
金融商品取引法39条における損失補填禁止規定は、1991年の証券不祥事を受けて制定された重要な規制です。この規定は、金融商品取引業者が顧客に対して損失を補填することを原則として禁止しており、違反した場合には3年以下の懲役、300万円以下の罰金またはこれらの併科という厳しい刑罰が科されます。
損失補填禁止の目的:
この規制により、証券会社やFX業者は特定の顧客にのみ有利な条件を提供することができなくなり、市場全体の公正性が保たれています。
金融商品取引法39条では、禁止される損失補填の行為を3つの類型に分類して規定しています:
禁止される行為類型:
また、顧客側についても対応する禁止行為が規定されており、損失保証を要求し約束させること、財産上の利益を受領することなどが禁止されています。これは双方向の規制により、不正な取引慣行を根絶することを目的としています。
適用対象となる取引:
金融商品取引法39条3項但し書きでは、特定の条件下で損失補填禁止の例外を認めています。この例外規定は「事故」による損失に限定されており、以下の要件を満たす必要があります。
例外が認められる具体的な事故:
これらの事故は、すべて業者側の責任に起因するものでなければならず、市場変動や顧客の判断ミスによる損失は対象外です。
手続き要件:
例外規定を適用するためには、金融商品取引法39条7項に基づく厳格な手続きが必要です。この手続きは、例外適用の濫用を防ぎ、真に業者側の過失による損失のみを対象とするための重要な仕組みです。
確認手続きの流れ:
この手続きにより、単なる顧客サービスや営業上の配慮による補填と、真に事故に起因する正当な補填とを明確に区別しています。
確認書面に記載すべき事項:
損失補填禁止の例外規定は、理論的には明確でも、実務運用において様々な課題を抱えています。特に、正当な損害賠償と禁止される損失補填の境界線が曖昧な場合があり、業界関係者は慎重な対応を求められています。
実務上の主要課題:
東京弁護士会では、この問題について「業者側が本来理由にならない『損失補填禁止』を口実に示談解決を拒むことが懸念される」と指摘しており、適用除外の範囲拡大を求める意見書を提出しています。
業界への実際の影響:
近年のFX業者摘発事例では、大口顧客との関係維持を目的とした違法な損失補填が問題となっており、業界全体でのコンプライアンス意識の向上が急務となっています。