CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の仕組みと活用法

CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の仕組みと活用法

CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の仕組みと投資家が知るべきすべて

CDSで「保険を買った側」が実際に債権を持っていなくても、デフォルト時に保険金を受け取れます。


この記事でわかること
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CDSの基本的な仕組み

「信用リスクの保険」とも呼ばれるCDSが、プロテクションの売り手・買い手の間でどう機能するかを具体例つきで解説します。

📊
CDSスプレッドの読み方と投資判断への活用

スプレッドが上昇すると何を意味するのか?格付けとの違いや、iTraxx Japanなど主要指標の活かし方を説明します。

⚠️
リスクと歴史的な教訓

AIGの4,410億ドル規模のCDS売りポジションがもたらした教訓や、リーマンショックとの深い関わりを振り返ります。


CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の基本的な仕組みとは


CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)とは、企業や国が債務不履行(デフォルト)に陥るリスクを売買する金融派生商品(デリバティブ)のひとつです。名前は難しく聞こえますが、構造の根幹は「信用リスクを対象とした保険」に例えると理解しやすくなります。


仕組みを具体的に見てみましょう。たとえばA銀行がB社に10億円を融資しているとします。A銀行はB社が倒産した場合に備えて、金融機関Cに対して毎年一定のプレミアム(保証料)を支払う契約を結びます。もしB社がデフォルトを起こした場合、金融機関Cはその損失を補填する義務を負います。これがCDSの基本形です。


ここで重要なのは、A銀行(プロテクションの買い手)はB社への実際の債権を保有している必要がない、という点です。これが一般的な保険契約と大きく異なります。第三者でも「プロテクションの買い手」になれるため、実際の負債総額を大きく超える想定元本のCDSが市場で取引されることもあります。


CDS取引の主要な当事者は次の2者です。


- プロテクションの買い手:定期的にプレミアムを支払い、クレジットイベント発生時に損失補填を受ける側
- プロテクションの売り手:プレミアムを受け取り、クレジットイベント発生時に損失を肩代わりする側


クレジットイベントとは、参照企業・国に対して「保険が発動される」引き金となる事由のことで、日本市場では「破産」「債務不履行(Failure to Pay)」「債務の条件変更(Restructuring)」の3種類(3CE)が市場慣行として定められています。


つまり、信用リスクの移転が基本です。


決済方法には現物決済と現金決済の2種類があります。現物決済では買い手がデフォルトした参照債務の現物を売り手に渡し、売り手は額面を支払います。現金決済では差額のみをやりとりします。現在主流はISDAのオークション方式による現金決済です。これはリーマン・ブラザーズ破綻時に参照債務の現物が市場に不足した経験を踏まえ、決済方式の標準化が進んだためです。


参考:CDS取引の基本的な契約形式はISDA(国際スワップ・デリバティブ協会)が定めた標準契約に従います。


日本取引所グループ|クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の仕組みについて


CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)のスプレッドの読み方と投資判断への活用

CDSスプレッドとは、プロテクションの買い手が売り手に支払うプレミアムの料率のことです。たとえばあるB社のCDSスプレッドが「200ベーシスポイント(bp)」であれば、想定元本1億円に対して年間200万円(=1億円×2%)の保証料を支払うことを意味します。スプレッドが高いほど、その企業・国のデフォルトリスクが市場に高く評価されているということになります。


これは使えそうです。


格付けとCDSスプレッドは「信用リスクを示す」という点では同じ目的を持ちますが、性質は全く異なります。格付けは格付け会社(ムーディーズ、S&P、フィッチなど)が定期的に審査・更新するのに対し、CDSスプレッドは市場参加者の需給によってリアルタイムに変動します。格付けは後追いになりがちな面があるため、マーケットの生の信用評価を知りたい場合はCDSスプレッドのほうがより敏感な指標といえます。


また、国別にCDSスプレッドを比較することで、各国のソブリンリスク(国家としての債務不履行リスク)を数値として把握できます。2026年2月時点では、日本国債の5年物CDSスプレッドは25bp前後で推移しており、これはデフォルトリスクがほぼゼロに近い水準です。一方、財政問題を抱えた新興国では200~1,000bpを超えることもあります。


