座礁資産とは何か、ESG投資と脱炭素リスクを解説

座礁資産とは何か、ESG投資と脱炭素リスクを解説

座礁資産とは:ESG投資と脱炭素で変わるリスクの正体

化石燃料と無関係に見える「普通の株式ポートフォリオ」にも、座礁資産リスクは忍び込んでいます。


この記事でわかること
📌
座礁資産とは何か

市場・規制・技術革新によって価値が大幅に失われる資産の定義と、2011年に生まれた概念の背景を解説します。

⚠️
なぜ今、金融投資家が注目するのか

日本の石炭火力発電所だけで最大8兆9,240億円が座礁資産化するリスクがあり、あなたの保有銘柄の株価に直結します。

個人投資家が取るべき具体的アクション

ダイベストメントやESGポートフォリオの見直しなど、座礁資産リスクを回避するための実践的な知識を紹介します。


座礁資産の定義と「Unburnable Carbon」の起源


「座礁資産(Stranded Assets)」という言葉は、2011年に国際環境NGO「Carbon Tracker Initiative」が発表した報告書「Unburnable Carbon(燃やせない炭素)」の中で初めて体系的に提唱された概念です。その核心はシンプルです。地球の平均気温上昇を2℃以内に抑えるためのカーボンバジェット(許容CO2排出量)を計算すると、現在地下に埋蔵されている化石燃料の大部分は「物理的には存在するが、燃やすことができない資産」になる、という認識でした。


つまり、帳簿上は価値があるように見えていても、規制・技術・社会変化によって実際には使えなくなる資産が大量に存在するということです。これが「座礁(stranding)」の意味するところです。


一般的な定義としては「市場環境や社会環境の激変により、投資額を回収できる見通しが立たなくなった資産」とされています。化石燃料が代表例として広く知られていますが、現在ではその範囲はエネルギー部門にとどまりません。


オックスフォード大学スミス企業環境大学院は、座礁資産を生み出す要因として以下の6つを挙げています。



  • 🌍 環境問題の深刻化:物理的な気候被害が資産価値を直撃する

  • 🔄 資源配置の変化:シェール革命のように新資源が旧来資産を陳腐化させる

  • 📋 政府による新たな規制:カーボンプライシングや排出規制の強化

  • 💡 クリーン技術のコスト低下:再生可能エネルギーが化石燃料の経済優位性を奪う

  • 👥 社会規範と消費者行動の変化:ESG意識の高まりが需要構造を変える

  • ⚖️ 訴訟・法解釈の変更:気候訴訟の急増による法的リスクの拡大


「規制と技術の変化」が基本です。


TCFD提言(気候関連財務情報開示タスクフォース)が公表されたのは2017年ですが、座礁資産という概念が生まれたのは2011年です。金融業界がリスク管理フレームワークを整備するよりも前に、この問題は認識されていたわけです。言い換えると、長年にわたって「見えないリスク」として放置されてきた側面があります。これは意外ですね。


参考:Carbon Tracker Initiative「Unburnable Carbon」報告書の背景とTCFD提言との関係


座礁資産とは?座礁資産になる要因から解説(ReChroma)


座礁資産が生まれる主なリスク要因と化石燃料の現状

座礁資産のリスクを語るうえで、化石燃料は避けて通れない中心的テーマです。まず押さえておきたいのは「カーボンバジェット」の考え方です。世界の平均気温上昇を1.5℃以内に抑えるというパリ協定の目標を達成するためには、今後排出できるCO2の総量に上限が設定されます。現在、地球上に埋蔵されている化石燃料をすべて燃やした場合、この上限を大幅に超えることが試算されており、燃やせない化石燃料の量は膨大になります。


つまり膨大な量の化石燃料が、帳簿には資産として記載されながら、現実には使えないまま「座礁」する運命にあるのです。


石炭は座礁資産リスクが最も高い化石燃料とされています。日本について言えば、オックスフォード大学スミス企業環境大学院が2016年に公表した報告書によると、日本の石炭火力発電所が座礁資産となった場合の価値は、シナリオによって6兆8,570億円から8兆9,240億円(約616億〜802億ドル)に達するとされています。これは当時の対象電力会社の株式時価総額の約22.6〜29.4%、総資産の4.5〜5.9%に相当します。


