
システミックリスクの測定は、現代金融システムにおける最も重要な課題の一つです。2008年のリーマンショック以降、個別金融機関のリスク評価だけでは不十分であり、金融システム全体への波及効果を定量化する手法の開発が急務となっています。
システミックリスク指標は、トリガー事象が発生した場合に、金融システムや経済セクター等に生じる悪影響の程度を、確率モデルを用いてリスク指標として計測するものとして定義されています。この測定には、ヒストリカル確率測度またはリスク中立確率測度が用いられ、リスク評価期間は長くても半年、観測期間は半年から1年とする場合が多いのが特徴です。
システミックリスクの測定において重要な概念は、トリガー事象V と損失L の相互依存性の強さです。トリガー事象が発生するときに損失が上昇するような場合、システミックリスク指標は大きな値をとります。
測定の基本的な枠組みは以下のような要素で構成されています。
システミックリスク指標は、測定対象と手法により4つの主要カテゴリに分類されます:
1. 個別金融機関のリスクに係る指標
個々の金融機関が金融システム全体に与える影響を測定します。これには各機関の規模、相互連結性、代替不可能性などの要因が含まれます。
2. 金融機関間の相互依存性のリスクに係る指標
金融機関同士の複雑なネットワーク関係を分析し、一機関の問題が他機関に波及するリスクを定量化します。
3. 金融セクターと公的セクター間の相互依存性のリスクに係る指標
民間金融機関と政府・中央銀行との関係性が生み出すリスクを測定します。
4. 金融市場の機能不全のリスクを表す指標
市場流動性の枯渇や価格発見機能の停止など、市場メカニズムそのものの機能不全リスクを評価します。
最新の研究では、**SystRisk(システムリスク)**という包括的な測定手法が開発されています。この手法は、金融システムにテール・リスク保険を提供する社会的コストを事前に捉えるものです。
SystRiskフレームワークの特徴。
このアプローチにより、個別機関のシステム全体への寄与度を定量的に評価でき、適切なリスク管理政策の策定が可能になります。
日本では、日本銀行が中心となってシステミックリスクの測定・監視体制を構築しています。特に注目すべきは、**Growth at Risk(GaR)**を用いた分析手法です。
この手法では、日本のデータを用いて金融指標の悪化がGDP成長率のダウンサイド・テールリスクを増幅させるメカニズムを確認しています。具体的には:
日本独自の取り組みとして、**取引主体識別システム(LEI)**の導入検討も進められており、金融機関等に統一的な識別コードを割り当てることで、システミックリスクのより精密な測定が期待されています。
従来のシステミックリスク測定では見過ごされがちだった流動性リスクの定量化について、新たな測定基準の開発が進んでいます。
流動性リスク測定の重要な観点。
これらの測定手法により、システミックリスクの重要な構成要素である流動性危機を事前に察知し、適切な対策を講じることが可能になります。特に、複数の金融機関が同時に流動性問題を抱える状況での相互影響の測定は、システミックリスク管理において極めて重要です。
現在の測定技術は、単一の指標に依存せず、複数の手法を組み合わせた包括的なアプローチへと発展しており、金融システムの安定性確保において不可欠なツールとなっています。定期的な測定結果の検証と手法の改善により、より効果的なシステミックリスク管理が実現されています。