
日本のたばこ税収は、過去30年間にわたって2.0~2.3兆円の範囲で推移している 。2023年度の国税収等総計(約77兆3,872億円)のうち、国たばこ税・たばこ特別税は約1.4%を占める重要な財源となっている 。最新データによると、直近では国税0.96兆円、特別税0.12兆円、地方税1.05兆円で合計2.12兆円の税収を記録している 。
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たばこ税は5種類の税金で構成されており、消費税を除くと国税2種類(国たばこ税、たばこ特別税)と地方税2種類(道府県たばこ税、市町村たばこ税)に分かれている 。興味深いことに、国税と地方税の比率は5:5だが、資金の流れを追うと最終的な配分は国4:地方6となっている 。これは国たばこ税の25%が地方交付税の原資となり、地方財政を支援する仕組みが働いているためである 。
参考)https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/keizai_prism/backnumber/h21pdf/20096623.pdf
たばこ税収の推移を詳しく見ると、前世紀末から2兆円強のままでほぼ横ばいで推移している 。むしろたばこ消費量の減少により、2008年度あたりから税収も漸減傾向を示していた 。2010年度の大幅なたばこ税引き上げにより一時的に息を吹き返し、2011年度をピークに再び税収は漸減の動きを示した 。2018年度以降は2兆円割れとなったが、2021年度でようやく持ち直している 。
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この背景には、紙巻たばこの販売数量の大幅な減少がある 。2023年の紙巻たばこ総販売本数は878億本となり、15歳以上1人あたり消費本数は年間798本と戦前の水準まで戻ってきている 。1996年をピークに販売数量は継続的に減少しており、令和元年(2019年度)には約1,180億本まで落ち込んでいる 。
参考)https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/d08_3.pdf
近年のたばこ税率は段階的に引き上げられている 。平成30年から令和3年にかけて、都たばこ税は1,000本につき860円から1,070円まで段階的に引き上げられた 。国たばこ税についても同様に5,302円から6,802円へと引き上げられている 。
参考)たばこ税の沿革
注目すべきは旧3級品(わかば、エコー、しんせい等)の税率で、平成28年4月から令和元年10月にかけて段階的に引き上げられ、令和元年10月から旧3級品以外の税率と同一になった 。これは税制の公平性を図る重要な改正であった 。
近年の特徴的な動向として、加熱式たばこの急速な普及がある 。2023年度の加熱式たばこの総販売本数は585億本で、紙巻きたばこの販売本数と比較すると、2020年には紙巻きたばこの半数に満たなかった販売本数が、2023年には約67%まで増加している 。
参考)https://www.health-net.or.jp/tobacco/statistics/hanbai_honsu_kanetsu.html
加熱式たばこの税率は製品によって大きく異なっている 。アイコスのたばこ税は一箱あたり192.23円で税率は約49%、プルーム・テックは34.28円で税率は約15%、グローは119.99円で税率は約31%となっている 。この税率格差は税収に大きな影響を与えている 。
参考)【2023年版】たばこ税の推移と歴史を徹底解説!
2026年度から開始される防衛増税において、たばこ税は重要な役割を担うことになっている 。政府は防衛費の対GDP比を従来の1%程度から2%に引き上げるため、2027年度までに累計43兆円の防衛費増強を決定している 。
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たばこ税の具体的な引き上げ計画は、まず2026年4月から加熱式の税率を引き上げて紙巻きたばこの税率にそろえ、その上でたばこ全体の税率を2029年4月にかけて3回、1本あたり0.5円ずつ引き上げるというものである 。これにより地方税収も増加することになり、「しれっと地方税も増収」という効果をもたらす 。
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しかし、たばこ税の増税には構造的な限界がある 。過去30年間のデータを見ると、複数回にわたってたばこ税は引き上げられてきたが、たばこ税収はおおよそ2.0~2.3兆円の範囲内での推移が続いており、税収増には繋がっていない 。これは増税による負担増に加え、健康増進法の改正をはじめとしたたばこに対する規制・対策によって、たばこの販売数量自体が落ち込んでいるためである 。
この現象は「ラッファー曲線」の典型例とも言える状況で、税率の引き上げが必ずしも税収増に繋がらないという経済学の理論を実証している 。政府側は一連の増税により2027年度1兆円の財源を確保すると想定しているが、過去の動向を見る限り、たばこ税収は伸びないと考えるのが自然である 。
日本の喫煙率は継続的に減少しており、2022年時点で習慣的に喫煙している成人の割合は14.8%まで低下している 。男性24.8%、女性6.2%という数値は、特に若年層での「たばこ離れ」が顕著に現れている 。この傾向が続く限り、たばこ税収の大幅な増加は期待できない状況が続くと予想される 。
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