
代襲相続において遺留分が認められるかどうかは、代襲相続人の立場によって大きく異なります。代襲相続で遺留分を請求できるのは、被相続人の直系卑属である孫やひ孫のみです。
具体的には以下のような場合に遺留分が認められます。
一方で、兄弟姉妹の代襲相続人である甥姪には遺留分の権利がありません。これは兄弟姉妹自体に遺留分が認められていないためです。民法第1028条では「兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として...」と規定されており、兄弟姉妹は明確に遺留分の対象外とされています。
この違いは相続順位と密接に関係しています。直系卑属(子・孫)は第1順位の相続人であり、配偶者と並んで最も強い相続権を有しています。一方、兄弟姉妹は第3順位の相続人であり、遺留分という最低限の取り分も保障されていません。
代襲相続が発生した場合、代襲相続人は被代襲者(本来相続するはずだった人)と同じ権利を引き継ぎます。そのため、被代襲者に遺留分があれば代襲相続人にも遺留分があり、被代襲者に遺留分がなければ代襲相続人にも遺留分はありません。
代襲相続人の遺留分割合は、被代襲者の遺留分割合と全く同じです。遺留分の基本的な計算方法を理解することで、具体的な請求額を算出できます。
まず、遺留分の総体的割合は以下のように定められています。
この総体的遺留分に各相続人の法定相続分を乗じることで、個別的遺留分が決まります。
具体的な計算例を見てみましょう。
被相続人:母親
相続財産:5,000万円
法定相続人:長男(既に死亡)、長女
代襲相続人:長男の子2人(孫)
この場合の遺留分計算は以下のようになります。
代襲相続人が複数いる場合は、被代襲者の相続分を人数で等分します。例えば、孫が3人いる場合は1/2 ÷ 3 = 1/6ずつとなり、遺留分も1/12ずつになります。
重要な点は、代襲相続人の遺留分は被代襲者の遺留分をそのまま引き継ぐということです。被代襲者が生きていたとしたら受け取れたであろう遺留分と同額を請求できます。
遺留分は自動的に受け取れるものではなく、必ず請求手続きが必要です。代襲相続人が遺留分を受け取るためには、遺留分侵害額請求を行わなければなりません。
請求手続きの流れは以下の通りです。
請求書に記載すべき内容は以下の通りです。
遺留分侵害額請求は金銭での支払いが原則です。2019年の相続法改正により、従来の現物返還から金銭請求に変更されました。これにより、不動産などの分割困難な財産でも、その価値に応じた金銭で解決できるようになっています。
代襲相続で遺留分を請求する際には、いくつかの重要な注意点があります。特に時効の問題は取り返しのつかない結果を招く可能性があるため、十分な注意が必要です。
遺留分侵害額請求の時効期間は以下のように定められています。
実際のケースでは、遺言書の存在を知らなかった場合や、遺言の内容が後から判明した場合など、侵害の事実を知る時期が相続開始時と異なることがあります。このような場合は、侵害を知った日から1年以内に請求すれば有効です。
請求時の重要な注意点。
代襲相続特有の注意点として、被代襲者の相続分を正確に把握することが重要です。法定相続分の計算が複雑になりがちなため、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
また、代襲相続人が未成年者の場合は、親権者が法定代理人として手続きを行います。ただし、親権者が相続人の一人でもある場合は利益相反となるため、特別代理人の選任が必要になることがあります。
遺留分侵害額請求は相続人間の関係に大きな影響を与える可能性があります。特に代襲相続の場合、世代を超えた複雑な人間関係が絡むため、慎重な判断と適切な手続きが求められます。
代襲相続において遺留分が認められない主なケースは、兄弟姉妹の代襲相続人である甥姪の場合です。しかし、このような状況でも相続権を確保するための対処法が存在します。
甥姪が相続権を確保する方法。
被相続人側の対策。
兄弟姉妹が相続人となる可能性がある場合、被相続人は以下の対策を検討できます。
注意すべき法的リスク。
甥姪が相続権確保のために行う対策には、以下のようなリスクも伴います。
特に重要なのは、被相続人の真意に基づく対策であることです。甥姪が無理強いしたと疑われるような状況は避け、被相続人の自由な意思決定を尊重することが大切です。
また、遺留分が認められない場合でも、相続税の優遇措置(小規模宅地等の特例など)については、甥姪も一定の条件下で適用を受けられる場合があります。税務面でのメリットも含めて総合的に検討することが重要です。
このような複雑な状況では、相続に詳しい弁護士や税理士等の専門家に相談し、個別の事情に応じた最適な対策を検討することをおすすめします。