
特別とん税とは、特別とん税法(昭和32年3月31日法律第38号)に基づいて課される日本の租税(間接税)です。この税金は、外国貿易船が日本の開港に入港する際に課されるもので、その純トン数に応じて計算されます。
特別とん税の主な目的は、地方公共団体に財源を譲与することにあります。港湾施設などの行政サービスを受けることに対する応益的な税とも解釈されることがありますが、実際には特定財源ではなく、港湾予算との関連性は薄いとされています。
応益税の解釈には2つの側面があります。
特別とん税は後者の意味では応益税と言えるでしょう。
なお、不開港への入港については特別とん税は課されませんが、代わりに関税法第100条第1項の規定により不開港入港手数料の納付が必要となります。この手数料の額は、とん税と特別とん税の合計と同じ水準に設定されています。
特別とん税は1957年(昭和32年)に創設された比較的歴史のある税金です。その創設背景には、外航船舶に対する固定資産税の軽減措置があります。
当時、外航船舶に対する固定資産税が軽減されることになり、これによって減少する市町村の税収を補填するための代替財源として特別とん税が新設されました。つまり、地方自治体の財政を守るための措置だったのです。
特別とん税の収入は、特別とん譲与税法(昭和32年4月24日法律第77号)に基づき、毎年9月と3月の年2回に分けて、開港の港湾施設が所在する市町村に譲与される仕組みになっています。東京都の特別区の場合は、市町村ではなく東京都に譲与されます。
この税金は財源を譲与するために課税されますが、「地方譲与税とするため」は特定の費用を賄うためではなく、また譲渡された地方自治体においても使途の制限がされないため、目的税には分類されません。一般財源として地方自治体の財政に組み込まれるのです。
特別とん税の納税義務者は、原則として外国貿易船の船長です。しかし、税関長の承認を受けた場合には、代行者や運航者が納税義務者となることも可能です。ただし実務上は、代行者や運航者が納税義務者となる事例はほとんど見られません。
特別納税義務者の承認を受けるためには、「とん税及び特別とん税納税義務者承認申請書」を2通(関係官署がある場合はその数を加える)提出する必要があります。この承認申請は開港ごとに行われ、一つの船舶であっても開港によって特別納税義務者が異なることも認められています。
申請者が法人である場合には、当該法人の代表者の名で申請する必要があります。また、特別納税義務者となるべき者が外国法人である場合には、会社法第933条の規定により登記した本邦における主たる営業所の所在地、名称及び代表者の氏名を申請書に併記する必要があります。
特別とん税の課税標準は、外国貿易船の純トン数に応じて決定されます。純トン数とは、船舶の貨物を積載できる容積を表す単位で、これに基づいて税額が計算されます。
特別とん税の税率は、納付方法によって異なります。納税者は以下の2つの納付方法から選択することができます。
一時納付の税率は都度納付の3回分に相当する金額に設定されています。つまり、年間で4回以上同じ開港に入港する予定がある船舶は、一時納付を選択した方が経済的に有利となります。
また、令和2年度(2020年度)の税制改正により、令和2年(2020年)10月1日以降当分の間、外貿コンテナ貨物定期船のうち、国際基幹航路に就航する外国貿易船が国際戦略港湾に入港する場合の一時納付の税率が半額の純トン数1トンまでごとに30円に引き下げられました。これは、国際基幹航路の寄港の維持・拡大を図るための特例措置です。
この特例措置は、欧州・北米航路に就航するコンテナ船が京浜港、阪神港、名古屋港及び四日市港に入港する際に適用されます。これにより、近隣諸国の競合港とのコスト面での競争力強化が図られています。
特別とん税と並んで外国貿易船に課される税金に「とん税」があります。とん税も特別とん税と同様に外国貿易船の開港への入港に対して課される国税ですが、両者には重要な違いがあります。
とん税の税率は以下の通りです。
特別とん税ととん税は別々の税金ですが、課税標準等が同じであるため、実務上は一体的に扱われることが多いです。例えば、端数計算においては、とん税と特別とん税は一つの税目として扱われます。また、延滞税の計算についても、とん税と特別とん税の合算額で計算されます。
国が徴収したとん税および特別とん税の収入額は、36分の16に相当する部分をとん税収入とみなし、残りの36分の20に相当する部分を特別とん税の収入額とみなしています。つまり、合計額の約55.6%が特別とん税として計算されるのです。
徴収された税金はいったん「国税収納金整理資金」に収納され、そのうち特別とん税に相当する部分は国の一般会計を通さずに直接「交付税及び譲与税配付金特別会計」に繰り入れられ、開港にかかわる港湾施設が設置されている市町村に一般財源として譲与されます。
近年、アジア地域の港湾間競争が激化する中で、日本の港湾の国際競争力強化が課題となっています。特に、欧州・北米航路などの国際基幹航路の維持・拡大は、日本の貿易活動において重要な課題です。
従来のとん税・特別とん税制度は、年間寄港回数が少ない国際基幹航路のコンテナ船にとって負担が大きく、競争力の観点から課題がありました。そこで、令和元年度の税制改正において、56年ぶりにとん税・特別とん税の税制が見直されることになりました。
この改正により、令和2年(2020年)10月1日から、国際基幹航路に就航するコンテナ船が国際戦略港湾に入港する際の一時納付の税率が半額になる特例措置が創設されました。これは、日本の港湾の国際競争力を高めるための重要な施策の一つです。
平成30年度の特別とん税を含む税収は約230億円でした。この税制改正による減税効果がどの程度になるかは今後の動向を注視する必要がありますが、日本の港湾の競争力強化に寄与することが期待されています。
また、今後の課題としては、環境に配慮した船舶への優遇措置の検討や、デジタル化による納税手続きの簡素化なども考えられます。国際的な海運動向や環境規制の強化に対応した税制の在り方についても、継続的な検討が必要でしょう。
国際基幹航路の寄港維持・拡大のための特例措置について詳しく解説されています
特別とん税は一見マイナーな税金に思えるかもしれませんが、日本の港湾の国際競争力や地方財政に関わる重要な制度です。今後も国際的な海運環境の変化に応じて、適宜見直しが行われていくことでしょう。