年休の時季変更権とは何か行使条件と注意点を解説

年休の時季変更権とは何か行使条件と注意点を解説

年休の時季変更権とは何か・行使条件と注意点を徹底解説

退職が決まった社員の有休申請を、会社は絶対に断れません。


この記事の3つのポイント
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時季変更権の基本

労働基準法第39条第5項に定められた会社側の権利。「事業の正常な運営を妨げる場合」のみ行使でき、単なる繁忙期や人手不足を理由にした行使は認められない。

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行使できないケースに注意

退職直前の有休消化・有給の2年時効消滅直前・育児休業期間中などは時季変更権を行使できない。知らずに拒否すると会社側に罰則が生じるリスクがある。

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濫用すると罰則あり

正当な理由なく時季変更権を行使・濫用した使用者には、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性がある(労働基準法違反)。


年休の時季変更権とは何か・労働基準法上の根拠

「年休の時季変更権」という言葉を聞いたとき、多くの方は「会社が有休をいつでも変更できる権利」だと思いがちです。しかし実際には、行使できる場面は法律によって厳しく限定されています。


時季変更権(じきへんこうけん)とは、労働者が申請した年次有給休暇(年休)の取得日を、会社が別の日に変更できる権利のことです。根拠は労働基準法第39条第5項のただし書き部分にあります。


条文には次のように定められています。


「使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」(労働基準法第39条第5項)


条文の前半は、「有休は従業員が指定した日に与えなければならない」という原則です。後半の「ただし〜」以降が時季変更権の根拠になります。つまり、あくまでも例外的に認められる権利です。


「事業の正常な運営を妨げる場合」が条件です。
この要件を満たさない限り、会社は従業員の有休申請を変更できません。漠然とした理由では行使は認められません。


ここで重要なのが「時季指定権」との違いです。


| 権利の名称 | 行使できる主体 | 内容 |
|---|---|---|
| 時季指定権(従業員) | 従業員 | 有休を取りたい日を自分で指定できる権利 |
| 時季変更権 | 会社(使用者) | 従業員の希望日を別の日に変更できる権利 |
| 時季指定義務 | 会社(使用者) | 年10日以上付与の従業員に年5日分の有休を取得させる義務 |


2019年4月の法改正で、年10日以上の年休が付与される従業員に対して、会社は年5日間の有休を必ず取得させる義務が生じました。この義務に違反した場合も30万円以下の罰金の対象となります。


参考:厚生労働省 年次有給休暇取得の義務化に関する情報
厚生労働省「年次有給休暇の時季指定義務」(PDF)


年休の時季変更権が行使できる5つのケース・具体的な条件

時季変更権は「事業の正常な運営を妨げる場合」にのみ行使できます。では、どのような状況が該当するのでしょうか?


判例や裁判例をもとに整理すると、主に次の5つのケースが時季変更権の行使が認められやすいとされています。



  • 🔸 代替人員を確保できないケース:申請前後に代わりの人材を探す努力をしたが、客観的に確保が不可能な状況

  • 🔸 繁忙期に取得希望者が重なったケース:同一時期に複数人が有休を申請し、業務に具体的な支障が生じる場合

  • 🔸 本人しかできない研修・業務があるケース:本人の参加が欠かせない集合研修や、代替不可能な業務が重なる場合

  • 🔸 長期かつ連続の有休申請のケース:1ヵ月近い連続取得など、代替人員確保が著しく困難な場合

  • 🔸 直前申請のケース:当日の始業時間直前に申請し、会社が時季変更権を検討する時間的余裕がない場合


ただし、いずれのケースも「会社が代替勤務者を確保するための合理的な努力をしたか」が前提条件として問われます。努力を怠ったまま時季変更権を行使しても、裁判では違法と判断される可能性があります。


代替人員を探す努力が必要、ということですね。


【参考判例①】時事通信社事件(最高裁平成4年6月23日判決)


科学技術庁の記者クラブに単独配置された通信社の社会部記者が、約1ヵ月間の連続有休を申請した事案です。会社は専門記者が不在では取材報道に支障が生じるとして、後半2週間について時季変更権を行使。最高裁は、専門性が高く代替困難であることを考慮し、会社側の時季変更権行使を適法と判断しました(最高裁民集46巻4号306頁)。


【参考判例②】電々公社関東電気通信局事件


シフト制の職場において代替勤務者を客観的に確保できない状況であったと認定され、時季変更権の行使が適法とされた事例です。シフト変更の方法・頻度や代替勤務の可能性などが総合的に判断されました。


参考:最高裁判所判例(時季変更権関連)
最高裁判所判例情報「時事通信社事件(平成4年6月23日)」


年休の時季変更権が認められない・行使できないケースとは

時季変更権は「行使できる」場面よりも、むしろ「行使できない」場面を正確に知っておくことのほうが実務上は重要です。意外と多いことに気づくはずです。


① 「繁忙期だから」という理由だけでは不可


最もよくある誤解がこれです。「今は繁忙期だから有休は困る」という漠然とした理由では、時季変更権の行使は認められません。判例は繁忙期という事実だけでなく、代替人員が確保できないこと・業務への具体的な支障があることの立証を求めています(最高裁昭和62年7月10日判決ほか)。


繁忙期のみを理由にした行使はダメです。


② 退職・解雇予定日が決まっている場合は行使不可


退職日が決まった従業員が「残りの有休をすべて消化したい」と申し出た場合、会社は原則として拒否できません。時季変更権は「別の日に有休を与える」ことが前提の権利であり、退職日以降に有休を与える余地がなければ行使自体が成立しないためです。