その規模は、サブプライムローン問題に匹敵する金融システムへのストレスになり得るとも言われており、痛いですね。


天然ガスについても状況は変わりつつあります。かつて「脱炭素への橋渡し役」として位置づけられていた天然ガスですが、再生可能エネルギーのコストが急速に低下し、太陽光発電や風力発電との競争力を失いつつあります。経済産業省の試算では、遅くとも2030年には太陽光発電が日本で最も安価な発電方法になる見通しが示されています。この流れが加速すれば、1兆円超の投資を要する大規模LNGプロジェクトも将来的に座礁資産化するリスクがあります。


さらに重要なのは、座礁資産リスクは電力・エネルギー会社の問題だけではない点です。これが原則です。食品・製造・輸送など多くの産業が化石燃料を使うサプライチェーンに組み込まれており、上流の座礁リスクはドミノ倒しのように連鎖します。


参考:オックスフォード大学スミス企業環境大学院による日本の石炭火力の座礁資産規模試算


日本における座礁資産と石炭火力(オックスフォード大学スミス企業環境大学院、2016年)


座礁資産とESG投資・ダイベストメントの関係

座礁資産リスクが広く認識されるにつれ、機関投資家の行動様式が大きく変化しました。その代表的な動きが「ダイベストメント(Divestment:投資引き揚げ)」です。


ダイベストメントとは、座礁資産リスクが高いと判断された企業や産業から、意図的に投資を撤退させる行動です。最も広く知られた事例のひとつが、2015年のノルウェー政府年金基金(GPFG)による石炭関連株式の全面売却方針の決定です。この基金は当時、資産規模が約9,000億ドルにのぼる世界最大級の政府系ファンドであり、その決断は世界の投資家に大きな衝撃を与えました。


ESG投資とダイベストメントは表裏一体です。ESG(環境・社会・ガバナンス)基準に沿った投資先を選ぶことは、同時に非ESG的な資産からの撤退を意味します。世界のESG投資残高は2022年時点で30.3兆ドルを突破しており、この資金の流れが座礁資産候補から遠ざかっていることは、市場価格にも影響を与えます。


つまり、ESGに配慮した投資が広まれば広まるほど、座礁資産候補の株価は下落圧力を受けることになります。これはESG投資が単なる「倫理的投資」ではなく、純粋なリスク管理でもあるという意味です。これは使えそうです。


日本のESG投資の割合は、2022年時点で運用資産の約34%とされています(GSIA調査)。欧州の約50%には及びませんが、着実に増加しており、今後は日本でも機関投資家によるダイベストメントの圧力が強まると予想されます。


加えて、2026年からはEUで炭素国境調整メカニズム(CBAM)の本格運用が始まります。日本でも2028年の炭素税導入、2033年の発電事業者向け有償オークションが計画されており、規制面からも座礁資産リスクは高まる一方です。カーボンプライシングの導入が現実化しつつあることを、個人投資家もしっかり認識しておく必要があります。


参考:ノルウェー政府年金基金のダイベストメントやESG投資と座礁資産の関係性を詳説


不動産・グリーン資産にも広がる座礁資産リスク:見落とされがちな盲点

「座礁資産は石油会社や電力会社の問題」という認識は、すでに古くなっています。近年、金融・不動産業界では、建物(不動産)の座礁資産化リスクが深刻なテーマとして浮上しています。


日本では2025年から、延床面積に関わらず住宅を含むすべての新築建物に省エネ基準への適合が義務づけられました。この基準に適合しない既存の建物は、将来的に賃料の下落・テナントの退去・売却価格の大幅低下といったリスクを抱えることになります。これはまさに「不動産の座礁資産化」です。


国土交通省の資料でも、パリ協定の2℃目標達成のためには埋蔵化石燃料の3分の2は燃やせないという試算が示されており、不動産セクターもこの流れと無縁ではないと明記されています。不動産の省エネ性能を示す「グリーンビルディング認証」の取得件数は増加傾向にありますが、逆に言えば認証を持たない物件は将来的に「ブラウン資産」として市場から評価を下げられるリスクがあります。


