裁量労働制の職種と対象業務を金融視点で解説

裁量労働制の職種と対象業務を金融視点で解説

裁量労働制の職種と対象業務を金融視点で徹底解説

裁量労働制に適用されている証券アナリストでも、深夜22時以降に働くと残業代が発生します。


📌 この記事の3ポイント要約
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対象職種は法律で20種類のみ

専門業務型裁量労働制の対象は厚生労働省令で定められた20業務のみ。2024年4月にM&Aアドバイザリー業務が追加され、金融系の職種もより明確になりました。

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「残業代ゼロ」は誤解

裁量労働制でも深夜労働(22時〜翌5時)と法定休日出勤には割増賃金が発生します。「残業代は一切出ない」という認識は法律的に誤りです。

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高度プロフェッショナル制度との違いに注意

裁量労働制に年収要件はありませんが、高度プロフェッショナル制度は年収1,075万円以上が必須条件。金融系職種で混同しやすい2つの制度は、適用条件が根本的に異なります。


裁量労働制の職種は専門業務型と企画業務型の2種類が基本


裁量労働制は、「実際に何時間働いたか」ではなく、「あらかじめ労使で決めたみなし労働時間分を働いた」とみなして賃金を支払う制度です。労働基準法第38条に規定された「みなし労働時間制」の一種で、業務の進め方や時間配分を労働者自身が自由に決められる点が特徴です。


この制度には大きく2種類あります。「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」です。


専門業務型は、厚生労働省令および大臣告示で定められた特定の専門業務が対象です。法律が明示している業務リストに当てはまっている職種のみ、労使協定を締結したうえで導入できます。一方、企画業務型は「本社などで企画・立案・調査・分析を行う業務」が対象で、具体的な業務リストはなく、4つの要件を満たすかどうかで判断されます。


2つの制度の主な違いをまとめると、下表のようになります。

































比較項目 専門業務型 企画業務型
根拠条文 労基法第38条の3 労基法第38条の4
対象業務 省令・告示で定める20業務 企画・立案・調査・分析業務(4要件充足)
導入手続き 労使協定の締結→労基署届出 労使委員会の設置・決議→労基署届出
本人同意 必要(2024年4月〜義務化) 必要(従来より義務)
年収要件 なし


どちらの制度にも年収要件がない点は、後述する高度プロフェッショナル制度との大きな違いです。これが条件です。


金融に興味がある人にとって重要なのは、どちらの制度でも「本人の同意なく適用することは禁じられている」という点です。2024年4月の法改正で、専門業務型でも本人同意が義務化されました。会社から「裁量労働制に同意してください」と求められた際に、同意しなかったとしても、解雇や降格といった不利益な取り扱いを受けることは法律で禁止されています。


参考情報(厚生労働省による裁量労働制の制度概要)。
厚生労働省|専門業務型裁量労働制の制度概要・手続きについて


裁量労働制の職種一覧:金融関連も含む全20業務をチェック

専門業務型裁量労働制の対象は、2024年4月の省令改正を経て現在は全20業務です。金融に関わる職種が複数含まれており、業界を志望する人や転職を考えている人は必ず把握しておきたい内容です。


以下が2024年4月時点の全20業務の一覧です。





























No. 対象業務 代表的な職種例
1 新商品・新技術の研究開発、人文・自然科学の研究 研究者、開発者
2 情報処理システムの分析または設計 システムエンジニア(設計工程)
3 新聞・出版の記事取材・編集、放送番組制作の取材・編集 記者、編集者
4 衣服・室内装飾・工業製品・広告等のデザイン考案 デザイナー
5 放送番組・映画等のプロデューサーまたはディレクター プロデューサー、ディレクター
6 広告等における文章案(コピー)の考案 コピーライター
7 情報処理システム活用の問題把握・方法考案・助言 システムコンサルタント
8 インテリアの総合的設計・助言 インテリアコーディネーター
9 ゲーム用ソフトウェアの創作 ゲームクリエイター
10 有価証券市場の動向分析・評価・投資助言 証券アナリスト
11 金融工学等を用いた金融商品の開発 金融エンジニア、クオンツ
12 大学での教授研究 大学教授等
13 公認会計士の業務 公認会計士
14 弁護士の業務 弁護士
15 建築士(一級・二級・木造)の業務 建築士
16 不動産鑑定士の業務 不動産鑑定士
17 弁理士の業務 弁理士
18 税理士の業務 税理士
19 中小企業診断士の業務 中小企業診断士
20 銀行・証券会社のM&Aアドバイザリー業務 M&Aアドバイザー(2024年4月新追加)


