

カラ期間を受け取っても、年金額は1円も増えません。
合算対象期間とは、年金保険料を実際に納付していないにもかかわらず、老齢年金の受給資格を判断するための「10年(120ヵ月)要件」にカウントできる期間のことです。別名「カラ期間」とも呼ばれます。この名称は、年金額の計算には反映されない「空(カラ)」の期間という意味から来ています。
重要なのは、この期間が「受給資格を得るためのカウント」にしか使えないという点です。つまり、合算対象期間が長くても、もらえる年金額は増えません。年金額が増えるのは、あくまで保険料納付済み期間や保険料免除期間に限られます。
外国人にとってこの制度が特に重要なのは、日本に移り住んだ時期が遅く、60歳までに10年分の保険料納付期間を積み上げられないケースが少なくないからです。たとえば40歳で来日し、60歳まで働いた場合、保険料納付期間は最大20年ですが、それ以前の海外在住期間や特定の在日期間を合算対象期間として使えることで、受給資格が生まれるケースがあります。
合算対象期間が認められる主なケースは以下のとおりです。
| 対象者 | 対象期間 | 備考 |
|---|---|---|
| 帰化または永住許可を受けた外国人 | 20歳以上60歳未満の海外在住期間(帰化・永住許可前) | 日本上陸後は国民年金の被保険者となるため対象外 |
| 帰化または永住許可を受けた外国人 | 昭和36年4月〜昭和56年12月の在日期間(外国籍であったため加入除外だった期間) | 昭和57年1月以降は外国人も強制加入のため対象外 |
| 日本人 | 昭和61年4月以降の海外居住期間(任意加入しなかった期間) | 20歳以上60歳未満に限る |
| 平成3年3月までの学生 | 学生であった期間(任意加入しなかった期間) | 夜間・通信制は除く |
つまり合算対象期間が原則です。保険料を払えなかった・払わなかった事情がある方も、制度の仕組みを知れば受給権が発生するケースがあります。
参考:合算対象期間の詳細は日本年金機構の公式ページで確認できます。
外国人が合算対象期間を活用するためには、いくつかの条件を満たす必要があります。最大のポイントは「帰化または永住許可を受けているかどうか」です。この条件を満たさない場合、海外在住期間や以前の在日期間は合算対象期間として認められません。
帰化または永住許可を受けた方が使える合算対象期間は、大きく2種類あります。
1つ目は「20歳以上60歳未満の海外在住期間のうち、帰化・永住許可前の期間」です。たとえばフィリピン出身の方が25歳から30歳まで本国にいた後、30歳で来日し35歳で永住許可を取得した場合、25歳から30歳までの5年間が合算対象期間の候補になります。
2つ目は「昭和36年4月から昭和56年12月までの間、外国人として在日していた期間」です。この時期は、外国人が国民年金に加入できない(除外されていた)時代でした。昭和57年1月から外国人も強制加入になったため、それ以降の期間は合算対象期間にはなりません。これは意外ですね。
ここで注意が必要なのは、国籍取得の時期です。昭和36年5月1日以前にすでに日本国籍を取得していた場合、「外国人として在日していた期間」という概念が成立しないため、この区分の合算対象期間は発生しません。昭和36年5月1日以降に日本国籍を取得または永住許可を受けた方のみが対象です。
また、カラ期間の適用を受けるには、年金請求時点で有効な永住許可を持っている必要があります。過去に永住許可を受けていても、請求時点で無効になっていた場合は適用外になる可能性があるため、在留資格の維持は非常に大切です。
海外在住期間を証明するためには、20歳以降の出入国がわかるパスポートがすべて必要になります。パスポートを紛失している場合は、出入国在留管理庁で「外国人登録原票」を取得するか、出入国管理記録を請求する必要があります。これが結構大変です。
参考:横浜市の公式ページで帰化・永住許可を受けた外国人の合算対象期間が確認できます。
外国人が日本から帰国する際に請求できる「脱退一時金」は、一見お得な制度に見えます。国民年金または厚生年金の保険料を6ヵ月以上納付し、年金受給資格を持たない状態で帰国した場合、出国後2年以内に請求できます。令和7年度の支給額は、納付期間60ヵ月以上で525,300円(国民年金分)です。
しかし、脱退一時金を受け取ってしまうと、その分の加入期間が合算対象期間にも含まれなくなります。痛いですね。
たとえば、8年間日本で保険料を納めた後に帰国し、脱退一時金を受け取った方が後から永住権を取得して再来日した場合、8年間の期間は受給資格のカウントから外れます。残る期間だけで10年の受給資格を積み上げなければなりません。
さらに、脱退一時金を受け取った期間は合算対象期間にもカウントされないため、カラ期間での補填もできません。これが最大の落とし穴です。将来的に日本への再定住を考えている方や、永住権取得を視野に入れている方は、脱退一時金の請求を慎重に検討する必要があります。
一方、脱退一時金を受け取らずに帰国した場合、保険料納付済み期間は将来の受給資格として残ります。社会保障協定を結んでいる国の出身者であれば、自国の年金加入期間と日本の加入期間を通算して受給資格を判断してもらうことも可能です。
脱退一時金の請求を急ぐ前に、次の点を確認することが重要です。
- 日本への再来日・永住の可能性があるか
