ネガティブスクリーニングとESG投資の手法と基準

ネガティブスクリーニングとESG投資の手法と基準

ネガティブスクリーニングとESG投資の仕組みと基準

ネガティブスクリーニングをESG投資だと思って選んだ投資信託が、実はESG投資に分類されていない可能性があります。


この記事の3つのポイント
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ネガティブスクリーニングの基本と除外基準

武器・タバコ・石炭など「罪ある株(sin stocks)」を投資対象から外す仕組みと、具体的な除外基準を解説します。

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実はESG投資ではない?定義をめぐる重要な論点

NPO法人JSIFは「ネガティブスクリーニングはESG投資に該当しない」と公式に表明。知らないまま選ぶと意図した投資と異なるリスクがあります。

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パフォーマンスへの影響と現代的な課題

除外した銘柄が高リターンを出す逆説、ウクライナ侵攻後の防衛産業問題など、知っておくべき最新論点を紹介します。


ネガティブスクリーニングの意味と歴史的背景

ネガティブスクリーニングとは、あらかじめ定めた基準に照らして「投資にふさわしくない」と判断した企業やセクターを、投資対象から除外する手法です。ESG投資の文脈でよく語られますが、その起源はESGよりもはるか前、19世紀末から20世紀初頭の宗教団体による資産運用にまで遡ります。


キリスト教団体が「アルコール、タバコ、ギャンブル関連の企業に投資すべきでない」という教義的・倫理的理由から、これらの銘柄を運用ポートフォリオから除いたのが始まりです。こうした除外対象の銘柄は英語で「sin stocks(罪ある株)」と呼ばれ、現在も業界用語として広く使われています。


つまり倫理的な動機が原点です。


20世紀後半に入ると、宗教的理由を超えて、社会的・環境的な問題意識に基づく除外も広がっていきました。ベトナム戦争時代には軍需産業への投資を拒否する運動が起き、アパルトヘイト政策下の南アフリカ関連企業へのダイベストメント(投資撤退)運動も国際的な注目を集めました。こうした流れを経て、今日のESGを意識したネガティブスクリーニングへと発展してきた経緯があります。


現代では、Global Sustainable Investment Alliance(GSIA)が分類するサステナブル投資の7手法のひとつとして位置づけられており、武器製造・石炭採掘・たばこ産業・ギャンブル・原子力発電・化石燃料など、多様な除外基準が投資家や運用機関によって設定されています。



ESGの基本的な概念については、環境省の公式資料も参考になります。


環境省 | ESG金融・環境情報開示について


ネガティブスクリーニングの除外基準となる具体的な業種・企業

除外される業種は、投資家・運用会社によって異なります。しかし実際によく見られる代表的なカテゴリは一定のパターンがあります。ここでは、特に頻繁に除外対象となる分野を整理してみましょう。


まず武器・軍需産業は、最も広く除外されているカテゴリです。とりわけクラスター爆弾、対人地雷、生物・化学兵器など、国際条約によって使用が禁止されている「論争的兵器(controversial weapons)」の製造に関わる企業は、多くの機関投資家が厳格に排除しています。国内でも、東京大学アセットマネジメント(TDAAset)は「生物・化学兵器、クラスター爆弾、対人地雷の生産・開発に関係する企業への投資を原則禁止」と明文化しています。


次に多いのが、たばこ・アルコール・ギャンブルです。これがいわゆる「sin stocks(罪ある株)」の典型で、宗教的・倫理的観点から長年にわたり除外されてきました。


石炭・化石燃料関連も近年急速に除外対象として広まっています。気候変動への対応を重視する投資家が増えたことで、石炭採掘企業や石炭火力発電会社を対象とした「ダイベストメント(投資撤退)」が世界的な潮流となっています。デンマークの年金基金PKAはすでに70社以上の石炭会社からダイベストメントを完了させており、こうした動きが欧州を中心に加速しています。


これは実践で使えそうです。


さらに、ポルノグラフィー・動物実験・遺伝子組み換え作物・児童労働に関連する企業なども除外リストに挙げられることがあります。除外基準は標準化されていないため、同じ「ネガティブスクリーニング対応ファンド」でも、運用会社によって除外される銘柄には差が生じます。投資信託を選ぶ際には、どの基準で何を除外しているかを目論見書で必ず確認することが重要です。




| 除外カテゴリ | 代表的な理由 | 主な対象の例 |
|---|---|---|
| 🔫 武器・軍需 | 国際条約・人道的理由 | クラスター爆弾製造企業、地雷関連企業 |
| 🚬 タバコ・アルコール・ギャンブル | 倫理的・宗教的理由(sin stocks) | たばこ製造大手、カジノ運営会社 |
| ⛽ 石炭・化石燃料 | 気候変動・環境リスク | 石炭採掘会社、石炭火力発電企業 |
| ☢️ 原子力 | 環境・安全リスク | 原子力発電関連企業 |
| 👶 児童労働 | 人権・国際規範 | 労働環境基準不適合の企業 |


ネガティブスクリーニングは「ESG投資ではない」という驚くべき定義の論点

多くの方が「ネガティブスクリーニング=ESG投資の代表的な手法」と認識しているでしょう。しかしこれは、厳密な定義のうえでは必ずしも正しくない可能性があります。


NPO法人日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)は、2020年8月に「ネガティブ投資・インパクト投資はESG投資ではない」という見解を公式に発表しました。その理由は明快です。ESG投資とは「ESG課題を投資の分析と意思決定プロセスに組み込んでいる投資」であるのに対し、ネガティブスクリーニングは「分析・意思決定の前段階で除外してしまう手法」であるため、ESG投資のプロセスそのものに組み込まれていないというわけです。


