
共有名義相続とは、複数の人が共同で所有している不動産の一部を相続することです。不動産の共有名義人が亡くなった場合、その人の共有持分は他の財産と同様に相続財産として扱われ、法定相続人に相続されます。
重要なのは、残りの共有名義人が自動的に持分を相続できるわけではないという点です。例えば、夫婦で共有名義の不動産を所有していて夫が亡くなった場合、夫の持分は妻だけでなく、子供がいれば子供も含めた法定相続人全員で相続することになります。
法定相続人の順位は以下の通りです。
共有持分の相続では、持分割合に応じて相続分が決まります。例えば、被相続人が不動産の1/2の持分を所有していた場合、相続人が配偶者と子供2人なら、配偶者が1/4、子供がそれぞれ1/8ずつの持分を取得することになります。
共有名義の不動産相続は「危険」と言われるほど、様々なトラブルの原因となります。主なトラブル事例をご紹介します。
管理・活用に関するトラブル 🏠
共有不動産では、以下のような制約があります。
このため、一人が売却を希望しても他の共有者が反対すれば、不動産全体の売却はできません。また、賃貸に出す場合も持分割合による過半数の同意が必要となり、迅速な意思決定が困難になります。
費用負担に関するトラブル 💰
共有不動産の管理費用や税金は、原則として持分割合に応じて負担する必要があります。しかし、実際に居住している共有者とそうでない共有者の間で、費用負担の公平性について争いが生じることがあります。
相続が重なることによる複雑化 🔄
共有者の一人が亡くなると、その持分がさらに相続され、共有者の数が増加します。世代を重ねるごとに共有者が増え、最終的には面識のない親族同士が共有者となり、合意形成が極めて困難になるケースも珍しくありません。
共有持分を相続する際には、他の相続財産と同様に遺産分割協議書の作成が必要です。共有持分の遺産分割には、大きく分けて3つの方法があります。
① 共有持分を相続人の一人が全部取得する方法
相続人の一人(例:長男)が被相続人の共有持分を全て取得し、他の相続人に代償金を支払う方法です。この場合、代償金を支払える資力があることが前提となります。
② 共有持分だけを売却して現金分配する方法
理論上は可能ですが、実務上はほとんど選択されません。共有持分のみでは買い手がつきにくく、業者でも敬遠されがちだからです。
③ 共有持分を相続分に従って分ける方法
最も一般的な方法ですが、共有者がさらに増加するため、将来的なトラブルの原因となる可能性があります。
遺産分割協議書の記載例
共有持分を相続する場合の遺産分割協議書には、以下の内容を明記する必要があります。
記載時の注意点として、共有持分の表記は正確に行い、他の共有者の氏名や持分も併記することが重要です。
2024年4月から相続登記が義務化され、相続発生から3年以内に登記申請をしないと10万円以下の過料が科される可能性があります。共有名義の不動産についても、この義務化の対象となります。
相続登記の基本的な流れ 📋
相続人申告登記という選択肢 ⚡
遺産分割協議が長期化し、3年以内の登記申請が困難な場合は、相続人申告登記を利用することができます。これは簡易な手続きで相続登記義務を暫定的に履行したとみなされる制度で、以下の特徴があります。
登記手続きでの注意点
共有名義の相続登記では、持分の計算を正確に行うことが重要です。例えば、被相続人が1/2の持分を所有し、相続人が配偶者と子供2人の場合。
このような計算を間違えると登記申請が却下される可能性があるため、司法書士などの専門家に依頼することをお勧めします。
共有名義で相続した後も、共有状態を解消する方法は複数あります。それぞれの方法には特徴とメリット・デメリットがあるため、状況に応じた選択が重要です。
全員合意による解消方法 🤝
方法 | 内容 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
全体売却 | 共有者全員で不動産を売却し、代金を持分割合で分配 | 現金化でき、完全に共有関係を解消 | 全員の合意が必要 |
持分買取 | 他の共有者から持分を買い取り単独名義に | 不動産を維持できる | 買取資金が必要 |
持分売却 | 自分の持分を他の共有者に売却 | 共有関係から離脱可能 | 不動産の権利を失う |
土地の場合の特殊な解消方法 🏞️
土地の共有については、分筆という方法があります。これは土地を物理的に分割し、それぞれが単独所有することです。ただし、以下の条件が必要です。
法的手続きによる解消 ⚖️
共有者間で合意が得られない場合は、共有物分割請求を裁判所に申し立てることができます。裁判所は以下の順序で分割方法を検討します。
持分放棄という最終手段 ⚠️
自分の持分を放棄することで、他の共有者に持分を移転させる方法もあります。ただし、これは権利の完全な放棄となるため、慎重な検討が必要です。
専門業者への売却という選択肢
近年では、共有持分専門の不動産業者も存在します。これらの業者は共有持分のみでも買い取りを行っており、他の共有者の同意なく現金化が可能です。ただし、一般的な不動産売却価格よりも安価になる傾向があります。
遺言書による事前対策の重要性 📝
共有状態の複雑化を防ぐ最も効果的な方法は、遺言書による事前対策です。共有名義人が遺言書を作成し、「残りの共有名義人に持分を相続させる」旨を明記しておけば、共有状態を解消できます。
遺言書作成時の注意点。
共有名義相続は複雑な法的問題を含むため、専門家(司法書士、弁護士、税理士など)への相談を強くお勧めします。早期の対策により、将来のトラブルを大幅に軽減することが可能です。