36協定の特別条項と残業時間の上限を徹底解説

36協定の特別条項と残業時間の上限を徹底解説

36協定の特別条項と残業時間の正しい知識

繁忙期だからといって、特別条項をいつでも発動できるわけではありません。「単なる繁忙期」は法律上の適用事由に該当せず、無効と判断されるリスクがあります。


📋 この記事の3つのポイント
特別条項の残業上限は年720時間・月100時間未満

特別条項付き36協定を締結しても、時間外労働は年720時間・月100時間未満という上限が法律で定められています。上限を超えると6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。

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「単なる繁忙期」では特別条項を発動できない

特別条項を発動できるのは「通常予見できない業務量の大幅な増加等に伴う臨時的な事情」がある場合のみです。毎年繰り返す繁忙期への対応は原則として認められません。

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月60時間超の残業は割増賃金率が50%に

2023年4月から中小企業にも適用。月60時間を超える時間外労働は割増賃金率が50%以上となり、深夜時間帯(22時〜5時)と重なると最大75%以上になります。


36協定の特別条項とは何か:残業時間の上限規制の基本


36協定(サブロク協定)とは、労働基準法第36条に基づき、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて従業員に残業や休日労働を命じる際に、企業と労働者の代表との間で締結しなければならない協定のことです。正式名称は「時間外労働・休日労働に関する協定届」といいます。


特別条項付き36協定とは、通常の36協定で定める限度時間(月45時間・年360時間)を超えて時間外労働を行わせる必要が生じた際に締結する、いわば「拡張版」の協定です。臨時的な業務量の大幅な増加などに対応するために設けられた制度ですが、その適用には厳格な条件があります。


2019年に施行された働き方改革関連法以前は、特別条項に残業時間の上限が設けられていませんでした。これが長時間労働の温床となり、過労死問題が社会問題化した背景があります。法改正によって初めて、特別条項にも明確な上限が法律で定められました。


つまり、特別条項は「何時間でも残業させられる抜け穴」ではありません。


これが大前提です。


36協定の特別条項における残業時間の上限4つのルール

特別条項付き36協定を締結した場合でも、以下の4つの上限ルールをすべて同時に守る必要があります。どれか1つでも違反すれば労働基準法違反となります。





























ルール 上限 備考
年間の時間外労働 720時間以内 法定休日労働を除く
単月の時間外労働+休日労働 100時間未満 法定休日労働を含む
複数月平均(2〜6ヶ月)の残業時間 80時間以内 法定休日労働を含む
月45時間超の残業を命じられる回数 年6回以内 年6ヶ月を超えてはならない


特に見落としがちなのが「複数月平均80時間」のルールです。例えば、ある月の残業が90時間、翌月が80時間だった場合、その2ヶ月の平均は85時間となり、すでに80時間を超えてしまいます。単月で100時間を下回っていても違反になるパターンがある点に注意が必要です。


また、「年720時間以内」というのは法定休日労働を除いた数字であることも重要なポイントです。休日労働の時間は年間上限のカウントには含まれませんが、月100時間未満・2〜6ヶ月平均80時間以内のルールには含まれます。


「4つを全部満たす」が条件です。


参考:厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」(法改正の根拠となる公式資料)
https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf


36協定の特別条項が発動できる「臨時的な事情」の具体例と注意点

特別条項を発動(適用)するには、「通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い、臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合」(労働基準法第36条第5項)という条件を満たす必要があります。


発動が認められる事由の具体例としては、次のようなものが挙げられます。



  • 予期せぬリコールや大規模なクレームへの対応

  • 臨時的・突発的なシステムトラブルや機械トラブルへの対応

  • 通常の受注を大幅に上回る注文が入り、納期が切迫している場合

  • 突発的な仕様変更や新システムの導入対応


一方、毎年繰り返す決算期や年度末の業務増加、慢性的な人手不足への対応といった「単なる繁忙期」は、法律上の適用事由に該当しないとされています。「毎年4月は忙しいから特別条項を使う」という運用は、原則として認められません。


これは意外なポイントです。特別条項は「繁忙期に使えるもの」というイメージが広く持たれていますが、毎年繰り返される繁忙期への対応はそもそもの設計段階で「予見できる」と判断され、特別条項の発動事由から外れるリスクがあるのです。


