
たばこ特別税は、1998年(平成10年)12月1日に「一般会計における債務の承継等に伴い必要な財源の確保に係る特別措置に関する法律」(平成10年法律第137号)に基づいて創設された税金です。この税金が創設された主な目的は、日本国有鉄道(国鉄)清算事業団と国有林野事業特別会計の負債を一般会計に承継させることに伴う財政負担を補うためでした。
国鉄は1987年4月に分割民営化されましたが、その時点で約37兆1千億円もの巨額の債務を抱えていました。このうち14兆5千億円をJR各社が引き継ぎ、残りの22兆7千億円は国が処理することになりました。しかし、バブル経済の崩壊により国の債務処理は進まず、利子が重なって1997年4月の時点では28兆1千億円にまで膨張していました。これに国有林野事業特別会計の負債3兆8千億円を合わせた債務をどのように処理するかが大きな政治課題となりました。
1997年7月頃から約1年間、政府(当時は自民党単独政権)はこの債務処理のための財源確保について様々な議論を重ねました。その結果、たばこに新たな税金を課すことで財源を確保する方針が決定され、たばこ特別税が誕生したのです。
たばこ特別税の現行税率は、紙巻たばこ1,000本につき820円と定められています。つまり、たばこ1本あたり約0.82円の特別税が課されていることになります。
たばこには、このたばこ特別税以外にも複数の税金が課されています。具体的には以下の4種類の税金が含まれています。
これらの税金を合わせると、たばこの小売価格に占める税負担率は約6割にも達し、日本で最も税負担率の高い商品の一つとなっています。例えば、580円(20本入り)のたばこを例にすると、税金の内訳は以下のようになります。
税金の種類 | 金額 |
---|---|
国たばこ税 | 136.04円 |
たばこ特別税 | 16.40円 |
道府県たばこ税 | 21.40円 |
市町村たばこ税 | 131.04円 |
消費税 | 52.73円 |
合計 | 357.61円 |
このように、580円のたばこのうち約357円が税金であり、税負担率は約61.7%となります。これは、ビール(45.0%)、ウイスキー(28.6%)、ガソリン(50.7%)などの他の課税商品と比較しても非常に高い水準です。
たばこ特別税からの税収は、国債整理基金特別会計の歳入に組み入れられています。この基金は、国の借金である国債の償還や利払いなどを行うための特別会計です。
たばこ税全体(国たばこ税、地方たばこ税、たばこ特別税)の税収は年間約2兆円にも上り、国と地方の貴重な財源となっています。2022年度(決算額)では、国たばこ税とたばこ特別税を合わせた国税分が約1兆円、地方たばこ税が約1兆714億円(都道府県たばこ税1,504億円、市町村たばこ税9,210億円)となっています。
2023年度の国税収等の総計(約77兆3,872億円)のうち、国たばこ税・たばこ特別税は約1.4%を占めています。また、2022年度の地方税収等の総計(約44兆521億円)のうち、地方たばこ税は約2.4%を占めています。
このように、たばこ税は国と地方自治体の財政に一定の貢献をしていますが、喫煙率の低下に伴い、長期的には税収の減少が予想されています。
たばこ特別税については、その公平性について議論されることがあります。旧国鉄の債務や国有林野事業の負債を喫煙者だけが負担すべきものなのかという疑問が提起されているのです。
たばこ1本あたり約1円が旧国鉄債務などの返済に使われていますが、これは喫煙者のみが負担している特定の目的税となっています。一方、国たばこ税や地方たばこ税は一般財源となるため、消費税と同様に使途は明確に定められていません。これらは教育や福祉、インフラ整備など様々な公共サービスの財源として活用されていると考えられます。
具体的には、以下のような用途に使われていると言われています。
