

「強調事項」が監査報告書に載っていても、実はその企業の財務諸表は適正と認められている。
監査報告書を読む際、「強調事項」や「その他の事項」という見出しを目にしたことがある方も多いでしょう。これらはまとめて「追記情報」と呼ばれ、監査人が監査意見とは別に記載する補足的な情報です。
追記情報の定義は日本公認会計士協会の監査基準委員会報告書706号に規定されており、「監査意見とは別に、利害関係者の理解に資するために情報提供機能の発揮として記載するもの」と位置づけられています。
ここで重要なのは、追記情報は保証の対象ではないという点です。つまり、追記情報として何かが書かれていても、それ自体は「財務諸表が正しい」という保証を意味しません。
あくまで補足的な情報提供です。
追記情報には次の2種類があります。
- 強調事項:財務諸表にすでに適切に表示・開示されている事項を、監査人がとくに重要と判断して注意喚起するもの
- その他の事項:財務諸表には載っていない事項で、監査・監査人の責任・監査報告書の理解に関連する事項を説明するもの
つまり強調事項が基本です。この2つは、情報のソースとなる場所が根本的に異なります。
日本公認会計士協会 監査基準委員会報告書706「独立監査人の監査報告書における強調事項区分とその他の事項区分」(公式PDF)
強調事項は財務諸表の注記に既に開示された内容を「改めて強調する」という性格を持ちます。一方、その他の事項は財務諸表には記載されていない情報、たとえば前年度の財務諸表が前任監査人によって監査されていたといった事実などを伝えるために使われます。
強調事項の正式な定義は、「財務諸表に適切に表示又は開示されている事項について、利用者が財務諸表を理解する基礎として重要であると監査人が判断し、当該事項を強調するため監査報告書に設ける区分」です。
ポイントは「すでに適切に開示されている」という前提です。
これが強調事項のいちばんの特徴です。
財務諸表に問題があるのではなく、きちんと開示済みの事項の中で、監査人が「利用者に特に読んでほしい」と判断した場合に記載されます。
監査基準委員会報告書706号のA5項では、強調事項として追記される可能性がある例として次の事項が列挙されています。
- 会計方針の変更(重要な影響を与える新しい会計基準の早期適用など)
- 重要な偶発事象(重要な訴訟や規制上の措置に関する不確実性など)
- 重要な後発事象(決算日後に発生した大きな災害、重要な合併など)
ただし、これらの注記が財務諸表にあれば必ず強調事項として追記されるわけではありません。あくまで「監査人が強調すべきと判断した場合のみ」です。
また同報告書のA6項には、「強調事項区分を多用すると、強調事項の記載の有効性を損ねる」という注意書きもあります。つまり、何でもかんでも書けばいいわけではなく、本当に重要なものだけに絞ることが求められているのです。
これは意外ですね。
強調事項として記載する際には、必ず「当該事項は監査人の意見に影響を及ぼすものではない」という一文を含めなければなりません。これは利用者に対して「これは除外事項ではない」という誤解を防ぐための記載です。
その他の事項の正式な定義は、「財務諸表に表示又は開示されていない事項について、監査・監査人の責任又は監査報告書についての利用者の理解に関連すると監査人が判断し、当該事項を説明するため監査報告書に設ける区分」です。
強調事項が「財務諸表の中の話」であるのに対し、その他の事項は「財務諸表の外の話」と整理できます。
これが最大の違いです。
その他の事項として記載される典型的なケースとしては次のものがあります。
- 前年度の財務諸表が前任の監査法人によって監査されていた場合
- 前年度の財務諸表が未監査だった場合
- 複数の財務報告の枠組みに準拠した財務諸表が作成されている場合
- 監査報告書の配布または利用が特定の利用者に限定される場合
- 利害関係の有無(公認会計士法の規定によるもの)
前任監査人の記載例を見ると、「会社の×年×月×日をもって終了した前事業年度の財務諸表は、前任監査人によって監査されており、前任監査人は×年×月×日付けで無限定適正意見を表明している」という形になります。
