

労使協定を締結せずに計画的付与を実施しても、その日数は「年5日取得義務」の5日にカウントされない。
年次有給休暇の計画的付与(計画年休)とは、労働基準法第39条第6項に基づく制度です。労使協定を結ぶことで、会社が年次有給休暇の取得日をあらかじめ指定できる仕組みです。
ポイントは「5日を超える部分だけ」が対象という点です。労働者が自由に使えるよう、最低5日は必ず残しておく必要があります。例えば年次有給休暇が10日付与されている場合、計画的付与に充てられるのは最大5日分だけ。20日付与されていれば、最大15日分まで会社が日程を指定できます。
制度の核心は「労使協定」の締結です。これがなければ、どれだけ社内でルールを決めても、計画的付与は法的に無効となります。
計画的付与の根拠は、労働基準法第39条第6項です。条文では「労使協定により計画的に年次有給休暇を付与できる」と規定されており、労使協定の締結が大前提となっています。
労使協定が必要な理由は、本来「有給休暇の取得時季を決める権利(時季指定権)」は労働者にあるからです。これを会社側が事前に指定するためには、労働者の過半数を代表する者との合意、つまり労使協定の締結が必要になります。
締結の相手方は「過半数労働組合」または「過半数代表者」です。労働組合がない会社では、労働者の過半数から選ばれた代表者と協定を結びます。注意が必要なのは、この代表者を「会社が指名してはいけない」点です。
ここで多くの担当者が驚くのですが、計画的付与に関する労使協定は、労働基準監督署への届出が不要です。36協定や変形労働時間制の協定とは異なり、計画年休の労使協定は社内で保管するだけでOKです。
ただし、重要な例外があります。従業員数が常時10名以上の事業場の場合、就業規則への記載と変更届の提出が別途必要になる点です。具体的には、就業規則に「労使協定により計画的付与を実施できる旨」を明記し、就業規則変更届を労働基準監督署に提出する義務が生じます。
つまり協定書自体は届出不要でも、就業規則の変更は届出が必要という二段構えの手続きが求められます。
これが必要です。
日本の人事部:計画的付与に関する労使協定の年度更新や保管方法のQ&A
労使協定の記載に不足があると、協定全体が無効と判断されるリスクがあります。
必ず盛り込むべき項目は次の5つです。
| 記載項目 | ポイント |
|---|---|
| ①対象者 | 有給休暇が6日以上付与される労働者。育休・産休中の方は除外を明記 |
| ②対象日数 | 付与日数から5日を引いた残り部分(繰越分も含む) |
| ③実施方法 | 一斉付与・交代制付与・個人別付与のいずれかを明記 |
| ④付与日の変更手続き | やむを得ない変更の際の手続き(事前に規定すると再締結が不要になる場合あり) |
| ⑤有効期間 | 協定の有効期間。日程を指定する場合は毎年の更新が必要になる |
特に見落としやすいのが「繰越分の扱い」です。前年度から繰り越された有給休暇も「5日を超える部分」の計算に含まれます。繰越20日+当年度付与10日=合計30日であれば、25日分が計画的付与の対象に。つまり繰越が多い労働者ほど、会社が指定できる日数も増える仕組みです。
計画的付与の実施方式は3種類あり、自社の業種・体制に合ったものを選ぶことが重要です。一度記載した方式は、変更時に再度協定を結び直す必要があります。
最もシンプルなのが「一斉付与方式」です。
事業場全体で一斉に休暇日を設定します。
製造業など全員を同時に休ませやすい業種に向いており、設備メンテナンスのタイミングで計画年休を組み込む会社も多いです。
「交代制付与方式」は、部署やグループごとに異なる日程で休暇を設定します。顧客対応が途切れると困るサービス業や金融業では、こちらが主流です。
「個人別付与方式」は、労働者ごとに誕生日や記念日を休暇日とする方法です。アニバーサリー休暇として活用する会社が増えており、ワークライフバランス向上に効果的です。
これは使えそうです。
計画年休を導入したとき、全員に一律に適用できるわけではありません。対象から外れる従業員への対応を協定に明記しておかないと、後になってトラブルに発展します。
対象外となる主なケースは次の通りです。