🟡 ハイライト(No.10・11・20)が金融関連職種です。


金融の世界に興味がある人にとって注目すべきは、第10号の「証券アナリスト」と第11号の「金融エンジニア・クオンツ」、そして2024年に新たに加わった第20号の「M&Aアドバイザー」です。これら3つは専門業務型の対象に明確に位置づけられています。


一方、よく誤解されているのがファンドマネージャーやトレーダーです。これらの職種は「高度プロフェッショナル制度」の対象としてよく挙げられますが、裁量労働制の専門業務型の対象業務リストには、直接は含まれていません。つまり裁量労働制とは別の枠組みで扱われているということですね。


また、プログラマーは「設計書に沿って決められた処理を実装する」業務が主体であるため、裁量の幅が狭いと判断され、専門業務型の対象外と明確に定められています。ITエンジニアであってもプログラミング専業の場合は適用できない点は、重要な注意事項です。


参考情報(2024年4月改正による対象業務追加の経緯)。
日本M&Aセンター|M&A業務が裁量労働制の専門型に追加(2024年施行)


裁量労働制の職種でも残業代が発生する3つのケースを把握する

「裁量労働制になったら残業代はゼロ」と思っている人は多いです。しかしこれは明確な誤解で、金融系職種に就く場合は特に注意が必要です。


裁量労働制では「みなし労働時間」で賃金が計算されるため、実際に10時間働いても8時間分のみの賃金が基本となります。ただし、以下の3つのケースでは追加の割増賃金が発生します。


- ケース①|みなし労働時間が法定労働時間(8時間)を超えて設定されている場合
たとえばみなし労働時間を「1日9時間」に設定した場合は、法定の8時間を超えた1時間分に対して25%以上の割増賃金が必要です。設定した時間数が重要です。


- ケース②|深夜労働(22時〜翌5時)を行った場合
この時間帯に実際に働いていれば、裁量労働制であっても基礎賃金の25%以上の深夜割増手当が発生します。夜間に集中してリサーチするアナリストや、市場対応で深夜に作業するクオンツにとって、見落としやすい落とし穴です。


- ケース③|法定休日(週1日)に出勤した場合
法定休日の労働は裁量労働制の枠外となり、通常の休日割増賃金(35%以上)が必要です。


深夜割増だけ発生するという点は、実務上の見落としが非常に多いです。たとえば、証券アナリストが海外市場の動向調査のために夜11時まで働いた場合、みなし労働時間が8時間の設定であっても、22時以降の1時間分については25%分の深夜手当を会社が支払う義務があります。会社側がこれを怠ると、労働基準法違反として是正指導の対象になります。


また、裁量労働制にも36協定(時間外労働・休日労働に関する労使協定)は適用されます。月45時間・年360時間を超えた労働は原則として労働基準法違反となるため、「裁量があるから何時間でも働ける」というわけではない点も覚えておきましょう。残業代は原則なし、が基本です。ただし例外が3つある、と整理すれば頭に入りやすいです。


参考情報(裁量労働制における割増賃金の考え方)。
HR NOTE|裁量労働制は残業代が出ない?計算方法や休日出勤・深夜労働について


裁量労働制の職種と高度プロフェッショナル制度の違いを理解する

金融業界に関心のある人が特に混同しやすいのが、裁量労働制と「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」の違いです。どちらも「時間にとらわれない働き方」として語られますが、制度の根本が異なります。


最大の違いは、年収要件の有無です。


高度プロフェッショナル制度では、年収1,075万円以上(厚生労働省令で定める額)であることが適用の前提条件として設けられています。一方、裁量労働制には年収要件が一切ありません。年収が500万円の証券アナリストでも、要件を満たせば裁量労働制を適用することができます。


また、労働時間規制の扱いも根本的に異なります。


裁量労働制では、みなし労働時間というかたちで労働時間の概念は残っており、深夜・休日割増賃金も適用されます。しかし高度プロフェッショナル制度は、労働時間・休憩・休日・割増賃金に関する労働基準法の規定そのものが適用除外になります。文字通り「時間外という概念がない」制度です。