このように、たばこ税は健康リスクや受動喫煙の問題で批判されることもある一方で、社会全体に貢献する財源としての側面も持っています。しかし、特定の政策目的(旧国鉄債務の返済)のための財源を特定の消費者(喫煙者)のみに負担させることの公平性については、税制の在り方として議論の余地があるでしょう。
たばこ税を含む税制改革について、政府は2025年以降の増税計画を検討しています。この背景には、防衛費の増額や財政健全化の必要性があります。
現在の計画では、2026年からの増税実施が税制改正大綱に含まれる可能性が報じられています。特に注目されているのは、加熱式たばこの税率です。現行の税制では、加熱式たばこは紙巻たばこに比べて税負担が軽減されていますが、政府はこれを改め、加熱式たばこも紙巻たばこと同じ税負担水準へと引き上げる方針を固めています。
この増税により、たばこ価格の全般的な値上げが予想されます。値上げによって喫煙率が低下すれば、健康面でのメリットが期待できる一方、税収の減少につながる可能性もあります。特に地方自治体にとっては、たばこ税収の減少が財政に影響を与える恐れがあります。
また、増税は喫煙者の消費行動にも影響を与えると考えられます。価格上昇により喫煙量を減らす人が増えたり、紙巻たばこから加熱式たばこへの移行が鈍化したりする可能性があります。若年層を中心に喫煙を始める人が減少することも期待されています。
このように、たばこ特別税を含むたばこ税制は、財政政策、健康政策、産業政策など様々な側面から検討されるべき複雑な課題となっています。
たばこ特別税を含むたばこ税の議論においては、税収確保と健康増進という二つの側面のバランスが重要です。日本では、たばこ事業法により日本たばこ産業株式会社(JT)が独占的にたばこ販売に携わっていますが、嫌煙・禁煙の流れが強まる中、JTも時代に合わせた取り組みを進めています。
2020年4月からは改正健康増進法と東京都受動喫煙防止条例の全面施行により、事業所や飲食店等の屋内が原則禁煙となりました。これにより屋外の公共喫煙所の利用が増加し、一部の喫煙所への利用者集中や路上喫煙の増加などの問題も生じています。
JTでは、分煙への取り組みや喫煙マナーの啓発を積極的に行っているほか、地域社会への貢献活動として「SDGs貢献プロジェクト」なども実施しています。例えば、墨田区主催の「みんな北斎プロジェクト」では、錦糸町駅と両国駅の公共喫煙所の壁面に芸術作品を展示し、喫煙者も非喫煙者も楽しめる空間づくりを行っています。
たばこを巡る議論では、喫煙による健康リスクや受動喫煙の問題がある一方で、個人の嗜好として喫煙を楽しむ自由も尊重されるべきという意見もあります。また、たばこ税が国や地方の貴重な財源となっていることも事実です。
重要なのは、たばこを吸う人が吸わない人に配慮し、喫煙マナーを守ることです。喫煙者と非喫煙者が互いに快適に過ごせる社会の実現に向けて、喫煙マナーの向上、分煙環境の整備、周囲への配慮が欠かせません。これらの取り組みが、たばこと共存する社会への第一歩となるでしょう。
たばこ税の仕組みと税負担率についての詳細情報(JT公式サイト)
たばこ税の使途と社会貢献についての詳細記事(SDGsマガジン)
たばこ特別税は、旧国鉄債務という特定の目的のために創設された税金ですが、その公平性や効果については様々な議論があります。一方で、たばこ税全体としては国と地方の貴重な財源となっており、社会インフラや公共サービスの提供に貢献しています。
今後のたばこ税制については、財政健全化の必要性、喫煙率の低下傾向、健康増進政策との整合性など、様々な要素を考慮した議論が必要でしょう。特に2025年以降に予定されている増税計画は、喫煙者だけでなく、地方自治体の財政や関連産業にも影響を与える可能性があります。
たばこを巡る議論においては、税収確保と健康増進のバランス、喫煙者と非喫煙者の共存など、多角的な視点からの検討が求められています。たばこ特別税を含むたばこ税制の在り方は、これからの日本社会のあり方を考える上での一つの重要なテーマと言えるでしょう。