問題はこれらの従業員を「計画的付与日に休業させる場合」の処遇です。有給休暇がない状態で休業させると、その分の賃金保障が求められます。対応策としては「有給の特別休暇を付与する」「平均賃金の60%以上の休業手当を支払う」「有給休暇を前倒しで付与する」の3択があります。
休業手当が条件です。平均賃金の60%を下回ると、労働基準法第26条違反になります。
Jinjer HR:有給休暇の計画的付与制度の導入方法・注意点(対象外従業員への対応を含む)
計画年休の導入に際して、一部の従業員や少数組合が反対するケースは珍しくありません。
厳しいところですね。
ここで知っておきたいのが「過半数代表との合意があれば、反対者にも適用できる」というルールです。
1992年の三菱重工業長崎造船所計画年休事件(福岡高等裁判所 平成6年3月24日判決)では、労働者の98%が加入する過半数組合と協定を締結した結果、少数組合の組合員も含む全員に計画年休が適用される、という判断が示されています。著しく不合理な特別事情がなければ、全事業場に協定の効力が及ぶとされています。
ただし、個別の従業員に対して「なぜ反対するのか」の声を丁寧に聞いた上で協定を進めることが、長期的な職場環境の維持につながります。
労使の信頼関係が基盤です。
通常の有給休暇申請では、会社は「業務に著しい支障がある場合」に限り、取得時季を変更させる「時季変更権」を行使できます。しかし計画的付与については、この時季変更権を会社側は一切行使できません。
理由は明確です。計画的付与日は労使協定によって確定された日程であり、使用者が一方的に変更できる性質のものではないからです。これは厚生労働省のFAQでも明確に示されています(昭和63年1月1日基発1号)。
やむを得ない事情で付与日を変更したい場合は、①労使協定に変更手続き規定を事前に設けておく、または②改めて労使協定を締結し直す、のどちらかの手順を踏む必要があります。
時季変更権なしと覚えておけばOKです。
労使協定なしで計画的付与を実施した場合、二重のリスクが発生します。これを知らずにいると、30万円単位の出費につながる可能性があります。
まず、協定なしの計画的付与は「法的に無効」です。無効になった付与日は、会社が年5日取得させる義務(労基法第39条第7項)のカウントに入りません。そのため、年度末になって「義務の5日が未達成」という状況に陥りやすくなります。
次に、5日未達成のまま年度が終わると、労働基準法第120条に基づき「30万円以下の罰金」が科される可能性があります。しかもこれは対象労働者1人につき1件の違反として扱われます。10人が未達成なら、理論上最大300万円の罰金リスクが生じます。
このリスクを防ぐために、計画年休の労使協定締結→就業規則への記載→全従業員への周知という手順を正確に踏むことが不可欠です。
AIG損保:年5日の年次有給休暇付与義務と違反時の罰則(30万円以下の罰金)について
計画年休の労使協定は、多くの場合「毎年の更新」が必要になります。具体的な付与日(例:「7月21日」「8月15日」など)を協定書に記載している場合、その日付は翌年には使えません。新しい年度の日程を定めるには、再度協定を締結しなければなりません。
一方、協定書に「会社が指定するカレンダーの日程を計画的付与日とする」という包括的な記載をしておけば、毎年の再締結が不要になるケースもあります。日本の人事部のQ&Aでも、包括的な記載方法を活用することで実務上の手間を大幅に削減できる旨が紹介されています。
また、「自動更新条項(有効期間終了後も異議がない場合は1年延長)」を設けておく方法もあります。ただし、付与日が変わる場合は自動更新だけでは対応できないため、定期的に内容を確認しましょう。
協定の内容確認が原則です。
計画年休を正式に導入するには、決められた順序を守ることが重要です。手順を誤ると、後から「無効」と判断されるリスクがあります。
この4ステップを踏めば大丈夫です。一度仕組みを作ってしまえば、翌年以降の運用は格段にラクになります。
金融に関わる仕事をしている人にとって、計画年休が「業務管理と有給消化の両立」に直結するツールになります。銀行・証券・保険など金融業では、顧客対応が連日続くため、個人が勝手に有給を取りにくい雰囲気がある職場も少なくありません。