引き継ぎなどをどうしても優先させたい場合は、退職日を後ろにずらす交渉を検討する必要があります。


③ 有給の2年時効が迫っている場合は行使禁止


年次有給休暇には付与日から2年の消滅時効があります(労働基準法第115条)。時効消滅直前の有休に対して時季変更権を行使すると、実質的に有休を取得させないことになるため、労働基準法上の禁止事項に抵触します。


有給の2年時効は重要なポイントです。


④ その他、行使できないケース一覧



  • 🚫 会社の倒産などにより変更後の休暇取得期間が確保できないとき

  • 🚫 産前産後休業・育児休業・介護休業の期間中に変更先の日が重なるとき

  • 🚫 有給の計画的付与(労使協定により指定された日)の場合

  • 🚫 有休申請の理由(デモ参加、私的活動など)を理由に行使するとき※


※弘前電報電話局事件(最高裁昭和62年7月10日判決)では、「有給休暇の利用目的は労働基準法の関知しないところ」と明示され、利用目的を理由にした時季変更権行使は違法とされています。


参考:最高裁判所判例(弘前電報電話局事件)
最高裁判所判例情報「弘前電報電話局事件(昭和62年7月10日)」


年休の時季変更権を濫用したときの罰則・法的リスク

時季変更権の濫用には、具体的な法的ペナルティが定められています。知らずに行使を続けると、会社側に深刻な損害が生じる可能性があります。


罰則:6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金


正当な理由なく有給休暇の取得を妨げた場合、使用者は労働基準法違反として刑事罰の対象になります。


労働基準法違反により、使用者には6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります(労働基準法第119条・第39条違反)。


これは金融機関や企業の労務担当者にとっても無縁ではありません。コンプライアンス上のリスクとして認識しておく必要があります。


損害賠償・訴訟リスク


時季変更権が無効と判断された場合、会社は従業員に対して欠勤控除した賃金の返還や、精神的苦痛への慰謝料を請求される可能性があります。過去には、時季変更権の行使に起因するトラブルで会社側が600万円超の支払いを命じられた事例(大阪地裁平成4年12月21日判決)も存在します。


厳しいですね。


労働審判・労基署への申告リスク


従業員が労働基準監督署に申告した場合、是正勧告を受けるリスクがあります。対応を誤ると刑事訴追につながる場合もあります。また、労働審判や民事訴訟に発展すると、企業側の負担は大きくなります。


時季変更権の行使後に従業員が欠勤した場合の対処


正当な時季変更権の行使にもかかわらず従業員が出勤しなかった場合は、欠勤控除や懲戒処分が可能です。ただし、懲戒処分の種類には要注意です。



  • 欠勤1日程度 → 戒告・譴責(文書注意)が相当とされるケースが多い

  • 繰り返し・長期欠勤 → より重い処分が認められる場合もある

  • 過度に重い処分(降格・懲戒解雇など)は無効になるリスクがある


処分の重さは事案の内容に合わせることが条件です。


参考:労働基準法条文(e-Gov法令検索)
e-Gov「労働基準法」第39条・第119条


年休の時季変更権にまつわる独自視点:金融機関・ビジネスパーソンが特に注意すべきポイント

金融業界では、税務申告シーズン(2〜3月)や年度末決算(3〜4月)など、業務が集中する時期が年に複数回あります。こうした時期に「繁忙期だから有休は控えてほしい」と口頭で伝えるだけでは、法的には時季変更権の有効な行使とはなりません。


これは意外ですね。


実は、金融機関の担当者や経理・財務部門のビジネスパーソンが陥りやすい誤解の一つです。「確定申告期間中は毎年繁忙期なのだから当然わかるはず」という感覚は、法的には通用しません。具体的な業務の支障・代替人員確保の困難さを個別に示す必要があります。


「事前の手続き整備」がリスク管理の最善策


時季変更権のトラブルを未然に防ぐために、以下の対策が有効です。



  • 📝 就業規則に時季変更権の行使手続きを明記する(通知方法・タイミングなど)

  • 📝 有休申請の際は、申請から何日前までに届け出るかを明確にルール化する

  • 📝 代替人員の確保プロセスを記録として残す習慣をつける

  • 📝 「繁忙期カレンダー」を労使間で共有し、計画的付与(計画年休)の活用を検討する


特に、計画的付与制度(労使協定に基づき有休の取得日を事前に決定する制度)を活用すると、繁忙期以外に有休消化を促すことができ、時季変更権の行使トラブルを大幅に減らせます。これを使えそうです。


また、年休の付与から2年で有給が消滅する点(労働基準法第115条)は、従業員側にとっても大きな損失になります。特に多忙な金融系職種では、有休を使わないまま時効消滅してしまうケースが珍しくありません。有休の残日数と取得期限を定期的に確認できる勤怠管理ツールの活用も、実務上の有効な対策の一つです。


有休の消滅時効は2年が原則です。


さらに、有休が年10日以上付与される従業員については、会社が年5日間の有休取得を義務づけられています(2019年施行の法改正)。この義務を果たせなかった場合も、従業員1人当たり30万円以下の罰金が科される可能性があります。財務・労務コンプライアンスを重視する金融系企業であれば、特に意識すべきルールです。


参考:厚生労働省「年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています」
厚生労働省「年次有給休暇の付与日数・時効・罰則」(PDF)