ダイベストメントの意味と投資撤退の仕組みを解説

ダイベストメントの意味と投資撤退の仕組みを解説

ダイベストメントの意味と投資撤退の仕組みを理解する

化石燃料株を長期保有しているつもりが、すでに約40兆ドル分の資金が世界から引き上げられて株価が下押しされている。


📋 この記事の3つのポイント
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ダイベストメントの基本的な意味

「投資(Investment)」の反対語で、すでに投資している金融資産を引き揚げること。株・債券の売却から銀行融資の停止まで幅広い行為を指す。

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世界的な動向と規模感

2024年時点で1,600以上の団体が化石燃料ダイベストメントを表明し、撤退資産の総額は59兆ドル超。日本のメガバンクも国際的な批判の対象となっている。

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ESG投資との違いと個人ができること

ESG投資が「良い企業を選ぶ」のに対し、ダイベストメントは「問題ある企業から撤退する」手法。個人でも銀行・投資信託の選択から参加できる。


ダイベストメントの意味と語源をわかりやすく解説


ダイベストメント(Divestment)とは、すでに投資している金融資産を引き揚げる行為のことです。英語の「Investment(投資)」に否定の接頭辞「Di-」がついた対義語で、日本語では「投資撤退」や「投融資引き揚げ」と訳されることが一般的です。


具体的には、投資家が保有する株式や債券を売却すること、企業が自社の赤字部門や非中核事業を他社へ売却すること、そして銀行や金融機関が特定の企業・産業への融資を停止・引き揚げることなど、3つの形式がダイベストメントに含まれます。


つまり投資の逆回転です。


もともとダイベストメントは、経営的な文脈で使われてきた言葉でした。業績の悪い赤字事業を切り離し、企業の財務体質や企業価値を高める「選択と集中」の手段として、海外では古くから活用されています。たとえば、コングロマリット(複合企業)が不採算の子会社を売却して本業に集中するケースがこれにあたります。


近年、日本でもこの言葉が広く使われるようになったのには、特別な背景があります。環境・社会・ガバナンスを軸にした「ESG投資」の波が世界中に広まり、とりわけ「化石燃料ダイベストメント」として倫理的・環境的観点から資金を撤退させる動きが急速に拡大したことが大きな理由です。


語源を理解すると用語の整理が楽です。英語では「Divestment」のほかに「Disinvestment」「Divestiture」と表記されることもあります。「Divestiture(ダイベスティチャー)」は特に企業による事業売却・会社分割を指す場面で用いられ、近年のM&A用語としても注目されています。


野村證券 証券用語解説集|ダイベストメントの定義と解説


ダイベストメントの種類と化石燃料投資撤退の仕組み

ダイベストメントには、大きく分けて3つの種類があります。それぞれの意味を整理しておきましょう。






















種類 主な主体 具体的な行為
①持株・債券の売却 機関投資家・個人投資家 化石燃料関連企業の株式・社債を市場で売却
②自社事業の売却 事業会社 石炭部門・子会社を他社へ譲渡・売却
③融資の引き揚げ・停止 銀行・金融機関 石炭関連企業への新規融資禁止・借り換え拒否


この3種類の中でも、近年特に注目されているのが「化石燃料ダイベストメント」です。石油・石炭・天然ガスといった高CO₂排出産業から資金を引き揚げ、気候変動の加速を食い止めようという動きです。


これは単なる投資戦略ではありません。


化石燃料ダイベストメントの動きは、2011年に米国ペンシルベニア州のスワスモア大学の学生たちから始まりました。「大学への寄付金が石炭採掘事業に投資されていた」と気づいた学生たちが、大学に投資撤退を訴えたのがそのきっかけです。その後この運動は、米国の環境団体「350.org」の「Fossil Free(化石燃料フリー)」キャンペーンとして世界中に波及していきます。


2024年時点では、少なくとも1,600以上の団体が化石燃料関連企業からのダイベストメントを表明しており、撤退された資産の総額は59兆ドル(約8,800兆円)以上にのぼります。東京ドーム換算では意味が難しいですが、日本のGDP(約600兆円)の約14年分に相当する規模です。


また、化石燃料ダイベストメント以外にも、タバコ産業・武器産業・特定国の国債からのダイベストメントも存在し、海外の大手年金基金ではすでに実施している機関も少なくありません。


Sustainable Japan|ダイベストメントの種類と化石燃料ダイベストメントの詳細解説


ダイベストメントと座礁資産リスクの関係

ダイベストメントが世界中でこれほど急速に拡大している背景には、「座礁資産(Stranded Assets)」という概念が深く関わっています。座礁資産が原則です。


座礁資産とは、社会環境や規制の変化によって経済的価値が大幅に失われてしまうリスクのある資産のことです。2011年に英国のシンクタンク「Carbon Tracker Initiative」が「Unburnable Carbon(燃やせない炭素)」という報告書の中で初めて提唱した考え方です。


なぜ化石燃料が座礁資産になるのでしょうか?