ちなみに監査報告書でよく見かける「利害関係」の記載も、この「その他の事項」区分に位置づけられます。投資家が見落としがちな部分ですが、監査人と被監査企業の間に利害関係がないことを示す重要な情報です。
これは覚えておけばOKです。
監査論.com「監査報告書における追記情報:強調事項とその他の事項」(追記情報の分類・具体例を図解で解説)
監査報告書を読む際、多くの投資家が混同しやすいのが「強調事項」と「KAM(監査上の主要な検討事項)」です。
KAMとは、2018年の監査基準改訂で導入された制度で、当年度の財務諸表監査において監査人が職業的専門家として特に重要と判断した事項を指します。2021年3月期決算から、上場企業(金商法上の監査対象)に記載が義務化されました。
KAMと強調事項の最大の違いは「目的」にあります。
| 項目 | 強調事項 | KAM |
|------|----------|-----|
| 目的 | 財務諸表利用者への注意喚起 | 監査プロセスの透明性向上 |
| 情報源 | 財務諸表に開示済みの事項 | 監査人が特に注意を払った事項 |
| 適用 | 任意(一部必須) | 上場企業等に義務化 |
| 意見への影響 | なし(明記が必要) | なし |
監査基準委員会報告書706号A3項には、「監査上の主要な検討事項には該当しないが、強調事項区分を設けることが適切と判断することがある」という記述もあります。つまり、KAMに当たらないけれど強調事項には該当するケースも存在します。
たとえば後発事象は、KAMの選定基準(当年度の監査において特に注意を払った事項)とは異なる性格を持ちますが、利用者が財務諸表を理解する基礎として重要な場合には、強調事項として追記されます。
KAMが「監査の内側(どこを重点的に監査したか)」を示すのに対し、強調事項は「財務諸表の内容(何を特に見てほしいか)」を示すものです。
両者は目的が異なるということですね。
強調事項の中でも、とりわけ重要なのが継続企業(Going Concern:GC)に関するものです。
GC注記とは、「企業が将来にわたって事業を継続できるかどうかに重要な疑義を抱かせる事象や状況が存在する」場合に、財務諸表に付される注記のことです。監査人は、この注記が財務諸表に適切に記載されていると判断した場合、原則として監査報告書の「強調事項」区分にも追記します。
たとえば、東芝は2017年3月期(第178期)の監査報告書において、海外原子力事業撤退損失1兆2,982億円を計上した結果として、継続企業の前提に関する強調事項が記載されました。当時の株価は1,000円台から一時200円台まで急落し、多くの個人投資家が損失を被りました。
GC注記が付くと具体的に何が起きるか、整理すると次のとおりです。
- 📉 機関投資家・個人投資家の資金が引き上げられ、株価が急落するリスク
- 🏦 金融機関からの新規融資停止、既存融資の早期回収
- ❌ 上場廃止基準に抵触する可能性(東証では債務超過が2期連続で継続すると廃止)
- 🔄 取引先・仕入れ先との契約条件の変更
GC注記が付いていても必ずしも倒産するわけではありません。経営改善計画を実行して注記が解消されるケースも数多く存在します。ただし、株価に与えるインパクトは大きく、保有銘柄の監査報告書でGC関連の強調事項を見つけたら、少なくとも経営改善の見通しを確認することが不可欠です。
株式投資をする際、多くの方が損益計算書や貸借対照表しか見ていません。監査報告書の「強調事項」の有無を確認するだけで、リスク回避に役立つ情報が得られます。EDINETや各企業のIRページから有価証券報告書をダウンロードし、「独立監査人の監査報告書」の項目を開いて「強調事項」「その他の事項」の記載をチェックするのが有効です。
Hupro「ゴーイングコンサーンとは?GC注記と株価・融資への影響を解説」(GC注記が投資・融資に与える具体的影響を解説)
監査報告書の中で、強調事項とその他の事項はどの位置に書かれるのでしょうか?