- 母国と日本の間に社会保障協定があるか
- 日本での保険料納付期間が受給資格(10年)に近いか
これが条件です。この3点を検討してから判断すれば、数十万円規模の損失を避けられる可能性があります。帰国前に最寄りの年金事務所に相談することを強くおすすめします。
参考:脱退一時金の要件・金額・手続きの詳細は日本年金機構で確認できます。
「日本の年金加入期間が短くて受給できない」と諦めている方にとって、社会保障協定の存在は大きな可能性を開く仕組みです。これは使えそうです。
日本は現在、ドイツ・アメリカ・フランス・フィリピン・インドなど20ヵ国以上と社会保障協定を締結しています。この協定により、日本と相手国の年金加入期間を「通算」して、それぞれの国の受給資格を判断してもらえるケースがあります。
たとえば、フィリピン出身の方が日本で7年間保険料を納め、フィリピンで5年間加入歴がある場合、合計12年の加入期間として判断されるため、日本の老齢年金の受給資格(10年)を満たせます。この場合、日本からは7年分に相当する年金額が支払われ、フィリピンからはフィリピンの年金制度に応じた額が支払われます。つまり両方から受け取れるということです。
ただし、注意点があります。英国・韓国・中国・イタリアとの協定には「通算規定」がないため、加入期間を足し合わせることができません。また、社会保障協定はあくまで「受給資格の判断」に相手国の期間を使うものであり、年金額の計算は実際に加入していた期間のみに基づきます。
合算対象期間と社会保障協定を組み合わせれば、受給資格の達成がさらに有利になるケースもあります。カラ期間で日本の保険料納付済み期間を補完しつつ、協定国の加入実績も加算できれば、老後の年金設計がより安定します。
自分が対象かどうかは、日本年金機構の窓口または年金事務所で無料確認できます。在住国の日本大使館・領事館に問い合わせる方法もあります。
参考:社会保障協定の相手国と通算の仕組みは、日本年金機構の公式ページで詳しく解説されています。
合算対象期間を実際に老齢年金の請求に活用するには、その期間を証明する書類を年金請求書と一緒に提出する必要があります。手続きをしなければ、当然ながら受給資格は認められません。書類が必須です。
外国人が合算対象期間を証明する際に必要な主な書類は以下のとおりです。
外国籍の方が海外在住期間を証明する場合は、在留証明書の代わりに、自国の戸籍・住民票に相当する書類、または公的機関や公証人が発行・証明した書類(英文可、翻訳が必要な場合あり)を使うことができます。
手続きの流れとしては、老齢年金の受給開始年齢(原則65歳)の3ヵ月前から請求できます。手続き自体は最寄りの年金事務所または市区町村の国民年金窓口で行います。海外居住者の場合は、在住国の日本大使館・領事館経由または日本年金機構への郵送でも請求可能です。
注意点として、書類の準備に時間がかかるケースが多く、特に古いパスポートの保管状況や出入国在留管理庁への外国人登録原票の請求は、数週間かかる場合があります。年金請求の3〜4ヵ月前から動き出すのが現実的です。
複雑だと感じた場合は、社会保険労務士に相談するという選択肢があります。カラ期間の確認から書類収集・請求手続き代行まで依頼できるため、抜け漏れを防ぎやすくなります。
参考:合算対象期間を証明するための書類一覧は、厚生労働省の公式PDFで詳しく確認できます。
ここでは、合算対象期間がどのように役立つかを、具体的な数字を使って整理します。結論はシンプルです。
【ケース1:永住権を取得した40代来日者の場合】
中国出身のAさん(現在55歳)は、20歳から35歳まで中国に在住し、35歳で来日。来日後に永住許可を取得しました。60歳まで働いた場合、保険料納付済み期間は25年(300ヵ月)です。これに加え、帰化・永住許可前の海外在住期間(20歳〜35歳の15年間=180ヵ月)が合算対象期間として認められれば、合計は40年(480ヵ月)となります。
ただし、年金額は保険料納付済み期間(300ヵ月)のみを基に計算されます。老齢基礎年金の満額が月約68,000円(令和6年度水準)とした場合、300ヵ月分(480ヵ月満額のうち)の比率で計算すると、月約42,500円程度が目安です。
【ケース2:保険料納付期間が短い場合】
インドネシア出身のBさんは50歳で来日、永住許可取得後に60歳まで働いて保険料納付済み期間は10年(120ヵ月)。さらに20歳から50歳までの海外在住期間30年が合算対象期間に認められます。受給資格はクリアできますが、年金額は120ヵ月分の計算のみとなり、月約17,000円程度の見込みです。
受給額が少ない場合でも、老齢年金を受け取ることができるだけでなく、医療保険や税制上の優遇との関係で、生涯にわたって数百万円の差が出るケースもあります。少額でも受給権を得ることには大きな意味があります。
年金額を増やしたい場合は、60歳以降も任意加入して保険料を納める方法があります。65歳になるまで継続でき、最大5年分(60ヵ月)の保険料を上乗せすることができます。受給額を月数千円単位で増やせる可能性があるため、体力的・経済的に余裕があれば選択肢に入れる価値があります。
参考:社労士が詳しく解説している外国人向け合算対象期間・年金受給の事例は以下を参照してください。
外国籍の方の合算対象期間(カラ期間) - note(社労士解説)