
清算参加者の加入基準は、金融商品取引法および関連規則に基づいて設定されており、清算機関のリスク管理の中核を成している。日本証券クリアリング機構(JSCC)では、債務引受・債務負担を行う立場として、清算参加者には極めて高い信用力を要求している。
基本的な参加資格要件:
この制度設計の背景には、2008年のリーマンショック以降に強化された国際的な金融規制の流れがある。国際決済銀行(BIS)が策定した「金融市場インフラのための原則」では、清算機関が参加者に対して十分な財務資源と強固な業務運行能力を求めることが規定されており、これを踏まえて日本の規制も整備されている。
金融商品取引業者の財務基準(自社清算資格):
登録金融機関の財務基準:
国際統一基準行の場合。
国内基準行の場合。
注目すべき点として、他社清算資格を取得する場合は、自社清算資格よりもさらに厳格な基準が適用される。例えば、純財産額については200億円以上が要求される。これは、他社の取引も含めて清算業務を行うことによる追加的なリスクを反映したものである。
維持基準の特徴:
取得基準と維持基準が異なることも重要なポイントである。維持基準では、一部の要件が緩和されており、例えば金融商品取引業者の自己資本規制比率は120%以上となっている。これにより、一時的な財務状況の変動に対する業界の安定性を確保している。
清算資格の取得申請には、「清算資格取得申請書」及びその添付書類の提出が必要である。申請プロセスでは、以下の手続きが重要となる:
必要な役員・責任者の選任:
システム・口座関連の準備:
申請書類については、既に市場開設者に届出・報告をしている資料については、当該機関から直接閲覧することに同意することで提出を省略できる仕組みがある。これにより、申請者の事務負担を軽減している。
親会社保証による基準充足:
特筆すべき点として、財務基盤については親会社保証を受けることで取得基準を満たすことも可能である。これは、グループ会社の一員として参加する場合の実務的な配慮として設けられている制度である。
清算参加者の加入基準は、単なる財務要件にとどまらず、包括的なリスク管理体制の構築を求めている。清算機関は、最低限一日に一度は参加者に対する信用エクスポージャーを測定することが求められており、これに対応できる体制の整備が必要である。
業務執行体制の要件:
近年のデジタル化の進展に伴い、システム対応能力も重要な評価要素となっている。新しい現物清算システムを用いて株式等の決済事務を滞りなく実施できることが求められ、実際にテストを通じて確認される。
継続的なモニタリング:
清算機関は、参加要件が継続的に満たされていることをモニタリングするための手続きを備える必要がある。これには、定期的な財務報告、リスク評価、ストレステストなどが含まれる。
清算参加者の加入基準は、金融市場の変化に応じて継続的に見直されている。特に、デジタル資産の取扱いや新しい金融商品の登場に伴い、従来の基準では対応しきれない部分が出てきている。
国際的な整合性への配慮:
日本の清算参加者制度は、国際的な標準との整合性を保つことが重要視されている。特に、CPMI-IOSCO(決済・市場インフラ委員会・証券監督者国際機構)が策定する原則との整合性を図ることで、クロスボーダー取引における信頼性を確保している。
ETF特別清算資格などの新しい仕組み:
近年では、ETF(上場投資信託)の普及に伴い、ETF特別清算参加者や登録ETF信託銀行といった新しい参加者カテゴリーが設けられている。これらの制度では、投資信託委託会社や信託会社等を対象とした特別な要件が設定されている。
デジタル化への対応:
決済期間の短縮化(T+1決済の導入検討など)や、新しい決済技術の導入に伴い、システム対応能力や事務処理能力の要件も進化している。参加者には、技術革新に対応できる柔軟性と投資能力が求められている。
費用面での配慮:
清算資格取得手数料は100万円とされているが、特定の条件下では免除される場合もある。これは、市場の流動性確保と参加者の負担軽減のバランスを図った措置である。
今後は、暗号資産やCBDC(中央銀行デジタル通貨)などの新しい金融商品・技術の普及に伴い、清算参加者の加入基準もさらなる進化が予想される。特に、サイバーセキュリティ対策やデジタル資産の保管・管理体制など、従来の財務要件を超えた新しい要素が重要になってくると考えられる。