監査基準委員会報告書706号A16項によれば、「記載箇所は当該事項の内容および想定利用者にとっての相対的重要性に関する監査人の判断によって決まる」とされています。
つまり、固定の位置があるわけではありません。
ただし、一般的な監査報告書の構造は次のようになっています。
1. 監査意見
2. 監査意見の根拠
3. 継続企業の前提に関する重要な不確実性(該当する場合)
4. 監査上の主要な検討事項(KAM)
5. 強調事項(該当する場合)
6. その他の事項(該当する場合)
7. 財務諸表に対する経営者及び監査役等の責任
8. 財務諸表監査における監査人の責任
9. 利害関係
注目したいのは、「継続企業の前提に関する重要な不確実性」は「強調事項」とは別の独立した区分として設けられる点です。これはGCに関する情報の重要性が特に高いためです。
KAMが記載されている場合、強調事項はKAM区分の前後どちらかに記載されます。これは強調事項の相対的な重要性に関する監査人の判断によります。一般に、監査意見の根拠に近い位置にあるほど、利用者への影響度が高いと判断されていると解釈できます。
有価証券報告書を読む際に監査報告書まで辿り着いている投資家は少数派ですが、強調事項とその他の事項の有無を確認するだけで得られる情報量は大きいです。具体的にはEDINETにアクセスし、目的の企業の有価証券報告書を検索して「独立監査人の監査報告書」を参照する流れで確認できます。
理解を深めるために、実際の監査報告書で強調事項がどのように記載されるかを見ていきましょう。
🔵 重要な後発事象の場合(タカラトミー 2023年3月期)
> 強調事項
> 重要な後発事象に記載されているとおり、会社は2023年4月18日開催の取締役会においてTOMY UK Co.,Ltd.に対して増資を行うことを決議している。
> 当該事項は、当監査法人の意見に影響を及ぼすものではない。
この文例から読み取れることが2点あります。1点目は、「財務諸表の注記を参照する形」で強調事項が書かれること。詳細は「重要な後発事象」の注記に書かれており、監査報告書側では「そこを見てください」という形になっています。2点目は、必ず「監査人の意見に影響を及ぼすものではない」という一文が入ることです。
🔴 継続企業(GC)に関する場合(東芝 2017年3月期)
> 強調事項
> 継続企業の前提に関する注記に記載されているとおり、会社は、海外原子力事業撤退損失1兆2,982億円を計上したことを主因に、2016年度当期純損失は 9,656億円となり……
このケースでは損失の規模(当時の時点で約1兆円超)が具体的な金額で示されています。
これが強調事項の典型例です。
財務諸表には既に記載されているが、その重大さゆえに監査人が改めて指摘しているわけです。
強調事項が記載されている=「やばい企業」と短絡的に判断するのはNGです。会計方針の変更や軽微な後発事象の場合は、通常の事業継続の文脈で記載されることもあります。内容をきちんと読んで判断することが必要です。
「その他の事項」と混同されやすいものに「その他の記載内容」があります。これは名称が似ていますが、まったく異なる概念です。
| 用語 | 内容 |
|------|------|
| その他の事項 | 監査報告書における追記情報の1種。財務諸表に開示されていない、監査に関連する事項を説明する区分 |
| その他の記載内容 | 開示書類(有価証券報告書など)のうち、財務諸表と監査報告書を除いた残りの記載(例:事業の状況、経営者の視点など) |
「その他の事項」が「強調事項以外の追記情報」であるのに対し、「その他の記載内容」は「書類全体から財務諸表と監査報告書を引いた残り」です。
整理すると別物です。
その他の事項として実際に記載される典型例は次のとおりです。
🔵 前任監査人が監査した場合
> その他の事項
> 会社の×年×月×日をもって終了した前事業年度の財務諸表は、前任監査人によって監査されている。前任監査人は、当該財務諸表に対して×年×月×日付けで無限定適正意見を表明している。
このケースは、たとえば監査法人が変わった年(いわゆる「監査人の交代」が行われた年)の監査報告書によく見られます。前年と今年で監査法人が異なることを利用者に知らせることが目的です。
監査人の交代は、投資家の観点からは注意すべきシグナルになることがあります。正当な理由(契約満了・コスト等)であることも多いですが、稀に経営者との見解の相違が背景にある場合もあります。その他の事項の内容が「前任監査人の監査」に関するものであれば、交代の理由を別途確認してみる価値があります。
強調事項を初めて知る方がよく抱く疑問が、「強調事項が書かれているということは、何か問題があるのでは?」というものです。
結論として、強調事項は適正意見の一形態です。