つまり「選ばない」ことと「ESGを考慮して選ぶ」ことは別の行為です。


大和総研の主席研究員・鈴木裕氏も同様の問題提起をしており、「ネガティブ・スクリーニングは世界のESG投資において最も大きな比率を占める、とされてきたが、JSIFの定義によればそもそもESG投資ではないことになる」と指摘しています。この論点は金融業界でも意見が割れており、現在進行中の議論です。


JSIFの定義に照らすと、ネガティブスクリーニングは「サステナブル投資」の一形態ではあっても、狭義の「ESG投資」には含まれないということになります。この違いが実際の投資判断でどう影響するかというと、たとえば「ESGファンドへの投資」を目的として商品を選ぶ際に、ネガティブスクリーニングが主体の商品を選んでしまうと、ESGの分析プロセスを通じた運用という本来の意図とは異なる商品を購入している可能性があります。



JSIFによるESG投資の定義については、以下の公式ページで詳しく確認できます。


NPO法人日本サステナブル投資フォーラム(JSIF) | ESG投資の定義


ネガティブスクリーニングによる投資パフォーマンスへの影響

「倫理的に問題のある企業を除外することで、リターンが下がるのでは?」という疑問を持つ方は多いです。この点については、実は一概には言えないという結論が出ています。


大和総研がEurekahedgeのデータをもとに行った調査によれば、SRIファンド全体の平均リターンは株式市場全体のパッシブ運用とほぼ同水準でした。しかし個別のファンドをよく見ると、ファンド間でリターンの格差が非常に大きく、年率リターンが10%以下のものから50%を超えるものまで存在していました。


注目すべきは、リターン上位ファンドの多くが「ネガティブスクリーニング採用ファンド」または「ネガティブとポジティブの併用ファンド」だったという点です。一方でリターンが低かったのは、環境テーマに特化したポジティブスクリーニングのファンドでした。これは直感に反する結果です。


その背景には、「sin stocks」として排除されてきたたばこやアルコール関連銘柄が、安定した需要と高いキャッシュフローを持つディフェンシブ株として、長期的に高いリターンをあげてきたという歴史的事実があります。ハーバード大学やシカゴ大学の研究でも、「sin stocks」は市場平均を上回るリターンを示す傾向があることが示されています。逆説的ですが、これがネガティブスクリーニングのリターン面での「機会損失」を示す一例でもあります。


痛いですね。


ただし、長期的な視点ではまた異なる側面もあります。石炭や化石燃料関連企業は、気候変動規制の強化に伴い「座礁資産(stranded assets)」となるリスクを抱えており、こうした企業をあらかじめ除外しておくことは長期的なリスク管理として有効との見方もあります。ネガティブスクリーニングの効果は、対象とする業種・投資期間・市場環境によって大きく異なります。



ESGとリターンの関係に関しては、京都大学のレポートも参考になります。


京都大学 | No.236 ESG投資は儲かるのか?


ウクライナ侵攻後に浮上したネガティブスクリーニングの新しい課題と独自視点

2022年のロシアによるウクライナ侵攻は、ネガティブスクリーニングのあり方に根本的な問いを突きつけました。これはあまり語られない論点ですが、金融に関心のある方には特に知っておいてほしいテーマです。


従来のネガティブスクリーニングでは、「防衛産業=兵器製造=除外対象」という図式が一般的でした。ところがウクライナ侵攻後、状況は一転します。S&P 500のエネルギーセクターが2022年初頭からわずか3カ月で42.3%上昇、航空宇宙・防衛セクターも同期間に13.5%上昇という急激な動きが起きました。アライアンス・バーンスタインは「民主主義を守るうえで防衛産業は不可欠であり、これをESGの観点から単純に『悪』と分類することは再考が必要だ」と指摘しています。


ドイツは第二次世界大戦後初めて国防予算を一気に1,000億ユーロに倍増し、ロッキード・マーチンにF-35戦闘機35機を発注しました。これはネガティブスクリーニングで「防衛産業=除外」と一律に対応してきた欧州の多くの機関投資家にとって、ポートフォリオ管理の観点から大きな問題を引き起こしました。


ESG課題は絶えず変化します。


この動きが示す独自の教訓は、「ネガティブスクリーニングは一度設定すれば終わりではなく、社会・安全保障の変化に応じてダイナミックに見直す必要がある」という点です。固定的な除外リストは、特定の時代・価値観を反映したものに過ぎず、世界情勢の急変により突然その前提が崩れることがあります。


年金シニアプラン総合研究機構の報告書は「ネガティブ・スクリーニングには、パフォーマンスとコストの面で疑問が呈されることも増えてきている」と指摘しており、特にカリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)のような世界最大級の年金ファンドでも、単純な除外主体から対話(エンゲージメント)重視の戦略へシフトする動きが見られます。




投資家として取れる現実的なアクションとしては、「ネガティブスクリーニングが主体のファンドか、ESGインテグレーションが主体のファンドか」を目論見書で確認したうえで選択することが出発点になります。モーニングスターや各証券会社のESGスコア機能を活用すると、ファンドの運用方針を比較しやすくなります。



ウクライナ侵攻後のESG投資への影響については、大和総研のレポートに詳細な分析があります。