さらに興味深いのは「グリーンウォッシング」への警戒が高まっている点です。つまり、脱炭素をうたいながら実態が伴わない投資や事業は、「グリーン資産のはずが座礁資産になる」という逆説的なリスクをはらんでいます。日経ビジネスの報道(2025年1月)では、カーボンニュートラルへの道が予想より遅れた場合、脱炭素投資そのものが座礁資産になる「グリーン座礁」の可能性も指摘されています。


これは座礁資産の最も意外な側面のひとつでしょう。再生可能エネルギーへの設備投資も、政策の方向性が変わったり技術革新の速度が想定と異なったりすれば、十分に回収前に価値が失われる可能性があります。つまり、「環境にいいから安全」という思い込みは禁物ということです。


個人投資家がこの問題を管理するうえで役立つのは、保有する不動産ファンドや企業がTCFDに基づいた気候関連リスクの開示をしているかどうかを確認することです。開示がしっかりしている企業は、少なくとも自社の座礁リスクを認識・管理しているというシグナルになります。TCFD賛同企業数は日本が世界最多クラスであり、開示情報を活用することが投資判断の第一歩です。



  • 🏢 省エネ基準不適合の既存ビル → 賃料低下・売却困難の座礁リスク

  • 🌱 グリーンウォッシング企業への投資 → 評判リスク+資産価値毀損

  • 🔋 政策変更に脆弱な再エネ設備 → グリーン座礁の可能性


参考:不動産と座礁資産の関係、省エネ基準と投資リスクについて国交省が詳細を解説


不動産投資市場におけるESG、SDGsの動向(国土交通省)


個人投資家が今すぐできる座礁資産リスクへの対応策

座礁資産リスクは、機関投資家だけの問題ではありません。個人が株式・投資信託・不動産投資信託(REIT)などを通じて間接的に保有している資産にも、座礁リスクは潜んでいます。では、具体的に何をすればよいのでしょうか?


まず最初に確認すべきは、自分の保有する金融商品の中に、高炭素型資産への依存度が高い銘柄が含まれていないかです。石炭・石油・天然ガスに強く依存した企業、省エネ対応が遅れている不動産会社、気候変動対策の開示が乏しい企業などは、今後の規制強化で資産価値が急落するリスクがあります。


次に活用したいのが、ESGスコアやTCFD開示情報です。主要な情報提供機関(MSCI、CDP、日経ESGなど)が各企業のESGスコアを公開しており、無料で確認できるものも多くあります。スコアが低い企業は、気候変動リスクへの対応が遅れていることを示すひとつの指標になります。これが条件です。


ポートフォリオ全体を見直す際は、以下の視点が参考になります。


































確認項目 チェックポイント なぜ重要か
化石燃料依存度 石炭・石油関連の売上比率 規制強化で収益が直撃される
TCFD開示状況 気候リスクの開示有無 リスク認識の有無が判断できる
再エネ移行計画 2030年・2050年目標の有無 長期的な資産価値の維持に直結
不動産の省エネ性能 グリーンビルディング認証 未取得物件は座礁資産化リスクあり
ESGスコア MSCI・CDPなどの評価 投資家の資金流入・流出の目安になる


ただし、ESGスコアが高い企業が必ずしも安全というわけではない点にも注意が必要です。グリーンウォッシングの問題があるため、スコアだけを鵜呑みにせず、実際の事業内容や排出量の実績データを確認する習慣をつけることが重要です。


また、投資信託を活用して座礁資産リスクを分散させる方法も有効です。日本でもESGに特化した投資信託や、パリ協定整合ポートフォリオを標榜するファンドが増えています。ただし、信託報酬や運用実績を比較した上で、自分のリスク許容度に合ったものを選ぶことが大切です。まずは一度、自分の保有銘柄のTCFD開示情報を確認するところから始めてみてください。


参考:CDPスコアやESGランキングを通じた企業の気候変動対応度を確認できる情報源


座礁資産(日経ESG)




座礁した資産 ジップパーカー