金融業や会計事務所など、決算期・年度末に業務が集中するケースでは、恒常的に特別条項を頼るのではなく、業務フローの見直しや人員配置の工夫を検討することが、長期的に見てもリスクの少ない運用につながります。


参考:マネーフォワード「36協定の特別条項について、上限時間や注意点を解説」(特別条項の適用条件を詳しく解説)
https://biz.moneyforward.com/payroll/basic/58551/


36協定の特別条項を締結する手順と届出の方法

特別条項付き36協定を締結・届出する手続きの流れは以下の通りです。



  1. 労働者代表の選出:労働組合がある場合はその代表者が、ない場合は労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)を選出します。

  2. 労使間での協議・合意:上限時間や適用事由、健康福祉確保措置などについて労使で合意します。

  3. 協定書の作成:厚生労働省が定めた新様式に従い、必要事項を記入します。

  4. 管轄労働基準監督署への届出:窓口持参・郵送・e-Gov電子申請のいずれかで届け出ます。


重要なのは、36協定には有効期間があり、毎年更新・届出が必要という点です。「一度提出したから大丈夫」と考えていると、更新忘れによって翌年以降の残業命令が労働基準法違反になるリスクがあります。


近年は政府のe-Gov電子申請システムを活用することで、24時間365日の申請が可能になっています。複数事業所を持つ企業であれば、電子申請を活用した「本社一括届出」も可能です。毎年3月中旬から末にかけては電子申請が集中するため、早めの申請を推奨されています。


毎年の更新管理を徹底することが大切です。


36協定の特別条項に違反した場合の罰則と企業リスク

特別条項を含む36協定の上限規制に違反した場合の主なリスクは2種類あります。


まず法的なリスクとして、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金(労働基準法第119条)が科される可能性があります。これは2019年の働き方改革関連法施行によって新たに設けられた罰則です。以前は告示に留まっており法的拘束力が弱かったのですが、現在は刑事罰の対象となっています。


違反となる代表的なケースは次の通りです。



  • 年間の時間外労働が720時間を超えた

  • 月45時間超の残業を年7回以上命じた

  • 単月の時間外労働と休日労働の合計が100時間以上になった

  • 2〜6ヶ月の平均残業時間が80時間を超えた

  • 36協定を締結・届出せずに残業を命じた


次に、社会的リスクです。悪質な違反と判断された場合は、厚生労働省や都道府県労働局による企業名の公表が行われることがあります。インターネット・SNSを通じて瞬時に拡散されやすい現代において、「ブラック企業」のレッテルが貼られると採用活動への打撃や取引先からの信用失墜につながります。特に金融・会計系の企業では、信用やコンプライアンス意識が業績に直結するため、このリスクは無視できません。


罰則の金額より、企業名公表の方が損害は大きいケースも多いです。


参考:NTT東日本「36協定に違反となる4つのケース!罰則や企業名公表とは」(違反リスクを詳しく解説)
https://business.ntt-east.co.jp/column/service/ohs/36agreement-violation.html


特別条項と過労死ライン:80時間・100時間の意味と健康リスク

特別条項で認められている上限時間のうち、「月100時間未満」「2〜6ヶ月平均80時間以内」という数字は、実は医学的な根拠に基づいて設定されています。


これを「過労死ライン」と呼びます。


過労死ラインとは、厚生労働省が定める脳・心臓疾患の労災認定基準に基づくもので、次のように定義されています。



  • 単月100時間超:発症直前の1ヶ月間に100時間以上の時間外労働があると、業務との関連性が「強い」と判断される

  • 複数月平均80時間超:発症前2〜6ヶ月間に月平均80時間以上の時間外労働があると、同様に「強い」関連性と判断される


つまり、特別条項の上限はそもそも「ギリギリ過労死ラインに触れない水準」として設定されているのです。月99時間の残業が「合法の範囲内」だからといって安全とは言えません。


厚生労働省は、月45時間を超えると健康障害リスクが徐々に高まると指摘しています。特別条項で合法的に認められている時間は、あくまで「緊急・臨時」に限った例外であり、常態化させることは許容されていません。


