
清算集中義務とは、金融商品取引法第156条の62で定められた、一定の店頭デリバティブ取引を中央清算機関で清算することを義務付ける制度です。この制度は2009年のピッツバーグ・サミットで必要性が指摘され、日本では2012年から段階的に導入されています。
📊 主な目的と背景
清算集中義務の基本的な仕組みは、従来の相対取引において発生していた取引相手方リスクを、中央清算機関に集約することで分散・軽減する点にあります。これにより、一つの金融機関が破綻した場合でも、その影響が他の金融機関に波及することを防ぐことができます。
清算集中義務の対象となる取引は、基本的に前年度のOTCデリバティブ取引の想定元本合計額が3,000億円以上の金融商品取引業者同士の取引です。これは規模の大きな金融機関同士の取引を対象としており、例えば金融機関と事業会社間の金利スワップ取引は対象外となっています。
🎯 対象となる取引の特徴
店頭デリバティブ府令第2条では、取引の種類ごとに清算集中義務の適用対象外となる取引が明確に規定されています。具体的には以下のような取引が適用除外となります:
現在、清算集中義務の対象となる主要な取引類型は、金利スワップ取引のプレーンバニラ型とCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の指標取引の2つに大別されます。
💹 金利スワップ取引(プレーンバニラ型)
📈 CDS指標取引(iTraxx Japan)
金融庁が指定する具体的な取引内容は、金融商品取引法第156条の62第1号(CDS取引等)と第2号(金利スワップ取引等)に分類されています。これらの指定は、市場の状況や国際的な規制動向を踏まえて定期的に見直しが行われています。
日本の清算集中義務制度は、EU(欧州連合)のEMIR(European Market Infrastructure Regulation)など、他の主要金融市場の規制と協調しながらも、独自の特徴を持っています。
🌍 国際的な規制との比較
EU(EMIR)の清算集中閾値:
日本の独自性。
🔄 クロスボーダー取引への対応
日本の清算集中義務では、取引主体が国内外に跨る場合の取扱いについて特別な配慮がなされています。具体的には:
この制度設計により、日本の金融機関が国際的な競争において不利な立場に置かれることを防ぎ、グローバルな金融市場での円滑な取引を支援しています。
2024年11月、金融庁は「ユーロ円TIBORの恒久的な公表停止に伴う店頭デリバティブ取引規制関連府令の一部改正」を発表しました。この改正により、清算集中義務の対象となる取引の規定が新たに整備されています。
📅 2024年の主要な変更点
🔄 今後の規制動向
JPX(日本取引所グループ)では、日本における清算集中義務の対象取引よりも広い範囲で清算サービスを提供しており、市場参加者のニーズに応じた柔軟な対応を行っています。
注目すべき動向。
金融商品取引業者等は、これらの規制動向を常に監視し、コンプライアンス体制の維持・強化を図る必要があります。特に、清算集中義務の対象範囲や要件の変更は、取引コストや資金調達戦略に直接的な影響を与えるため、適切な対応準備が求められています。
清算集中義務は法的な義務であり、違反した場合には金融商品取引法に基づく行政処分の対象となる可能性があります。実務においては、以下の点に特に注意が必要です。
⚠️ 主要なリスク要因
💼 実務上の留意点
取引前の確認事項。
取引後の管理事項。
特に、想定元本3,000億円の基準については、月末残高の平均値で判定されるため、継続的なモニタリングが必要です。また、新たに基準を超えた場合の清算集中義務開始時期についても、適切な準備期間を設けて対応する必要があります。
清算集中義務の対象取引に該当するかの判断は複雑な場合があり、不明な点については金融庁や業界団体への照会、専門家への相談を行うことが推奨されます。