日本市場の代表的なCDS指標として「Markit iTraxx Japan」があります。投資適格を持つ日本国内の流動性が高い主要50社のCDSで構成されており、6カ月ごとに銘柄が見直されます。これはいわば「クレジット市場の日経平均」のような存在で、市場全体の信用リスクの体温計として活用されています。




📊 CDSスプレッドの水準感(5年物・目安)


| 水準 | 概ねの評価 |
|------|------------|
| ~50bp | 信用力が高い(先進国の優良企業・国債など) |
| 50~200bp | 中程度のリスク |
| 200~500bp | 信用懸念が高い |
| 500bp超 | 高度な信用不安・投機的水準 |


スプレッドが急激に上昇している企業・国への投資は一段のリスク点検が必要です。


参考:iTraxx Japanの詳細と構成銘柄の基準については日本取引所グループが公開情報を提供しています。


日本取引所グループ|Markit iTraxx Japan について


CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)とリーマンショック・AIGの教訓

CDS市場の危うさを世界に知らしめた出来事が、2008年のリーマンショックです。2001年のエンロン・ワールドコム破綻時にCDS市場が機能したことで普及が加速し、2007年末のCDS市場の想定元本残高は62.2兆ドルにまで膨れ上がりました。これは当時の世界のGDP合計を超えるほどの規模でした。東京ドームで例えるなら、その面積の数億倍以上に相当する「リスクの連鎖」が市場に組み込まれていたとも言えます。


リーマン・ブラザーズが破綻した際、同社を参照先とするCDSの想定元本は約4,000億ドルにのぼっていました。そして清算後の債券価値は額面のわずか8.625%しか残らず、損失率91.375%という壊滅的な水準となりました。この数字が何を意味するか。プロテクションを売っていた金融機関は、想定元本の90%超を支払わなければならない状況になったということです。


痛いですね。


さらに深刻だったのがAIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)の問題です。AIGの子会社AIGFPは、想定元本4,410億ドルにのぼるCDSのプロテクションを売り続けていました。保証料収入を得るためにポジションが偏りすぎており、リーマン破綻後にCDSの価値が急上昇した結果、天文学的な損失リスクを抱えることになりました。AIGは連邦政府から計4回・総額1,800億ドルを超える公的支援を受けてようやく救済された経緯があります。


この教訓から学べることは2つです。


- CDS市場は格付けだけでリスクを測れない:格付けが高い金融機関(AIG、リーマン)が深刻な問題を抱えていても、格付け変更は遅れることがある。CDSスプレッドはより早く市場の警戒感を反映する。


- カウンターパーティリスクを忘れてはいけない:CDS取引には、プロテクションの売り手自身が破綻するリスク(カウンターパーティリスク)が常に存在する。これは保険会社が倒産する状況に近い。


リーマン後、こうした問題を踏まえてCDS清算機関の整備が進みました。現在では日本でも日本証券クリアリング機構(JSCC)がCDS取引の中央清算を担っており、カウンターパーティリスクの低減が図られています。


参考:AIGのCDS問題を詳細に分析した記事。CDSが大手金融機関を追い詰めた構造的背景がわかります。


CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)と格付けの違い・独自視点:CDS市場は「事件の先読み指標」になる

多くの投資家が「企業の信用力=格付け会社の評価」という認識を持っていますが、CDS市場はしばしばその格付けよりも先に信用悪化を「織り込む」ことがあります。これは金融界でも比較的知られていない事実です。


実際のメカニズムとして、ある企業に対する悪材料が市場に浸透し始めると、まずヘッジファンドなどが「プロテクションの買い」でCDSスプレッドを押し上げます。これは株式市場に「空売り圧力」がかかるのと同じ原理です。スプレッドが急拡大しはじめると、その後にメディア報道や格付け変更が続くというパターンが繰り返されてきました。


これは「リアルタイムの信用レーダー」として機能するということですね。


2010年のギリシャ財政危機でも、このパターンは明確に現れました。ギリシャのCDSスプレッドは財政問題が表面化する数カ月前から急上昇しており、格付け機関がギリシャ国債を大幅格下げする前に、CDS市場は既に高い警戒水準を示していました。


