

労災保険の保険料を従業員と折半していると、あなたの会社は毎年数十万円を余分に支出しているかもしれません。
多くの方が「社会保険料は会社と従業員で分担するもの」というイメージを持っています。健康保険や厚生年金は実際にそのとおりで、会社と従業員がそれぞれ半額ずつ負担するのが原則です。ところが、労災保険の保険料については話が全く違います。
労災保険料は、法律(労働者災害補償保険法)により全額が事業主負担と定められています。従業員が負担する金額はパート・アルバイトも含めてゼロ円です。給与明細を見ても、健康保険料や雇用保険料の控除欄はあっても、労災保険料の控除欄が存在しないのはそのためです。
この「全額事業主負担」の理由は、制度の性質にあります。労災保険は「業務を原因とする事故・疾病」に対して給付されます。業務は事業主の指揮命令のもとで行われるため、そのリスクに対する費用は事業主が持つべきという考え方が根底にあるのです。いわば、経営リスクに対する事業主自身の保険と捉えるのが正確です。
なお、従業員の雇用形態は一切問われません。正社員・契約社員・パート・アルバイト・日雇い労働者のすべてが加入対象です。加入手続きは、雇用契約成立後10日以内に管轄の労働基準監督署へ必要書類を提出することが義務付けられています。これが原則です。
| 保険の種類 | 事業主負担 | 従業員負担 |
|---|---|---|
| 労災保険 | 100% | 0% |
| 健康保険(協会けんぽ) | 約50% | 約50% |
| 厚生年金保険 | 約50% | 約50% |
| 雇用保険(一般事業) | 8.5/1,000 | 5/1,000 |
参考として、厚生労働省のウェブサイトでは労災保険制度の概要と保険料負担の根拠が詳しく解説されています。
厚生労働省「労災補償(労災保険制度の概要)」 - 保険料負担の法的根拠と制度全体像が確認できます
保険料の計算方法を知っておくことは、コスト管理の観点からも重要です。計算式そのものはシンプルです。
労災保険料 = 賃金総額 × 労災保険料率
ただし、「賃金総額」と「労災保険料率」の両方に落とし穴があります。
まず「賃金総額」とは、事業主・法人役員を除くすべての従業員に1年間(4月1日〜翌3月31日)に支払った賃金の合計額です。基本給・賞与・通勤手当・残業手当・扶養手当など幅広い手当が含まれます。一方、含まれないものとして代表的なのが退職金、見舞金、出張費・宿泊費、傷病手当金などです。また、法人役員の報酬も賃金総額には含まれません。
パートやアルバイトの賃金を計算から漏らすケースが実務上よく見られますが、これは誤りです。雇用形態に関係なく全員分を集計しなければなりません。
次に「労災保険料率」は、業種ごとに細かく定められています。令和7〜8年度(2025〜2026年度)の例を以下に示します。
| 業種の例 | 労災保険料率 |
|---|---|
| 金属鉱業・石炭鉱業 | 88/1,000(最高) |
| 林業 | 52/1,000 |
| 建設業(道路新設) | 11/1,000 |
| 製造業(一般) | 3〜6/1,000 |
| 卸売業・小売業 | 3/1,000 |
| その他の各種事業(オフィス系) | 2.5/1,000(最低) |
業種平均の保険料率は4.4/1,000と小さな数字に見えますが、賃金総額が大きい企業では相応の金額になります。たとえば従業員20人・平均年収445万円の卸売業(料率3/1,000)では、年間保険料は267,000円になります。また、従業員30人・平均年収532万円の建築業(料率9.5/1,000)では、年間保険料は約151万6,000円と一気に跳ね上がります。建設業はオフィス系の約4倍の保険料を支払うということですね。
厚生労働省「令和8年度の労災保険率について」 - 全業種の最新料率一覧が確認できます
「労災を使うと保険料が上がる」という話を聞いたことがある方も多いでしょう。これは「メリット制」と呼ばれる仕組みによるものです。ただし、すべての企業に適用されるわけではありません。これは知っておけばかなり重要な情報です。