金融系でよく名前が挙がる職種としては、ファンドマネージャー・トレーダー・ディーラー・証券アナリストが高度プロフェッショナルの対象とされています。これらの職種が年収1,075万円以上の条件を満たせば高プロを選択でき、そうでなければ裁量労働制(証券アナリストは第10号で対応)の選択肢が残るという構造です。


主な違いを比較してみましょう。

































比較項目 裁量労働制 高度プロフェッショナル制度
年収要件 なし 1,075万円以上
労働時間規制 みなし時間制(適用あり) 適用除外
深夜・休日割増 発生する 発生しない
本人同意 必要
金融系職種例 証券アナリスト、M&Aアドバイザー、クオンツ ファンドマネージャー、トレーダー、ディーラー


制度の違いを把握していないと、採用条件や待遇を比較する際に誤った判断をしてしまう可能性があります。特に転職時の年収交渉や、雇用契約書のチェックで役立つ知識です。これは使えそうです。


厚生労働省のサイトでは、高度プロフェッショナル制度の要件を一覧で確認できます。


厚生労働省PDF|現行の裁量労働制について(高度プロフェッショナル制度との比較資料)


裁量労働制の職種に就く人が知っておくべき「同意・撤回」の権利

2024年4月の法改正で最も影響が大きかった変更点の一つが、専門業務型における「本人同意の義務化」です。従来は企画業務型のみに課されていた本人同意が、2024年4月以降は専門業務型にも必須となりました。


これは金融系職種を含む、すべての裁量労働制対象者に関わる話です。


具体的には、会社側は以下の内容を労働者に十分説明したうえで、書面や電子データで同意を取得しなければなりません。


- 対象業務の内容など、制度の概要
- 同意した場合に適用される評価制度・賃金制度の内容
- 同意しなかった場合の配置・処遇の扱い


同意しないことで不利益な扱いを受けることは禁止されています。降格・配置転換・査定への影響など、あらゆる不利益取り扱いは法律違反です。また、一度同意した後でも、同意の撤回が可能です。撤回の手続きについても、会社は労使協定に明記する義務があります。


もし現在、書面での同意なしに裁量労働制を「適用されている」状態であれば、制度の適用自体が無効となる可能性があります。無効と判断された場合、実際の労働時間に基づいて残業代を遡って請求できる可能性が生じます。


厳しいところですね。


特に証券アナリストや金融エンジニアとして就職・転職先で裁量労働制の適用を求められた際は、同意書の内容をしっかり確認することが重要です。「みなし労働時間は何時間に設定されているか」「深夜・休日手当は適切に支払われるか」「不同意にした場合の処遇はどうなるか」といった点を確認するのが基本です。


2024年改正で追加された労使協定の必須記載事項については、厚生労働省の公式資料で確認できます。


厚生労働省PDF|専門業務型裁量労働制の解説(2024年4月改正対応版)


裁量労働制と金融職種の将来:2026年以降の拡充動向を独自視点で読む

ここからは、公開情報をもとにした独自の見解をお伝えします。


2026年2月現在、高市早苗首相が施政方針演説で裁量労働制の見直しを正式表明する方向で動いています。対象業務の追加と企画業務型の適用拡大が焦点で、金融業界にも直接関係する内容が含まれる可能性があります。


注目ポイントは2つあります。


1つ目は、AIやデータサイエンスに関わる高度専門業務の対象追加です。金融工学とAIの境界線が曖昧になっている現代では、フィンテック開発者やデータ駆動型リスクアナリストが新たに対象職種に加わる可能性があります。


2つ目は、企画業務型への「法人向け提案型営業(ソリューション型営業)」の拡大検討です。これは2018年に一度法案に盛り込まれながら、厚労省のデータ不備が発覚して見送られた経緯がある業務です。実現した場合、金融機関の法人営業部門(融資提案・財務コンサル等)が新たに対象になる可能性があります。


一方で、拡充には必ず「健康確保措置の強化」がセットになる見通しです。勤務間インターバル制度の義務化や、労働時間の上限設定が条件として課される方向性が報じられています。裁量の拡大と健康保護の両立が制度設計の鍵になります。


現時点での法改正スケジュールは未確定で、早くとも2027年以降の施行が見込まれています。しかし、将来的に自分の職種が新たに対象に加わる可能性を考えると、今から制度の構造を正しく理解しておく価値は十分にあります。


制度の最新動向については、厚生労働省の労働政策審議会の議事録で確認できます。


厚生労働省|労働政策審議会労働条件分科会(議事録・資料一覧)




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