

利回りが低い債券なのに、グリーンボンドを買うと長期的な税務メリットを見逃すことがあります。
グリーンボンドへの投資を検討するとき、最初にぶつかる疑問が「なぜ普通の債券より利回りが低いのか」という点です。この現象には「グリーニアム(Greenium)」という専門用語があります。グリーン(Green)とプレミアム(Premium)を組み合わせた造語で、グリーンボンドの価格が同条件の通常債券より高く(つまり利回りが低く)なる状態を指します。
債券の価格と利回りは逆方向に動きます。多くの投資家がグリーンボンドを欲しがれば、需要が高まって価格が上昇し、その分だけ利回りが押し下げられるわけです。これが基本です。
2020年9月、ドイツが発行した10年物グリーンボンドで、同年限の通常のドイツ国債より利回りが約0.01%(1ベーシスポイント)低下するという事例が確認されました。一見すると小さな差のように思えますが、機関投資家が数百億円単位で運用する場合、この差は無視できない規模になります。
📌 グリーニアムの大きさに関する学術研究(Zerbib, 2019)によれば、平均的なグリーニアムは約2ベーシスポイント(0.02%)とされています。
さらに具体的な日本国内の事例として、2023年に発行された主なグリーンボンドの利回りを見ると、住宅金融支援機構(20年物)で1.000%、三井不動産(10年物)で0.810%、東急不動産(5年物)で0.450%などが確認されています。これらは日本国内の円建てグリーンボンドの利回り水準の目安であり、同年限の普通社債と比べると若干低めの水準で発行される傾向にあります。
つまりグリーニアムということですね。
グリーンボンドの利回りが低くなる根本的な理由は、ESG投資への社会的関心が高まり投資家の需要が旺盛であるからです。「環境問題の解決に貢献したい」「ESGへの取り組みをアピールしたい」という動機を持つ機関投資家が集まることで、需要過多の状態が生まれます。この結果、発行体は普通債よりもコストを抑えながら資金調達が可能になる一方、投資家側は利回りを犠牲にすることになります。
グリーンボンドが選ばれる背景には以下の要素があります。
参考:グリーンボンドの原則や定義について詳しくは環境省のポータルサイトを参照してください。
「利回りが低いのに買うのはおかしい」と感じる人も多いでしょう。しかし、グリーンボンドを積極的に購入している投資家層には、明確な合理的根拠があります。意外ですね。
最も大きな理由の一つが、機関投資家によるESGコミットメントの義務化です。国連責任投資原則(PRI)に署名した機関投資家は、運用においてESGを考慮することを宣言しています。2024年時点でPRI署名機関は世界で5,000社を超えており、年金基金や保険会社などがグリーンボンドを購入することは、ESG投資の実践として評価されます。
これは使えそうです。
つまり、「利回りが低くても買わなければならない」という半ば制度的な需要が、グリーンボンド市場を支えているという側面があります。この構造を理解しておくことが、グリーンボンドの利回りが低い理由の本質的な理解につながります。
2つ目の理由は、長期的な財務リスクの軽減に対する期待です。グリーンボンドを発行する企業や自治体は、一般的にESGへの取り組みに積極的であり、環境規制の強化・気候変動リスクに対応した事業運営をしていると見なされます。つまり「低利回りを許容しても、長期的に安定した企業に投資できる」という判断が働くわけです。
3つ目は、国際的な規制環境の変化です。EUタクソノミー規制やサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)の整備が進む欧州では、ESG適格な資産への投資が実質的に義務付けられる方向にあります。これらの規制に対応するためにも、機関投資家はグリーンボンドを一定割合でポートフォリオに組み込む必要が生じています。
参考:PRIに関する詳細とESG投資の世界的な普及状況については以下を参照してください。
グリーンボンドには利回りが低いというデメリットのほかに、見落とされがちなリスクが複数あります。これを知らずに投資すると、意図せず損失につながる可能性があります。