メリット制とは、過去3保険年度の労災発生率(収支率)に応じて、翌期の労災保険料率を±40%の範囲で増減させる制度です。つまり、労災事故が少なければ保険料が最大40%引き下げられ、多ければ最大40%引き上げられます。
ただし、メリット制が適用されるのは以下の条件を満たす「規模の大きな企業」に限られます。
つまり、従業員が20人未満の中小企業は原則としてメリット制の対象外です。小規模企業が「労災を使ったら保険料が上がる」と心配して労災申請を控えさせるケースが現実に起きていますが、そのような企業にはそもそもメリット制が適用されません。厳しいところですね。
一方で、メリット制の対象企業にとっては、安全衛生管理への投資が保険料コスト削減に直結します。従業員100人以上の企業の経営者や財務担当者にとっては、職場の安全水準を高めることが直接的なコスト削減策になるという視点を持っておくことが大切です。
OneHR「労災保険のメリット制とは【保険料負担を公平にする仕組み】」 - 対象事業の条件・計算方法が詳しく解説されています
保険料の金額がわかっても、実際の申告・納付の手続きを知らないと実務で困ります。労災保険料は雇用保険料と合わせて「労働保険料」として一括で申告・納付します。
この手続きを「年度更新」と呼び、毎年6月1日〜7月10日の期間内に行う必要があります。申告書の提出と保険料の納付をこの期間中に行わなければなりません。2025年度の申告期間は6月2日(月)〜7月10日(木)でした。期限を過ぎると、政府が保険料額を一方的に決定する「認定決定」が行われ、追徴金も加算されます。
納付金額の仕組みも少しわかりにくいので整理しておきます。
納付方法は、銀行・郵便局などの金融機関での窓口払い、電子納付、口座振替があります。また、一定金額以上の場合は年3回の分割納付も可能です(第1期:7月10日まで、第2期:10月31日まで、第3期:翌年2月2日まで)。
近年は電子申請(e-Gov)を利用できるようになっており、記入ミスの防止や手数の削減につながります。毎年6月が近づいたら年度更新の準備を始める習慣をつけておきましょう。これが基本です。
厚生労働省「労働保険年度更新に係るお知らせ」 - 年度更新の最新申告期間と手続きの詳細が確認できます
労災保険の加入手続きを「後回しにしている」「面倒で放置している」という事業主が実際に存在します。しかし、このリスクは想像以上に深刻です。
未加入(または加入手続き未了)の状態で労災事故が発生した場合、政府は保険給付を行いますが、その後、事業主から給付費用を徴収します。徴収額は次のとおりです。
さらに、未払い保険料と追徴金(保険料の10%)も別途請求されます。加えて、労働保険料の滞納は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰のリスクもあります。労災保険の保険料はそれほど高くなく、多くの中小企業では年間数万円〜数十万円程度ですが、万一の事故時の実費負担はその何十倍にもなりえます。痛いですね。
一方で、見逃されがちな制度として「特別加入制度」があります。本来、労災保険は「雇われている労働者」が対象のため、個人事業主やフリーランス、法人役員は対象外です。しかし特別加入制度を利用することで、自らも労災保険の補償を受けられるようになります。
特別加入の保険料は、自分で選択した「給付基礎日額」(3,500円〜25,000円の16段階)に基づいて計算されます。特定フリーランス事業向けの保険料率は3/1,000で、年収に見合った日額を選択する形です。たとえば給付基礎日額を1万円に設定した場合、年間保険料は「10,000円×365日×3/1,000=10,950円」と手頃な金額です。これは使えそうです。
なお、令和6年の法改正により、フリーランスの特別加入対象業種が大幅に拡大されています。2026年3月時点では、ほぼ全業種のフリーランス・個人事業主が対象となっています。副業や独立を検討している方にとっても、ぜひ把握しておきたい制度です。
労働者健康安全機構「労災保険の特別加入制度とは(フリーランス向け)」 - 特別加入の保険料計算と手続き方法が詳しく解説されています
厚生労働省「労災保険に未加入の事業主に対する費用徴収制度が強化されます」(PDF)- 未加入事業主への費用徴収制度の詳細と強化内容が確認できます