質権と抵当権の違いを種類や効力で解説

質権と抵当権の違いを種類や効力で解説

質権と抵当権の違いを占有・種類・効力から徹底解説

不動産質権に設定した債権者は、住宅ローンの利息を1円も請求できません。


🔍 この記事でわかること:3つのポイント
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占有の有無が最大の違い

質権は債権者が担保物を「占有・保管」する。抵当権は債務者がそのまま使い続けられる。この差が実務での使い分けを生む。

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設定できる対象の範囲が違う

質権は動産・不動産・権利(株式・債権など)に設定可能。抵当権は不動産・地上権・永小作権のみに限定される。

存続期間に大きな差がある

不動産質権の存続期間は民法で最長10年と規制されているが、抵当権には存続期間の上限が存在しない。


質権とは何か:抵当権と同じ「約定担保物権」の仲間


質権(しちけん)とは、債権者が債権の担保として債務者または第三者から受け取った物を占有し、債務不履行が発生したときにその物を処分して弁済を受ける権利です。民法342条に定められており、担保物権の中でも「約定担保物権」に分類されます。


約定担保物権とは、当事者間の合意・契約によって成立する担保物権のことです。抵当権も同じく約定担保物権であり、この点では質権と同じ土俵に立っています。


両者が同じ担保物権である以上、共通する性質も存在します。担保物権の4つの性質として広く知られるのが、①付従性(被担保債権が消滅すれば担保権も消滅する)、②随伴性(被担保債権が譲渡されれば担保権も一緒に移転する)、③不可分性(被担保債権が一部でも残っている限り、目的物全体に効力が及ぶ)、④物上代位性(目的物が滅失・損傷しても、代わりの金銭等に効力が及ぶ)、の4つです。


つまり、両者の共通点が原則です。


では、どこが違うのか。金融に関心を持つ読者がまず押さえるべきポイントは、「占有をどちらが持つか」という一点にあります。質権では担保目的物を債権者が占有・保管するのに対して、抵当権では債務者がそのまま目的物を使い続けられる構造になっています。この差が、実務における使い分けの決め手になります。


比較項目 質権 抵当権
分類 約定担保物権 約定担保物権
目的物の占有 債権者(質権者)が占有 債務者が引き続き使用
設定できる対象 動産・不動産・権利(株式・債権等) 不動産・地上権・永小作権のみ
留置的効力 あり なし
不動産の存続期間 最長10年(民法360条) 制限なし
利息の請求 不動産質は原則請求不可 請求可能


担保物権の基本として、まずこの違いを頭に入れておきましょう。




参考:民法の条文原文と質権・抵当権の規定詳細については法務省の民法条文ページをご確認ください。


e-Gov法令検索|民法(明治二十九年法律第八十九号)


質権の3つの種類:動産質・不動産質・権利質の特徴を比較

質権には、設定できる目的物の種類によって3つに分類されています。それぞれの特徴を正確に理解することが、実務での判断力を高めます。


① 動産質(どうさんしち)


動産質とは、不動産以外のあらゆる物(動産)に設定できる質権です。日常生活でなじみ深い「質屋」がその典型例です。質屋では、客がブランドバッグや貴金属などを預け、その対価として金銭を受け取ります。この段階では所有権は移転せず、質権が設定された状態です。


返済期日までにお金を返せば質物は戻ってきます。期日を過ぎても返済がなければ、質屋は担保不動産競売などの手続きを経ずに、比較的簡易な方法で換価できます。動産は不動産に比べて価値が小さいケースが多いため、競売の費用が売却代金を上回る「費用倒れ」になる可能性があります。そのようなケースでは「簡易な弁済充当」と呼ばれる方法で、目的物を直接弁済に充てることができます。


② 不動産質(ふどうさんしち)


不動産質は、土地や建物などの不動産に設定する質権です。設定された場合、債権者(質権者)が不動産を占有・使用収益できます。これは抵当権とは大きく異なる特徴で、実務上ほとんど利用されない理由でもあります。


不動産質の存続期間は民法360条によって最長10年と定められており、契約でそれ以上の期間を設定しても自動的に10年に短縮されます。また、不動産質権者は原則として利息を請求できません(民法358条)。債権者が不動産を使用して収益を得られる代わりに、利息は取れないという構造です。


これは押さえておくべき大事な点です。


③ 権利質(けんりしち)


権利質とは、財産権に設定できる質権です。株式・債権・知的財産権・預貯金債権などが対象になります。ただし、所有権そのものには設定できません。金融実務では、この権利質が特に重要な場面があります。たとえば、企業融資において取引先の売掛債権や預金債権に質権を設定するケースや、住宅ローンで火災保険に質権を設定するケースがこれにあたります。


権利質を実行する場合、質権者は目的である債権を直接取り立てることができます。これは、競売などの手続きが不要な分、機動的に動けるという意味で、債権者にとって扱いやすい側面があります。