監査意見には大きく分けて次の種類があります。
- ✅ 無限定適正意見:財務諸表が適正に表示されている
- ⚠️ 限定付適正意見(除外事項付意見):一部に問題はあるが概ね適正
- ❌ 不適正意見:財務諸表が重大な虚偽表示を含む
- 🚫 意見不表明:監査証拠が不十分で意見を形成できない
強調事項が記載されるのは、基本的に「無限定適正意見」のケースです。財務諸表は適正と認められていて、ただし「この点を特に注意して読んでほしい」という補足情報が付いている状態です。
これは知っておけばOKです。
もし財務諸表に問題があれば、強調事項ではなく「限定付適正意見」か「不適正意見」として処理されます。強調事項を多く見て除外事項と混同してしまうと、企業の財務状況を誤って評価してしまう可能性があります。
ただし例外があります。継続企業の前提に関する重要な不確実性は、企業の存続に関わる重大な問題で、これ自体は「強調事項」とは別の独立した区分として設けられることも多く、投資判断上の意味合いは一般の強調事項より重大です。
IKPスクール「監査報告書と監査意見:強調事項の記載と意見の種類について解説」
追記情報の配置、つまり「どの位置に強調事項やその他の事項が書かれているか」は、実はそれ自体が情報を持っています。
監査基準委員会報告書706号では、記載箇所は「当該事項の内容、および想定利用者にとっての相対的重要性に関する監査人の判断によって決まる」と定めています。これは逆に言えば、監査人がより重要と判断した事項ほど、読者の目に留まりやすい位置(意見の根拠区分の直後など)に置かれる可能性があるということです。
具体的には次のような判断が反映されます。
- 「監査意見の根拠」区分の直後に「強調事項」が来ている場合:意見と密接に関連する重要性が高い情報
- KAMの後に強調事項が来ている場合:監査プロセス全体との文脈で補足的な情報
- 監査報告書の末尾近く(利害関係の前など)に「その他の事項」がある場合:定型的な手続き上の情報
つまり、同じ「強調事項」であっても、監査意見区分に近い位置に置かれているほど、その事項は財務諸表全体の理解に直結した重要性を持つと解釈できます。
これは監査報告書の構造を知っている人だけが読み取れる情報です。いわば「書かれている内容」だけでなく「どこに書かれているか」という配置情報も活用することで、開示書類からより多くのシグナルを読み取ることができます。
投資判断や財務分析をする際に、監査報告書を通読する習慣をつけると、KAMの記載順序・強調事項の位置・その他の事項の有無という3つの要素を組み合わせてリスク評価の精度が上がります。この視点は市場ではまだ浸透していないため、活用する価値があります。
実際に監査報告書の追記情報を確認するには、どうすればよいでしょうか。最もアクセスしやすい方法はEDINETの活用です。
EDINETは金融庁が提供する電子開示システムで、上場企業を含む有価証券報告書提出義務のある企業の開示書類が無料で閲覧できます。
📋 EDINET での確認手順
1. EDINET(https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/)にアクセス
2. 対象企業名または証券コードで検索
3. 最新の「有価証券報告書」を選択
4. 書類内の「独立監査人の監査報告書」セクションを開く
5. 「強調事項」「その他の事項」の記載有無を確認
「独立監査人の監査報告書」は有価証券報告書の後半部分(財務諸表セクションの末尾)に収録されているのが通常です。PDFビューアの「検索」機能(Ctrl+F)で「強調事項」と入力すると素早く見つかります。
実際に読む際のチェックポイントをまとめると次のようになります。
- 🔴 「継続企業の前提」に関する強調事項がある → 経営状況が危機的な可能性。経営改善計画や注記の詳細を確認
- 🟡 「重要な後発事象」に関する強調事項がある → 決算後に重大な変化が発生。内容によってはプラス・マイナス両方あり
- 🟠 「会計方針の変更」に関する強調事項がある → 利益計算のルールが変わった可能性。変更の理由と影響額を確認
- 🔵 「前任監査人の監査」に関するその他の事項がある → 監査人が交代。背景を確認することが望ましい
特に初めて投資する企業の有価証券報告書を読む際には、この4つのチェックを意識するだけでもリスクの見落としが大きく減ります。
これが原則です。
金融庁 EDINET(電子開示システム):有価証券報告書・監査報告書を無料で検索・閲覧できる公式サービス
強調事項に関して最も誤解されやすいのが、「強調事項がある=財務諸表に問題がある」という勘違いです。
これはNGな解釈です。
