友DSアセットマネジメントが運用する「世界インパクト投資ファンド」は個人投資家でも購入可能な公募投資信託として、楽天証券などで取り扱われています。
これは使えそうです。インパクト投資は、特定の富裕層や機関投資家だけのものではなく、個人投資家にも開かれた手段が増えています。
参考情報:日本政策投資銀行によるSIBへの取り組みと事例
成果連動型契約(PFS)/ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)への取り組み | 日本政策投資銀行
インパクト投資に対してよくある誤解のひとつが、「社会貢献を優先するため、リターンは低くなる」という思い込みです。これは必ずしも正確ではありません。
GIINが実施した「Global Impact Investor Survey 2020」(回答者約290名)の結果によると、回答者の68%がリターンは期待通りまたは期待以上だったと回答しています。また、同調査においてPE/VCセクターのインパクト投資ファンドのIRR(内部収益率)は平均9.68%と報告されており、これは一般的な同セクションのベンチマークと大きな差はないとされています。
ケンブリッジアソシエイツの2020年Q2調査では、運用規模1億ドル超の大規模インパクト投資ファンドのIRRが平均6.03%、1億ドル以下の小規模ファンドで8.6%という結果も出ています。新興国市場に焦点を当てたIFCの調査でも、S&P500の長期リターンに匹敵する成果が確認されています。
つまり「インパクト投資は儲からない」はダメです。正確なデータを見ると、規模の大きなインパクト投資ファンドの多くは市場水準に近いリターンを出しています。
ただし、注意すべき点もあります。インパクト投資は概して長期投資前提であり、短期的な値上がり益を追う投資スタイルには向きません。社会課題の解決には時間がかかるため、投資の成果が出るまでに数年単位を要するケースが多いです。また、投資先によっては流動性が低く(売りたいときにすぐ売れない)、特にスタートアップへの直接投資は高リスク・低流動性になりやすいことも覚えておく必要があります。
さらに、グリーンウォッシュ(環境への貢献を実態以上に見せる行為)やインパクトウォッシュ(社会への貢献を実態以上に主張する行為)のリスクも存在します。インパクトの測定方法にはまだ国際統一基準が十分に整備されておらず、「インパクト投資と称しているが、実際のインパクトは曖昧」という問題も一部で指摘されています。投資先を選ぶ際には、インパクト測定の方法や報告内容を精査することが重要です。
参考情報:インパクト投資の財務リターンに関する分析(ImpactShare)
インパクト投資の基礎:インパクト投資は儲かるのか? | ImpactShare
機関投資家だけのものというイメージが強いインパクト投資ですが、個人投資家でも参加できる手段は着実に増えています。代表的な4つの方法を整理します。
📊 ① 上場インパクト投資信託(投資信託)
最も手軽な入口です。三井住友DSアセットマネジメントの「世界インパクト投資ファンド」など、公募の投資信託として購入できる商品が国内でも展開されています。楽天証券などの証券口座があれば、数千円〜数万円程度の少額から購入可能で、専門家が運用を行うため投資の知識が少なくても始めやすいのが特徴です。インパクト投資の入門として最も現実的な選択肢と言えます。
🌐 ② 株式投資型クラウドファンディング(ECF)
インターネットを通じて、社会的インパクトを持つスタートアップや非上場企業に小口で株式投資する方法です。最低投資額は約10万円程度のケースが多く、個人でも参加しやすい仕組みになっています。ただし、スタートアップへの投資はリスクが高く、売却(エグジット)までに数年〜10年程度かかるケースもあることを理解した上で参加することが前提です。
🏦 ③ グリーンボンド・ソーシャルボンド
国や地方自治体、企業が発行する社会・環境目的の債券です。資金使途が明確で、調達した資金が再生エネルギーや社会インフラ整備など特定の目的にのみ使われます。リターンは株式ほど高くはありませんが、元本が比較的安定していることから、リスクを抑えてインパクト投資に参加したい方に向いています。
🔎 ④ インパクト投資専門ファンド(PE/VC)
機関投資家向けが主流ですが、一部のプライベートエクイティやベンチャーキャピタル型インパクトファンドは富裕層個人にも開放されています。最低投資額は数百万円以上になるケースが多いため、ある程度の資産規模が前提となります。
個人投資家が最初の一歩を踏み出すなら、まずは公募投資信託からが基本です。投資信託で商品のインパクトレポートを確認しながら「社会的インパクトを測定する」という感覚に慣れてから、ECFやボンドへと幅を広げていくのが現実的な流れです。
特定の投資商品について詳しく調べたい場合には、金融庁が運営する「NISA・積立NISA」制度のページや、各証券会社の商品ページで最新情報を確認することをおすすめします。
参考情報:インパクト投資の種類と始め方について(シュローダー・インベストメント・マネジメント)
【インパクト投資ガイドブック】インパクト投資に必要な5つのステップ | Schroders
この視点は他の記事ではあまり取り上げられませんが、インパクト投資には財務リターン以外にも、個人の資産形成戦略として見逃せない価値があります。
まず、ポートフォリオ分散効果です。インパクト投資が対象とする分野(再生可能エネルギー、ヘルスケア、農業技術、教育など)は、一般的な株式市場の動向と相関が低い場合があります。特にマイクロファイナンスや社会的事業への投融資は、株式市場が下落しているときでも比較的安定したパフォーマンスを示すケースがあり、全体的なリスク分散に貢献する可能性があります。
次に、長期成長分野へのアクセスという視点です。気候変動対策・再生エネルギー・サーキュラーエコノミー(循環型経済)は、各国政府の政策的後押しを受けながら今後数十年にわたって成長が見込まれる産業分野です。インパクト投資を通じてこれらの分野に早期から投資することは、中長期的な財務リターンの観点からも理にかなっています。
そして見落としがちなのが、「報告書を読む力」が鍛えられるという点です。インパクト投資ではインパクト測定と開示が義務付けられているため、投資先から受け取る報告書には非財務情報が豊富に含まれています。これを読み解く習慣を持つことで、ESGスコアや統合報告書の読み方にも自然と習熟します。将来的に機関投資家レベルの分析眼を養うトレーニングとしても機能するわけです。
長期的な視点が原則です。インパクト投資で得られる「見えないリターン」は、ポートフォリオの質を底上げする効果を持っています。
また、2024年度の国内インパクト投資残高が前年比150%増という急拡大を見せている日本市場において、インパクト投資の「目利き力」を早い段階で身に付けることは、今後ますます増える商品・サービスを選別する上で大きなアドバンテージになります。世界の残高が236兆円規模という市場は、今後も成長が続くと予測されており、その波に乗るための準備を今から始めることには十分な合理性があります。
市場の急拡大に伴い、「インパクトウォッシュ」とも呼ばれる実態を伴わないインパクト投資商品が増えるリスクも高まっています。投資家として自衛するために、GIIN基準の4要素(特に「測定・管理」)を念頭に置きながら商品を選ぶ姿勢が重要です。インパクトレポートの有無と内容の具体性は、商品選びの重要な判断基準になります。
参考情報:インパクト投資の国内外の動向と展望(三井住友リサーチ&コンサルティング)
国内のインパクト投資の動向~上場企業のインパクトの可視化や市場規模の拡大 | SOMPO