最初のリスクは「グリーニアムによる収益機会の損失」です。たとえば同じ発行体、同じ年限で通常の社債とグリーンボンドが並んで発行されたとき、利回りに2〜10ベーシスポイント(0.02〜0.10%)の差があれば、運用規模によっては年間収益に数百万〜数千万円規模の差が生じます。利回り最優先の個人投資家にとっては、これは痛いですね。
2つ目のリスクは「グリーンウォッシュ」問題です。グリーンウォッシュとは、実際には環境改善への貢献が乏しいにもかかわらず、グリーンボンドとして発行されるケースを指します。外部認証機関の評価を経ていても、グリーンプロジェクトとして認められる基準が完全に統一されておらず、環境貢献の実効性が曖昧な銘柄も存在します。環境省もグリーンウォッシュ防止の観点から、投資家保護の強化が重要と指摘しています。
グリーンウォッシュが基本です。見分けるためのポイントは以下のとおりです。
3つ目のリスクは「個人投資家にとっての購入機会の制限」です。グリーンボンドのほとんどは機関投資家向けに設計されており、最低購入金額が数百万円〜1億円以上に設定されているケースが多くあります。個人が購入可能な銘柄は、東京都の「東京グリーン・ブルーボンド」など限られています。
参考:グリーンウォッシュの問題と見分け方については以下が参考になります。
環境省「グリーンボンド及びサステナビリティ・リンク・ボンド ガイドライン」(PDF)
2025年3月、グリーンボンドを取り巻く市場に重大な変化が起きました。地方自治体が共同発行するグリーン共同債で、通常の地方債との利回り差(グリーニアム)が消滅したのです。
ブルームバーグの報道によれば、2025年3月14日に発行条件が決定したグリーン共同債(10年物)のスプレッドは9ベーシスポイント(0.09%)となり、同月に埼玉県・千葉県が発行した通常の10年地方債と同水準になりました。2022年から続いてきた10年地方債のグリーニアムが消えた形です。
結論は「グリーニアムは永続しない」です。
これは投資家にとって何を意味するのでしょうか?グリーニアムが存在する間は、発行体にとって「低コストで資金調達できる」というインセンティブがありました。しかし、そのメリットが消えれば、追加コスト(外部評価費用・レポーティングコスト)がかかるグリーンボンドを発行する経済合理性が薄れます。
実際に、発行コスト面から考えるとグリーンボンドには通常債にはない付帯コストが発生します。外部認証機関への審査費用・発行後の継続的なレポーティング費用などが加わるため、グリーニアムがなければ発行体は「割に合わない」と判断する可能性が高くなります。
さらに世界全体でも変化の兆しが見えています。2025年の世界のグリーンボンド等ESG債の発行額は8,480億〜8,710億ドル程度にとどまり、1兆ドルラインを大きく割り込みました。これは前年比で約2割弱の減少という大幅な落ち込みです。
参考:グリーニアム消滅の詳細な市場動向については以下をご参照ください。
ここまでで、グリーンボンドの利回りが低い仕組みとリスクが見えてきました。では、実際に投資を検討する個人投資家にはどのような選択肢があるのでしょうか?
まず確認しておきたいのは、個人が買えるグリーンボンドは現時点でかなり限られるということです。東京都が発行する「東京グリーン・ブルーボンド」は、数少ない個人向けグリーンボンドの代表例です。2024年12月発行分は米ドル建てで、税引前の利率は3〜5%の範囲で条件決定されました(外貨建てのため為替リスクに注意が必要です)。
一方、円建てで機関投資家向けに発行される国内グリーンボンドの多くは、最低購入単位が1億円以上となっており、個人投資家には現実的ではありません。この点が条件です。
個人がグリーンボンドにアクセスする現実的な方法は大きく3つあります。
投資にあたって一番重要なのは、「ESGに貢献したい気持ち」と「利回りへの期待」のバランスです。グリーンボンドは利回りだけを追う商品ではありません。ESG貢献という非財務的な価値を重視するかどうかが、購入判断の分かれ目になります。
グリーンウォッシュリスクへの対策として、購入前には必ず外部評価機関の認証有無を確認しましょう。JCR(日本格付研究所)やR&I(格付投資情報センター)などが評価を行っており、これらの評価付き銘柄を選ぶことで、不適切な資金使途のリスクを一定程度抑えることができます。
参考:個人向けグリーンボンドの最新情報と購入条件については以下で確認できます。
環境省 グリーンファイナンスポータル「国内における主なグリーンボンド発行事例」