パリ協定が掲げる「気温上昇を1.5℃に抑える」という目標を達成するためには、現在埋蔵されている化石燃料の大部分を地中に眠らせたままにしなければなりません。つまり、石炭や石油関連企業が保有する採掘権や設備は、将来的に「使えない資産」として価値を失う可能性があるのです。価値が失われる前に売却する、という判断がダイベストメントの背景にあります。


この座礁資産リスクは、投資家にとって非常に重大な財務リスクです。これは気が付きにくいリスクですね。


具体的な事例として、2015年にノルウェー政府年金基金(世界最大の政府系ファンドのひとつ)が石炭関連企業から投資を引き揚げると発表し、59社のリストを公表しました。このリストには日本の電力会社も含まれており、当時大きなニュースになりました。また2021年には、オランダの大手年金基金ABPが化石燃料関連企業への投資撤退を宣言し、関連資産150億ユーロ(約2兆円)超の売却を発表しています。


投資家がダイベストメントを決断するのは、「倫理的に問題があるから」という理由だけではありません。むしろ、「将来的に無価値になるかもしれない資産をいま手放しておくことが合理的だ」という純粋に財務的な判断もセットになっています。この点は、ダイベストメントを理解する上で非常に重要です。


ダイベストメントとESG投資・エンゲージメントの違い

ダイベストメントは、ESG投資の中の「ネガティブスクリーニング」に分類される手法です。この点を整理しておくと、投資手法の全体像が見えてきます。


ESG投資とは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の3要素を考慮した投資手法の総称です。ESG投資とダイベストメントは「正反対」と言われることがありますが、厳密には対義語ではなく、目的(企業の持続的な成長を後押しする)は同じで、アプローチが異なります。


以下に2つの手法の違いをまとめます。




















手法 スタンス メリット デメリット
ダイベストメント 問題企業から撤退 座礁資産リスクを回避できる・意思表明になる 売却後は企業への影響力がなくなる・分散効果が低下
エンゲージメント(株主行動) 株主として企業に働きかける 内側から企業変革を促せる・株主権を維持できる 変化に時間がかかる・効果が見えにくい


エンゲージメントとは、株主として企業に対してESG改善を求める対話・議決権行使のことです。ダイベストメントは株主の地位を手放す一方、エンゲージメントは株主権を維持しながら企業を変革しようとする点が根本的な違いです。


大和総研の分析では「ダイベストメントでは、投資家としての権利も有さないのであるから、企業を変革する影響力を行使できなくなり、投資を通じて社会を変えるというESG投資の理想に適さない」という批判的な見解も示されています。


どちらが正解かは状況次第です。


日本最大の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、運用資産規模が大きすぎるため単純なダイベストメント(ネガティブスクリーニング)は採用せず、エンゲージメントを主軸としたESG投資を推進しています。一方で、欧州の年金基金の多くはダイベストメントと並行してエンゲージメントも実施するというハイブリッドなアプローチをとっています。


また、東京大学の政策研究大学院(GraSPP)の論文では、「ダイベストメントをすると十分な分散効果が働かない。そうするとリスクが上がる。だから分散効果が働かないのでダイベストメントは採らない」という機関投資家の考え方も紹介されており、ポートフォリオ管理の観点からの批判も存在します。


GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)|ESG活動報告書 ダイベストメントとエンゲージメントの比較


ダイベストメントの日本での現状と個人投資家への影響

日本のダイベストメントの現状は、世界に比べて大きく遅れています。これは個人投資家にとっても無関係ではありません。


ドイツの環境NGOウルゲワルドとフランスのリクレイム・ファイナンス、国際環境NGO「350.org Japan」らが公表した調査報告書によると、2019年1月〜2021年10月にかけて石炭産業に融資した金融機関のうち、融資総額のワースト3を日本のメガバンクが独占しています。


- 🥇 みずほフィナンシャルグループ:約336億米ドル(約3.8兆円)
- 🥈 三菱UFJフィナンシャル・グループ:約231億米ドル(約2.6兆円)
- 🥉 三井住友フィナンシャルグループ:約204億米ドル(約2.3兆円)


痛いですね。


この事実は、私たち個人が銀行口座に預けているお金が、間接的に化石燃料産業を支援している可能性があることを示しています。個人の預金は銀行を通じて様々な企業に融資・投資されるため、どの金融機関を選ぶかが実質的なダイベストメントへの参加にもなり得るのです。


個人でできるダイベストメントとして、具体的には以下の方法があります。


- 💰 銀行・金融機関の見直し:化石燃料や原発への投融資が確認されていないとされる「COOL BANK(クールバンク)」(350.orgが認定)を選ぶ。日本の金融機関190社のうち60社が認定済み。


- 📈 投資信託・ETFの選択:ESGスコアの高い企業で構成された投資信託や、化石燃料関連企業を除外した指数に連動するETFを選ぶ。


- ✉️ 意思を届ける:実際の乗り換えが難しい場合でも、メガバンクへ化石燃料投融資撤退を求める署名や意見を届けることも一つのアクション。


この情報を活用する場面は預金口座の見直しです。ESGスコアや投融資方針を公開している金融機関を調べ、自分の価値観に合った口座・投資先に切り替えることが第一歩となります。まず「自分のお金がどこに流れているか」を確認することから始めてみてください。


350 Action Japan|世界の機関投資家・大学・年金基金によるダイベストメント事例集


また、国際環境NGO350.orgによると、日本の金融機関でCOOL BANKに認定された60社の中には、ネット銀行や地方銀行も含まれており、日常的な選択肢として十分に検討できます。auじぶん銀行やソニー銀行など、環境への取り組みを積極的に公表している銀行も選択肢として参考になります。




環境投資のジレンマ 反ESGの流れはどこに向かうのか (日本経済新聞出版)