参考:質権の種類と民法上の規定について詳しく解説されているページです。


質権とは?種類と担保権・抵当権との違いを解説 | JT-Fund


質権と抵当権の違い:占有・対象・利息・存続期間を徹底比較

金融に携わる上で、「質権と抵当権はどちらも担保権だから大体同じだろう」という認識は危険です。実務で大きな影響を与える違いが複数あります。


【違い①】目的物を誰が占有するか


これが最も根本的な差です。質権では、担保として設定した目的物は債権者(質権者)が占有・保管します。一方、抵当権では担保物は債務者がそのまま手元に置いて使い続けることができます。


住宅ローンを例にとると、ほぼすべての金融機関が抵当権を選ぶ理由がここにあります。金融機関が購入者の自宅を物理的に「占有」することはできませんし、そもそも購入者が住み続けることが前提だからです。不動産に質権を設定してしまうと、購入者は自分の家に住めなくなってしまいます。


これは使えない選択ですね。


【違い②】設定できる対象の幅が違う


抵当権を設定できるのは、不動産・地上権・永小作権に限られます(民法369条)。対して質権は、動産・不動産・権利(株式・債権・知的財産権など)と、はるかに広い範囲に設定できます。


この差は金融実務で特に重要です。たとえば売掛債権や株式を担保に融資を受けたい場合、抵当権では対応できないため質権(権利質)を使うことになります。企業が運転資金の融資を受ける際などに、この権利質の仕組みが登場します。


【違い③】不動産質権は利息を請求できない


抵当権では金融機関が融資に対して利息を請求するのは当然ですが、不動産質権では原則として債権の利息を請求できません(民法358条)。これは、不動産質権者が不動産を使用・収益することで、利息に相当する経済的利益をすでに得ていると考えられるためです。住宅ローンの長期返済には明らかに向かない仕組みです。


【違い④】存続期間に明確な差がある


不動産質権には最長10年という存続期間の上限があります(民法360条)。これを超える設定は無効となり、自動的に10年に短縮されます。一方、抵当権には存続期間に関する上限規制がありません。住宅ローンが35年など長期にわたるケースでも問題なく対応できるのは、この違いがあるからです。


結論として、不動産を担保にするなら抵当権が原則です。




参考:宅建試験にも出題される不動産質権と抵当権の比較問題の解説が、条文解釈の参考になります。


【宅建過去問・平成29年問10】不動産質権・抵当権 | e-takken.tv


火災保険の質権設定:住宅ローン借入時に知っておくべきリスク

住宅ローンを組む際、「火災保険に質権を設定してください」と金融機関から求められることがあります。これは、火災などで建物が滅失した場合でも、金融機関が保険金から融資残債を回収できるようにするための措置です。知らずにサインしてしまうと、後から不利な状況に気づくこともあります。


質権設定の仕組みを理解する


通常、火災保険金は保険契約者(住宅ローンの借入者)が受け取ります。しかし、火災保険に質権を設定すると、保険金は優先的に金融機関(質権者)へ支払われ、残額があれば借入者に渡る仕組みになります。


この場合、火災保険の保険証券は完済まで金融機関が保管し、借入者は写しのみを受け取ります。


借入者にとってのデメリット


火災保険の質権設定がある場合の主なデメリットは下記のとおりです。


  • 🔒 契約変更・解約が自由にできない:保険料を見直したいときも金融機関の同意が必要になり、乗り換えに手間がかかります。
  • ⏱️ 保険金の受け取りに時間がかかる:水漏れや落雷などの際も金融機関への連絡が必要で、支払いまでのプロセスが複雑になります。
  • 💸 保険金全額を手にできないケースがある:保険金がローン残高に充当されたあと、余剰が出なければ手元には何も残りません。
  • ⚠️ 免責事由に該当すると保険金が出ない:重大な過失(寝たばこや火の不始末など)が原因の場合、そもそも保険金が支払われないため質権の意味もなくなります。


近年、質権設定は減少傾向にある


2022年10月以降、火災保険の最長保険期間が従来の最長36年から最長5年へと大幅に短縮されました。これにより、住宅ローンの返済期間中に何度も質権設定の更新手続きが必要になるため、金融機関にとっても管理コストが増大しています。


また、抵当権の物上代位によっても保険金への差押えが可能なため、あえて質権設定を求める必要性が低下してきた背景もあります。その結果、火災保険への質権設定を求めない金融機関が増えています。


これは読者にとっていいことですね。


住宅ローンを契約する際は、火災保険への質権設定が条件になっているかを事前に確認しましょう。条件になっている場合、質権の有無・条件の違いも含めて複数の金融機関を比較することが、長期的な支出を抑える上で有効な行動です。




参考:火災保険の質権設定の詳細な仕組みと注意点が解説されています。


「権利質」という見落とされがちな担保手段:株式・預金債権への質権設定

金融の学習や実務において、質権の話題になると「不動産質」か「動産質」の議論に終始することが多いです。しかし、実は現代の金融実務で最も活用頻度が高いのは「権利質」です。この視点を持っているかどうかで、担保取引の理解度に大きな差が生まれます。