そこで有効なのが「交代制付与方式による計画年休」です。例えば、決算期が落ち着く5月や9月に、チームをAグループ・Bグループに分けて交互に計画年休を消化させる方法があります。これなら業務の継続性を保ちながら、有給取得率を確実に上げられます。
加えて、労務コンプライアンスの観点からも重要です。金融機関は金融庁検査や内部監査の対象となることが多く、労働基準法の遵守状況も審査項目に含まれます。計画年休の適切な運用は、コンプライアンス評価の向上にも直結します。
令和5年の有給取得率は全産業平均で65.3%(厚生労働省「令和6年就労条件総合調査」)。金融・保険業でもこの数値を上回るためには、計画的付与の活用が有力な手段です。
厚生労働省:令和6年就労条件総合調査結果の概要(有給休暇取得率65.3%のデータ)
2019年4月の働き方改革により、年次有給休暇が10日以上付与される労働者に対して、会社は年5日を必ず取得させる義務を負うようになりました(労基法第39条第7項)。計画的付与はこの義務達成に大きく貢献できます。
計画的付与で取得させた日数は「年5日の義務」のカウントに含まれます。例えば計画的付与で3日取得させれば、残り2日を個別に管理・指定すれば義務達成となります。
義務達成の近道ということですね。
ただし「時季指定」と「計画的付与」の関係に注意が必要です。計画的付与を5日以上実施している場合、追加の時季指定義務は免除されます。一方、計画的付与が5日未満の場合には、残りの日数について別途時季指定や本人の自発的取得を管理する必要があります。この点を混同して管理している会社が多く、見落としが法律違反に直結します。
ここからは、あまり語られない独自の視点をご紹介します。
近年、企業の「労務コンプライアンス」は取引先や投資家からの評価指標に組み込まれるようになっています。特にESG投資(環境・社会・ガバナンス)の観点から、S(Social)の評価項目として「従業員の休暇取得状況」が審査されるケースが増えています。
具体的には、上場企業が開示する有価証券報告書に「人材の育成および社内環境整備に関する方針(人的資本開示)」が2023年3月期から義務化されており、有給休暇取得率もその一つとして注目されています。
計画年休の適切な運用によって有給取得率が70%を超えると、人的資本スコアが向上し、投資家・金融機関・取引先からの評価が上がる可能性があります。金融に関わる立場からすると、「労使協定が財務外評価に影響する」という視点は知っておいて損はありません。
単なる義務対応で終わらせず、計画年休を「企業価値向上ツール」として積極活用する経営姿勢が、今後ますます問われていきます。
厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」:計画的付与制度の導入手続き
最後に、実務担当者がすぐに使える運用チェックリストをまとめます。
| チェック項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 就業規則への記載 | 計画年休の実施を明記しているか。10名以上なら変更届は済んでいるか |
| 過半数代表者の選出 | 民主的な手続きで選出しているか。会社が指名していないか |
| 労使協定の記載内容 | 対象者・対象日数・実施方式・変更手続き・有効期間の5項目が揃っているか |
| 協定の保管 | 協定書を社内で適切に保管しているか(届出不要だが保管は必須) |
| 対象外従業員の対応 | 有給5日以下の従業員への特別休暇・休業手当の規定があるか |
| 全従業員への周知 | 掲示・書面交付・電子媒体などの方法で周知しているか |
| 年次更新 | 具体的な付与日を記載した協定は毎年の締結更新を忘れていないか |
| 5日義務との整合 | 計画的付与の日数+自発的取得+時季指定で合計5日以上になっているか |
一つでも漏れがあると、法的リスクが生じます。このリストを年度初めに必ず確認する習慣をつけると、コンプライアンス管理がグッとラクになります。