「合法=安全」ではありません。


これは覚えておくべき事実です。


特別条項における健康福祉確保措置の義務と具体的な内容

特別条項付き36協定を締結する際、企業は限度時間(月45時間)を超えて労働させる従業員に対して「健康及び福祉を確保するための措置」(健康福祉確保措置)を協定書に明記し、実際に実施する義務があります。


これは法律で定められた義務です。


厚生労働省が示す健康福祉確保措置の例は次の通りです。



  • ✅ 医師による面接指導の実施

  • ✅ 深夜業の制限(22時以降の業務を禁止するなど)

  • ✅ 終業から始業までの休息時間の確保(勤務間インターバル)

  • ✅ 代償休日・特別な有給休暇の付与

  • ✅ 健康診断の実施

  • ✅ 連続休暇の取得促進

  • ✅ 心とからだの相談窓口の設置


これらの措置を実施した記録は、36協定の有効期間満了後3年間の保存義務があります。「協定書に記載しただけで実施していない」という場合、措置義務違反として問題になる可能性があります。


また、特別条項を発動した月の翌月以降、面接指導の申し出があった従業員には速やかに対応しなければなりません。単なるコンプライアンス対応ではなく、従業員の健康管理に直結する実務的な取り組みが求められています。


健康管理の記録保存まで含めて、義務の範囲です。


月60時間超の残業に適用される割増賃金50%の義務:2023年改正の影響

特別条項によって残業時間が月60時間を超えた場合、その超過分に対する割増賃金率が50%以上となります。これは2023年4月1日から中小企業にも適用が始まった重要な法改正です。


それまで中小企業は25%以上の割増率が適用されていましたが、この改正で大企業と同様の50%以上が義務化されました。具体的に月給30万円(時給換算約1,875円)の従業員が月70時間の時間外労働をした場合を考えると、60時間を超えた10時間分の割増賃金は次のように変わります。



  • 改正前(25%):1,875円 × 1.25 × 10時間 = 約23,437円

  • 改正後(50%):1,875円 × 1.50 × 10時間 = 約28,125円


さらに、深夜時間帯(22時〜5時)に月60時間超の残業が重なった場合、深夜割増25%が加算されて合計75%以上の割増率になります。特別条項を使って長時間残業を命じるほど、人件費コストが急増する構造です。


これは経営側にとっても大きな影響です。特別条項の発動を安易に行えば、賃金コストの急増という直接的な財務リスクが生じます。金融業・会計業など収益管理に精通した業種ほど、この点を正確に把握しておく価値があります。


割増コストの上昇が、特別条項の乱用を抑止する仕組みにもなっています。


参考:厚生労働省「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」(2023年改正の公式資料)
https://www.mhlw.go.jp/content/000930914.pdf


36協定の特別条項が適用除外となる業種・業務の残業時間ルール

すべての業種・業務が同じ上限規制に縛られているわけではありません。特定の業種については、働き方改革関連法の施行後も異なるルールが設けられています。




























業種・業務 主な特例内容
建設業(災害復旧・復興を除く) 2024年4月〜一般上限規制が全面適用
自動車運転業務 特別条項の年間上限が960時間。月100時間未満・2〜6ヶ月平均80時間規制は適用除外
医師 年960〜1,860時間(病院の機能区分により異なる)の上限が設定
研究開発業務 すべての上限規制が適用除外(ただし健康管理義務あり)
鹿児島県・沖縄県の砂糖製造業 月100時間未満・2〜6ヶ月平均80時間規制は適用除外


金融業や会計・税務など、一般的なホワイトカラー職種はこれらの適用除外には含まれず、原則通りの上限規制が適用されます。自動車運転業務の年960時間は一見緩やかに見えますが、健康リスクの観点からは依然として厳しい水準です。


業種ごとのルールを確認することが、適切な労務管理の出発点です。


特別条項の適切な運用を支える勤怠管理の実務ポイント【独自視点】

特別条項付き36協定は「締結して届け出ておけば安心」という性質のものではありません。実際の運用において最も重要なのは、リアルタイムの残業時間の可視化と月次・累積の管理です。