権利質とは:設定できる財産権の具体例


権利質は財産権に対して設定する質権です。対象となる主な権利として、預金債権(銀行口座の残高に対する権利)、売掛債権(商取引で発生した未収金)、株式(上場・非上場問わず)、知的財産権(特許権・著作権など)が挙げられます。


企業が金融機関から融資を受ける際に、自社の売掛債権や株式を担保として差し入れる場面でよく登場します。抵当権は不動産にしか設定できないため、これらの場面では権利質が必然的に選ばれます。


株式への質権設定:配当と議決権に注意


株式に質権を設定した場合、その株式の所有権は引き続き債務者(設定者)にあります。一方で、質権が実行された際には質権者がその株式を換価して弁済に充てます。


注意が必要なのは、配当金と議決権の扱いです。通常、質権設定後も配当金は株主(債務者)が受け取りますが、契約内容によっては質権者に交付されることもあります。また、議決権は株主が行使できる点が原則ですが、未上場株の場合は会社が株主名簿への記載に同意しないと対抗要件を備えられないケースがあります。


つまり、株式質権には条件確認が必須です。


預金債権への質権設定:火災保険以外にも登場する権利質


住宅ローンの場面以外にも、ビジネス上の融資において定期預金債権に質権を設定するケースは珍しくありません。定期預金を担保として差し入れることで、比較的有利な条件での融資が受けられる場合があります。


実行方法は、質権者が第三債務者(預金を保有する金融機関)に対して直接取り立てを行う形です。競売などの複雑な手続きが不要なため、スピーディーな債権回収が可能な手段です。これは使えそうです。


権利質は「難しい担保手段」ではなく、生活や仕事に直結する実用的な知識です。不動産以外の資産も担保になりうるという視点を持つことで、金融商品の選択肢や交渉の幅が広がります。




参考:権利質・株式担保の実務的な解説が確認できます。


いざというときに取引先の株式を担保にとる方法【担保の実行まで徹底解説】


質権設定の法的要件と消滅事由:手続きミスで損をしないために

「質権を設定した」「担保をとった」と思っていても、法的要件を満たしていなければその質権は効力を持ちません。正しい手続きを踏んでいるかを確認することは、金融取引において損失を防ぐための基本です。


質権の発生要件:契約+引渡し


質権を有効に成立させるには、質権設定契約の締結と目的物の引渡しの2ステップが必要です(民法344条)。口頭の合意だけでは不十分で、実際に目的物が質権者に引き渡される(または対抗要件に対応する手続きがとられる)ことが求められます。


引渡しの形は目的物によって異なります。動産であれば現物を手渡す、不動産であれば質権設定登記を行う、権利(預金債権等)であれば第三債務者への通知・承諾を得るといった方法です。


引渡しの形は種類次第です。


流質契約(りゅうしちけいやく)の禁止


質権設定契約の中に「返済できなかった場合、競売等の手続きなしに質物を質権者のものとする」という条項(=流質契約)を盛り込むことは、民法349条によって原則として禁止されています。


これは、融資を受けたい側(債務者)は立場が弱く、担保価値より著しく低い評価で質物を取り上げられる恐れがあるため、法律で保護されているからです。なお、弁済期到来後に改めて流質契約を結ぶことは認められています。


ただし、商行為として成立する質権(商法上の商事質権)については、民法349条の制限が適用されず、流質が認められています。これは注意が必要です。


対抗要件:第三者への権利主張に必要な手続き


質権は正しい対抗要件を備えてはじめて、第三者に対して「この担保権は私のものだ」と主張できます。


  • 🏷️ 動産質:継続して質物を占有していること(民法352条)
  • 🏠 不動産質:質権の登記を行うこと(民法177条)
  • 💳 権利質(債権):確定日付のある証書で第三債務者への通知または承諾を得ること(民法364条)


質権が消滅する主な事由


質権は以下の場合に消滅します。


  • ✅ 被担保債権の完済(付従性による消滅)
  • 🔥 目的物の滅失(ただし物上代位で保険金等に移行可能)
  • 🤝 質権の放棄
  • 📅 不動産質の存続期間満了(最長10年)
  • 🧾 代価弁済(不動産を第三者が購入し、質権者に代価を払った場合)


住宅ローンを完済した後も、抵当権や質権の登記が残ったままになっているケースがあります。残ったままでは、不動産の売却や新たな担保設定の際に障害となる可能性があります。完済後は速やかに抹消手続きを行うことが推奨されます。登記費用は通常、司法書士に依頼する場合で1万〜2万円程度が目安です。手続きのタイミングを逃さないようにしておきましょう。




参考:国民生活センターによる「質権と抵当権」の違いをわかりやすくまとめた解説資料です。


国民生活センター|質権と抵当権(わたしの生活と法律)




不動産登記の書式と解説 第6巻 根抵当権・先取特権・質権に関する登記