監査基準委員会報告書706号の第8項では、「強調事項は監査人の意見に影響を及ぼすものではないことを記載する」と明文化されています。これは要求事項であり、強調事項が記載された監査報告書では必ずこの一文が入ります。
整理すると、強調事項がある状態は次のように理解できます。
- 財務諸表は適正に表示されている(無限定適正意見が前提)
- その上で、監査人が「ここは特に注目してほしい」と判断した事項が存在する
- その事項はすでに財務諸表の注記に記載されている
逆に、もし財務諸表に重大な問題があれば、強調事項ではなく「除外事項付意見(限定付適正意見または不適正意見)」として処理されます。強調事項と除外事項は、別物だということですね。
たとえば、ある企業が重要な合併を決算後に行ったとします。この事実は財務諸表の「重要な後発事象」注記に記載され、監査人がそれを強調すべきと判断した場合に「強調事項」として追記されます。この場合、財務諸表そのものに問題はなく、単に「大きな変化があったので投資家の皆さん、注記を確認してください」という意味合いです。
ただし注意が必要なのは、継続企業に関する強調事項の場合です。このケースは「財務諸表は適正」でありながら「企業の存続に重大な不確実性がある」という、ある意味で矛盾して見える状況が生まれます。
これは厳しいところですね。
この場合、財務諸表の開示が適切であるという判断と、企業リスクが高いという実態は、別々の問題として捉える必要があります。
監査基準委員会報告書706号(強調事項区分とその他の事項区分)は、2011年7月の制定以来、複数回にわたって改正されています。
主な改正の流れは次のとおりです。
- 2011年7月:報告書制定(報告書第62号)
- 2011年12月:改正(2012年4月1日以後開始事業年度から適用)
- 2014年4月:改正(2015年4月1日以後開始事業年度から適用)
- 2015年5月:改正
- 2019年2月:最終改正(KAM導入に伴う整合化)
- 2023年1月:さらに改正版が公表
- 2025年7月:最新版公表
最も大きな変化は2019年の改正で、KAMの導入に伴い「強調事項とKAMの関係」を明確化する規定が追加されました。つまり現行の規定は「KAMが義務化された後」の世界に対応したものです。
2025年7月に公表された最新版でも、KAMと強調事項の関係整理が引き続き改定の中心になっています。監査基準の最新版はJICPA(日本公認会計士協会)の公式サイトで公表されており、2-24-706という番号で管理されています。
投資家として定期的にアップデートを確認する必要があるかというと、必ずしもそうではありませんが、監査報告書の構造が変わった際は、読み方の基本を再確認する価値があります。
これを覚えておけば十分です。
日本公認会計士協会 監査基準委員会報告書706(2023年1月12日改正版):現行の強調事項・その他の事項の規定を確認できる公式資料
ここまで強調事項とその他の事項について、定義・具体例・注意点を詳しく見てきました。最後に、投資判断における実践的な活用法をまとめます。
まず最も重要なことを整理しておきましょう。強調事項は「問題提起」ではなく「注意喚起」です。書かれているだけで即座に危険とは判断せず、内容を読んで判断するのが基本です。
投資判断に役立つ追記情報の読み方は、次のように段階的に考えると整理しやすいです。
ステップ1:追記情報の有無を確認する
有価証券報告書の監査報告書欄で「強調事項」「その他の事項」の記載を探します。
これが基本です。
ステップ2:強調事項の種類を見極める
GC(継続企業)関連なのか、後発事象なのか、会計方針変更なのかで、インパクトがまったく異なります。
GC関連は最も重大に扱う必要があります。
ステップ3:財務諸表の注記を参照する
強調事項は必ず財務諸表の注記を参照する形で書かれています。注記の原文にまで遡ることで、実際の影響額や経営判断の背景が分かります。
ステップ4:監査人の交代有無を確認する
その他の事項に「前任監査人による監査」が記載されていれば、監査人が交代した事実を意味します。
交代理由をIR情報等で確認します。
ステップ5:複数年の推移を比較する
単年度だけでなく、過去2〜3年の監査報告書を比較することで、リスクの継続性や改善傾向が見えてきます。
これら5つのステップを習慣化するだけで、同じ有価証券報告書から得られる情報の質が格段に向上します。財務諸表の数字だけでなく、「監査人が何をどのように見ているか」という視点を加えることが、本質的な企業分析につながります。
特に初めて長期保有を検討する銘柄については、直近3期分の監査報告書を確認することをおすすめします。強調事項の有無が変化しているか、GC注記が解消されているかといった変化の流れを読むことで、企業の財務体質の改善・悪化トレンドが立体的に把握できます。