また、CDSスプレッドは格付けと異なり「段階的なカテゴリ分類(AAAやBBBなど)」ではなく、数値として連続的に変化するため、信用リスクの微妙な変化を捉えやすいという特徴もあります。


📈 格付けとCDSスプレッドの主な違い


| 項目 | 格付け | CDSスプレッド |
|------|--------|--------------|
| 更新頻度 | 定期(数カ月〜年単位) | リアルタイム(日次以下) |
| 評価主体 | 格付け会社 | 市場参加者 |
| 表示 | AAA〜Dなどの記号 | bp(ベーシスポイント)の数値 |
| 先行性 | 遅れる傾向あり | 先行する傾向あり |


個人投資家がCDSスプレッドを直接取引することは現状では難しいですが、主要企業・国のスプレッドは無料で公開されているデータも多く、投資判断の「参考指標」として活用できます。たとえばInvesting.comでは世界各国のCDS5年物スプレッドをリアルタイムで確認できます。投資判断を下す前に確認を習慣にするだけで、リスク管理の精度が高まります。



参考:各国CDSスプレッドのリアルタイムデータが閲覧できます。


Investing.com|世界クレジット・デフォルト・スワップ・レート(CDS)一覧


CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を個人投資家が活用する方法

CDSは現在も基本的には機関投資家向けの商品であり、個人投資家が直接取引できる環境は日本では整っていません。シングルのCDSは通常5年・5億円単位、インデックスは10億円単位での取引が標準となっており、最低取引単位の高さが個人の参入を阻んでいます。


ただし、個人投資家がCDSを「活用する方法」は存在します。


まずは投資判断の指標として活用する方法があります。投資を検討している企業の社債や株式があれば、その企業のCDSスプレッドを確認することで、市場がどの程度の信用リスクを織り込んでいるかを把握できます。スプレッドが急上昇しているにもかかわらず株価がまだ高い場合などは、リスクの先行シグナルとして捉えることができます。


次に、CDS連動ETFを通じた間接的な活用があります。米国では2018年にProSharesがCDSに連動するETFを計8銘柄認可しました。米国・欧州のCDS市場に投資適格(IG)・ハイイールド(HY)別に連動するもので、ブルタイプとベアタイプが揃っています。日本から直接購入できる環境はまだ限られますが、海外ETFを扱う証券会社で取り扱いが始まる可能性は今後もあります。


CDS市場は間接活用が基本です。


さらに、シンセティックCDO(合成債務担保証券)やクレジット系のファンドを通じた間接接触も一つの方法です。CDSを組み込んだ仕組み商品は複雑なため、仕組みを正確に理解しないまま購入するのは危険です。商品の説明にCDSやクレジットデリバティブへの言及がある場合は、必ずリスク要因(カウンターパーティリスク、流動性リスク、信用リスクの集中)を確認することが条件です。


📌 個人投資家がCDS関連情報を活用できる主な手段


| 手段 | 難易度 | コスト |
|------|--------|--------|
| CDSスプレッドを指標として参照する | ★☆☆ | 無料(一般公開データ) |
| CDS連動ETFへ投資する(海外) | ★★☆ | 取引コスト・為替リスクあり |
| クレジット系ファンドに投資する | ★★☆ | 信託報酬あり |
| CDS直接取引 | ★★★ | 機関投資家・証券会社向け |


CDS自体の直接取引は機関投資家向けですが、スプレッドのモニタリングは今日からでも始められます。社債や新興国債券に投資している場合は特に、定期的にスプレッド水準をチェックする習慣をつけることがリスク管理の第一歩になります。


参考:CDSの仕組みやQ&Aをまとめた権威ある資料。機関投資家向けの解説ですが構造の理解に役立ちます。


日本取引所グループ(JSCC)|CDS Q&A(2025年版)


【単語リスト整理(検索上位頻出語)】
CFC税制/タコ配当課税/外国子会社合算税制/タックスヘイブン対策税制/租税負担割合/トリガー税率/経済活動基準/ペーパーカンパニー/部分合算課税/受動的所得/二重課税/外国税額控除/グローバルミニマム課税/適用除外/特定外国関係会社




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