例えば、月100時間未満・2〜6ヶ月平均80時間以内というルールを同時に守るためには、次のような管理が必要です。



  • 📊 特定の従業員の残業時間を毎日・毎週リアルタイムで把握する

  • 📊 過去2ヶ月〜6ヶ月の平均を自動で集計する仕組みを整える

  • 📊 年45時間超の特別条項発動が何回目かを記録する

  • 📊 健康福祉確保措置の実施状況を記録・保存する(3年間)


エクセル管理だと計算ミスや見落としが起きやすく、気づかないうちに上限を超えていたというケースが実際に起きています。勤怠管理システムの導入によって、上限に近づいた際のアラート設定や複数月平均の自動算出が可能になり、法令違反リスクを大幅に下げることができます。


また、特別条項の「発動手続き」を適切に行っているかも重要です。特別条項を適用する際には、労使間での事前の「協議」「合意」「通知・書面化」などのプロセスを踏む必要があり、単に残業を命じるだけでは不十分です。


管理の仕組みがなければ、協定自体が形骸化します。


コンプライアンスの観点からも、金融・会計系企業には特に重要な視点です。取引先や投資家から内部統制の健全性を問われる場面が増えている現在、労務管理の精度は企業価値に直結する経営課題として捉えるべきです。


36協定の特別条項に関するよくある誤解とその正しい理解

実務においてよく見られる誤解を、正確な情報とあわせて整理します。


誤解①「特別条項があれば無制限に残業させられる」
✅ 正しくは:年720時間・月100時間未満など複数の上限を同時に守る必要があります。


誤解②「特別条項は年6回発動できるから年6ヶ月は無制限」
✅ 正しくは:年6回以内という回数制限に加え、年720時間・月100時間未満の上限もすべて適用されます。年6回フルに使っても月のルールは守らなければなりません。


誤解③「一度36協定を提出すればずっと有効」
✅ 正しくは:36協定の有効期間は原則1年です。


毎年更新・届出が必要です。


誤解④「管理職は残業上限の対象外」
✅ 正しくは:労働基準法上の「管理監督者」に該当する場合のみ適用除外です。役職名が「課長」「部長」でも、実態として管理監督者と認定されない場合は上限規制の対象になります。


誤解⑤「時間外労働45時間以内なら特別条項は関係ない」
✅ 正しくは:時間外労働が45時間以内でも、休日労働を加えた合計が月100時間以上になれば法律違反です。月44時間の残業に56時間の休日労働が重なるケースがこれに該当します(合計100時間)。


誤解のままでは気づかないうちに違反している可能性があります。


上記の5点は特に注意が必要です。


参考:弥生「36協定の特別条項とは?上限時間を超えた場合の罰則や記載方法を解説」(よくある誤解を含む実務解説)
https://www.yayoi-kk.co.jp/kyuyo/oyakudachi/36kyotei-tokubetsujoko/


36協定の特別条項を正しく活用するために今日からできること

特別条項付き36協定を適法かつ実効的に運用するために、今すぐ確認・実施できる具体的なアクションをまとめます。



  • 🔍 現行の36協定の有効期限を確認する:「まだ有効だろう」と思い込んで更新が切れているケースが少なくありません。

    最初に確認すべき事項です。


  • 🔍 特別条項の発動記録を確認する:今年度すでに何回特別条項を発動したかを記録しておく必要があります。年6回という上限に近づいているなら早急に業務量の再設計が必要です。

  • 🔍 従業員ごとの残業時間累計を集計する:2〜6ヶ月平均80時間以内のルールは、従業員個人ごとに管理しなければなりません。

    全体平均ではなく個人別の管理が必要です。


  • 🔍 健康福祉確保措置の実施状況を確認する:協定書に記載した措置が実際に実施され、記録されているかを確認します。記録が3年間保存されていない場合はすぐに整備が必要です。

  • 🔍 勤怠管理システムの導入を検討する:複数の上限ルールを同時に満たすためには、手動管理では限界があります。自動集計・アラート機能付きのシステムを検討することで、労務コンプライアンスの精度が大きく向上します。


36協定の特別条項は、正しく理解して適切に運用すれば非常時の頼れる制度です。しかし、誤った理解や形骸化した運用は、企業と従業員双方に深刻なリスクをもたらします。金融や会計・税務などの数字に敏感な職種だからこそ、労働時間という「数字」の管理にも同様の精度を求めることが、長期的な経営リスクの最小化につながります。




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