
兄弟代償相続とは、兄弟が相続人となる場合において、特定の兄弟が不動産などの財産を現物で相続する代わりに、他の兄弟に対して代償金を支払う遺産分割方法です。
この方法は、以下のような場面で特に有効です。
兄弟のみが相続人の場合、法定相続分は均等に配分されます。例えば、遺産が4000万円で二人兄弟の場合、各2000万円ずつが法定相続分となります。代償分割では、一方の兄弟が4000万円の不動産を取得し、もう一方の兄弟に2000万円の代償金を支払うことで公平な分割を実現します。
代償金の金額決定は、兄弟間の合意が最も重要な要素となります。相続人の合意さえあれば、公平な金額でなくてもかまいませんが、実際の運用では以下の評価方法が参考とされます。
主な不動産評価方法
実務では、兄弟間でどの評価方法を採用するかを事前に合意することが重要です。評価額が異なると代償金に大きな差が生じるため、複数の評価方法を比較検討することをお勧めします。
特に、代償金の支払いを受ける兄弟が複数いる場合、それぞれ異なる金額で合意することも可能です。この柔軟性が代償分割の大きな特徴といえます。
遺産分割協議書への代償分割条項の記載は、税務上の取り扱いを明確にするために必須です。適切な記載がないと、代償金に対して贈与税が課される恐れがあります。
一括払いの場合の記載例。
相続人Aは、相続人Bに対し、第○条の遺産取得の代償として金○○○万円の債務を負担することとし、これを令和○年○月○日限り、Bの指定する銀行口座に振込送金の方法により支払う。
分割払いの場合の記載例。
相続人Aは、相続人Bに対し、第○条の遺産取得の代償として金○○○万円の債務を負担することとし、これを次のとおり分割して支払う。
(1)令和○年○月○日から令和○年○月○日まで ○○回
毎月末日限り金○万円宛
(2)令和○年○月○日限り 金○万円
分割払いの場合は、支払遅滞のリスクを軽減するため、以下の対策を検討します。
これらの措置により、代償金を受け取る兄弟の権利を保護できます。
代償分割において最も注意すべきは贈与税の課税リスクです。代償金と他に相続した遺産をあわせた金額が法定相続分を大きく超える場合、贈与とみなされる場合があります。
贈与税が課税される具体例。
相続財産:自宅不動産8,000万円、預貯金2,000万円
相続人:兄、弟の二人
この場合、弟の実際の相続分は6,000万円(預貯金2,000万円+代償金4,000万円)となり、法定相続分5,000万円を1,000万円上回ります。この超過分1,000万円に対して贈与税が課される可能性があります。
贈与税回避のための対策。
これらの対策により、適切な代償分割を実現できます。
代償金の支払いは、多くの場合数百万円から数千万円の高額になるため、事前の資金計画が重要です。特に兄弟間の関係性を考慮した現実的な支払い方法を検討する必要があります。
資金調達の主な方法。
自己資金での一括払い
最もシンプルな方法ですが、高額な代償金を現金で用意できるケースは限られます。預貯金や有価証券の売却により調達する場合が多いです。
金融機関からの借入
現在取引のある金融機関や地域の信用金庫に相談することから始めます。代償分割のための借入は、金融機関も理解を示すケースが多く、比較的融資を受けやすい傾向があります。複数の金融機関で条件を比較することをお勧めします。
親族からの借入
兄弟以外の親族から借入する場合は、贈与と認定されないよう適切な借用書や金銭消費貸借契約書の作成が必要です。金利設定や返済条件も市場水準に合わせることが重要です。
分割払いによる調整
代償金を受け取る兄弟が分割払いに同意すれば、月々の支払額を調整できます。ただし、支払期間が長期にわたる場合は、前述の担保設定などのリスク対策が不可欠です。
兄弟間では感情的な対立が生じやすいため、支払い方法についても冷静かつ現実的な話し合いを心がけることが大切です。